「こんにちは、お役目お疲れ様です」
「これは湯川殿! 良くいらしてくださいました!」
出迎えに出てくれた
「検診予定日だったので、伺わせていただきました」
「ありがとうございます! ささ、どうぞ奥へ! お待ちかねですぞ!!」
促されるままに志波家へ上がります。
通されたのは――
「まあ、湯川隊長。わざわざありがとうございます」
――海燕さんの奥さん、志波 都さんのお部屋でございます。
「どうですか、具合のほどは?」
「体調などは特に問題ありません。それと――」
――微笑みを浮かべながら返事をすると、彼女は自分のお腹を軽く撫でました。
「この子も順調みたいですね」
「それは良かった。ですが、ちょっと失礼しますね」
問診だけでは自覚症状が無い場合に怖いので、霊圧で都さんの身体を検査していきます。
もう自分一人の身体ではないので念入りに……特に念入りに……
「おっ! 湯川……隊長、来てたんだな」
「海燕さん……違和感しかないなら、隊長ってつけなくてもいいですよ?」
「いや、そういうわけにもいかねぇだろ……示しがつかねぇよ」
だったら敬語か丁寧語くらいは使ってもらえませんかねぇ……
都さんの身体検査の途中で部屋へとやってきた海燕さんとそんなことを話しながら、一通り診て回りました。
「うん、問題ありませんね」
「ありがとうございます、湯川隊長」
「いつもすまねぇな」
異常なしと告げると、二人はホッとした顔をしました。
何事もないとわかっていても、やっぱりお墨付きは重要ですからね。
「よかった、この子ともうすぐ会えるのね……」
彼女は大きくなったお腹へ愛おしそうに視線を下ろしながら、それでも少しだけ不安げに呟きました。
なにより都さんは、以前に
十二番隊の調査や長年の監視もあって「問題なし」と判断されこそしましたが、それでもどこか目に見えない悪影響が出てくるんじゃないかという不安がついて回っていました。
なのでこの定期検診は、彼女にとって欠かすことの出来ない大事な日なんです。
何も問題なく順調に成長していることが分かるのって、大切なんですよね。
「そうだぜ都。なにしろこっちには湯川……隊長がついてんだ。朽木の家の時みたく、どーんと任せりゃいいんだよ! そうすりゃなんも問題ねぇよ!」
「ふふ、海燕ったら……でもそうですね。お願いします」
「勿論ですよ、お任せください!」
どんと胸を張って、彼女を安心させます。
……というわけでございまして、ここまで来ればもうおわかりかと思いますが。
朽木家に続いて、志波家でも都さんがご懐妊しました。
そして私が取り上げることになりました。
前話で「定期検診が何たら」と言っていた正体はこれなんですね。
現在は都さんは妊娠八ヶ月くらい、あと二ヶ月くらいで生まれる計算です。
冬の寒い頃に産まれるわけですね。
……え?
仕方ないじゃない!
ようやく隊長職も落ち着いて来たかと思ったら、海燕さんに連絡貰ったの!!
どうしてもって頼み込まれたの!!
その頃にはもうお腹が四ヶ月くらいになってたの!!
だったらもう首を縦に振るしかないじゃない!!
あと、志波家はちょっと騒動があったから心配だったというのもありまして。
というのも、十番隊の隊長をしていた分家の
それ以外にも"海燕さんが斬魄刀を消失したこと"や"都さんが乗っ取られ掛けたこと"なども合わさって、その責任を取らされた結果というが上の発表した理由です。
色々ときな臭さしか感じない理由ですよね……
ちなみに。
五大貴族を外されたものの志波家の皆さんは特に気にした様子もありませんでした。
元々が流魂街に居を構えるような人たちですから。
都さんだって、海燕さんが五大貴族の人だから選んだわけではないとのこと。気にした様子なんて微塵も見せませんでした。
まったく、羨ましいですねぇ海燕さんってば!!
ちなみに都さんは死神としてのお仕事はもうほぼ引退みたいなもので、この志波家で海燕さんらと一緒に暮らしています。
旦那さんの実家で暮らすというアレですよ。
「おう
「どうも!
そんなことを考えていたら、空鶴と岩鷲君の二人もやってきました。
「しかし、お前も本当にマメだな……」
「マメっていうか、定期検診なんだから定期的に来るのは当たり前でしょう? まさか一回や二回はすっぽかしても問題ないとか思ってないでしょうね!?」
「…………」
「おい、空鶴……」
「姉ちゃん、そりゃねぇよ……」
無言で目をそらした空鶴に、兄と弟がツッコミを入れました。
「将来、空鶴が妊娠するような機会があったらその時にも検診に来てあげようと思ってたんだけど……何回かうっかり忘れても問題なさそうね……」
「なっ! ば、バカ! おれはいいんだよ! そんな予定も相手もいねえからな!! ってか
「私は岩鷲君がもらってくれるからいいの」
「ええええっ!!」
からかうような口調で言うと、岩鷲君がやたらとビックリしたような反応をみせました。
「あ、
「子供の頃にそう言ってくれたじゃない、忘れちゃった?」
「い、いいいいいやその……」
「おーおー、そういや言ってたなそんなこと。言われるまで忘れてたぜ」
『具体的には75話、空鶴殿の腕を治したときのことでござるよ!! ショタの性癖がどうとか言ってた時の話でござる!!』
あの頃と比べると、岩鷲君も成長したわよねぇ。
身体もがっしりしてて、もうすっかり青年って感じで頼りになるわ。
海燕さんに稽古でもつけて貰っているのか霊圧も高いし、志波家秘伝の術を何やら色々覚えているみたい。
見た目もそうだけど、頼りになる兄貴分って感じよね。
けど顔は姉にも兄にも似てなくて……ワイルドなタイプの顔立ちよね。
でもこの顔って……どこかで見たような……?
あ、そうか! 一心さんにちょっとだけ似てるのね。
分家とはいえ、祖先の血って凄いのね。
『それで
……私より弱い相手はちょっと……(めそらし)
「まあ、そうだったの岩鷲君!? ごめんなさい、私ったらちっとも気づかなくって……」
「護廷十三隊の隊長を射止めるたぁ、我が弟ながらやるじゃねぇか! なぁ!?」
「くくく……よ、良かったじゃねぇか岩鷲! あーあー羨ましいなあオイ!!」
「姉ちゃん! 兄貴に都姉さんも! からかわねぇでくれよ!!」
笑いを必死で堪える空鶴と、何やらものすごく焦っている岩鷲君です。
「からかってなんかいねぇだろうが!! 大体おまえ、時々部屋に一人で籠もっちゃ
「だーーっ!! わーーっ!! 何言ってんだよ姉ちゃん!! 俺は別に何も、んなこたぁ……!!」
――すみませーん!!
「おーっといけねぇ!! 来客だあぁっ!! ちょっと出てくるぜ!!」
外から聞こえてきた声に誰よりも早く反応した岩鷲君は、そのまま逃げるように部屋を飛び出していきました。
「逃げやがった、詰まらねぇの……」
「……空鶴」
「なんだ?」
「気づいてても見なかったことにしてあげなさいよ」
「ん、善処するわ」
それ、絶対に善処しない返事よね!?
海燕さんは見事な苦笑いを浮かべていて、都さんはなんだか微笑んでいます。きっと「仲の良い
「兄貴、姉ちゃん! お客さんだぜ!」
「……は? 客だぁ?」
そんなことを話していると、岩鷲君が戻ってきました。
彼の後ろには、何やら数名の人たちがいます。
「どうもどうも海燕殿、都殿」
「オウ! おっちゃんじゃねぇか。今日はどうしたんだ?」
「都殿が少しでも栄養がつけばと思って、持ってきました」
「おおっ! 本しめじじゃねえか!! すまねぇな!!」
本しめじだけではありません。
その後ろの人たちも様々な秋の味覚を持ってきています。
「いつもありがとうございます」
「いやいや、都殿」
「そうっスよ! 都殿のためならこんなこと!」
「元気な子を産んでくださいよ!!」
これ、流魂街の人たちなんです。
そしてこの人たち全員、都さんのファンです。
元々志波家は、流魂街の顔役みたいな立ち位置でした。
この家の人たちは全員が、大なり小なり街の頼れる兄貴分みたいな性格してますからね。
ただ、空鶴の作るオブジェが原因でちょっと疎遠になっていたわけですが……
そこに綺羅星のごとく現れたのが都さんです!!
おっとり優しいお姉さんタイプの登場に、流魂街の人たち(大多数は野郎が多い。勿論、純粋に優しい人柄に惹かれた女性も多いですが)は一瞬にして骨抜きにされました。
加えて今までは空鶴という姉御肌な女性しかいなかったところに、都さんです。
そのギャップもあってか、人気が一気に燃え広がりました。
なんせ「都さんと話すと健康になる」とか「都さんに微笑んで貰うと寿命が延びる」とかいう与太話まで広がっている始末です。
空鶴の作った"よく分からないオブジェ"なんて、なんぼのもんじゃい!! とばかりに男たちは何かにつけて理由を作っては、志波家に来ています。
その相乗効果で、志波家の人気も一気に上がりました。
都さんの人柄と人気にあやかった結果、一気に人が集まるようになりました。
ということを、西流魂街の人たちから教えて貰いました。
「あらら、今日もすごい人気っぷりですね都さん?」
「ええ、皆さん本当に親切な方々ばかりで……感謝の言葉もありません」
「そんな、当然のことですから!!」
「都さんには元気でいて欲しいだけですから!!」
「志波家にはお世話になってますから!!」
私がちょっと声を掛ければ、都さんが頷いて。
その数倍の勢いで男たちの声が上がりました。
「……ちっ」
おーい、あんたたち? 空鶴が拗ねるからその辺にしておきなさいね。
「検診も終わりましたし、お客さんも来ましたし。お邪魔でしょうから、そろそろお暇しますね」
「ん、そうか? わりいな湯川隊長」
「いえいえ。それじゃあ次回の検診日にまたお邪魔させていただきますから」
と、海燕さんに断ってから、一つ思い出しました。
「あ、そうでした。海燕さん、忘れるところでした。お伝えすることがあったんですよ」
「ん? どうした急に?」
「都さんのお腹の中の子は女の子でした。ちゃんと可愛い名前を考えてあげてくださいね」
「な……っ!?」
全員に聞こえるくらいに大きな声でそう告げると、海燕さんは大きく目を見開いたまま固まりました。
「では検診も済んだので、失礼しますね」
そんな海燕さんを尻目に、私は志波家を後にします。
とはいえ、その場の全員に聞こえるくらい大きな声で言ったので、その話は全員が聞いていたわけで――
「まあ、女の子ですって……海燕、どうしましょう……?」
「へえ……よかったな兄貴!!」
「おおっ! 都さんの娘かっ!! こりゃ流魂街のみんなにも知らせないと!!」
「湯川! お前どうしてそんな大事なことを……ちょ、オイコラ! 待てっ!!」
家族やら流魂街の人たちやらの喧騒が聞こえてきて、その中には海燕さんの声もありましたが、それらを背中で聞きながら私は帰路についたのでした。