仮面ライダーFIRX ~歌と夢が煌く万華鏡~ 作:名もなきA・弐
ゲームセンターの周囲と店内は戦場となっていた。
群れとなって凶刃を振るう兵隊を束ね、機械仕掛けの土人形が鬱憤を晴らすように暴れ回る。
鉄腕を振りかざし、周囲を破壊する姿は無辜の市民にとっては恐怖以外の何物でもないだろう。
しかし、迫る悪夢に四つの光が抗う。
黄・赤・桃・翠の軌跡を描きながら、想いを力に変える。
そんな暗く淀んだ戦場を変えられるのが、彼女たちの『歌』だ。
紡いだ歌は力を与え、あらゆる障碍を切り開く武器となる。
「はあああああああああっっ!」
『撃槍ガングニール』を白と黄のプロテクターとして装備した響は、弦十郎の元で培った我流の八極拳を駆使しながら迫る兵隊を吹き飛ばす。
自立機能が備わっているのか、一騎当千の如き活躍を見せる彼女を充分な脅威と認識すると、兵隊たちは逃げ遅れた人を人質にしようと動き始める。
しかし、それを許さない二つの影が現れる。
「デェースッ!」
「させない!」
逃げ遅れた人を守るように、室内であるにも関わらず小柄な体躯を活かした縦横無尽に立ち回りを見せる切歌と調が阻害する。
死神や魔女を思わせる緑のプロテクター『獄鎌イガリマ』を装備した切歌は大鎌型のアームドギアを振るって一掃すると、残った敵を調がヘッドギアと一体化した丸鋸『鏖鋸シュルシャガナ』で両断する。
ローラースケートのように地面を滑走しながら兵隊の斬撃を躱しつつ、すれ違いざまに斬撃を浴びせて数を減らしていく。
それでも数はまだ残っており、遠距離から狙い撃とうと残った兵隊が武器を構えている。
マスケット銃型の武装から発射された弾丸は、寸分の狂いもなく響たちへと向かっていく。
「ちょせぇっ!!」
しかし、命中することはなかった。
赤いプロテクター『魔弓イチイバル』を纏ったクリスが、両手に持った二丁の拳銃型アームドギアから銃弾を乱射して迫る弾丸ごと兵隊を殲滅させたのだ。
FG式回天特機装束……通称『シンフォギア』は聖遺物、古くから実在していた異端技術の結晶を用いて製造されており、内に宿る想いを美しい旋律として奏でるシステムが内蔵されている。
その音楽に合わせて装者が歌唱することで主力となるエネルギー『フォニックゲイン』が増幅し、出力及び戦闘力を増大させていくのだ。
最初こそ未知の敵に戸惑う彼女たちだったが、兵隊の数は確実に減っている。
しかし、自分が不利になっている状況を怪人は黙っていないし認めるわけにはいかない。
『ガガガガガアアアアアアッ!』
雄叫びのような機械音を鳴らしながら、怪人がロボットアームを振り回しながら突撃する。
奏でる歌を耳障りだと、自らの夢を邪魔する愚者を消し去ろうとアンバランスな腕で叩きつけようとするが、そんな単調な攻撃は当たらない。
響はそれを回避すると、がら空きになった脇腹に狙いを定める。
そして勢いに乗せた拳を突き出し、気合いの入った雄叫びと同時に土人形にぶつけた。
『ぶおっ!?』
その速度と勢いは目で捉えることなど出来るはずもなく、怪人は成す術もなく吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、転がった怪人は何事もなく起き上がったのだ。
『な、何だ?痛くねぇっ』
ダメージを受けている様子はない。
自分の身体を動かす怪人……どうやら彼自身も分かっていない様子だが、それで怯む響ではない。
「はっ、でやっ!はああああっ!!」
拳や蹴りの連撃を叩き込む。
時折、振り下ろされる単調な攻撃を回避し、攻撃を与えるが効果がない。
やがて、腹部を殴り付けたタイミングで違和感に気付いた。
「あ、れ。何で……?」
手応えがないのだ。
命中しているはずなのに、拳に一切の手応えが感じられない。
最初は纏った機械の腕や装甲が硬いから、中々攻撃が通らないのだと思っていたが違う。
まるで空を切ったかのように、『感触が伝わって来ない』のだ。
ノイズを討つ時でさえ感じるはずなのに実態が感じられない。目の前の怪人はまるで夢か幻のように、それこそ液晶画面の向こう側にいるバーチャルなキャラクターに直接触れることが出来ないように……。
それはコンマ数秒。
ほんの一瞬だけ生じた動揺が、大きな隙を作った。
『ピピピイイイイイイッ!好い加減、しつこいんだよおおおおおおおおおおおおっ!!』
「避けろ、バカッ!」
「うわわっ!?」
恐れるに足りないと認識した怪人が、機械から蒸気を噴かし叫ぶ。
同時に聞こえたクリスの声で我に返った響が慌ててバックステップした途端、先ほどまで立っていた場所にクレーターが出来上がる。
その衝撃は凄まじく、地響きを起こすほどの威力を秘めている。
シンフォギアを装備しているとはいえ、命中していたら無事では済まなかっただろう。
『俺を苛つかせる奴は絶対に許さねぇっ!みんなっ、みんなにこの俺にぶっ潰されろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!』
「くっ!?」
怪人が叫ぶ。
それは彼が見た夢……歪で我欲に溺れていようと、それを叶えようと暴れる様は怪人や魔人と呼ぶに相応しいだろう。
兵隊を片付けることは出来たが、大本である泥人形の怪人は健在だ。
実力自体は強くないため負けることはないが、逆に倒せることも出来ない。
その様子は本部にいる弦十郎もモニター越しで感じていた。
このまま戦闘が長引けば周囲への被害が広がるだけでなく、装者たちへの負担が想定以上に重くなってしまう。
やむを得ず、撤退命令を出そうとした時だ。
「響っ、みんなっ!」
彼女たちの耳に入ったのは聞き覚えのある声。
振り返れば、そこにいたのは未来。隣には一緒に避難していたはずの拓斗もいる。
「未来っ、どうしてっ!?」
「ごめん、拓斗が急に……」
驚く響の問いに未来が答えようとした時だ。
拓斗が一歩前に出る。
茶髪の青年に絡まれていた時と同じように、臆することなく進む。
そして、彼の姿を見た怪人が反応する。
『ピピピピッ!戻って来たかクソガキッ!!正義感アピールするためにご苦労だなぁっ、あぁっ!?』
嘲るように捲し立てる怪人の言動に、正体が見当ついたのか拓斗は呆れたように溜め息を吐く。
そして、一言。
「チンピラアピールに随分と必死だな。そんなに構って欲しいのかよ、下手くそ」
『っ!!てんめええええええええええええっっ!!!』
一瞬で頭が沸騰した怪人がロボットアームを振り下ろそうと迫る。
「危ない」と調や響が叫ぶ中、拓斗はその攻撃を躱した。
不敵な笑みを崩すことなく、大した脅威とも捉えていない態度に怪人の怒りは増々酷くなる一方だ。
「自らの夢を抑えきれなくなった貪欲の災厄『アヴァストル』……その湧いた頭ごと性根を叩き直してやるっ」
取り出したのは角丸長方形の形状をした紫色のバックル。
中央上部には奇妙なスペースが存在しており、中心部に透明な半円球のクリスタルがあり、多面体のブリリアントカットとなっている。
左側には上からスピーカーがあり、右側に右斜め下に動かすスライドスイッチが存在していた。
「何だ、ありゃっ?」
見たこともないデバイスに疑問符を浮かべるクリスたちに気にすることなく、拓斗は奇妙な形状をしたバックル『カレイドドライバーカオス』を軽く腰に当てる。
左右から黒いベルトが伸びて完全に固定されたのを確認し、懐からアイテムを取り出す。
その瞬間、怪人……「アヴァストル」と呼ばれた魔人が動揺を露にした。
『なっ!そ、それはっ!?』
それは卵型のケースに小さな円盤が埋め込まれた所謂「ミニディスク」と呼ばれる道具。
ラメが施された青い円盤にはデフォルメされた剣士が刻印されている。
伝承の概念に残る魔力を封入した『カレイドディスク』にある側面のスイッチを押した。
【BALMUNG!】
『っ!?』
『バルムンク、だとぉっ!?』
禍々しい電子音声に全員が身構える。
モニターから入ってくる映像と電子音声の情報に、指令室にいた弦十郎も思わず驚愕の表情で叫ぶ。
そんな周囲のリアクションに構わず、拓斗はカレイドドライバーカオスの中央上部にあるスロットに聖遺物『バルムンク』の概念を宿したカレイドディスクを装填する。
【HENSHIN STANDBY!】
ドライバーにあるクリスタルから青の幻想的な光が輝き、ノリの良いピアノの軽快な待機音声が周囲へと鳴り響く。
瞬間、拓斗の足元には淡い光を放つ青い魔法陣が出現した。
目の前の敵に臆することなく、彼は自らを変える言葉を短く告げる。
「変身」
ドライバーにある白いスライドスイッチを動かした瞬間、クリスタルが激しく回転した。
万華鏡のような輝きを反射させながら音符型のエネルギーが踊るように周囲を旋回する中、禍々しい気配を放つ紫のアンダースーツとなって拓斗に纏わりつく。
【Show me a heart! Requiem Wo Hibikasero!!】
ドライバーによって再生されたディスクのエネルギーが音符から装甲へと変化し、音を立てて彼の身体に次々と装着されていく。
そして紫のジッパーが装甲とスーツを完全に繋ぎ止めた瞬間、その姿を変身させた。
「……ふっ!」
迸るエネルギーの余波を払うと、それらは一瞬だけ世界を覆う。
蒼いスポットライトが照らすステージと背後にある巨大なモニター、その中央にはメインである仮面の戦士が呆気に取られる視聴者の視線を集めるように堂々と立つ。
【LIVE START!】
紫のスーツに闇夜を思わせる青い西洋甲冑を身に纏っており、両肩と両腕、胴体と両脚の必要最低限の箇所に装備されている。
兜を思わせる紫の仮面には複眼とゲーミングヘッドホンを模した黒いヘッドギアが青く光っていた。
その姿はまるで装者が纏うシンフォギアに酷似した出で立ち。
しかし、戦士から感じ取れるエネルギーの余波はフォニックゲインとも想い出や寿命で錬成された魔力とも違う。
最も身近で、最も原始的な神秘エネルギー……夢を願う力『デザイアエナジー』がドライバーを通して活性化される。
「拓斗が、変身しちゃった……」
呆然と呟いた響に少しだけ顔を向けるも、すぐさまアヴァストルに視線を向ける。
「俺はフィルクス……混沌を宿す者『仮面ライダーフィルクス』」
仮面の幻想騎兵……フィルクスは自らをそう名乗ると同時に軽快な音楽が流れる。
ポップな旋律に合わせて軽くステップを踏み、動揺を隠せないアヴァストルへと腕を突き出し宣言した。
「刮目しな、ライブスタートだっ!!」
宣戦布告の後、すぐさま距離を詰めたフィルクスは鋭い蹴りを浴びせると、無防備な敵の身体に連続してキックの嵐を叩き込む。
『こ、このっ!がっ!?』
二段蹴りを受けたかと思えば、今度は膝蹴りと荒々しい攻撃にゴーレムの伝承と茶髪の青年の夢が混ざり合った怪人『ゴーレム・アヴァストル』は攻撃を受けるしかなく抵抗すら出来ない。
連撃を容赦なく叩き込みながら、フィルクスはディスクに内包されたイメージを魔法として解放する。
【KALEID BLADE!】【SLASH!】
「オラッ!」
『ぐえっ!?』
音声と共にフィルクスが手にしていたのは、短く切り詰めた二連式散弾銃の下に青い刀身を生やした紫色の
魔法陣が施された武装『カレイドウェポン』の一つである銃剣『カレイドブレード』を召喚した後、親指で撃鉄を起こしたフィルクスがゴーレムの身体を斬り裂いた。
禍々しい闇を思わせるような青い斬撃が綺麗な軌跡を描きながら、土人形の身体から火花を散らす。
倒れそうになるゴーレムだが、それだけでは終わらない。
「そらっ!!」
『がっ!?』
容赦のない膝蹴りが、敵の股間に炸裂した。
不意を打たれた急所攻撃に、苦し気な悲鳴を漏らしたゴーレムが両手を押さえて崩れ落ちる。
その隙をフィルクスは見逃さない。
「さっさと起きろっ!」
『げぼっ!?』
倒れているアヴァストルの腹部を今度は躊躇なく蹴り飛ばし、激痛に悶えている間に胸ぐらを掴んで無理矢理立ち上がらせた。
「オラッ!オラッ!!オラァッ!!!」
『がっ、ぼえっ!ぎゃあっ!!』
「な、何て無茶苦茶なっ……!!」
「やややっ!あ、荒っぽいデスッ」
掴んだまま、カレイドブレードの銃身で何度も顔面を殴りつける荒っぽい戦闘スタイルにクリスや切歌も唖然とするしかない。
すると今度は膝蹴りを鳩尾に叩き込んでからハイキックで蹴り飛ばし、アヴァストルを地面に転がした。
『くそっ!くそっ、くそったれがああああああああっっ!!!』
激昂したゴーレムは機械の右腕から蒸気を噴き出して一気に距離を詰めると、鉄の拳で相手を殴り飛ばそうとする。
当たれば、ただでは済まないだろう。
そう。
「単純なんだよっ!」
『ぐべええええええっ!?』
当たればの話だ。
デザイアエナジーを左腕に集中させたフィルクスが拳を振るう。
完璧なタイミングで振り下ろされたカウンターパンチはゴーレムの顔面に命中。
一回転して吹き飛びそうになったアヴァストルの足首を掴んで地面に叩きつけると、胴体を踏みつけてから撃鉄を起こす。
【SPREAD!】
『いぎぃっ!?』
散弾モードを告げる音声を鳴らすとカレイドブレードの銃口から容赦ない銃撃が炸裂する。
至近距離で発射されたアメジストの弾丸に苦しむ声を無視し、攻撃を続けた。
しかし、これだけの攻撃を受けているにも関わらず、ゴーレムは未だ健在だ。
「初配信でもうへばったか?俺のライブまだ終わらないぜ」
『畜生っ、畜生がぁぁぁっ!』
挑発を受けて自棄になったゴーレムが再び腕を振るう。
しかし、今度は戦闘で砕けた地面の破片を寄せ集め、リーチも強度も増している。
目眩まし代わりに蒸気を噴き出しながら攻撃するも、変わらずにフィルクスは軽快にステップを刻みながら躱していく。
それでいて、響たちが巻き込まれないような立ち回りを繰り広げていた。
「よっと!」
『がっ!?』
不意打ち気味の前蹴りがアヴァストルの攻撃を一瞬だけ止める。
その瞬間、カレイドブレードの剣閃がジャンクパーツで繋がれた関節部分を破壊した。
「あぎぃぃぃやぁぁああああっ!?腕っ、腕ぇっ!お、俺のっ、俺の腕がぁぁぁぁっ!」
大量の火花を散らしながら、激痛で喚くゴーレム。
動揺し、正真正銘のジャンクとなった自身の腕が壊れ落ちる光景を見せられて錯乱状態に陥る。
「これで、吹き飛べぇっ!!」
『うぎいいいいっ!!』
己の武器を失い、身体で暴れ回るゴーレムの身体を斬り裂き、強烈なハイキックが土人形の如き身体を吹き飛ばした。
壁に叩きつけられ、そのまま地面へと崩れ落ちるアヴァストルは自問自答する。
(何で、何でだっ!?力を手に入れたのにっ、どうして俺はこんなガキに……!?)
「なぁ……」
『ひっ!?』
それを遮るように、武器を肩に担いだフィルクスが近づく。
ゆっくり、足音を立てて相手を威圧するように歩み寄る騎兵の姿にゴーレムが短い悲鳴を漏らす。
「お前の夢とか事情なんて知らねーし興味なんてねぇよ。けど、安心しな」
カレイドブレードを突きつけ、冷たく宣言した。
「二度とこんな気が起きないように、きちんとお前の心をへし折ってやる」
それは、アヴァストルにとっては処刑宣告にも等しい言葉。
躊躇いも迷いもない、本気にとうとう限界が来た。
『やだ……やだっ、嫌だあああああああああっ!こんなのっ、こんなことがあってたまるかああああああああああああっ!!』
恐怖がピークに達したゴーレムは、悲鳴をあげて逃げ出した。
勝てない、勝てるわけがない。
目の前にいる奴は、喧嘩を売って良いなんかじゃなかった。
壊れた腕を抑えながら、背中を見せて動く情けない様子にフィルクスは何の感情も抱かず、スライドスイッチを引きっ放しにする。
そして、自身とディスクに封入されたデザイアエナジーを爆発的に上昇させる。
【LAST NUMBER! BALMUNG FULL DRIVE!】
スイッチを放せば再びクリスタルが回転を初め、一際強い万華鏡の如き輝きが起こる。
終わりを告げる電子音声を鳴らすと、まずは手に持ったカレイドブレードを上空へと高く投擲。
それを追うようにフィルクスが凄まじい脚力で跳躍すると、柄目掛けて片足を突き出した。
瞬間、青と紫の魔法陣が上空にいるフィルクスと地上にいるゴーレムの間に、次々と出現。
動揺する怪人に気にすることなく、魔法陣を突き抜けながら蹴り飛ばしているカレイドブレードごと急降下する。
さながらジェットエンジンのように膨大なデザイアエナジーを放出して突撃するフィルクスの飛び蹴りは、やがてゴーレムの身体を貫いた。
「だああああああああああっっ!!!」
『ぎゃあああああああああっっ!!?』
必殺のキック『フェイタルストライク』の直撃を受けて身体を貫かれたゴーレムは悲鳴と共に身体に大きな風穴を開ける。
その一撃は、防ぐことはおろか躱すことも出来ない。勝利を確信した者だけが抱くイメージは、相手への逃走すらも許さない一撃必殺の魔法となる。
地面を削りながらも、着地に成功したフィルクスは呻き声をあげる怪人に一瞥くれることもなくただ一言、宣言した。
「夢から覚める時間だ」
『ピピイイイイイイイッ!!』
火花を散らしていたゴーレム・アヴァストルは悲鳴と共に爆散。
爆風に全員が両腕で顔を覆い、やがてそれが収まるとそこにいるのは爆心地を眺めるフィルクスと、泡を吹いて気絶している茶髪の青年だけ。
「怪人を、倒しちゃったデス……」
「終わった……はぁっ、疲れたぁー」
「もう、くたくた……っ」
未知なる力を使う騎士への警戒よりも、危機を乗り切ったことへの安堵からギアを解除した切歌と響、調は緊張感から解放されるように脱力する。恐らくは本部にいる弦十郎たちも同じ心境だろう。
一方でフィルクスは爆心地にあった何かの破片を手に取り、それを捨てると周囲を少しばかり見渡す。
しかし何も収穫がなかったのか、変身解除して元の姿へと戻った拓斗は踵を返して帰ろうとする。
「拓斗っ」
「……あー。俺は何も見なかったし、お前も何も見なかった」
響の呼びかけに、思いついたように喋り始める。
全員の視線が集中する中で拓斗はあっけらかんと言い放った。
「これじゃ駄目……?」
「駄目に決まってんだろ!」
都合の良いことを口にする彼にツッコミを入れるのは現メンバー最年長のクリスだ。
今まで溜め込んでいたものを吐き出すように初対面にも関わらず、詰め寄る。
「このバカの知り合いだろうが関係ねぇ!あの怪人が何で、あの姿が何なのか、全部話してもらうぞっ!」
「まーまーまーまー。そんなカッカしちゃ可愛い顔が台無しになっちゃうぜ?」
焦ることなく、マイペースに軽口を叩く拓斗の態度にクリスは少しだけ青筋を立てる。
助けたくれたことには感謝するが、この能天気さは響に通じる何かがある……この緊張感のなさが余計にイラっとさせるのだ。
「さっさと素顔も見せろ!」
「はっ、えっ?」
「待って!クリスちゃ…」
気づいた響が彼女を止めようとした時には、もう遅かった。
クリスが掴んだフードが外れると、拓斗の顔が露わになる。
「たくっ、えっ?」
その素顔に響を除いた全員が呆気にとられた。
右側の一部を編み込んだ赤みがかったピンク色のショートヘアに、宝石のような青い瞳……顔立ちは中性的というよりは可愛らしく、小顔でふわふわしたような印象を与える。
不良のような戦闘スタイルや、軽い言動から軽薄もしくは荒っぽい風貌を想像していたクリスたちにとっては呆気に取られてしまう……。
「……可愛い」
「っ!?」
調の一言に、拓斗はようやく自分の素顔が露わになってしまったことを理解する。
しばらく呆然とし、そして……。
「っ!!?っ!!!~~~~~~~~~~っっ!!!///」
顔を真っ赤に染めてその手を払い、慌てて背を見せて走ってしまう。
「待って」と響の声を無視し、バイクを止めてある場所まで向かうも途中で転び、顔を強打する。
「痛っつ……」
顔を抑えながらも立ち上がった拓斗はバイクの元まで向かおうとする。
だが、それを止めたのはクリスだ。
「おっと待てよ」
彼の逃走経路を予測し、腕を絡めるようにしてしっかりと捕まえる。
一方の拓斗は更に顔を赤くして必死に言葉を紡ごうとする。
「わっ、あわっ。は、離して……!///」
「んなこと言われて離す奴なんているかよ」
固定したクリスは通信機を起動し、本部へと連絡する。
「おっさん。怪人を倒した奴を捕まえたぜ」
『うむ。一先ず、彼も連れて本部に戻ってきてくれ』
その言葉に「了解」と返した彼女は拓斗の身体を自分の方へ寄せると待機してあるヘリコプターの方へと向かい、それを見た響たちも慌てて付いていくのだった。
これより始まるのは、仮面ライダーとシンフォギア装者たちの交響曲……。
魔法と聖詠が重なる時、終わりを告げた少女たちの物語は一つの始まりを迎える。
簡単な用語の紹介
・夢
本作のキーワード。生物が持つ心や精神、感情などから形作られる欲求の源。魂の大半を構成するモノでもある。
・デザイアエナジー
本作オリジナル設定。生物が『夢を願う力』から作られる。神々の時代では「魔力」とも呼ばれており、後世から更に区別するべくデザイアエナジーと名付けられた。
このエネルギーは人々の祈りや恐怖でも発生し、幻獣などの伝承を『一つの概念』として現代まで語り継がれている。稀に「コトバノチカラ」として積み重なるケースも確認されている。
・アヴァストル
本作のオリジナル怪人。幻獣や妖怪の伝承を概念として宿ったアイテム『カレイドディスク』を人間が埋め込むことで変異した姿。
変異した人間の夢と幻獣の概念が混ざり合った外見をしており、白いデスマスクと身体にある銀色のジッパーが特徴。
名前の由来は「avarice(貪欲)」+「désastre(災厄)」の造語。
『夢』は寝て見るもの、なので「死んだように眠る」という言葉からデスマスク・「寝袋で寝る」という発想からジッパー。
※とある人物の日記
夢とは虚ろであり、形があるにも関わらず実体を持たない。
それを目に見える形にする鍵として、Vtuberに目を付けた。
虚構と現実の境界線を繋ぎ、自らと観客たちの夢を形にし、一歩違う存在へと『変身』することが出来る。
それは、我々が使っていた『魔法』とまるで似ているではないか。