お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第109話 今更になって一番隊と交流を深める

「総隊長、いかがですか? もう少し強めの方が……?」

「む……そうじゃのう。すまぬが、もう少し強めで頼むぞ」

「はい……このくらいで……!?」

 

 総隊長の注文通り、指先に力を込めて腰を強く指圧します。

 

「おおぉ……こ、これは……!! なるほど、女隊士がお主の所へ通い詰めていると……話には聞いておったが……うなずけるわい……!! たまらぬ!!」

 

 すっごく気持ちよさそうな声を出してますね。

 気分はお爺ちゃんに肩たたきとかしてるような感じですが。

 

藍俚(あいり)殿……さすがに拙者、嫌でござる……もう帰っていいでござるか……?』

 

 ああ、もう寝てていいわよ。

 これは私が全部やるから。

 

『かたじけないでござるよ……』

 

 さしもの射干玉もちょっと無理だったみたいですね。

 それも仕方ありません。

 

 総隊長へのマッサージというのは、あの子にも辛かったみたいです。

 私は……ちょっと楽しいかもしれません。

 だって――さっきも言いましたけれど――お爺ちゃんに肩たたきする延長だと思えば特に何かを思うこともありませんから。

 

 ……え? ……なんで冒頭から山本総隊長のマッサージをしてるのか?

 

 少し前に(まえのはなしで)総隊長と一緒にお蕎麦を食べましたよね?

 あのとき、酔った総隊長から「儂も最近腰や背中が痛い。揉んでくれぬか?」と依頼されました。

 だから整体をしに来ただけです。

 あと……卯ノ花隊長のことで随分とストレスを溜めていたようだったので、せめてもの罪滅ぼしという意味もありますけど。

 

「お気に召していただけたようで、恐縮です」

「いやいや……これは……もっと早く頼んでおくべき……じゃったわ……」

 

 罪滅ぼし、してよかったかもしれません。

 なんだか総隊長は色んな所がお疲れのご様子でした。

 やっぱり卯ノ花隊長に振り回されて疲弊しっぱなしだったのかしらね……?

 

 あ、勘違いされるかもしれませんが。

 射干玉は逃げちゃったので。これは本当に、純粋に整体ですよ。

 筋肉の凝りをほぐして、血行を良くして、調子を整えているだけです。

 

『まるで……不純な整体があるような……口ぶりでござるなぁ……』

 

 ツッコミのためなら無理してでも出てくるその根性だけは立派だわ……射干玉……

 

 この一見すれば枯れ木のようなボディは、どこからどう見ても老人のそれにしか見えません。ですがこの奥底には、下手な若手隊士顔負けの筋肉が眠ってるんですから。

 しかも高密度に絞り込まれた、超高性能の筋肉です。

 どうやってこれだけの肉体を作り込んだことやら……

 

 純粋だ不純だを別にしても、この肉体の作り方には興味があります。

 

 ……はっ!! これってひょっとして、バトルジャンキーな考え方なんじゃ……!?

 

「背中から腰まではこんなもので大丈夫でしょうか? ご要望なら、もう少しだけ続けますけど」

「いいや……今にも天にも昇りそうな心地じゃよ……極楽極楽……」

「でしたら続いて足の施術に移りますね」

 

 こんな感じで、腕から肩から背中に腰、足の裏まで一通りマッサージしました。

 

 

 

「いやぁ……まるで五百年は若返った気分じゃわい……!!」

 

 マッサージを終えると、総隊長は自分の身体の調子を確かめるように軽く身体を動かしながら、満足そうに呟きました。

 

「ご満足いただければ幸いです。ただ、次からはその……」

「ああ、分かっておる。儂も少々無理を言ったわ。次からきちんと順番を待たせて貰うわい」

 

 今回の場合、酒の席で強引に頼み込まれた結果、引き受けただけですからね。

 初回サービスと前隊長のお詫びというやつです。

 

「はい、そのときにはよろしくお願いしますね。それでは、失礼いたします」

 

 そんなこんなで、私は総隊長の隊首室を後にしました。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「おや、これは湯川隊長」

「どうも、雀部副隊長」

 

 慣れぬ一番隊の隊舎を歩いていると、廊下で偶然にも雀部副隊長に出会いました。

 私が死神になった頃からずっと副隊長をやっているという、経験値だけなら下手な隊長顔負けの大ベテラン死神です。

 銀髪で口髭――いわゆるカイゼル髭ってやつですか?――を生やした、一見すると西洋人みたいな容姿をしており、おまけに死覇装の上に外套のようなマントを羽織っています。

 このマントが隊首羽織に似ててちょっとだけ混乱するんですよね。

 昔は雀部さんが隊長だと思っていた時期もありました。

 

「一番隊に何かご用事でしたか?」

「ええ、少し。総隊長に按摩を頼まれまして、つい先ほど終わったところです」

「なんと! 元柳斎殿にご無理を言われましたかな?」

「いえいえ。酒の席での我が儘でしたが、約束は約束ですから」

「義理堅いですな」

 

 ふむ、といった感じで私のことを見ながら、やがて申し訳なさそうに口を開きました。

 

「……湯川殿、もしよろしければ……私の我が儘も聞いていただけますか?」

「我が儘……ですか?」

 

 えー、もう帰りたいのに……

 

「内容にもよりますが、とりあえずお話は伺います」

「よかった。断られたらどうしようかと思いました。ささ、少々込み入った話になりますので副隊首室までご案内します」

 

 そう言いながら先導するように雀部副隊長が歩き出しました。

 さてさて、隊長に続いて今度はどんな無茶ぶりをさせられることやら。

 

 

 

 雀部副隊長の私室ですが、なんとも洋風に凝った感じでした。

 カーペットやら暖炉やらソファやらがあって、シャンデリアにスタンドライト……うわぁ、印象派? みたいな油絵に彫刻まであります。ちょっと間違ってる気がしないでもありません。

 そして肝心の無茶ぶりの内容ですが――

 

「……茶葉って……紅茶とかの……?」

「はい、その茶葉です。時々現世から仕入れてくるのですが、どうにも上手く育たなくて……一体何が悪いのやら……」

 

 嘆息を吐き出しながら、軽く頭を掻きます。

 副隊長の我が儘というのは「紅茶が上手に育てられない。どうにかならないものか?」というものでした。

 

「そう思っていたところ、四番隊で薬草園を作り始めたという話を聞きまして。ならば、何か妙案の一つでも得られないかと思った次第で……」

「薬草園ですか。確かに育て始めましたけれど……そこまでお役に立てますかねぇ……?」

 

 まさか、戸隠ちゃんの意見からこう繋がってくるとはねぇ。

 それに雀部副隊長の西洋かぶれは私も聞いていましたが、まさか茶葉を栽培しようと思っていたとは…… 

 

「こうして一人で悩むよりかはずっと建設的かと思いまして。それに、湯川隊長は霊術院で現世学の教鞭も取っていたと聞きます。なにかお知恵を拝借出来ればと……」

「うーん……気持ちは分かりますけれど、茶葉かぁ……」

「それともう一つ」

 

 まだあるの!?

 

「先日、瀞霊廷通信で紹介されていた卵焼きです」

 

 女性死神協会に顔を出した時に、お土産代わりに持って行ったアレですか?

 

「アレを見て、私は思ったのです! 私のお茶会に、ああいった食べ物を提供したいと!!」

「お茶会……ですか……?」

「はい! 元柳斎殿が月例で茶会を開いているのはご存じかと思います」

 

 総隊長って月に一度、隊士から参加者を募っては自分で立てた抹茶を振る舞ってるんですよ。

 しかも園庭に面した立派な茶室もあって、そこでお茶を立ててるんです。

 長年やってるので良い腕前だと聞いたことはあります。

 

 ……そういえば私、一度も茶会に参加したことなかったわ。今度、機会があったら一度くらいは参加しておきましょう。

 

「あの茶会を自分でもやってみたい! 私が育てた茶葉で入れた紅茶を振る舞ってみたいのです! その際、西洋では軽食も振る舞うとのことですので、そちらについてもお力添えを得られないかと思っています」

「えっと、それは……いわゆるティータイムをやってみたいということですか……? スコーンとかの?」

「おお! 流石に博識ですな!! まさにその通りです!!」

 

 ちょっと興奮した様子で喋ってますね。

 理解者を得たからでしょうか?

 

「元柳斎殿は和食派でして、洋食や紅茶にあまり理解を示してくれませんのです! ならば一度ティータイムを開催して他の隊士からの理解を得たい……その時に湯川隊長のように博識な方がいらっしゃれば、まさに竜に翼を得たる如し!!」

 

 竜に翼とは、またカッコいい言い回しをしますね。

 なんだか異様に持ち上げられてる気もしますが……

 

「えー……まとめると"茶葉を自分で育てたい"ので"茶葉の育て方に詳しい人が欲しい"ということ。そして"その茶葉でお茶会を開いてみたい"から"私に紅茶に合う軽食やお菓子を作って欲しい"……ということでしょうか?」

「その通りです!! ご協力、お願い出来ませんでしょうか!?」

 

『またとんでもない難問が降りかかってきたでござるな』

 

 あら起きたのね射干玉。

 

『それで、どうなさるおつもりでござるか?』

 

 うーん……まあ、このくらいなら協力してもいいかなって。

 それに、紅茶や洋菓子なら女性受けしそうだからね。

 

『なるほど! まさかそっちを狙っていたとは……さすがは藍俚(あいり)殿でござる!! いよっ! 大統領!!』

 

 やめて、照れる……

 

「わかりました。どれだけお力になれるかは分かりませんが、できる限りは」

「おお! ご厚情、恐れ入ります!!」

 

 感激のあまり私の手を取って上下にぶんぶん振り回しています。

 

「と言っても、茶葉の育成は時間が掛かりそうなのですぐに結果は出せませんよ」

「それは仕方ありませんな」

「とりあえずは、今までの育て方でどんな失敗をしたのかの資料とかありますか? それを見てから四番隊(ウチ)で薬草園を担当してる子の――……」

 

 そんな感じで話を煮詰めていきました。

 




一応、書いている人は「紅茶も緑茶も、茶葉としては同じ」程度の知識はあります。
発酵の度合いが違うんですよね。
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