奮起したとは言え、本郷猛は最早虫の息。複数人なら勿論、タイマンであっても負ける筈がない。
ショッカーライダーの思惑は間違っておらず、本郷ライダーとの殴り合いを優位に進めていった。
スピードが其処まで乗っていない本郷のパンチやキックを容易に捌き、ショッカーライダーは的確に重たい拳打を叩き込めている。
「ぐはっ」
「ふん、気迫だけで俺には勝てん」
木の幹に吹っ飛ばされて打ち付けられた本郷の首を絞め上げるショッカーライダー。
このまま一思いに窒息死させ、サッサとこの場には居ないもう一人のサイボーグを殺してしまおうとする。
だが、死なない。意識も刈り取れない。かなりの力で絞め上げているのに。本郷は瀕死の身体なのに。
「ぐ、がああ――!」
「何だと!?」
首を絞める手を掴んで少しずつ外へ外へと引っ張る本郷。
変身するのに必要なエネルギーぐらいしか確保していないのに、十分なエネルギーを得ている筈のショッカーライダーの力を一時的に上回った。
明日への執着が。そして、生きたいという執念が、衰弱している本郷に隠された底力を強引に引き出している。
「でやあ!」
ドゴォ!
鈍い音と共にショッカーライダーが蹴り飛ばされる。所謂ヤクザキックであり、不格好ながらもショッカーライダーを引き剥がせた本郷は一気に地面を踏み抜いた。
虫の息。それは間違いない。だが、ショッカーライダーは一つ勘違いをしており、また見誤っている。
本郷猛と言う人間の意志力の強さを。
「くそ、ライダーチョップ!」
早く殺したい。早く安心したい。そんな一心でショッカーライダーが本郷を迎撃する形で手刀を振り下ろす。
だが、本郷の反応も早い。
「プロペラチョップ!」
「ぐあっ」
手刀を躱しつつ両腕を広げ、プロペラシャフトの様に回転しながら連続チョップをショッカーライダーに命中させたのである。
普通のチョップではダメージすら与えられないと考えた本郷がたった今編み出した、ライダーチョップの強化技だ。
急造の技ではあったが、プロペラチョップは確実にショッカーライダーへ連続したダメージを与える事に成功した。軽く怯んでショッカーライダーは後退する。
本郷は明滅する意識に鞭を打ちながら更に前へ進み出た。
「ライダー投げ!」
ショッカーライダーの背中に回って体を持ち上げ、真後ろにあった木を目掛けて本郷は思いっ切り放る。
プロペラチョップに怯んでいて反応が遅れたショッカーライダーは受け身に失敗。数本の木を薙ぎ倒しながら後方へ数メートル吹っ飛んだ。
吹っ飛んだ先にはサイクロンが待ち構えている。
「行け!」
「ぐうおっ!? チッ、これ以上させん!」
絶妙なタイミングで発進したサイクロンを間一髪回避。自身も乗っていたバイクを呼び寄せ、サイクロンへの対応へ向かわせたショッカーライダーは跳び上がった!
本郷も跳び上がる。ただ棒立ちでショッカーライダーが放つ技を受けたら命が幾つあっても足りない。
両者共に空中で一回転し、足を突き出した。ショッカーライダーは右足を。本郷は両足を。
「ライダーキック!」
「ライダードリルアタック!」
ただ足を前に出して通常のライダーキックを放ったショッカーライダーに対し、本郷は両足を突き出した上で更に横へ猛回転。ドリルの様に突撃する。
これまた急造の新技だ。先のプロペラチョップに一定の有効性があると見た本郷は、蹴りに置いてもその技術を応用させたのである。オマケで片足キックよりも威力が出そうなドロップキックに置き換える念の入れ様だ。
ズゥドオオオン!!
両者の技が空中で炸裂。猛烈な轟音を鳴らす。
しかし、新技をぶつけてもショッカーライダーを倒すまでには至らない。お互いに弾き飛ばされてしまった。
複雑な動きを取り入れてもショッカーライダーの放つ普通のライダーキックと同威力。本郷の性能が劣っている訳ではないが、如何せん彼は瀕死である。
何時もの本郷ならとっくに倒せている所を、今は相打ちに持ち込むのがやっとだ。
相打ちでは非常に分が悪い。悪いのだが、それ以上は望めそうにない。
この至近距離ではスーパーガンを命中させるのも難しいので、万策尽きたと言っても過言ではなかった。
それでも。それでも諦めない。本郷は諦めようとしないのだ。流石のショッカーライダーも恐怖心に駆られ始めている。
虫の息で、瀕死故に震えている身体に無理矢理鞭を入れて立ち上がるその姿。ショッカーライダーの目には、正義の味方と言うよりも悪魔とか幽鬼に見えていた。
優位だ。確かに優位に立っているのだ。絶対的優位は揺るがない。それなのに、ショッカーライダーの身震いが一向に止まらない。
生まれて始めて感じる"死の恐怖"が、今すぐ本郷を殺せる筈のショッカーライダーの動きを大いに鈍らせている。
「ぐ……くっそお!」
遂には抑えきれず、睨み合いの均衡を破ってショッカーライダーが飛び出した。
本郷は動かない。いや、動けない。身体がもう限界で、四肢すらもマトモには動かせやしない。
少しだけショッカーライダーは安心した。殺気は衰えない本郷だが、動けなければ其れまで。迅速に命を刈り取ってしまえば終わる。この悪夢は終わる!
その油断が、ショッカーライダーの超人的な五感を。ほんの一瞬だけだが鈍らせた。
バウウウウウウウ!
突如として響き渡る轟音。其れは、本郷の持つサイクロンが立てる排気音だ。
注意力が鈍ってたショッカーライダーは、思いっ切りサイクロンの排気音がした方向を見た。
バカな。有り得ない。サイクロンは、自身のマシンで互角の無人対決をしていた筈だ。そんな思いが、ショッカーライダーの電子脳を支配する。
自身のマシンの発する電波を確認するが、電波は一向にキャッチ出来なかった。
「バカな!?」
今度は声に出す。サイクロンでは良くて互角。下手したら負ける。それぐらいの性能なのに。
何故。何故に、電波がキャッチ出来ないのだ。何故、目の前にサイクロンが居るのか。
「何故、貴様が此処に!?」
どうして、そのサイクロンには搭乗者が居るのだ。搭乗者は、何故に誤射によって頭を撃たれて死んだ筈の一文字隼人なのだ!?
「本郷、無事か!」
「まさか、君は……一文字隼人?」
しかも、裏切者の本郷を心配している。何故だ。どうしてだ。
もう、ショッカーライダーの思考回路はショート寸前である。到底信じられない光景を何度も見せられて、精神が崩壊を始めている。
「待ってろ。すぐに緑川の嬢さんが来るからな。其れまでにあの化物は俺が倒す」
「君は、ショッカーの……」
「説明は後だ。今は座って少し休んでろ!」
もう一人の裏切者になった一文字隼人は、自身が得意とする空手の構えを取ってショッカーライダーを睨む。
右手を前に、左手をやや上に向けて顔の前に。一文字が構えたのを見て、ショッカーライダーは喚き散らした。
「き、貴様。この裏切者めがっ!」
「悪魔の支配から目覚めた今、貴様らショッカーに従う義理はない! 来い、俺が叩き潰す!」
「ほざけえええ!」
怒り狂ったショッカーライダーは、一文字に突進する。幾らショッカーライダーとて、頭を打ち抜かれれば無事では済まない。手当を受けたとしても、その力は確実に落ちる。
ショッカーライダーはそう決め付け、必ず勝てると確信していた。
次の瞬間が訪れるまでは。
「ライダーパンチ!」
「ぐうあああ!?」
一文字の左アッパーが、綺麗にショッカーライダーの顎を捉えて宙へ抛り飛ばしたのだ。
認識よりも遥かに速く、そして鋭いパンチによって仮面ごと顔面を粉砕されたショッカーライダーは、宙に飛ばされても身動きが取れない。
一撃だった。それ以上は、何も一文字は行わなかった。
正義に目覚めた鉄拳は、悪に支配された者を一撃で破壊する必殺技へと昇華されたのである。
「……ショッカーが、本郷を倒せない理由が分かったよ」
ドサリと地面に叩き付けられた亡骸を見ながら、一文字は口を開いた。
「正しい心を持つ者には、大自然が力を貸してくれているんだ。大自然その物が、な」
意識が朦朧としている本郷の元へ一文字は歩み寄る。
一文字と本郷の耳にはもう随分と近くまで来た、一組の男女の足音を捉えていた。
「本郷、立てるか?」
「……すまん。肩、貸してくれ」
2人は立ち上がる。そしてショッカーライダーの亡骸を一瞥すると背を向け、反対方向へ歩み出した。
「猛さん!」
「ぼっちゃま!」
「ルリ子さん。藤兵衛まで……」
本郷は帰る。帰りを待つ人の元へ。
一文字は追従する。新たな風の使者として、本郷と共に戦う為に。
本郷の一人勝ちにしたらつまらんと思い、こんな展開に。原作でこうなって欲しかったと言う願望を叶えたとも言えます。