戦闘は順調に進んでいた。
俺はこぼれてきた《センチネル》の相手をしつつ、最前線を凝視していた。
ーーーーーそして、その時は来る。
ボスの体力ゲージが最後の一本に突入し、腰に携えた剣を抜く。ボスの無敵モーションが終わり、キリトがボスのソードスキルに呼応するように声をあげた直後、俺はキリトに指示を出しながら、飛び出した。
「キリト!次のスキルを弾く!来い!」
その指示に戸惑いつつも反応したキリトは、俺と共にボスへと走る。一番先頭にいたディアベルが空中に浮かされ、トドメのスキルを打たれる瞬間。
「キリト!合わせろ!」
「ああ!」
そして、二人でタイミングを合わせ、振るわれた野太刀を
ーーー
(モンスターも使えるなんてーーー)
「ハル!」
キリトの声が聞こえたと思った直後、俺の体は吹き飛ばされる。ボスの三撃目のモーションにより、吹き飛ばされたのだろう。何とか受身をとり顔をあげようとすると、ボス部屋に
ーーーイヤな予感がする。
視線をあげると、砕け散ったと思われたディアベルは生きていた。だが、前方にいたプレイヤーが2人減っている。
ーーーー死んだのだ、二人。俺がタイミングを読まず攻撃をしたばかりに。
目の前で、
(死んだ。死なせてしまった。二人も。)
頭の中は、それだけだった。
「ーーール!ハル!」
キリトの呼び掛けに俺はようやく、硬直が解ける。
「全体が動揺してまともな指示が出せてない!だから、俺たちで奴を獲る!」
その言葉を聞いて何とか立ち上がり、ボスを睨む。
(ーーーーそうだ。今はヤツを倒さないと。)
頭の中を、それだけで埋めつくし、死んでしまった現実を上塗りする。
俺はメニューから、予備の剣を取り出し、キリトと共に走り出す寸前、アスナが横に走ってきた。
「わたしも行く。パーティだから」
「………解った。頼む。」
キリトがそう返答すると同時に俺たちは、一気に走り出す。
隣を走るアスナがフードを引き剥がしたのを合図のように、キリトが全体へ指示を叫ぶ。
「全員、出口咆哮に十歩下がれ!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!」
キリトの声の残響が消えると同時に、最前線のプレイヤー達が、俺たちの左右を、一斉に後方へと動く。それを追うように、ボスも体の向きを変え、俺たちと正対する。
「アスナ、手順はセンチネルと同じだ!……行くぞ!」
キリトが指示を出し、アスナが返事をする。前方ではコボルド王が野太刀を、左の腰だめに構えようとしている。そのモーションを見て、俺はキリト達に指示を出す。
「俺が防ぐ!叩き込め!」
返答はなかったが、確かに通じた。
「う……おおッ!」
俺の叫びとともに放った《レイジスパイク》と敵のスキル《
生まれた隙をーーー二人が捉える。
ボスの体力ゲージが確かな幅で減少する。その後も同じように、俺が弾き、二人が攻撃を入れる。それを繰り返し続け、十二回ーーその流れは途切れた。
「ッ?!」
上段と読んだ刃が、半円を描き、真下に回った。ーーーランダム技《
二度目の衝撃。全身が痺れ、HPゲージが二割を切る。吹き飛ばさた俺を見て、ボスから視界を外してしまった二人に、ボスは高くきりあげたままの刃を血の色に光らせ、二度目の《
(駄目だ!後ろからーーー)
それを口に出す前に俺の後ろから巨大な影が飛びだす。
「ぬ……おおおッ!!」
太い雄叫びと共に、緑色の光芒ーーー両手斧系ソードスキル《ワールワインド》が、ボスの攻撃をはじいた。ボス部屋が震えるような衝撃が生まれ、イルファングが後方にノックバックした。
割って入ったのは、褐色の肌とマッシブな体型のお人好し、エギルだった。床にひざまずいたままポーチのPOTを探る俺を肩越しにみて、ニヤリと笑う。
「ディアベルさんの指示だ。あんたがPOT飲み終えるまで、俺たちが支える。ダメージディーラにいつまでも
「………ありがとう、頼んだ」
俺は礼をいい、込み上げてきた何かを回復ポーションで飲み下した。
前身してきたのはエギルだけではなく、彼の仲間のB隊をメインに数名が回復を終え、復帰したのだ。
後ろを見ると、立て直している様子のディアベル達が戦っているのが見える、前方のキリトは最前線のプレイヤーにボスのスキルの対処を支持しながら戦っていた。
ーーーー情けない。
大幅に削られた俺の体力ゲージは、POT一本程度では全快には程遠く、ポーションのクールタイムを憎々しげに見つめることしか出来なかった。
キリトが指示を出し、壁役がそれをガードし、その隙をアスナとキリトが攻撃する。綱渡りのような戦闘が五分ほど続き、ボスの体力ゲージが三割を切った時、壁役の一人が足をもつれされた。よろめき、立ち止まったのはイルファングの真後ろ。
「…早く動け!」
反射的に叫んだキリトの指示も虚しく、ボスが《取り囲まれ状態》を感知し、一際獰猛に吼え、全方位攻撃である、
それを見て、反射的に飛び出す。
剣を右肩に担ぐように構え、一気に近づく。片手剣基本突進技《レイジスパイク》。発動の瞬間、俺は野太刀にスキルを叩き込み、モーションを遅らせる。それが成功すると同時に、俺はキリトの名を叫ぶ。
「キリト!」
意図を察したキリトが走る音がするーーー
「ウォォッ!!!」
キリトの叫び声と共に重い斬撃音が鳴り、ボスが床へと叩きつけられる。
「ぐるうっ!」
喚き、立ち上がろうと手足をばたつかせる。人型モンスターの特有のチャンスモーション、
「全員ーー
「お………オオオオ!!!」
エギルら六人が叫び、色とりどりのソードスキルがボスに叩きつけられる。ボスのHPゲージが、これまでとは一線を画す速度で削られていく。だが、エギル達が次のスキルの
「………間に合わないか!」
キリトが小さく叫んだ後、俺とアスナに声を上げる。
「ハル!アスナ!最後のスキル、一緒に頼む!」
「「了解!!」」
エギル達の隙間を駆け抜け、アスナが渾身の《リニアー》を放つ。遅れて、黄緑色の光芒を纏った俺の
HPゲージ………残り数ドット。
獣人が、ニヤリと嗤った気がした。それに対し、こちらも笑い、心の中で返答する。
(すまんが、本命は俺じゃない)
後ろから
「お………おおおおおッ!」
前身全霊の気勢と共に、キリトが剣をはね上げる。
ーーー片手剣二連撃技《バーチカル・アーク》
コボルド王の巨躯が、不意に力を失い、後方へとよろめく。
天井へと細く高く吼えたあと、体に無数のヒビが入る。野太刀が床に転がる音と同時に、アインクラッド第一層フロアボス、《イルファング・ザ・コボルドロード》は大きい破砕音を響かせ、四散した。
ボスの体力増やしちゃった。