お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第103話 冷戦のようで実は共同戦線

「本日はお招きいただき、ありがとうございます……と言っても――」

 

 そう言うと砕蜂はチラリと視線を飛ばしました。

 

「――どうやら一部の方には、あまり歓迎されていないようですが」

「そんなことありませんよ。ねえ、副隊長?」

「そうですよ砕蜂隊長。雛森さんの言う通り、考えすぎです」

 

 勇音と雛森さんは、笑顔でそう返事をしました。

 ……笑顔なんですけれど、見ていてどこか背筋が寒く感じるのは何故でしょうか?

 

「ま、まあまあ。それじゃあ、時間も勿体ないし……早速始めましょうか?」

「「「はい!」」

 

 私がそう言うと、まるで気の合う仲間同士のように息ぴったりな返事が返ってきました。

 ですがこの息ぴったり具合が私にとっては逆に怖いです。

 

 

 

 

 

 ――ことの起こりは少し前まで時間が遡ります。

 

「お久しぶりです、藍俚(あいり)様」

「あら、砕蜂隊長?」

 

 四番隊でお仕事をしていたところ、突然彼女がやってきました。

 

「急にどうしたの? 誰か怪我人でも……?」

「いえ、そうではなくて。ただ、藍俚(あいり)様が隊長になってからしばらくはお忙しかったようで、お祝いも出来ませんでしたので……」

 

 お忘れかもしれませんが、私の隊長就任時には前隊長のお茶目をしてくれましたので、人事関係など含めて三ヶ月くらいはずっと忙しかったんです。

 砕蜂などの親しい隊長の中にはその状況を見かねて「手伝いましょうか?」と申し出てくれた方々もいました。

 

 ですが、忙しい中身がこれまた問題でして。

 何しろ自分の部隊の人間関係まで含むことだったので、他の部隊の方を下手に関わらせることもできなくて。

 それらの申し出は結局「お気持ちだけいただいておきます」に落ち着きました。

 

 砕蜂はあのときの忙しいことを知っていたので"隊長就任のお祝いをしたかったものの、気を遣って今日まで後回しにしていた"ということですね。

 

「私のときにはあんなに良くしていただいたのに! こんなに日が過ぎてしまったのはとても申し訳なくて!!」

「砕蜂隊長、落ち着いて」

「その砕蜂隊長というのも、もうおやめください! 既に同じ隊長という立場ですし、昔のように……できればその、砕蜂と……」

 

 顔を赤らめながらおねだりしないで……抱きしめたくなっちゃうから。

 

「わかったわ、砕蜂」

「はい! ありがとうございます!」

 

 名前を呼んだだけで、すっごく嬉しそうですね。

 

「……はっ! そ、それでですね。本日伺ったのは藍俚(あいり)様のために――」

「――湯川隊長!!」

 

 またきた!! 今度は何!?

 

「また一緒に稽古をお願いしてもいいでしょうか!?」

 

 やたらと良いタイミングでやってきたのは雛森さんでした。

 

「えっと、雛森さん? 部屋に入るときはちゃんと外から声を掛けて入室の許可を――」

「だ、駄目ですよ雛森さん! 隊長は今、お忙しいんですから!」

 

 今度は勇音が口を挟んできました。

 忙しいわね。

 

「十一番隊での隊長副隊長の治療に追われてるんです! それがなければ、先日のように私にもお稽古をつけて貰っていたのに……」

「ええっ! なんですかそれっ!!」

 

 何やら凄い剣幕で勇音に迫ってます。ちょっと怖い。

 

「副隊長ズルいです!! 私だって、隊長に――」

「稽古とはどういうことですか藍俚(あいり)様!!」

 

 また砕蜂が大声を上げました。

 

「酷いではないですか! でしたら私にもどうか稽古を! 最近、お付き合いしていただけなくて寂しいです!!」

「砕蜂まで!? というか、最初に言っていた"お祝い"の話はどこに行ったの?」

「それはそれで日を改めて行います! ですが私にもどうか!」

「駄目ですよ砕蜂隊長!」

「む、なんだ貴様は?」

「四番隊副隊長の虎徹勇音です! それと隊長は十一番隊に頻繁に呼ばれているので、それも無理です! 私だって我慢しているんですから、砕蜂隊長も我慢してください!」

 

 ……何かしらね?

 三人がグイグイ来てるのよ……見ていてすっごく背筋が寒くなるんだけど……

 射干玉、どう思う?

 

『仲良きことは美しきかな、というでござるよ。ここは一つ、藍俚(あいり)殿の魅力で三人まとめてハーレムをでござるな……』

 

 うん、ありがとう。

 とても参考にならなかったわ。

 

 それとね。

 十一番隊の問題はもう解決してるのよ、七月七日という記念日が出来たの。

 

「あのね、勇音。十一番隊の件は先日解決したんだけど、言ってなかったかしら? まあ年に一度は丸一日潰れるのが確定なんだけれど、それ以外の日だったらある程度は自由に――」

「でしたら隊長! 次のお休みの日に私も予定を合わせますから!」

「何でですか!? 隊長の予定に私も合わせます!!」

「勇音も雛森さん落ち着いて!?」

 

 すっごい食いついて来たわ!! なんなのこれ!?

 

「では私も予定を合わせます! 二番隊と四番隊の隊長同士、交流を深めて隊の連携を図るということで……」

 

 砕蜂まで!?

 

「あの、じゃあ……みんなで同じ日に合わせるのは……駄目、かしら?」

 

 おずおずと手を上げながら、折衷案を伝えます。

 ……なんで中心のハズの私が怯えなきゃならないのかしらね?

 

「同じ日、ですか……?」

「致し方ありませんね」

「わかりました、では隊長と雛森さんも予定を合わせるようにしますので。あ、砕蜂隊長はご自身で日程を調整してくださいね」

「わかっている!」

 

 どうにかこの場は収まったみたいです。

 

 

 

 そして、冒頭に続くわけです。

 

 

 

 ちなみに余談ですが、後日にこの大騒ぎを知った吉良君が参加しようとして、思いっきり断られたみたいです。

 ……まあ、彼も四席だし。上位席官が同じ日に揃って抜けるのも問題だもんね。

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

「じゃあ、えっと……」

 

 さて、みんなで一緒にお稽古の日まで視点が戻ってきたわけだけど。

 

 どうしよう?

 三人同時に稽古をつけるのは、実力も得意分野も差がありすぎて非効率的だし。

 となると、個人個人を見ていくしかないのかしら?

 

「三人をそれぞれ個別に見る形になるけれど、それで良いかしら?」

「はい」

「問題ありません」

「わかりました」

 

 みんな、返事は良いのよね。

 

「じゃあまずは、砕蜂から。私が見られない時間は、個人で修行をお願いね」

 

 ということでお稽古がスタートです。

 

 

 

「砕蜂は、やっぱり卍解を?」

「はい……なかなか扱いが難しく、練度を高めるのも難儀するので……」

「仕方ないわよね。地道にやっていきましょう」

「よろしくお願いします。卍解、雀蜂雷公鞭」

 

 卍解を発動させましたが、相変わらずの大きさですね。

 小柄な砕蜂だと相対的にものすごく巨大に見えます。

 

 あら、勇音も雛森さんも稽古の手を止めて砕蜂に注目しています。

 まあ卍解は、珍しいですからね。

 

「ふふん」

「く……っ……」

「わ、私だって……きっともうすぐ……」

 

 注目を浴びているせいか、ちょっと得意げな表情を覗かせた砕蜂が可愛いです。

 それを"煽られた"と思ったのか、二人は悔しそうに見ていました。

 

 え……勇音は、もう卍解に到達しちゃうの?

 

「じゃあ、失礼するわよ」

「は、はい……っ!」

「「あああああぁぁっっ!!」」

 

 砕蜂に後ろから抱きつくと、二人が悲鳴を上げました。

 

「な……隊長、なんですかそれ!?」

「なんで抱きついて……!!」

「ふふん、仕方なかろう。私の卍解は、迂闊に使うと反動で吹き飛ばされてしまうのだ」

「「ぐぬぬ……」」

 

 だからがっちりと固定しないとまともに使えないのよね。

 その辺の反動とかもある程度は調整は出来るようになってきてるんだけど、まあ安全策ということで私が支え役をずっとやっています。

 

 でも、砕蜂はなんでそんなに得意気なのかしら?

 

「では行きます……雀蜂雷公鞭――発射!!」

 

 朝の空に花火よりも巨大な爆発が描かれました。

 その破壊力を間近で見たおかげか、ぐぬぬ顔をしていた二人は一瞬で驚きの表情になりました。

 

「はぁ……はぁ……」

「やっぱりまだ辛い?」

「そ、そうですね……せめて一日一発くらいには鍛え上げたいのですが……」

 

 疲弊する砕蜂に霊圧を注ぎ続けながら、彼女の卍解特訓は続きました。

 

 

 

 

 

「――じゃあ、次は勇音ね」

「はい、隊長! お願いします!」

 

 砕蜂の分の時間も終わり、続いては勇音を見る時間になりました。

 

「勇音は、前に稽古をつけたときみたいな感じでいいかしら?」

「お願いします! ……あ、でも、砕蜂隊長みたいに私も卍解修行をしてみたいです……!!」

「卍解は自分を鍛えて斬魄刀と意思疎通をしていれば、そのうちに至れるから。焦っちゃ駄目、まずは基本からじっくり鍛え上げましょう。」

「うう……はい……」

 

 なんだかちょっとがっかりしている勇音に、まずは剣術のお稽古からです。

 

「うん、やっぱり勇音とだとやりやすいわ」

「え……本当ですか!?」

「目線の高さとか体格が似てるからね。私が気をつけていることはそのまま勇音に教えられるし。すっごくやりやすいの」

「えへへ……ありがとうございます」

「どういたしまして……あ、ちょっと待って!」

 

 指導を中断して、彼女の身体に少し触ります。

 

「そこの動きはもっとこうやって、腰の捻りを意識してみて」

「腰の捻り……こうですか?」

「うーん、ちょっと違うかな? こうやって腰を」

「こうですか?」

「そうそう、その調子よ」

 

 やっぱり教えやすさは勇音ですね。

 実例を見せるだけでどんどん吸収して行ってくれますし。

 

「私、背が高くて少しだけ良かったかもしれません。だって、隊長とこうやって肩を並べて、同じ目線で考えられますから」

「「くっ……」」

 

 砕蜂と雛森さんがなんだか悔しそうな顔をしているのは、見なかったことにしましょう。

 

 

 

 

「――じゃあ、最後は雛森さんね」

「異議ありです!」

 

 いきなり挙手されました。

 

「砕蜂隊長は、砕蜂。虎徹副隊長は、勇音。なのにどうして私は"雛森さん"なんですか!! 納得できません!!」

「え……」

 

 そう言われればそうね。

 でも別に深い意味なんてないし……あえて言うなら、霊術院時代の名残り?

 

「じゃあ、桃……って呼んで良いの?」

「は、はいっ!! や、やったぁ……」

 

 雛森さん――ああ、桃は小さくガッツポーズをしました。

 

「……はっ! そ、それなら藍俚(あいり)様! 私のことは梢綾(シャオリン)と……!!」

「わ、私も……!!」

「二人とも落ち着いて!?」

 

 なんで砕蜂も勇音も食いついてくるんですかね?

 

「砕蜂は昔に"もう梢綾(シャオリン)と呼ばないでください"って言ってたじゃない!? それと勇音はもう名前で呼んでるのに、これ以上どうすればいいの!?」

「……くっ、そ、そうでした……」

「あうぅ……」

 

 なんだか三人とも妙なテンションになってるわよね……

 

「じゃあ桃、稽古を始めましょうか」

「はい!」

 

 ということでお稽古ですが――

 

「こうしていると、なんだか霊術院時代に戻ったみたいです……」

「大げさねぇ」

「大げさなんかじゃありませんよ!」

「そ、そうなの……?」

「入学初日に見た隊長の動きも、その後の稽古も、私にとってはすっごく衝撃的でした!! あれは運命の出会いなんです!!」

 

 そう言ってもらえると、講師をやっていた人間としてはすっごく嬉しいわねぇ。

 

「「くうぅ……」」

 

 で、なんでそこの二人は羨ましそうに見てるのかしら?

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「さて、と……それじゃあ、今日はそろそろ切り上げましょうか」

 

 なんとか三人それぞれの稽古も終えました。

 終えましたが、無性に疲れました。気のせいか、普段の三倍――いえ、三乗くらいは疲労感がずっしりと重くのし掛かってきます。

 

「で、でしたら隊長……あの、私の家で――」

藍俚(あいり)様! 久しぶりに兄様の屋台で――」

「あの、隊長! 私、あそこに行きたいです! ほら、前に隊長に連れて行ってもらった、流魂街の! 隊長がすごくお世話になった居酒屋に!!」

「「――ええっ!?」」

 

 三人とも忙しいわねぇ……

 

「あ、藍俚(あいり)様……! なんですかそのお店は!?」

「隊長が昔お世話になった……? 雛森さん、なんでそんなこと知ってるの!?」

「隊長が副隊長だった頃に、なんどか連れて行ってもらったことがあったんですよ。私は知ってましたけれど、あれ? お二人はご存じなかったんですか……?」

「「ぐぬぬぬ……」」

 

 何かしらね……

 もう、一周回って面白くなってきたわ。

 

「隊長!」

藍俚(あいり)様!」

「「そこに是非行きましょう!!」」

「え、ええ……まあ、良いけれど……」

 

 私が当事者でなければ、笑ってられるんだけどね。

 

 

 

 

 

 ということで、お馴染みのお店に行ったわけですが。

 

 死神が四人も――しかも全員が女性で、半分は隊長だということで、店内は今までにないくらいの盛り上がりっぷりになってしまいました。

 私たちを一目見ようと次から次へとお客さんがやってきては「奢らせてくれ」だと「一緒に呑まないか」などと喧噪はいつまで経っても止まりません。

 そうやって雲霞のごとくやってくる酔っぱらいを必死に注意して、砕蜂たちに手を出さないように気を張っていますが…

 

「はぁ……」

 

 人がいっぱいで、お酒の匂いも立ちこめてて……正直に言って、かなり辛いです。

 

「隊長、大丈夫ですか?」

「勇音? うん、まあなんとか」

「あのこれ、良かったどうぞ。お顔も赤いみたいですし」

お冷や(お水)かしら? ありがとうね」

 

 勇音がくれた飲み物を一口呑んで……って、これお酒――

 

 

 

 

 

 

 

 

 藍俚(あいり)殿が意識を失ってしまったので、ここからは不肖にして不詳なこの射干玉が! 務めさせて貰うでござるよ。

 とは言いましても、もうそれほど大したことは残っておらんでござる!!

 

「あ、隊長……すみませんでした」

「なんと、藍俚(あいり)様が意識を! これは大変だ、急いで介抱しなければ!」

「では私の家にどうぞ! 同じ隊の副隊長ですし、不自然ではありませんから!」

「かたじけないな、虎徹副隊長!」

「では私は先導しますね!」

「雛森さんお願いしますね」

 

 とまあこんな感じで、藍俚(あいり)殿はお持ち帰りされたでござるよ。

 その後で、何があったかは……

 

 藍俚(あいり)殿の名誉のためにもヒミツでござる!

 

 

 

 ただまあ、一つだけ確実に言えることがあるとすれば――

 

 藍俚(あいり)殿の斬魄刀をやっていて良かった!!

 

 ――と心底思ったでござる!!

 




こういうドタバタっぽい感じで頭の悪い話をちょっとやってみたかった。
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