お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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 この物語はフィクションです。登場する名称等は実在の物と似たようなものがありますが、一切関係ありません。



原作開始前 護廷十三隊入隊前
第1話 頂をこの手に掴むために


 ――天神様の(がん)が叶って。

 

 こんな表現を聞いたことはないだろうか? いわゆる落語やら古典文学なんかで使われたりする言い回しの一つなんだが。

 簡単に言ってしまえば「神様に祈ったら有り得ないようなことが起きた」ということである。お話においては、そうやって有り得ないことが起きたことで、物語がさらに色々と転がっていくわけだ。

 

 そして神様に祈って叶えてもらうわけだから、本当に絶対無理で有り得ないことも平気で起こったりする。物や獣が人間になったりとかは日常茶飯事とすら言える。

 まあ、日本という国のお話は昔から色々ととんでもないネタがあるわけで。

 最古の歴史書の中には、女装の話があったり兄弟で結婚する話があったり。もう少し時代が進んで平安時代には男女の入れ替わりネタがあったり、江戸時代には他国の有名な話の主要人物全員を女体化した話があったり。

 他にも「夢の中で過去の偉人が出てきて『エロいことしたかったら女になってやるからアタイを抱けよ!!』と言われたので悟りを開きました」という人がいたり。

 そもそも天神様自体が「アイツ悪霊になったから社を建てて拝んで神様にしちゃって御利益を授かろう」ってことで生まれたわけだから、極論を言ってしまえば何でもありなんだろう。

 

 ……え? 結局何が言いたいのか?

 

 ではちょっと、自分の目の前の光景を説明させていただこう。

 

 無数の人間たちが長い列を作っており、その先では黒い着物を来た男が数人いる。

 彼らは皆、列に並ぶ人間が持つ整理券を確認しては「南」だの「二十地区」だのと告げては、人々を振り分けていた。

 ついでに男たちは全員、腰には日本刀を差している。

 

 ここまで確認した時点でもうピンと来ちゃったよ。

 

 ああ、ここは現世じゃないんだ。

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)なんだ。

 

 BLEACHの世界なのか、と。

 

 

 

 

 ということで、ピンと来てしまったので絶賛現実逃避をしていたわけだが、いい加減受け入れなければならないらしい。

 そもそも昔から良くある話なんだから。HENTAI文化に巻き込まれただけなのだから。現代日本じゃこんなの掃いて捨てるほどあるんだから。

 

 仕方なし、受け入れ半分。諦め半分の気持ちになりながら、無駄な抵抗として原因を探ってみた。

 よくあるのは事故で死ぬとか、不思議な門を潜るとか、変な赤い水を飲んだとか幼女を生け贄に捧げたとかだろう。

 

 でもどれも思い当たるフシがない。

 

 記憶を思い返してみたところ、可能性として一番有りそうなのがとある神様へのお参りしたから、というものだ。

 別に自分は信心深いわけでもない。

 初詣の時期もとっくにすぎてもう暑さすら感じるようになった頃、なんとなく思い立って電車を乗り継ぎ、参拝してきた。

 暑かったので帰り道の途中、ちょっと飲食店に寄ってから帰宅した。

 その程度の出来事、取り立てて珍しくも何でも無い。

 

 一番新しい記憶が、このお参りだった。他には原因として思い当たりそうなことは何にもない。言うならルーチンワークみたいな日々を過ごしていた中で、原因としてあり得そうなのがコレなのだ。

 

 いやいや、だからってあの場で「BLEACHの世界に行きたいです!」と熱心に祈ったわけでもないよ。普通に「平穏に暮らせますように」って祈ったもん! 本当だもん!!

 

「あんた、大丈夫か?」

「…………?」

 

 ふと、黒い着物の男の一人が声を掛けてきた。妙に気遣うようなその声に、思わず辺りを見回してしまう。

 

「いや、あんただよお嬢さん。すごいボーッとしてたから」

 

 あらら、まさか自分に対して掛けられた言葉だとは思わなかった。

 見回したときに気付いたのだけれど、考え事に熱中しすぎていたらしく、周囲にはもう誰もいない。あれだけ並んでいた全員が振り分け終わって、残るは自分だけということか。

 お仕事を滞らせちゃってごめんなさいね。

 

 それにしても――

 

「……お嬢さん?」

 

 ――は無いよなぁ。

 そう口にしたところで、自分の声に自分で一番驚かされた。自分の声のハズなのに、まるで聞き覚えのない高い声音。

 

「ああ、そうだ。どこからどう見ても女性だろ?」

 

 何を言っているんだといった表情で目の前の男――死神がこっちを見てくる。

 

「うーん……どこかに鏡でもありゃいいんだけど……仕方ない!」

 

 少し悩んでから死神は腰に差した刀を抜き、俺の前に(かざ)した。

 何をしたいのか一瞬戸惑ったけれど、なるほどそういうことね。刃を鏡の代わりにしてくれたわけか。ありがとう、さっそく見てみるよ。

 

 そこにいたのは見たこともない女性の姿だった。

 歳の頃は二十歳くらい。

 目の色も髪の色も、この世界では良くあるもの合わせたのかどちらも黒。ついでに肌の色もいわゆる日本人のそれ。よく見る標準的な登場人物と感じるだろう。

 

 ここまでならば。

 

 いわゆる黒髪ロングでツインテールの髪型。ほとんど癖のない直毛であり、括っているというのに毛先が腰まで届くくらい長い。

 髪質そのものは美しく、かなり人目を惹きそうだ。顔そのものも造りが良く、まるでどこぞの育ちの良いお姉さんのよう。

 なにより、眉と瞳が少し下がった造りのために眠たげ……とより柔和な印象を受ける。とはいえ特に何か意識して顔を作っている訳でもないので、平時の状態でこれなのだろう。

 これは他人から見たら相当チョロ――もとい、近寄りやすく見えるだろうね。

 

「……ええ……??」

 

 思わず死神の手からひったくるように刀を奪い、自分の顔をまじまじと見直す。今度は顔だけじゃなくて全身含めて確認していく。

 

 まず、背が凄く高い。

 目の前の死神や他の死神と比較しても、頭一つ二つ抜け出ているくらい。多分、男性の平均身長よりもずっと高いだろう。

 背が高ければ手足も長い。下手なモデルとは比べものにならないほど。

 ついでに、胸もすっごく大きい。

 下を見たら自分の足下がちゃんと見えないほどだ。この胸なら、仮に髪が丸坊主だったとしても女性認定余裕です、ってくらい巨乳。むしろなんで今まで気付かなかったんだろって疑問に思ってしまう。有り得ないくらい胸が重い。

 ついでに、サービスなのかなんなのか、一応は死装束(しにしょうぞく)のような服を着ている。着てはいるのだが、サイズが合わないために服の方が悲鳴を上げている。

 

「そん……な……っ?」

 

 思わず溜息と共に吐き出した声が自分の耳に届く。それも完全に女性のものだった。凜とした雰囲気を纏いつつも、どこか甘さを感じさせる声。

 

 嘘だろ……男だぞ俺……

 

 と叫びたいのを必死で我慢する。だって、ここまで確認したらもう認めるしかないよね。

 これはいわゆるTS(性転換)転生――正式にはTSFとか言うんだっけ? 細かな定義とかはよく知らないけれど――なんだって。

 

「ほらな、どうみても女性だろ?」

 

 コッチの気も知らず、いい気な物だな死神さんよ。

 

「ああ! もしかして、記憶が飛んでるのか?」

 

 なおも意気消沈する俺を見かねてか、死神はそんなことを言い出した。

 

「たまにいるんだよ。自分の死が信じられなかったり、思い出したくなくて、忘れちまうヤツがさ」

「そ、そうなんですか?」

 

 なるほどね。そういうヤツもいるのか。

 

「大変なのはわかるけれど、コッチも仕事なんでね。受け入れて貰わにゃならんのよ。というかあんた、自分の名前くらいは言えるよな?」

「名前? え、と……」

 

 急に言われても困るんですけど!?

 とりあえず、生前の名前は却下。

 思いっきり男の名前だし、そもそも女性になっているんだから、生まれ変わったようなもの。なら全く新しい名前を名乗った方が心機一転、気持ちも切り替えられるだろう。

 

 でもそんな良い名前なんてすぐには考えつかない。

 あんまり時間を掛けすぎると、相手の死神さんも不審に思うだろうし……なにか、なにか良いのは……

 

「ゆ……ゆかわ……」

 

 結局悩んだ末、少し前まで考えていた神様が祀られている地名を名字にしてしまった。

 ただ「そのまま使うのは問題あるかな?」と思ったのでちょっとだけ捻っておく。

 鶴だったら亀。上だったら下。という感じで、元々ある言葉から連想したり、あるいは逆の意味を持つ文字に変える。

 これ、適当な名前をでっち上げる時の常套手段。

 今回の場合は島から連想して川。けれど不自然ではないはず。

 

 さて名字は決まったが、次は名前だ。

 女性っぽい良い名前……神様の名前とかは流石に気が引けるから、他に何かないか……閃いた! 休憩したときにアイスクリームを食べたんだ! ならこれを使おう!!

 

「……あいり」

 

 言っちゃった。もうコレで行くしかない。

 

湯川(ゆかわ) 藍俚(あいり)です」

「なんだ、覚えてるじゃないか」

 

 ちゃんと名乗れたことに安心したのか、死神は破顔すると続いて何かを言い出す。

 だけどそのとき自分は、そんな話を聞くことなくまったく別のことを考えていた。

 

 BLEACHの世界に行きたいと熱心に願ったわけではないけれど「行きたいか?」と聞かれたら「行ってみたい」という気持ちの方がちょっとは勝る。

 戦争とかもあるし、危険な世界だというのは重々承知だけれど、それでもだ。

 というのも「私がこの世界に行ってみたい!」と思うのは、BLEACHという作品を知った者ならば多かれ少なかれ「一度は思ったはず」と断言できるとある理由のため。

 

 BLEACHの登場人物、藍染惣右介はこう言った。

 

 ――私が天に立つ、と。

 

 だったら、自分もこう言おう。

 

 ――私は頂をこの手に掴む(おっぱいを揉む)、と。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……うん、仕方がないことなんだ。

 井上織姫、松本乱菊、ティア・ハリベル、バンビエッタ・バスターバイン――等々。

 この世界には立派なお山(おっぱい)をお持ちの方が数多くいらっしゃる。

 彼女たちのお山(おっぱい)を、一度くらいは登頂(もみもみ)してみたいと思わないかい? 私はそう思った。それも一度や二度ではない。

 

 勿論、立派なお山をお持ちでなくとも問題はない。高い山も低い山も関係ない。そもそも選ぶという発想が烏滸がましい。エロい登場人物がいっぱいいるのだから。

 何故と問われれば、こう答えよう。

 そこに山があるからだ!! お山(おっぱい)に貴賤なし!!

 

 そうなると、女性になっていることは悪いことではない。むしろ特大のメリットだ。同性ならば相手も気を許しやすいだろうし、仮に手を出しても冗談に受け取ってもらえるはず。

 

 もっと言ってしまえば、この世界の問題は大抵が黒崎一護(主人公)さえいれば何とかなる。

 彼こそが、とんでもない血統と素質と才能に恵まれまくった万能の主人公。少々の理不尽なんて彼の主人公補正の前には吹けば飛ぶようなもの。なので私という異物が存在していようとも、未来の原作崩壊なんてものを心配する必要も無用。

 色々危機はあるけれど、深く関わらずに上手いこと回避して自分は登山に集中すればいいのだ。

 

 こうして冷静に考えれば、実に素晴らしい。

 となればここは一つ、自分も死神になってこのささやかな目標を達成するために邁進しようじゃないか。

 

 神様、ありがとう!!

 

 

 

 

「ところで、そろそろ刀を返してくれる?」

「あ、すみません」

 

 とりあえず、すっごく謝っておいた。

 

 




あー……頂ってそういう意味かぁ……
掴むってそう言う意味かぁ……

タイトル落ち。

●名前
名前を思いついた次の日曜日。
某「湯」と「島」と「天」と「神」の場所へ行き、お祈りして(謝って)きました。
迷惑料代わりに賽銭箱に千円突っ込んできました。
(メトロの3番出口から地上へ。軽く道に迷い、ぐるっと回って到着。鳥居から入りました。国道に面したあの階段を上がって境内から回り込んだ方が良かったんですかね? というか千円で許してくれるでしょうか?)
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