お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

110 / 406
第110話 不思議の国(ソウルソサエティ)でお茶会を

「本日は私の主催したお茶会にご参加いただきまして、誠にありがとうございます」

 

 そこへ一歩足を踏み入れた途端、雀部副隊長は優雅な所作で一礼しました。思わず見惚れてしまうほどに似合っています。

 

 一番隊で総隊長と副隊長の相手をしてから、しばらく時間が経過しました。

 その間、チャノキの成長について専門家を交えて話し合ったり。お茶会のためのお菓子については試作品を作っては「ああでもないこうでもない」と雀部副隊長と話し合いを重ね……

 

 そして今日、ある程度納得出来る形になったので、お試しのお茶会を開催することとなりました。

 言ってみれば、本番の前のリハーサルみたいなものです。

 

 とはいえお披露目はお披露目。

 主催者である雀部副隊長は少しだけ緊張した面持ちで。ですが落ち着いた物腰で対応をしてくれました。

 きっと今の姿は、彼が理想としている英国紳士のそれなのでしょうね。

 

 そして内装も、この日のために借りた一番隊の一室に椅子とテーブルを何組か。それをおもいっきり洋装に飾り付けてあります。

 テーブルの上も既に準備万端、お茶の用意が整っていますよ。

 

「本日はお招きいただき、ありがとうございます」

「これは湯川隊長、ようこそいらっしゃいませ」

 

 招待状を片手に挨拶を返せば、丁寧なお辞儀をしてくれました。

 こういう所を、ちょっと凝ってみました。

 本家のティータイムとはちょっと違うかもしれませんが、それっぽいですよね。

 この招待状も万年筆による流麗な筆致で書かれてて、実にそれっぽい作りになってます。

 

「ほ、本日はお招き、ありがとうございます!」

「虎徹副隊長も、ようこそお越し下さいました」

 

 私の後に続いて、勇音が真似をするようにして入ってきました。

 幾分緊張している彼女に向けて、副隊長は同じように応対します。

 

 せっかくのプレオープンですし、人数がいた方が良いと思ったので。

 何人かの知り合いに声を掛けてみました。

 なので勇音に続いて入ってくるのは、清音さん・伊勢さん・砕蜂・桃など、女性死神協会繋がりの子たちです。

 できるだけ落ち着いた子を選んでみました。

 

 雀部副隊長もリラックスした様子で一人一人を応対していって……

 

「こんにちはーっ!!」

 

 ……ええっ!?

 

 な、なんで草鹿三席もいるの!?

 呼んだ覚えはないのに……

 

「おや、失礼ですが招待状はお持ちですか?」

 

 今日来る面子は事前に知らせてあるので、雀部副隊長も彼女は来ないことは知っているのですが……

 流石ですね。困惑しつつも、落ち着いた対応をしています。

 

「招待状……? ないよ!」

「でしたら今日は……」

「ええーっ! いいでしょいいでしょ!! すっごく美味しそうな匂いがするの!! たーべーたーいっ!!」

 

 ああ……駄々っ子状態です。

 

「むむ……仕方ありませんね。特別ですよ」

「わーいっ!!」

 

 泣く子と地頭には勝てぬ、ですか……

 

 ともあれ、こうしてお茶会は厳かに――

 

「うわーっ!! これひょっとしてあいりんが作ったヤツ!?」

 

 ――始まるわけありませんよね。草鹿三席(このこ)がいたら。

 

 彼女はテーブルの上に並んだお菓子や軽食に興味津々です。

 

「いえ、こちらは湯川隊長に作り方を教わり、私が作った物ですよ」

「ええっ!! そーなんだー!! 食べていい!? 食べてもいい!?」

「仕方ありませんな……ですが、どうか落ち着いて……」

「わーい!!」

 

 ああ……予想通り、全部を言い終わらないうちに食べ出しました。

 ちなみに並んでいるのは、アップルパイとかタルトとか、それっぽいものです。

 

「……はぁ。まあ、良いでしょう。皆さんもどうぞ、お試し下さい。今、紅茶の用意をいたしますので」

 

 茶葉の育成こそ上手く行かない雀部副隊長ですが、紅茶の入れ方については長年の研究していて、所作も手慣れたものです。

 それこそ思わず見入ってしまうくらいに。

 

「こちらは、オレンジペコの――……」

 

 入れながらも彼の舌は止まりません。

 ブレンドした茶葉の説明や入れ方について説明を嬉々としてしています。

 大勢の人たちに聞いてもらえるのが嬉しく仕方ないんでしょうね。

 

「さあ、まずはご賞味ください」

 

 ということで、促されるままカップを手に取って……

 良い香りね。

 うん、味も茶葉が開いているっていうのかしら? 何度か味わったけれど、今日のは特別良い味が出てるわ。

 

「へえ……これが紅茶……」

「初めて飲みましたけれど、緑茶とはまた違った味わいですね……」

「落ち着いた味で良いかも……」

 

 招待客の皆さんにも好評の様子で……

 

「うーん!! 美味しいーっ!!」

 

 ……まあ、一人だけお茶よりもお菓子を夢中で頬張っていますが。

 

 

 

「ほほう、そんなに美味い茶ならば儂にも一杯もらえるか?」

「……え?」

 

 入り口から聞こえてきた声に、思わず私はカップを取り落としそうになりました。

 この声って……

 

「……元柳斎殿」

 

 気づけばこの場に総隊長が姿を見せていました。

 雀部副隊長だけでなく、この場の全員が――某一名は除きますが――思わず手を止めて総隊長に視線を向けています。

 とはいえその当人は視線など意に介していませんが。

 

「なんじゃ? それとも儂には茶も入れられぬか?」

「いえ……どうぞ」

 

 予期せぬ来客に、彼は自分用に入れていた紅茶を手渡しました。

 

「それと、もし良ければこちらも……」

「む! これは……!!」

 

 さらに特製の一品を総隊長に差し出します。

 その正体は――

 

「なんと、どら焼き!?」

「ええ、よろしければどうぞ」

「……ふむ……」

 

 胡乱げな瞳で手にした紅茶とどら焼きを何度か見比べた後、やがて紅茶を一口。続いてどら焼きを食べると再度紅茶を口にして、その後にたっぷりと十秒ほど熟考してから口を開きました。

 

「……うまし」

 

 たった三文字の言葉。

 ですが総隊長の口から出てきたその言葉を聞いた途端、雀部副隊長の瞳からは一筋の涙がこぼれ落ちました。

 

「儂は洋は好かぬ。じゃが、この茶と餡子(あんこ)が不思議と良く合ったわ」

 

 紅茶と餡子って結構相性が良いんですよ。

 なので、最初は洋菓子を提供して。その後の隠し球として出すはずだった物です。

 ですが雀部副隊長はどうやら、総隊長のことを思って真っ先に出したみたいですね。

 そしてどうやら、総隊長のお口にも合ったようで。

 

「これだけの茶を入れられるのならば……長次郎よ。儂の代わりに、ときどきじゃが、茶会を開いてみるか?」

「……恐縮です」

 

 あらら。

 副隊長の両目から涙があふれ出ました。

 

「おめでとうございます。雀部副隊長」

 

 それを見ていた私は、思わず拍手をします。

 だってこれは、総隊長に認められたってことですから。

 私の拍手に続くように、参加者たちからも拍手が鳴り響きました。

 

「皆さん……ありがとうございます……」

 

 こうしてティーパーティは、誰も予想していなかった不思議な……

 けれど心温まるような終わり方をしました。

 

 

 

 

 後日。

 

 瀞霊廷通信で雀部副隊長の紅茶が特集されました。

 紅茶の入れ方の基本やら、お菓子の紹介。それと少ないながらも紅茶を使ったお茶会を開くことの告知などの記事が掲載されています。

 

 なんというか、副隊長本人よりもお茶の方に紙面を割いていますね……

 とあれこの記事とお茶会がきっかけとなり、雀部副隊長は若い女性死神からの人気が上がったそうです。

 今まで地味だったのが、渋くて素敵なオジサマって感じで見直されてるみたいですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「湯川隊長、ちょっと良いですか?」

「卯ノ花隊長……? あの、何か……?」

「雀部副隊長のお茶会ですが、どうして私を呼ばなかったのでしょうか?」

 

「え……いや、あの。それは……」

「まさかとは思いますが。私が会場で暴れるとでも思いましたか?」

「いえいえ!! まさかそんなことは!!」

 

「ええ、勿論。私も信じていますよ。信じていますから、ちょっと私とお話をしましょうね……」

「ちょちょっと……待って下さい!! 卯ノ花隊長!! 誤解です!! 勘ぐりすぎですってば!!!」

 




普通にお茶会やって終わるだけの予定だったのに……
なんでしょうこの話?

あとなんなんだこのオチ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。