仮面ライダーFIRX ~歌と夢が煌く万華鏡~   作:名もなきA・弐

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 始まります。


Ep0-1 再会、ナツカシイトモダチ

地方都市『奏音(かのん)

都心にあるこの街は繁華街や商店街などが多い観光名所の一つになっており、私立リディアン音楽院など音楽だけでなく最近になってバーチャルアイドルやeスポーツに力を入れているのも特徴だ。

一時期は認定特異災害『ノイズ』……人間のみを襲い触れた者もろとも炭化する特性を持つ異形の異常発生などで自ら向かう者も多くはなかったが、現在は観光客なども少しづつ増えてかつての活気が戻りつつある。

そして、この街には政府が保有する埠頭がある。

その敷地内に現在整備作業が行われる巨大な潜水艦……そこには日本政府より設けられたとある組織が存在していた。

 

Squad of Nexus Guardians(超常災害対策機動部タスクフォース)

 

通称は『S.O.N.G.』。

各地の伝説に登場する現代の技術では製造不可能とされる超古代の異端技術の結晶『聖遺物』の回収や保護を目的としている。

元々は先史文明期の人類により作り出されたノイズへの対策を目的とした組織『特異災害対策機動部二課』とが前身となっており、自然発生が終息した現在では敵対する錬金術師の組織が改良した『アルカ・ノイズ』やそれを運用する組織の壊滅なども請け負っている。

艦内にある本部では組織の制服を纏った男女が情報の処理や解析を行っており、その様子を赤いカッターシャツとピンクのネクタイが特徴の屈強な男性……司令官である『風鳴弦十郎』が見守っていた。

 

「司令。やはり、今回の事件は我々の知らない異端技術が関係してるようです」

「まぁ、私たちに声が掛かった時点でトリックの可能性は皆無でしょうけどね」

 

男性『藤尭朔也』と女性『友里あおい』の結論に、「そうか」と頷き労いの言葉をかける。

モニターに映っているのは「連続行方不明事件」・「犯人はミイラ男!?」・「日本に流れ着いた王の生贄!」など新聞や雑誌の切り抜かれた記事や、ニュースが記載されている。

極めてオカルト色の強い内容だが、彼らの表情は真剣そのものだ。

 

「現場周辺のデータも解析来ましたが一切の形跡がありませんでした。それも被害者と犯人、両方のです」

「念のため、索敵レーダーの情報も探しましたがノイズ及びアルカ・ノイズの反応もありませんでした」

「これは、増々きな臭くなってきたな」

 

情報処理のエキスパートたる二人ですら、何も見つけられないという異常事態に弦十郎も思案することしか出来ない。

事の発端は、今から数週間前に遡る。

まず、若者たちが突如として行方不明になる事件が起こっており、警察がその足取りを追って行く内に監視カメラに『奇妙な存在』が映し出されていたのを発見した。

深夜帯であるため、あまり鮮明ではないが若者を襲う『怪人』……それが、身体中に巻き付けた包帯を操り、拘束して攫ったのだ。

当然、警察も愚鈍ではない。

ありとあらゆる可能性を検討し、捜査や映像の解析を進めたが現状の解決に至るまでの手がかりを見つけることが出来なかった。

あまりにも常識から外れた現象に警察上層部からS.O.N.G.は怪人の調査を依頼され、現在に至っている。

そして、技術面の担当をしている白衣を羽織った右目の泣き黒子がある小柄な少女『エルフナイン』がパッドを手に別方面で調べていた映像の解析結果を告げる。

 

「映像の差し替えや認識阻害なども考慮して調べてみましたが、何らかの技術による細工をされた後もありませんでした」

「つまり、映像の怪人は紛うことなき本物……ということか」

 

「ふむ」と頷いた弦十郎が映像を見つめる。

ノイズやアルカ・ノイズは人間のみを襲い、触れた者を炭化あるいは赤い塵と化する特性を持つ。同じ性質を持つのならば、拘束された時点で命はないはずだ。

そして、布を巻きつけた怪人が攫う前に周囲を見渡したのも見逃せない。

知性のない獣のような存在ならば外敵などを警戒することはあれど、目撃者の有無を確認するような動きなど決してしない。

どちらにせよ、非力な人間にとって友好的な存在とは言えないのが現状だ。

 

「ボクはもう少しだけ、この怪人について解析してみます。もし錬金術で生み出した怪人なら、何かしらの痕跡が残っているはずです」

「頼んだぞ、エルフナイン君」

 

映っている怪人がノイズとも違う敵ならば、それは新たな脅威とも呼ぶべき存在。

不気味なマスクを浮かび上がらせた正体不明の魔人を、弦十郎はただ睨むことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

奏音にある、とあるゲームセンター内。

そこにあるクレーンゲームコーナーに、二人の少女がいた。

襟足が広がった栗色の髪のボブカットに太陽のような明るさを持っており、ミニスカートなどの動きやすい私服に身を包んでいる。

もう一人は白やロングスカートなどの落ち着いた色合いの服を着た少女で、艶のある黒いショートヘアーの後頭部に白く大きなリボンを着けている。

ボブカットの少女『立花響』がショーケースの中にある景品と睨めっこしている横で、幼少からの親友である『小日向未来』が苦笑いしている。

 

「響、もう諦めたら?」

「駄目だよ未来!二千円分も崩しちゃったし、今更後には退けないっ」

 

振り向くことなく、響は最後の百円玉を取ると投入口に装填。

レバーとボタンを慎重に操作してお目当てのぬいぐるみをクレーンのアームが捉える。

しかし。

 

「あ、落ちた」

「にゅああああああああああああっっ!!?」

 

ぬいぐるみは落ちることなく、むしろクレーンの届かない位置に動いてしまった。

あんまりな結果に頭を抱えて絶叫する響に、流石の未来も溜め息を吐く。

本気のショックを受けている彼女の頭をはたく影がある。

 

「ゲーセンでうっせーぞ、単純バカッ!」

「うう、クリスちゃーん……」

 

やや男勝りの口調で騒ぐ響を嗜めたのは、低い身長ではあるが女性らしさを損なわないプロポーションを秘めた襟足の左右を長く伸ばした銀髪の少女『雪音クリス』だ。

呆れた表情を見せる赤い私服に身を包んだ彼女の後ろには、小柄な少女が二人……長い黒髪をツインテールにしたピンクを基調とした衣服の少女『月読調』と、緑を基調としたパーカーとハイソックスの出で立ちに特徴的な髪留めをした金髪の少女『暁切歌』がいる。

 

「ありゃりゃ。どんまいデスよ」

「切歌ちゃんっ」

「ちなみに私たちは目当ての景品をゲットしました、ブイ」

 

止めとばかりにクレーンゲームで手に入れた景品を見せつけてくる二人に響が更に項垂れる。

この五人はリディアン音楽院に通う生徒で先輩後輩の関係、だけではない。

響・クリス・調・切歌の四人はS.O.N.G.に所属しており、未来は所属していないのだが事情を知っている者として彼女たちを支えているのだ。

そんな五人は今、ゲームセンターにいるのは日常の謳歌だけでなく『もう一つの目的』がある。

 

「けど、もうすぐ会えるんデスね」

「響さんと未来さんの『友達』……すっごい気になる」

「アタシとしては不安だけどな」

 

三者三様の反応を見せる三人に、響と未来は顔を合わせて笑う。

そう、切っ掛けは二人から送られてきたスマホのメッセージアプリから来た『友人』からの連絡。

とある事情で引っ越してしまった大切な友達が、この街に帰って来るというメッセージが届いたのだ。

ならば、会わない道理はない。

昔からの友達と、新しく出来た友達を会わせて紹介したくなるのは当然のこと。

待ち合わせ場所であるゲームセンターで時間を潰しつつ、現在に至っている。

 

「大丈夫だよ。すごく優しいから、クリスたちともすぐに気が合うと思うよ。ゲームも好きだしね」

「本当デスかっ!?」

「楽しみだね、切ちゃん」

 

どんな能天気な人物が出てくるのか、僅かな不安を覚えるクリスに未来が笑う。

ゲームで遊ぶことの多い切歌と調も、未だ姿を見せない響たちの友人に期待を膨らませている。

そんな時だった。

 

「ざっけんじゃねーぞガキがぁっ!!」

 

突然、ゲームセンターの中でそんな声が響き渡った。

声がしたのはがある方向。反射的響たちは声のした方向……実際のカードを使ったアーケードゲームの筐体へと小走りで向かう。

すると、その場所には青年が灰色のパーカーを着た小柄な少年に絡んでいた。

フードを被った少年を見下ろしている青年の方は髪を茶色く染めて耳にピアスを開け、禁煙であるにも関わらずタバコを吹かした、お世辞にも品があるとは言えない柄の悪い男だ。

明らかに少年や響たちより年上であろう彼は、大人や子どもの交じった周囲の見物人を威嚇しながら、再び叫ぶ。

 

「俺の最強編成が、絶対に負けるわけがねぇ!ズルしたよなっ、チートだよなっ、白状しろっ!!」

 

今にも掴みかからんばかりの勢いで青年は詰め寄るも、少年の方は萎縮するどころか見上げるような形で彼の顔を睨みながら口を開く。

 

「自分の下手くそさを棚に上げるのやめてくんない?俺が使ったのはこいつが持っていたカード……お前が『屑カード』って蔑んだ物だ」

「だったらそのカードに細工してあんだろうがっ!」

「違法改造されていないのは、最初のゲームでお前を含めた全員が確認済みだ。そもそも、このゲームはチートした時点で強制終了する機能があるんだよ。そんなことも知らないで遊んでたのか?」

 

叫び威嚇する茶髪の青年に少年は臆する気配はない。それどころか、論理的な反論を持って相手のクレームを処理している。

カードを借りた小学生ぐらいの少年を庇いながら、「それに」と言葉を続ける。

 

「そのカード、自分で手に入れていないだろ?」

「は、はぁっ!?」

 

その言葉に見物人たちがざわつく。

周囲を威嚇しながらも、動揺を隠せない青年は必死に取り繕うとするが、少年の口撃は止まらない。

 

「タンク系のカードを考えなしに突撃、相手の遠距離攻撃のスキルを無視した接近。攻撃系のカードを何故か前線に出して無意味に防御させる。遊んでいる奴ならお前が初心者なのはすぐに分かる」

 

青年のプレイは明らかに稚拙なもので、自信満々の割にはコンボや相手の戦略を考慮していない単調な動きそのものだ。

対して少年はゲームを始める前にカードの能力や特性の説明を確認し、相手の拙いプレイスタイルを利用して見事勝利を収めた。

 

「ついでに、台バンしたり喚いたりしてさっきからうざったい。猿やチンパンジーの方が全然利口だぜ」

「な、なっ、なっ!?」

 

然り気なく罵倒しつつ、問題点を指摘する少年。

クリスと切歌は物怖じしない彼に冷や汗を流し、調はいつでも飛び出せるように準備している。

何故か響や未来はいつもの様子だったが……。

一方の青年は、図星を指されたようだ。

歯軋りしている顔は見る見る内に茹でダコのように真っ赤になっている。

 

「大方、景品目当てに参加したんだろ。けどカードを集めるのが面倒だから、知り合いか誰かから脅すなりしてカードを奪って参加した……違うか?」

「ぐっ!?」

 

またしても図星。

茶髪の青年に詰め寄ると、相手を追い込むように一気に畳み掛ける。

 

「ゲームってのは、自分で遊んで欠点を見つけたり勝筋を作るから楽しいんだよ。他人から奪っただけじゃ今回みたいに自爆する。勝ちたいなら、まずは自分でカードを集めるところから始めるんだな」

「うるせぇ……うるせぇうるせぇうるせぇんだよおおおおおおおおおっ!!」

 

怒りに満ちた視線を向け、ついに我慢の限界を迎えた青年は掴み掛かろうとするも、難なく躱される。

すると、勢い余って茶髪の青年は近くに配置されていたメダルスロットの筐体に顔面から激突。

痛みに悶えながらも、怒りの形相で立ち上がった時だ。

 

「警察に通報した。お前が逮捕されるのも時間の問題だ」

 

少年は取り出したスマートフォンを見せびらかしながら、口角を上げる。

 

「実は、さっきからお前の珍行動をずっと撮影していたんだよね。逮捕される前に一回、人生終了させてみるか?」

 

見下ろしながら告げた少年に茶髪の青年が押し黙る。

多数の目撃者に動画、それだけの証拠があれば警察に逮捕される。

増して、彼には警察に調べられたら不味いことも仕出かしている。

 

「~~~~っ!くそっ!!」

 

唸り声をあげ、悔しそうに地団駄を踏んだ青年は周囲の冷たい視線から逃げるように走り去る。

迷惑プレイヤーをゲームだけでなく口論で撃退した様子を見ていた見物人たちが拍手する中、少年は子どもにカードを返すと、その場から離れる。

その時だ。

 

「ちょっと」

「んあっ?」

 

未来が彼の手を掴んでいた。

口をへの字にした彼女は両手で少年を捕まえると、フードの奥にある瞳を真っ直ぐ見つめている。

 

「待ち合わせの時間、過ぎているよ?」

「ごめんって。あの茶髪がむかついたから、ついな」

「だったら連絡の一つでも入れてよ。大体、昔からいつも……」

 

気兼ねないやり取りをしているが、未来の表情が不機嫌なままだ。

クリスたちが啞然としているのも気にせず、彼に対してお説教を始めようと口を開く。

それを慌てて止めたのが響だ。

 

「ストップストップ!悪気があったわけじゃないんだからさ、まずは再会を祝して……ねっ?」

「むうっ」

 

納得はしていない様子だったが「響がそう言うなら」と、矛を収める。

楽しそうに話している三人の間に割って入ったのは調だ。

少年と響たちの顔を見ながら、挙手する。

 

「えっと、響さん。もしかしてこの人が……?」

「そうだよ」

「みんなに会わせたかった私たちの友達。ほら、挨拶!」

 

未来に急かされるまま、少年は「はいはい」とクリスたちの前に一歩出て自己紹介を始める。

 

「初めまして。響と未来の友達『宝生拓斗』でーす、趣味はゲーム全般……てな具合で、宜しく」

 

あっさりとした自己紹介。

先ほどまでの荒っぽい態度と今の軽い言動。

短時間での急展開と膨大な情報量に、三人はしばらく呆然としていたが……。

 

「はあああああああああああっっ!!?」

「デデデェーーーーーースッッ!!?」

 

正気に返ったクリスと切歌の叫びが同時に響いた。

 

 

 

 

 

拓斗に絡んでいた茶髪の青年は、溜まり場にしている近くの裏路地で独り悪態を吐いていた。

普段なら仲間が他に数人いるのだが、今日は用事があるのか彼一人だけだ。

 

「くそっ、くそが!今に見てやがれっ!!」

 

地団駄を踏みながら、青年はポケットからスマートフォンを取り出す。

仲間を呼んで、あのいけ好かない少年を袋叩きにしようと考えているのだ。

自分に楯突いたことを後悔させてやる……そんなことを考えながらスマホを操作しようと画面に触れた時だ。

 

『見てた見てた、見ちゃいましたよー』

 

背後から聞こえたその声に背筋を震わせ、青年が慌てて振り返る。

見れば、人間に近い姿をした異形が階段の上から覗き込んでいた。

 

「なっ、あぁ……っ!?」

 

白いフードで全身を隠してこそいるが、そこから僅かに見える身体は毒々しい赤い腕が見える。

未知の存在に腰を抜かして震えている天野を、楽し気な様子で見ている。

 

「な、何だお前!?」

『私ですか?そうですねー……ま、一先ずは「アララギ」とでも呼んでくださいな』

 

若い男性の声で、軽い態度で自らをそう名付けた怪人は階段から飛び降りると、地面へ難なく着地する。

 

『しっかし、残念でしたねぇ。後一歩!相手が不正をしていなければ大勝利だったのに』

 

わざとらしく頭を抱えながら、そんなことを怪人が口走る。当然、事実無根の出鱈目だ。

しかし、それを聞いた茶髪の青年は驚く。

 

「あの野郎、マジで何かしてやがったのか!?」

『らしいですよー。そんな感じのことを言ってたような、言わなかったような?』

「あいつううううううっ!コケにしやがって……マジでぶっ潰してやるっ!!」

 

本当に不正を行っていたのか……そんな事は一切考えずに、苛立ちを隠すことなく茶髪の青年は怪人が言ったことを鵜呑みにする。

単純且つ頭の足りない姿を見て満足そうに頷きながら、怪人はフードの懐から掌に収まる大きさをした『ある物』を取り出す。

それは薄い正方形のクリアケースにラメの入った小さな円盤が封入されている奇妙な道具だ。

ダークブラウンでカラーリングされた円盤にはデフォルメされた土人形が刻まれており、側面にスイッチがある。

 

『これを使えば、その憎たらしい相手を叩き潰すことが出来ますよ?』

 

手に持った道具を見せびらすように怪人は「どうします」と問い掛ける。

明らかに怪しい存在、明らかに胡散臭い言葉、そして明らかに不穏な道具。

しかし、青年は道具の放つ光に魅了されていた。

同時に確信する。

これが単なる玩具などではないと。

 

「当たり前だ!欲しい、欲しいに決まってる!あのパーカー野郎の顔面をズタズタにしてやりたいからなぁっ!!」

『そうこなくっちゃ』

 

再び笑みを見せた怪人は突如、青年の肩を掴んだ。

そして、道具のスイッチを押して起動する。

 

『あなたの夢、形にしてあげますよ!』

【SAISEI GOLEM!!】

 

身動きを取れなくした上で、怪人が茶髪の青年に不気味な音声を響かせる妙な『ミニディスク』を埋め込んだ。

 

「がっ!?うぎ……ぎっ!」

 

埋め込まれた胸を押さえ、苦しむ青年。

すると、身体の各所からジッパーのような銀色のパーツが出現。

それはまるで意思を持つかのように、ゆっくりと音を立てて開いていく。

 

「あっ、あぁぁぁあああああっ!!」

 

やがてジッパーが完全に開き切った瞬間、その箇所から音符を象った紫の光がいくつも溢れると、青年に重なって肉体を変異させていく。

しばらくすると光の放出は終わり、肉体のジッパーが閉まったと同時にその姿を露にした。

泥と機械で合成された歪な風貌の怪人……。

 

『は、ははっ。あっはははっ!こいつはすげぇっ、力が沸き上がってきやがる!待ってろよ、俺に口答えした奴がどうなるのか、今から思い知らせてやる!ピピィーッ!!』

 

青年の声を発した土と機械の合成人形が歓喜に満ちた声をあげる。

目先の力に魅了され、他人の言動に振り回される愚かな人形……彼ほど扱いやすい人間はいないだろう。

茶髪の青年が抱いた『自分を苛つかせた存在を許さない』という夢と混ぜ合わせて生まれた土人形は機械の腕で壁を突き破ると、ゲームセンターへと走っていく。

その様子を、赤い怪人は楽しそうに眺めるのだった。

 

 

 

 

『バンバンシューティングアーケード』や『ボーズ・オブ・テラどろどろ道中』、リズムゲームの『ドレミファビートRe-mix』など様々なジャンルをゲームセンターで興じる一同。

元々ゲームが好きな調や切歌は早い段階で拓斗に懐き打ち解けているが、クリスはまだ警戒している様子だ。

最も、響や未来の友人なのは釈然としないが事実を受け入れているため、単に人見知りを発揮しているだけかもしれない。

少しばかり遊び疲れた六人は、今は少し外れたフードコーナーで談笑している最中だ。

 

「でも驚いたデスよ!響さんたちの友達が男の子だったなんて」

「うん、ビッグニュース」

 

あれやこれやと矢継ぎ早に繰り出される質問を拓斗は適当に返す。

そもそも調やクリスたちは『女子』と思っていたので、次から次から疑問が湧き上がってくる。

 

「つーか、お前もお前だ真っ直ぐバカッ!男なら男って最初からアタシたちに言えよ!!」

「えっ?だって、誰にも聞かれなかったし」

「響、そこはしっかり伝えとこうよ……」

 

首を傾げる能天気な響にクリスと未来は頭を抱えている。

新たな人物が増えても、彼女たちの日常は変わらない。

平和と笑顔のある今と明日を生きる、それが彼女たちが守っている世界。

しかし、それは突如として崩れ去る。

 

「……?」

「どうしたデス、調?」

「何か、騒がしい」

 

言われて意識を向けてみると、確かに今までとは異なる喧騒。

ゲームセンターだから騒がしいのは当然なのだが、明らかに不安や恐怖の色がある。

調に言われて響たちも異変を察知した瞬間だ。

悲鳴のようなものがゲームセンター内で響いていることに気付く。

同時に本部から入った緊急通信に、響が「はいっ!」応答する。

 

『響君っ、今何処にいるっ!!』

「えっと。ゲームセンターでみんなと……」

『すぐに住民たちを避難させるんだっ!例の怪人が…』

 

そこから先の言葉を、言うことは出来なかった。

そして響たちはノイズとも錬金術師たちとも違う脅威に直面する。

 

『ピピピピイイイイイイイッ!』

 

けたたましい破壊音と機械の駆動音が周囲を騒がす。

その正体に、彼女たちは唖然とした。

それは、ノイズとは明らかに異なる存在だったからだ。

白いデスマスクを持つ黒い素体のような身体の上に、ダークブラウンの泥や岩の装甲を纏っており、右腕には壊れかけの錆びたロボットアームを出鱈目に装着している。

何よりも特徴的なのは身体に取り付けられたジッパーのパーツだ。

銀色の鈍い輝きを放つジッパーは妙な存在感を放っており、まるで歪な着ぐるみを被っているような滑稽さも感じる。

そんなアンバランスな機械の腕を持つ土人形擬きが、人々を襲っているのだ。

 

「あれが、ノイズと違う怪物」

「あわわっ。あれじゃ怪物というより、怪人デスよ……!」

 

明らかに、これまでと違う気配と存在感を持つ異形に響や切歌が驚きを露にする。

クリスたちも怪人が実在していたことに驚くも、土人形の怪人は拓斗に視線を向けた途端に、身体から白い蒸気を噴き出す。

 

『ピイイイイイイッ!!』

「うおっと!?」

 

自分に向かって鋼鉄の腕を振り下ろそうとしていることに気づいた彼は近くにいた未来の身体を抱えて下がると、先ほどまで立っていた場所から凄まじい衝撃と皹が入った。

 

「未来、拓斗と一緒に逃げてっ!」

「うん!」

 

「気をつけて」と響たちの身を案じながらも、四人の足を引っ張らぬように拓斗と離れる。

今の未来は一般人。ならば、自分たちの戦いに巻き込むわけには行かない。

立ち塞がるように対峙した彼女たちに、怪人が苛立ちに似た声を漏らす。

ロボットのような音ではない、人間らしい憤りに満ちた唸り声だ。

 

『ピピピイイイイッ!うざってぇんだよっ、このクソガキどもがガガァー!』

「「「喋った!?」」」

「どうやら、単なる怪物ってわけじゃなさそうだな……!」

 

目を見開く調と、同じ反応で驚く響と切歌。

クリスも驚きこそしているが、未知の敵に油断しないよう睨む。

そんなことを気にも留めない怪人が地団駄を踏み、ロボットアームを地面に叩き付けるとドリームキャッチャー状の魔法陣が出現。

そこから赤いパネルを持つ簡素な装備をした兵隊のような怪人が次々と召喚された。

 

「仲間も増やせんのかよっ!?」

 

道具を使わずに現れた兵隊の群れを見て流石に面食らったクリスだが、そこに恐怖の色はない。

それは響たちも同じだ。

怪人が何者だろうと、どんな能力を持っていようと、どれだけ強大だろうと構わない。

人々を助ける、それだけだ。

 

「行こう、みんなっ!」

 

結晶体のような赤いペンダントを強く握り締めた彼女の真っ直ぐな言葉に、三人もそれぞれのペンダントを握る。

彼女たちは、シンフォギア装者。

自らの想いを胸に、幾度もの脅威から人々を守り続ける戦姫だ。

意志を持つ眼差しを向け、そして……。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……♪」

「Killiter Ichaival tron……♪」

「Zeios igalima raizen tron……♪」

「Various shul shagana tron……♪」

 

異なる詠と詞が美しい声音で紡がれた。

 

 

 

 

その様子を、人がいなくなったゲームセンターの物陰から見物している影があった。

茶髪の青年を怪人へと変異させた赤い怪人だ。

転がる椅子を起こし、それに座った状態で右手に持った銃の形状をした黒い道具を通して光を放つ『何か』を取り込んでいる。

 

【BAKKUN! BAKKUN BAKKUN BAKKUN……!】

 

道具から音声が鳴る。

これは『吸い取っている』のだ。

人間なら誰もが持つ『夢を願う力』から生まれたエネルギーを。

それは、ゲームセンター内にあった『ゲームを楽しむ』という夢だけでない。

この惨状を生み出した茶髪の青年だった怪人が願う夢と、視聴者であり観客でもある人々の不安や恐怖から生まれる『死にたくない、助かりたい』と願う夢の残留を、掃除機の如く無差別に吸い込んでいる。

ラッパのような銃口から様々な色を持つ美しい光のエネルギーを、まるでやり慣れたルーティンのように淡々と作業をこなす。

 

【INSTALL!】

 

ある程度の吸収を終えた道具から異なる音声が響き渡ると、赤い怪人は腰にあるホルスターに収める。

視線を向けた先には、歌を奏でる戦姫たち。

 

『さてさて。渇き求める夢の魔人に何処まで戦えるのか、見物させてもらいますよ』

 

何処までも軽い調子で、自分たちの脅威となり得る存在の実力を見極めるかの如く、彼は一人呟いた。




原作との相違(という名の裏設定)
・響と未来に本作のオリ主たる男友達『宝生拓斗』がいる。
・響たちの住む街は『奏音』という本作オリジナルの都市へ。リディアンもこの街に存在する。
・異端技術には錬金術とは別に『魔法』が存在する。
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