お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第107話 お祝い事にはお赤飯を

 すっかり寒くなってきました。

 日が落ちるのも日に日に早くなっていき、身を切るような寒さがじわじわと襲いかかってきます。

 まあ、冬来たりなば春遠からじとか言いますし。

 暖かくなってから何をやるかでも考えておきましょう。

 

 ということで。

 

「こんにちは」

「む、湯川殿!? これはどうも!」

 

 玄関に入り声を掛けると、奥から出てきた金彦(こがねひこ)――でいいのよね? 山吹色の服を着てるから――が出てきました。

 

「ですが本日は一体……?」

「海燕さんが今日は非番でお休みだと聞いたので。それと、少し顔を出せていなかったのものあって、心配だったので来ちゃいました」

「ははは! そうでしたか。いやいや、湯川殿であれば皆様も文句は言いますまい! ささ、どうぞお上がりください! 全員、居間に集まっておりますので」

 

 よそ様のお宅にお邪魔するときは大抵、事前に約束をするか相手から誘われるかしてるんですけど、今日は珍しく事前予約をしていなかったんですよ。

 だって誘われちゃったんですもん。

 仕方ないんですよ。

 

「皆様! 湯川殿がお越しですぞ!!」

 

 一足先に戻った金彦に遅れることちょっと、私も居間へと向かいます。

 

「おっ! 湯川……隊長!」

「まあ、隊長。ようこそいらっしゃって下さいました」

 

 海燕さん夫妻がそう言ってはくれたものの、二人の視線が私に向いたのは一瞬のこと。

 すぐに視線を元に戻してしまいました。

 

「どうも、海燕さん。都さん。それと――」

 

 まあ、それは私も同じなんですけどね。

 二人の視線の先を追うようにして、私もそこへ視線を向けます。

 

「――元気にしてた、氷翠(ひすい)ちゃん?」

「あーぅー」

 

 そこには、産まれたばかりの赤ん坊がいました。

 

 

 

 ということで。

 居間で家族の視線を独り占めしているのが、この子です。

 海燕さんと都さんの愛の結晶、氷翠(ひすい)ちゃんです。

 

 まだ産まれたばっかりなのに、すっごく可愛いです。

 ちなみに女の子ですよ。

 顔立ちは、どっちかというと都さんに似てますね。

 つまり、もう将来は美人間違いなしってことですね。

 

 ああ、それにしても可愛いわぁ……

 

『そして大きくなると藍俚(あいり)殿にマッサージされるわけでござるな!?』

 

 今はそういうことは言わないの。

 

「そうね、氷翠(ひすい)も隊長が来てくれてありがとうって言ってますよ」

「そうなの? ありがとうね氷翠(ひすい)ちゃん」

「あー♪」

 

 なんだか楽しそうに笑ってくれました。

 

「ところで湯川、隊長。今日は何でまたウチに来たんだ?」

「ああ、それはですね」

 

 少しの間、赤ちゃんを見ていたところで、海燕さんが切り出してきました。

 

「岩鷲君から連絡を貰ったんですよ。今日は海燕さんも非番で全員家にいるから、どうですかって? ね、岩鷲君?」

「あ、へへ……そうなんですよ藍俚(あいり)の姉さん……」

「都さんの出産からこっち、色々と忙しくてきちんとお祝い出来ていなかったのもあったので、せっかくだから……少し日が過ぎちゃいましたけれどね」

「いやいや、もう氷翠(ひすい)のヤツを取り上げて貰ってるのに、これ以上は悪いぜ……」

 

 と、海燕さんが謙遜する一方で――

 

「へー、岩鷲! お前やるじゃねぇか!!」

「姉ちゃん!?」

 

 照れくさそうにしている岩鷲君へ、酔っ払いのように空鶴が肩へ手を回しながら絡んできました。

 

「いっちょ前に色気付きやがって……おい、聞いてんのか岩鷲!?」

「姉ちゃん……ちょ、お、落ち着いて……」

「っていうか空鶴……あなたお酒呑んでるの!?」

「ったりめぇだろうが!! 兄貴の子供も無事に産まれたんだ! こんなめでたいのに、呑まずにいられるかってんだ!!」

「(ねえ、岩鷲君……ひょっとして毎日呑んでるの……?)」

「(ほぼ毎日……ですかねぇ……たまに二日酔いで一日中寝てますけど、それ以外は大体……)」

 

 こっそり小声で聞いてみれば、とんでもない答えが返ってきました。

 ええぇ……もう出産から一ヶ月くらいは経ってるのよ……

 

「海燕さんも都さんも、大変ですねぇ……」

「――ったく、本当だよ。俺が何度言っても耳を貸さねぇんだ」

「ま、まあ……私たちのことをお祝いしてくれているのですから……」

 

 さすがの都さんも、ちょっとだけ顔が引き攣っていました。

 まあ、海燕に限っては大丈夫でしょうけれど。万が一にも赤ちゃんがお酒を誤飲した日には洒落になりませんし。

 

 仕方ないですね。

 ここはちょっと、冷や水を浴びせますか。

 

「空鶴ってば、随分とご機嫌なのね」

「おーよっ! ったりめぇだろ藍俚(あいり)!!」

「都さんの出産の時にはあんなに可愛かったのにね」

「――――」

 

 一瞬にして酔いが冷めたような表情に戻り、空鶴の動きが止まりました。

 

「どういうことだよ、姉ちゃん?」

「…………」

 

 岩鷲君が首をひねりますが、空鶴は黙ったままです。

 

 さてさて、あの日に何があったのか。

 時間がちょっとだけ遡ります。 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 都さんの出産ですが……

 出産予定日には産まれませんでした。

 陣痛も来なくて、その日は何事もなく終わりました。

 予定日だったので、私も海燕さんも仕事を休んで志波家で待機していたのですが。特に何もなかったのでちょっと肩すかしを食らった感じでしたね。

 

 とあれ出産は水物(みずもの)、産まれるかどうかはお腹の中の赤ちゃん次第ですから。予定日はあくまで予定日なので、早くなったり遅くなったりするのは当然だ。と都さんに伝えて、その日は帰ったのですが……

 

 彼女が産気づいたのはその数日後でした。

 海燕さんも私もその日はお仕事をしていて留守で、しかも間の悪いことに家には空鶴しかいないという有様だったんです。

 

藍俚(あいり)! 助けて、助けてくれ!! 姉貴が……都の姉貴が大変なんだよぉぉっ!!』

「なに!? 急にどうしたの空鶴!!」

 

 仕事中に伝令神機が鳴って、何かと思ったら開口一番がこれでした。

 空鶴の泣きそうな声が聞こえたときは何があったのかと思いました。

 

 大急ぎで志波家に行けば、相変わらず泣きそうな空鶴と産気づいて苦しそうな都さん。

 他は誰もいないのですから、私も大慌てで準備を整えましたよ。

 とにかく泣きそうな空鶴を怒鳴って無理矢理動かしながら、産湯やら布やら流魂街で産婆の経験がある人の手配やら、海燕さんへの連絡やら。

 

 いちいち全部を命令してやらせました。

 

 良い機会だったので、そのまま都さんの出産も手伝わせました。

 その頃になれば、産婆を呼びに走らせたりしたので多少は落ち着いてました。まあ、それでもおっかなびっくりだったんですけどね。

 やがて、連絡を受けた海燕さんも帰宅して都さんの出産の立ち会いに。

 そして無事に出産となったわけです。

 

 ですがその日は、出産してからも大変だったんですよ。

 

 お仕事中に海燕さんが連絡を受けたものだから、十三番隊全員に知れ渡って。

 なので十三番隊の隊士が、隊長から平隊士まで含めてほぼ全員が志波家に来ちゃったんですよ。

 そのまま志波家の前で、呑めや歌えやの大宴会を始めちゃいました。

 おまけに流魂街の人たちも集まってきて、そのまま死神たちと流魂街の住人で類を見ないほどの馬鹿騒ぎになりました。

 

 他にも赤ん坊を見たさに都さんの部屋まで押しかけてきた隊士たちを、海燕さんが一喝して黙らせていたり。

 ルキアさんが泣きながら喜んでいたり。

 浮竹隊長が祝いの酒を呑まされすぎて倒れ、清音さんと仙太郎くんがこれはチャンスとばかりに介抱しようとしていたり。

 

 後日、騒ぎすぎたので総隊長に十三番隊全員が怒られたり。

 

 あの日は色々あったわけですが。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 前述のような状況でしたので"空鶴が都さんの陣痛にビビって泣きそうになっていた"のを知っているのは、私と都さんだけです。

 海燕さんや岩鷲君が戻って来たときには、ある程度落ち着いてましたからね。

 

 普段は男勝りで怖い物なんて無い! みたいな雰囲気全開の空鶴が珍しく見せた弱みみたいなものですので、私も都さんも黙っておこうと決めていたのですが……

 

 さすがにちょっとやり過ぎなので、お灸を据える意味でもこうしてちょっとだけ小出しにして牽制しておきます。

 

「お、おおおいぃっ藍俚(あいり)!! 何言ってんだお前!!」

 

 効果は覿面(てきめん)だったようで、大慌てで私に突っかかってきました。

 

「はいはい。それじゃ空鶴、これをみんなに配って」

「あん? なんだこりゃ?」

「ちょっと遅くなっちゃったけれど、出産祝いのお赤飯よ。朽木家で作り方を習ったから、味は保証するわ」

 

 そう言いながら、持ってきたお土産――重箱を空鶴に手渡します。

 

「なっ、なんでおれが……!?」

「伝令神機で助けてって――」

「よーしわかった! オメエら! この空鶴様が今すぐ配ってやるから大人しく待ってろ!!」

 

 ちょっとあの日に、空鶴が連絡してきたときの真似をしてみれば……

 うわぁ、効果覿面ね。

 

「なあ、姉ちゃん……ひょっとして……」

「うるせぇ!! 黙ってろ!!」

 

 ぷりぷり怒りながら、乱暴な手つきながらもお赤飯を配っていきます。

 

「(都さん、次からは何かあったら……)」

「(ふふ、そうですね……目に余るようでしたら……)」

 

 都さんに小声でアドバイスをしておくのも忘れません。

 

「おっ! ホントだ、美味(うめ)えなコレ!」

藍俚(あいり)の姉さんの手料理……美味い……!!」

「くそっ……けど美味え……また作って持ってこいよ藍俚(あいり)! 今度は酒に合うヤツだぞ!」

「あら、本当ね。すっごく上品な味……隊長、これどうやって作ったんですか?」

「これはね……」

 

 どうやら全員に好評だったみたいです。

 しっかり作り方を聞いてくる辺り、都さんはさすがに主婦ですね。

 

 こうして志波家の皆さんは平和に……

 

 

 

 ……あ、ちょっと待って。

 

「ねえ、岩鷲君。ちょっと聞いてもいい?」

「なんスか藍俚(あいり)の姉さん?」

「海燕さんは死神になったけれど、岩鷲君は死神になるの?」

 

 良い機会なので、思い切って聞いてみました。

 確か一護と一緒に行動して瀞霊廷に入っていたはずですし、どうするのかなって。

 

「死神、か……」

「一応は海燕さんとかに稽古をつけて貰ってるんでしょう?」

「それは、そうなんですけど……」

「霊術院には問題なく入れるだろうし、海燕副隊長の弟となれば引く手数多(あまた)だと思うわよ?」

 

 引く手数多(あまた)、と言った途端に岩鷲君がピクリと反応しました。

 

「本当に!?」

「え、ええ……霊術院での成績次第だろうけれど……」

「じゃあ、藍俚(あいり)の姉さんとか、兄貴の部隊にも!?」

「多分ね」

 

 なんだかすっごくやる気になってますね。

 実際は、身内が同じ隊にいると情が沸くから忌避されることが多いんだけど。

 

「うーん……けどよぉ、都姉さんに子供が産まれただろ? せめてその子がある程度成長して、手が掛からなくなるくらいまでは手助けをしてやりてぇんだ……俺……」

「おっ! なんだ岩鷲!! えれぇ(偉い)じゃねぇか!!」

 

 海燕さんが弟の肩をバンバン叩いてます。

 ですが前向きに検討するって感じですね。

 

 ……ってことは、岩鷲君も死神になっちゃうんでしょうか!?

 




個人的イメージですが
・朽木家は色々面倒を見てあげないと怖い。
・志波家は面倒見なくてもガンガン行く。

なので、朽木家に比べて志波家はあっさりめになっています。

●海燕さんのお子さん
名前:氷翠(ひすい)
性別:女の子
解説:陸or海or空 + 鳥の漢字 = 志波家の名前 の法則に従って名付け。

   カワセミを意味する漢字の「翡翠」から。
   (翡翠は「翡:オスのカワセミ」と「翠:メスのカワセミ」を表す。
    (鳥の名前の方が先で、宝石の翡翠は後から付いたらしい))
   女の子なので「翠」の漢字を使用。

   海燕の子供なので、海系(青系)の名前を使うのはほぼ確定。
   「氷」は「海→水→氷」の連想。
   「翠」は「青羽を持つ鳥の意味」とかもあるらしいので。
   あと冬に産まれた子なので、寒々しさが名前とマッチする。

●キャラ追加
・朽木さん家の鴇哉(ときや)君(男の子)
・志波さん家の氷翠(ひすい)ちゃん(女の子)
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