先を知るだけの男   作:emiya halucon

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ビーター

ボスが消滅すると同時に、センチネルも四散したようだ。

周囲の壁の松明の色が、明るいイエローへと色を変える。

薄暗かった部屋が、明るくなりどこかから涼しい風が吹いて激戦の余熱を押し流した。

 

ボスを倒した後の静寂の中、キリトが警戒し続けている。その警戒もアスナがキリトの右腕を下ろさせたことで終わったようだ。

 

「お疲れ様」

 

俺とキリトに視線を向けながら言われた言葉に、体の力が弛緩する。ーーー知らぬ間に俺も緊張が抜け切ってなかったようだ。それに気づくのをシステムが待っていたかのようにメッセージが視界に流れる。獲得経験値。分配されたコル。そしてーーー獲得アイテム。俺の獲得欄には、"あの"コートは入っていなかった。

 

そうして、皆が喜びに浸っていたところに後ろから叫び声が聞こえた。

 

「ーーーーなんでだよ!」

 

周りが静寂に包まれ、ボス部屋のプレイヤー全てがそちらに視線を向ける。

 

「ーーーーなんで、あいつらを見殺しにしたんだ!!」

 

C隊のメンバーのひとりがそう叫んだ。

 

ーーーそれを聞いた瞬間。目を逸らしていた現実に向けさせられる。

 

「見殺し…………?」

 

キリトが呟くように言った。

 

「そうだろ!だって………だって"アンタら"はボスの使う技を知ってたじゃないか!アンタらが最初からあの情報を伝えてれば、あいつらは死なずに済んだんだ!」

 

その叫びに、残りのレイドメンバー達がざわめく。

 

「そういえばそうだよな………」「なんで………?攻略本にもなかったのに……」などの声が生まれ、徐々に広がっていく。その疑問に答えるのはキバオウのE隊の一人。近くまでやってくると、俺たちに右手の人差し指を突きつけ、叫ぶ。

 

「オレ……オレ知ってる!こいつらは、元ベータテスターだ!だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!知ってて隠してるんだ!」

 

原作通りカタナのソードスキルを知っていた人であるキリトと、そして俺に疑念の声が上がりだす。

 

代わりに、C隊の別のプレイヤーが、再度何かを叫ぼうとして、それを(タンク)役のメイス使いが否定する。

 

「でもさ、昨日の攻略本に、ボスの攻撃パターンはベータ時代の情報だ、って書いてあっただろう?彼が本当に元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じじゃないか?」

 

「そ、それは………」

 

矛盾点を突かれ押し黙ったE隊メンバーの代わりに、C隊のメンバーが憎悪溢れる思い込みを口にした。

 

「あの攻略本が、ウソだったんだ。アルゴって情報屋がウソを売りつけたんだ。あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで本当のことなんて教えるわけなかったんだ」

 

周りの雰囲気が少しづつ悪くなるのを察したキリトがシステムメッセージがあるであろう場所に目を向けた。

 

アスナとエギルが声をあげようとして、キリトが手をかざすことでそれを止めた。

 

ーーー待ってくれ。その言葉が口から出る前に、キリトが口を開いた。

 

「元ベータテスター、だって?……俺を、あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」

 

---待て。

 

「いいか、よく思い出せよ。SAOのCBT(クローズドベータテスト)はとんでもない倍率の抽選だったんだぜーーー」

 

ーーー待ってくれ。

 

「ーーずっと上の層でカタナを使うMobと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜーーー」

 

ーーーー俺は、お前にそうしてほしくなんか

 

「……《ビーター》、いい呼び名だなそれ」

 

ーーーーーーなかったのに。

 

その後、俺はキリトを呼び止める事が出来なかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーどうすれば

 

そう考えながら、俺はいつの間にかトールバーナの転移門前に来ていた。そこでようやく答えが出た。

 

ーーーキリトに謝ろう

 

俺は、二層に向かうプレイヤーに揉まれながら、転移門をくぐり抜けた。転移先でキリトを探そうと、辺りを見渡そうとすると、見覚えのあるフードを被った女性プレイヤーが俺の横を通り過ぎた、次いで男性プレイヤー二人が俺の体にぶつかりながら女性プレイヤーを追う。

 

(そういえば、こんなのあったな)

 

心の内でそう思いながら、それを見逃そうとする。

 

(どうせキリトが解決するさ。………ん?キリトが?………………)

 

気づいた頃には視界から消えており、俺は慌てて後ろをおった。

 

「「ごっ……ござるぅぅぅぅッ!!」」

 

 

ーーーーそっちか!

 

それを聞いた俺は、すぐさま声のした方へ走る。

着いた頃には全て終わっていたようで、アルゴがキリトの背中にしがみついていた。

 

「そんなコトされると、オネーサン、情報屋のオキテ第一条をやぶりそうになっちゃうじゃないカ」

 

………アルゴって、こんな声出すの?

 

「ハル?」

 

「ハル坊?」

 

そう思っているとキリトとアルゴがこちらを向いていた。

 

…………口に出てた。

 

最近考えが口に出すぎているかもしれない。気をつけなければ。でも、今はそんなことよりやることがあった。

 

「キリト、さっきなんにも言ってやれなくてすまなかった」

 

腰を90度に折り曲げ、誠心誠意謝罪する。

 

「ーーーーー」

 

キリトからの返答はない。どう思っているのかが分からない。不安を感じながら、返答を待つ。

 

「なんだ、そんなことで悩んでたのか」

 

「ーーーーなんでそんなことが言えるんだよ。俺はお前の仲間なのに、反論する素振りすら見せなかったんだぞ!」

 

「何か言おうとしたんだろう?でもそれより先に俺が喋ったから何も言えなかった。違うか?」

 

「なんで、」

 

ーーー分かるんだ。その言葉を口にする前にキリトが発言する

 

「これでもベータ時代からの付き合いだ。その程度は分かるよ」

 

「でも、俺のせいで死なせたのに、お前に全部背負わせてしまった」

 

「しょうがないさ。そういう運命だったんだ」

 

そう言いきったキリトを見て、視界が滲んだ。

 

「おい、泣くなよ」

 

「なん、で、お前はそんなに強いんだよ!」

 

「強くないよ。でもあの時はそうするべきだと思ったんだ」

 

そう、この日、俺は生まれてから初めて泣いたんだ。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

そうして、涙腺が落ち着いた頃ーーー

 

「いやー、なかなかレアな物見れたヨ、ハル坊」

 

「うるさいぞ、アルゴ」

 

アルゴに弄られながら俺は思い出したかのように聞く。

 

「そういやアルゴ、なんで追われてたんだ?」

 

「この層の隠しスキルの情報で追われてたんだヨ」

 

「ま、ハル坊のレアな姿を見れたから特別に教えてやるヨ、ただし、どんな結果になってもオイラを恨まないって約束しろヨ、キリト、ハル」

 

「「解った」」

 

そうして俺たちは隠しスキルの情報を教えてもらい、アルゴ共に、岩壁をよじ登り、洞窟に潜り込み、ウォータースライダーじみた地下水流を滑る。戦闘は三度ほどあったが、レベルも技術も並のプレイヤーではない俺たちには大した苦ではなかった。

 

「………ここか?」

 

岩山の頂上近くにある、その小屋を見てキリトが言った。

その問いにアルゴは頷くと躊躇せず小屋に歩み寄った。続いた俺たちの前で、アルゴが勢いよく扉を開ける。

中にはいくつかの家具と、筋骨隆々のNPCがいた。見た目のインパクトは強大で、つるつるのスキンヘッドと豊かなヒゲがそれをさらに強調している。そして、頭上にはクエスト開始点の証である金の!マークがあった。

それを見た俺たちに、アルゴが語る。

 

「アイツが、エクストラスキル《体術》をくれるNPCだヨ。オイラの提供する情報はここまで。クエを受けるかどうかはキー坊とハル坊が決めるんだナ」

 

「………た、体術?」

 

キリトが疑問の声を上げるのを聞きながら、俺はそのスキルの有用性を思い出す。

 

(アニメでは、キリトがクラディールにやべぇパンチを喰らわせてた。威力がどれぐらいかは分からないが取っておいて損はないはず)

 

そう結論づけた俺は、話し合っているキリトとアルゴを横目に小屋に踏み込んだ。

 

「入門希望者か?」

 

「……そうだ」

 

「修行の道は長く険しいぞ?」

 

「望むところ」

 

短い問答を終えると、頭上の!マークが?マークへと変わり、視界に受領ログが流れた。その後、キリトも受注し、

オッサン改め師匠(筋肉モリモリマッチョマンの変態)の案内について行くと、小屋の外、岩壁に囲まれた庭の端にある()()の岩の前に着いた。それをポンと叩き、左手であごひげをしごきながら言った。

 

「汝らの修行はたった一つ。両の拳のみで、この岩を割るのだ。為し遂げれば、汝らに我が技の全てを授けよう」

 

ーーーーーデカすぎんだろ。

 

そんな感想(絶望)を浮かべながら、俺たちは顔に墨をくらい倒れた。

さらに、アルゴの深い哀しみと共感ーーーそして爆笑をこらえる表情を見て、キリトはアルゴのヒゲの真相を知ることになったのだった。

 

ーーーー岩?三日かけて割ったよ。ちくしょう。

 

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