先を知るだけの男   作:emiya halucon

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最後の投稿から10日ってマ?


自分なりのプライド、それとイチャコラ

翌日、俺とキリトは朝からエギルの店の二階にいた。

 

椅子にふんぞり返って、奇妙な風味のするお茶を啜るキリトと、昨日の疲労が抜けきっておらずげんなりする俺。

 

というのも、昨日の一件によりアインクラッド中が俺たちの話で持ち切りだった。

 

本来なら、フロア攻略でも十分な話題なのに、今回はおまけが多すぎた。

 

曰く《軍の大部隊を壊滅させ()()()悪魔》、曰く《それを撃破した二人の二刀流使いの五十連撃》……。

 

尾ひれがついたその噂は一瞬にして広がり、何処で知ったのか、情報屋が俺とキリトの宿にまで押しかけてくる始末。

 

しかも、脱出のために転移結晶まで使わされるハメになった。

 

「引っ越してやる……どっかすげぇ田舎フロアの、絶対見つからないような村に……」

 

「引っ越してやる……誰も泊まらないような、一層のボロ宿に……」

 

そんな俺たちにエギルがにやにやと笑顔を向けてくる。

 

「まぁ、そう言うな。一度くらいは有名人になるのもいいさ。どうだ、いっそ講演会でもやってみちゃ。会場とチケットの手筈は俺が」

 

「するか!」

 

キリトが叫びながら右手のカップを投げつけた。が、システムが投剣スキルを発動してしまい、猛烈な勢いでエギルの頭の横を通り、大音響を鳴らしながら部屋の壁に激突した。

 

 

「おわっ、殺す気か!」

 

 

エギルの大袈裟な反応にキリトがワリ、と形だけの謝罪をして再び椅子に座った。

 

エギルは今、キリトが昨日の戦闘で入手したお宝を鑑定している。度々奇声をあげているのを見るに、それなりの貴重品もあるらしい。

 

下取りした売上は俺とキリトで山分けしようという話になったが、俺が辞退したのでアスナと山分けすることになった。………クラインェ……

 

 

そんなアスナが約束していた時間に来ず、もう二時間が経過している。

 

 

そんなアスナを心配して、キリトが目に見えて不安そうだ。

 

 

「そんなにアスナが心配か?」

 

 

俺がそう言うと、キリトがもの凄い速度でこちらを見る。

 

 

「まさ……」

 

 

キリトが言い終わる前に誰かが階段を駆け上がる音がしてすぐ、勢いよく扉が開かれた。

 

 

「よ、アスナ……」

 

 

そこにいた人物にかけた言葉が途切れた。

 

ーーーそこにいた彼女が明らかに調子が悪そうにしていたからだろう。

 

顔面を蒼白にし、泣きそうな顔で彼女ーーーーアスナは言った。

 

 

「どうしよう……キリト君、ハル君……」

 

「大変なことに……なっちゃった……」

 

 

そこで聞かされた話は俺の知っている内容と少し違っていた。

 

 

エギルが新しく淹れた茶を飲み、顔に血の気が戻ったアスナがぽつりぽつりと話し始めた。

 

 

「昨日……あれからグランザムのギルド本部に行って、あったことを全部団長に報告したの。それで、ギルドの活動をお休みしたいって言って、その日は家に戻って……。今朝のギルド例会で承認されると思ったんだけど……」

 

アスナが視線を伏せて、お茶のカップを両手で握りしめながら言った。

 

 

「団長が……私の一時脱退を認めるには、条件があるって……キリト君、ハル君と……立ち会いたい……って……」

 

 

「な……」

 

 

(ボス戦で神速を使った時点で予想はしていたが、本当に来るなんて)

 

驚くキリトを横目に俺は考える。

 

 

(今の俺で届くのか?あの化け物に)

 

 

推測だが、原作でキリトが勝てたのは、キリトが人間の可能性を見せたからだ。

 

そうでなければ茅場はあの一撃を受けなかっただろう。

 

だが、今回は原作と違い俺がいる。

 

もしかしたら俺も最終決戦に挑むチャンスがあるのかもしれない。

そして、それを掴むには今回で茅場を追い詰めなければ。

 

だからーーー

 

 

(今回で茅場に剣が届くかどうか、それが重要だ)

 

 

そうして、俺たちは五十五層主街区グランザムにある血盟騎士団本部に向かった。

 

ーーーーーーーーーー

 

巨大な扉の前で立ち止まり、塔を見上げる。すると不意にアスナが口を開く。

 

「昔は、三十九層の田舎町にあったちっちゃい家が本部でね、みんな狭い狭いっていつもより文句言ってたわ。……ギルドの発展が悪いとは言わないけど……この街は寒くて嫌い……」

 

どこかしんみりとした空気を払うようにキリトが口を開いた。

「さっさと用を済ませて、なんか温かいものでも食いに行こうぜ」

 

 

「もう、君達は食べることばっかり」

 

 

「俺もセットか?」

 

 

一括りにされ、不満の声をあげる俺にキリトが俺を煽るような表情を浮かべるが、アスナに右手の指を軽く握られ、少し顔を紅潮させていたので許すことにした。

 

 

……握った本人は「充電完了!」なんて言ってるがキリト(童貞)にはクるものがあると思う。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

幅広の階段を昇った所の大扉の両脇にとても長い槍を持った重装甲の衛兵が待ち構える。

 

アスナが前に出るとその衛兵たちは槍を捧げて敬礼した。

 

 

「任務ご苦労」

 

 

ピシッと片手で返礼する仕草や颯爽とした歩き方を見ていると、ほんの数分前までの抜けた彼女と同一人物とは思えない。

 

……まぁ、それほどまでにキリトの傍は安心できる場所なんだろう。

 

そんなことを考えながら衛兵たちに一礼して目的地がある塔の階段へと足を踏み入れた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

巨大な螺旋階段を昇っていく。

 

そうして、いくつもの扉を通り過ぎて、ようやくアスナが足を止めた。

 

「ここか………?」

 

辟易とした様子でキリトがアスナに質問する。

 

 

「うん……」

 

 

アスナが気乗りしない様子で頷く。が、すぐに意を決したように、右手をあげると扉を数回叩き、答えを待たずに開け放った。

 

内部から溢れた光に俺もキリトも揃って目を細める。

 

中は塔の一フロアを丸ごと使ったアニメ通りの広い部屋で、壁は全てがガラス張りだった。

 

中央には半円の巨大な机が置かれ、その向こうに並んだ五つの椅子にそれぞれ人が座っている。

 

左右の四人は見覚えがなかったが、中央にいる男だけは見間違え用がなかった。

 

ヒースクリフ(茅場晶彦)だ。

 

いつも余裕のある笑みを浮かべ、周りに指揮をする様子だけ見れば、理想的な指揮官と言えるだろう。だが、正体はこの地獄を作った原因だ。

 

そんな彼はアスナの言葉を待つかのように沈黙を保っている。

 

やがて、アスナがブーツを鳴らし机の前に行くと、軽く一礼して、口を開いた。

 

「お別れの挨拶に来ました」

 

その言葉にヒースクリフはかすかに苦笑し、

 

「そう結論を急がなくてもいいだろう。彼らと話させてくれないか」

 

そう言ってこちら側を見据えた。

 

俺達もアスナの隣まで進みでる。

 

「君たちとボス攻略以外の場で会うのは初めてだったかな」

 

「いえ……前に、六十七層の対策会議で、少し話しました」

 

少し気圧されているキリトに続いて口を開く。

 

「俺もその時に。あの戦いで死者が出なかったのはあんたのお陰だ」

 

「そんなことはないとも、あの時、誰もが必死に戦ったからこそ死者は出なかった。トップギルドなどと言われる私たちですらギリギリだった。ーーーなのにキリト君、君は我がギルドの主力プレイヤーを引き抜こうとしているわけだ」

 

「貴重なら護衛の人達に気を使った方がいいですよ」

 

見た事はないが、クラディールの事だろう。キリトがヒースクリフの発言にぶっきらぼうに言い返す。

 

それを聞いて、机の右端に座っている厳つい男が血相を変えて立ち上がろうとした。ヒースクリフがそれを軽く手で制し、

 

「クラディールは自宅で謹慎させている。迷惑をかけてしまった事は謝罪しよう。だが、我々としてもサブリーダーを引き抜かれて、はいそうですかという訳にはいかない」

 

 

「故に、欲しければ剣でーー《二刀流》で奪い給え。私と戦い、勝てばアスナ君を連れていくがいい。だが、負ければ君が血盟騎士団に入るのだ」

 

「………」

 

キリトが何かを考えた様子で黙り込む。

 

そんな時、アスナが我慢しきれないという風に口を開いた。

 

「団長、わたしは別にギルドを辞めたいと言ってるわけじゃありません。ただ、少しだけはなれて、色々考えて見たいんです」

 

尚も言い募ろうとするキリトがアスナの肩に手を置き、一歩前に進みでる。

 

「いいでしょう、剣で語れと言うなら望むところです。デュエルで決着をつけましょう」

 

そんな宣言を行ったキリトを見ながら、俺はようやく気づいた。

 

「………ちょっと待ってくれ」

 

重い空気を壊すように口を開く。

 

「それ、俺関係なくないか?」

 

当然の疑問だった。

 

その発言に周辺が固まり、

 

ヒースクリフがこちらを向いた。

 

「ーーーふむ、確かにそうだねーーーでは、こうしようハル君、君が勝てば一つ、私個人にできることをなんでも聞こうーーーーもちろん、負ければ君も血盟騎士団に入ってもらうが」

 

 

「断ることは?」

 

俺がそう言うと、予想していたとでも言うような顔で口を開いた。

 

 

「この世界においてたった三人しかいないユニークスキル使いだ。どうせなら君も出たまえ。元々、会場の盛り上げ役に適任だと思って君に声を掛けたーーーまぁ、断るならば引き止めないがね」

見え透いた挑発だ。お前はあくまで余興だ。と

 

……なるほど。

 

 

ーーーなら

 

 

「いいぜ、出てやる」

 

 

「嬉しいね」

 

 

またも予想通りと言いたげな顔に一言くれてやった。

 

 

「そんで、その澄ました面を剥がしてやるよ。聖騎士殿」

 

お前が気にするべき相手はキリトだけじゃない。と、そんな視線をこめて。

 

 

「楽しみにしておくよ()()()()()

 

俺の発言に呆気に取られていたヒースクリフが口端を歪めそう言った。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「もー!!ばかばかばが!!」

 

再びアルゲード。エギルの店の二階。様子を見に来たエギルを一階に追い払い、俺たちは必死にアスナをなだめていた。

 

「私が頑張って説得しようとしたのに、なんであんなこと言うのよ!……特にハルくん!」

 

 

「俺?」

 

 

「そうよ!君まで闘う必要なかったのに!」

 

 

「それは……なんというか……ノリ?」

 

 

「そんな理由で!?」

 

そうして俺への説教が終わったあと、アスナは、キリトの座る椅子の肘掛にちょこんと腰を乗せ、小さな拳でキリトをぽかぽか叩いている。

 

ーーーーーこれはなんだ?見せつけられるとかそういうプレイなのか?

 

 

「んなわけあるか!」

 

キリトが俺に抗議の声を上げる。

 

(また口に出てたなー)

 

深刻な自分の癖のことを考えつつ目の前のカップルがどれほどで収まるかを見ることにした。

 

 

まぁ、収まらんかったが。

 

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