お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第10話 入学は出来ましたが、入学式はまだです

 湯川藍俚(あいり)、無事に霊術院生になれました!

 ほらほら見てくださいよ、この院生袴。赤く染められていて、上の着物にも同じ色のラインが入っているんです。

 ……ちょっとだけ、学生時代の体操着を思い出すのは何故なのでしょうか?

 

 先程"霊術院生になれました"と言いましたが、厳密にはちょっとだけ違います。

 

 霊術院の入学試験は下半期に行われて、申請をすれば――期間中ならば――いつ試験を受けに行っても対応してくれることは説明しましたよね。

 なので、場合によっては"試験期間の初日に行って合格を貰いました。でも私は流魂街出身なので通行証の期限が切れてしまい、再申請していたら始業式に間に合いませんでした"といった間抜けなことが起きるかも知れません。

 

 そんな間抜けを防ぐためか、試験に合格したものは院生寮に入寮してもよい。という制度が決められています。

 寮で生活していれば瀞霊廷から締め出しをくらうこともありませんし、早めに寮に入れば同期生とも早い内からコミュニケーションが取れるわけです。

 つまるところ"入試に合格した学生が三月に引っ越しして入寮する"ようなものです。若手の候補生を囲い込んで逃がさない、みたいな意味もありそうですが。

 

 説明が長くなりましたが、早い話が"まだ入学式前で、授業は始まっていない。今は寮生活をしている"というだけなんですけどね。

 

 寮生活とはいえ学生扱いですので、学校施設を使っても問題ありません。訓練用の設備を使ってさらに自己研鑽もできますし、知識を求めるのであれば図書室もあります。

 日常生活に不便がないように最低限の衣食住も提供されます。その他、必要な物があった場合には申請すれば支給して貰えます。

 結構至れり尽くせりですよね。流魂街――それも番号の大きい地区の人にとっては、ここは天国みたいに思えるかもしれません。

 

 霊術院生は在学(在院?)中は基本的にこの寮で生活します。

 流魂街出身でも瀞霊廷出身でも、貴族出身であろうともそれは変わらない……という原則なのですが。

 実際は貴族の中には自宅から通っていたり、近くに家を借りて使用人付きで住む者もいるそうです。

 

 ……ケッ、こんな狭いところで有象無象と一緒に暮らすなんて出来ねぇってか!?

 

 と、話を聞いた最初はやさぐれ掛けましたが、それはそれ。

 よくよく話を聞いてみたら、貴族にも色々あるみたいです。

 まず貴族にも上級や下級といったランクがあって、下級貴族の人たちは上位の家に逆らえないらしく、流魂街出身なんかと同じ扱いを受けることもあるとか。

 そういう背景があるためか、誰であっても仲良くしてくれる方が多いです。

 勿論、上級貴族にだって良い人はいます。

 

「あれ、藍俚(あいり)さん。こんにちは」

「ごきげんよう、湯川さん」

 

 ――っと、噂をすれば影が差しましたね。

 

「こんにちは。蓮常寺さん、綾瀬さん」

 

 二人の同期生に挨拶を返します。

 

 この二人は蓮常寺(れんじょうじ) 小鈴(こすず)さんと、綾瀬(あやせ) 幸江(さちえ)さん。

 

 寮では生活班というものが決められています。

 これは学級に関係なく振り分けられて、同じ班員同士で共同生活や助け合いをするといもの。そしてこの二人は私と同じ班に所属しているのです。

 なので必然的に顔を合わせる機会が多く、交流が生まれています。

 ボッチ回避のための素晴らしい制度ですね(苦笑)

 

 ちなみに――

 

 綾瀬さんは下級貴族の出身。

 背も低くて小柄で可愛らしい感じの、少女といったところです。ショートヘアがよく似合っていて、笑顔が絶えない明るい性格をしています。

 

 蓮常寺さんは上級貴族の出身。

 背は女性にしては高く、規律や規則に厳格なタイプです。長く伸ばした髪にキリッとした表情がよく似合います。

 

 ――凸凹コンビみたいで反目しそうに思えますが、なんだかウマが合うみたいで。良く一緒に行動している姿を見かけます。

 

「お二人も朝食ですか?」

 

 言い忘れていましたが、ここは寮内の食堂です。

 学食みたいなものですが、なんと無料で食べられるんですよ。まあ、メニューは"A定食かB定食のどちらかのみ"みたいな感じで、選択の余地はありませんけれど。

 それでも作って貰えるというのはありがたいです。

 お味の方も良いんですよ。貴族出身の生徒も食べに来る以上、下手な物は出せないでしょうから当然ですね。

 

 なので、食堂でボッチ飯をしていたところに、二人が声を掛けてくれたわけです。

 ……い、いえ! ボッチじゃないですから!! 今日はちょっと、院生寮の説明のためにも一人でいた方が都合が良かっただけですから!!

 

「はい! もうお腹空いちゃって」

「ちょっと綾瀬さん、もう少し声を……」

「綾瀬さんは朝から元気いっぱいですね」

 

 大きな声で返事をする綾瀬さんに何事かと食堂内の視線が集まり、それを察した蓮常寺さんが小声で(たしな)める。私はそれを笑いながら"なんでもないんですよ"と周囲にアピールしておきます。

 この二人と良く行動を共にするようになってからか、自然とそんな感じの役割が出来てきていました。

 

藍俚(あいり)さんは今日は何をするつもりなんですか?」

「鬼道とか霊力の使い方についてもっと理論を知りたいから、図書室に行く予定ですよ。綾瀬さんたちは?」

「私たちはまだ決まってないんですよ! 小鈴さんと一緒に食事をしようって事だけ決めて。そうだ! じゃあ私たちも藍俚(あいり)さんにご一緒していいですか?」

「綾瀬さん、急にそういうことを言うのは……」

「構いませんよ。それに、蓮常寺さんは色んな事をご存じですからね。何も知らない私からすれば、むしろこっちからお願いしたいくらいで」

「そ、そう? まあ、あなたもそう言うのなら……」

 

 まだ霊術院の講義は始まっていません。

 ですが、楽しくやっていけそうです。

 

 




●学友
時期的に原作キャラ出てこないし。いても良いじゃない。



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