ルキアさんの移送も完了して、報告も済んで。
任務はコレで終わり! 帰宅!!
……と、言いたいところなんですが。
任務は終わっても、まだ個人的にやらなきゃいけないことが多いんですよね。
完全なお節介だと言ってしまえばそれまでなんですが……
「やるだけのことは、やっておきましょうか」
正直、味方は一人でも多い方が良いからね。
どこまで通じるかはともかくとして、打てる手は打てるだけ打っておきましょう。
その中のどれか一つでも成功すれば儲けもの。
……って言ったのって、誰だっけ? 何か軍師みたいな人だったと思ったけど。
とにかく、義理や立場的に考えてもまず一番最初に行くべきは――
「あそこよね。行くのは慣れてるけれど、ちょっと遠い……けど、真っ先に行くべきよね……」
ああ、また四番隊の仕事が滞る……
現世に行って捕縛して帰ってくるだけでも、結構な時間が経っているのに……
ルキアさんを牢へと移送したその足のまま、軽く嘆きつつも瀞霊廷を進んで行きました。
「やれやれ、ようやく着いたわ」
歩みを続けることしばし。目的地である、十三番隊の隊舎までたどり着きました。
やはり、最初に向かうべきはここでしょう。
なにしろルキアさんは十三番隊の所属です。自分たちと同じ部隊の隊士が極刑に処される――その知らせくらいはもう届いている頃でしょう。
知れば当然次に思うのは「何故、どうして彼女がそんな重い刑罰を受けなければならないのか」といったところ。
今頃、浮竹隊長らは気が気ではないでしょうからね。
当事者として最新情報を届けてあげないといけません。
それに加えて。
海燕さんなら理由を説明すれば、まず間違いなくこっち側に着いてくれるだろうと思ったからです。
味方を一人でも増やしておきたいという打算も込みでの選択です。
というわけで。
「朽木ルキアさんの件について、ご説明に来ました」
「ああ、わざわざすまないね湯川隊長。だが、頼む」
近くにいた隊士に来訪の目的を告げ、隊長に取り次ぎを頼み、十三番隊の隊首室たる
私と対するのは、浮竹隊長・海燕副隊長・清音と仙太郎の三席コンビの計四人。
むやみやたらと大人数に聞かせるのは、まだ現時点では早すぎるかもしれないという判断からです。
「まずは、ルキアさんの刑の内容と捕縛までの内容のついてお話します。それというのも――」
四人に向けて、今回の表の内容――すなわち、総隊長から伝えられたことから、現世へ行って彼女を捕まえてきたことまで――を一通り説明しました。
「現在、彼女は六番隊の隊舎内に存在する牢に閉じ込められています。私は任務完了後、その足でお知らせに来ました」
「そうか……すまなかったね、湯川隊長」
「いえ、皆さんも同僚がこんな事態になり、心配だったでしょうから」
私が一通りの話を終えると、まずは浮竹隊長がねぎらいの言葉を口にしました。
まあ、隊長の立場だとまずはこういうやりとりですよね。
「……納得いかねぇ」
そして、副隊長の立場だからか、それとも生来のものだからか。
海燕さんは開口一番、一言で不満を口にしました。
「なんだそりゃ!! なんで朽木のヤツがんな重い刑罰になってんだよ!! 極刑だぁ!? どう考えてもおかしいだろうが!!」
「そうそう! 絶対おかしい!!」
「俺だって同意見ですぜ!! 隊長!! 抗議です、断固抗議しましょう!!」
「あっ、仙太郎!! 私だって抗議しますよ隊長!! 上訴しましょう上訴!!」
「お前たち……いや、気持ちは分かるが、ちょっと落ち着け」
海燕さんら三人の猛攻撃に、浮竹隊長がたじろいでますね。
というか清音さんは"上訴"なんて言葉どこで覚えたの……?
「俺だって、思うところはあるが……四十六室の裁定だぞ? どこまで覆ることやら……」
「…………チッ」
悲観的な言葉を口にする浮竹隊長に、海燕さんは嘆息しつつ舌打ちしました。
「隊長! 確かにそうかも知れませんよ!! けどねぇ、だからって見殺しになんて出来ませんよ俺は!! 無駄かも知れなくても、動かなきゃならねぇ! アイツは同じ隊の仲間なんです!!」
おおーっ、カッコいいですね。
まるで主人公のような正論です。
「まあまあ、海燕副隊長。落ち着いて下さい。今回の話とは別なのですが、こんな物を持ってきました」
彼の勢いの尻馬へ乗るようにして、胸元から一通の手紙を差し出します。
「ん? これは……?」
「どうぞ、まずはご一読ください。あ、皆さんも是非ご一緒に」
手紙を受け取った浮竹隊長は怪訝な顔をしつつも封を開け、他の三人は後ろから手紙をのぞき込みました。
……清音さんと仙太郎君は、隊長の肩に顔を乗せて背中に張り付くようにして見てるんだけど、それってどうなのよ……?
アピールにしてもやりすぎだと思うんだけど……
「何々……この手紙は声に出さ――……!?」
冒頭の一文、その数文字を口に出して読んだところで、浮竹隊長は慌てて自分の口を押さえました。
ええ、この手紙は現世への出発前に私がしたためた物です。
内容は、今回の裏側の事情――つまり、ルキアさんの脱走計画について記載してあります。その中には白哉たちがどう動くのかも記載されているので、とてもではありませんがおおっぴらに声に出して読める代物ではありません。
監視、盗聴の目を誤魔化すために手紙という形態で伝え、しかも冒頭には「手紙は声に出さずに読んで下さい」という注意書きもしてあります。
そして、一通り読み終えたのでしょう。
海燕さんは目に決意を宿しながら顔を上げました。
「隊長! やっぱり俺はやります!! 黙ってなんざいられねぇ!!」
「海燕……ああ、そうだな。俺も同じ気持ちだ」
「隊長、勿論俺だって同じですぜ!! 朽木は――ぐえっ!!」
「私も協力します!! あんな良い子が極刑なんて絶対におかしいですから!!」
仙太郎君が喋っている途中で、彼の顔を押しのけるようにして清音さんが出てきました。
あ、押しのけられたことで彼女に文句言いだしたわ。
相手も相手で喧嘩を買っちゃうものだから……
「賑やかですねぇ」
「ははは……二人とも、俺のことを思ってくれてるんだけどな」
フォローが薄いところを見ると、浮竹隊長も少し辟易してる部分がありそう。
そんな二人の喧嘩を見て、大事なことを伝え忘れていることを思い出しました。
「そうそう、大変申し訳ありません。もう一つ……いえ、二つお伝えすることがありました」
「ん? まだ何かあるのか?」
「ええ。これは極秘中の極秘事項ですので、少しお耳を拝借します。ほら、清音さんたちも」
「なんだなんだ?」
「なになに?」
私を含めて計五人、密談でもするかのように顔を近付けあい、内緒話をする体勢が整うのを待ってから、口を開きました。
「実は……六番隊の阿散井君がルキアさんと恋人同士になりました」
「「「「なにいいいいいいぃぃぃっ!?!?」」」」
あら、びっくり。
今日一番の大声が響き渡りましたよ。
「朽木がか!? あの朽木がなのか!?」
「きゃーっ!! え、マジマジ!? 本当なんですか湯川隊長!? 告白……え、告白なんですか!? どっちから!?」
「六番隊の阿散井って……アイツだろ!? あの赤い髪で変な眼鏡してる!! 流魂街で時々見たことあるぞ!! マジかよ! どーいう関係なんですか湯川隊長!!」
「お、おいお前たち……」
若い三人は本当に、良い反応をするわねぇ……
特に三席コンビはこういう話に対する食いつきが半端ないわ。
浮竹隊長が完全に置いてけぼりになってるもの。
「ええ、まあ……ただ、詳しい話は後日、本人から聞いて下さい」
「本人からって……湯川、隊長……そりゃ……」
「なるほど、分かりました湯川隊長!! つまりは朽木さんを牢から出してあげればいいってことですね!!」
「なるほど、そういうことか!! っしゃああ!! 朽木ぃっ!! テメーの幸せのためにも絶対に俺がなんとかしてやるからな!!」
本当に、この三席コンビは勢いが凄いわよねぇ……
「あー……まあ、そうだな。若い二人のためにも、年長者が気張るとすっか!!」
そして海燕さんが締めてくれました。
……でも忘れてないかしら? 私は話が"二つ"あるって言ったのよ?
「それと、もう一つの内容ですが」
「ん? まだあったのか?」
「そういえば、二つあると言っていたな」
「はい。これも一つ目の話と似たような方向性の話なのですが……海燕副隊長!!」
「な、なんだよ……」
ちょっと強めに問いかけると、彼は気圧されたように少しだけ下がりました。
「あなた、浮気してないわよね?」
「……はああぁぁっ!? 浮気!?!?」
鳩が豆鉄砲を喰らったような、そんな顔を見せてくれました。
「湯川!! そりゃどういうことだよ!!」
焦ってるわねぇ。私を呼ぶときに隊長って言葉が抜けてるわ。
「実は現世へ赴いた際、副隊長そっくりの人間がいたの」
「はぁ! 俺にそっくりだぁ!?」
「ええ、その人間はルキアさんが死神の能力を譲渡した相手なんだけど――けどあまりにも似てたから、てっきり海燕副隊長の隠し子だとばっかり」
「隠し子だぁ!? ふざけんな!! 俺は都一筋だ!!」
「「おおーっ!!」」
とっても男らしい海燕さんの言葉に、三席コンビが思わず歓声と拍手を上げました。
「けど副隊長、案外行きずりの女と若い頃にこう……ねぇ? あったんじゃないですか? 一回や二回の過ちが? 副隊長は二枚目ですからねぇ……」
「湯川隊長、それってどんな人間だったんですか!? え、本当にそんな人間いたの!?」
「仙太郎!! オメェ、俺に喧嘩売ってんのか!?」
「そうねぇ……海燕副隊長をもっと若くして、目つきを悪くして、髪は
私と清音さん、海燕さんと仙太郎君でクロストークになっちゃってる……わかりにくいかしら……?
「それと年齢は十六歳くらいだったので、海燕副隊長にその頃の心当たりがなければ――」
「あるわけねぇだろうが!! いや待て……十六、だと……!?」
「お! やっぱり一夜の過ちが……グブッ!!」
仙太郎君が無言で殴り飛ばされました。
「今のはアンタが悪いよ仙太郎。同じネタ引っ張りすぎだっての」
「ぐ……ぐぐ……」
ぴくぴくしてるところ悪いけれど、流石にこれは治さないわよ。
「まさか、分家の一心か……?」
「おそらくは。彼の名前を出した時に、反応がありましたから」
「一心って……まさか、十番隊の前隊長の!?」
浮竹隊長も話に乗ってきました。
「あの人が失踪したのが、およそ二十年前ですから。一番可能性が高いのは……」
「なるほど。機会があれば話の一つでもしてみたかったが……けど、その人間は湯川隊長が鎖結と魄睡を砕いたんだったよな?」
その問いかけに、私はゆっくりと頷きます。
「そうか……仕方がなかっただろうが……」
「……ん? ちょっと待て……一心のことを確認済みなら、なんで俺に"隠し子"だ"浮気"だなんて聞いたんだ湯川……!!」
「それはまあ……なんというか……」
ふつふつと怒りを見せる海燕さんから目を逸らします。
「すみません! 私、もう行かないと!!」
「おいコラ湯川!! テメェ、完全にからかいやがったな!!」
「落ち着け海燕!!」
「そうですよ副隊長!! 怒らないで……ぷぷっ!!」
「奥さんに対する愛を確認できたから、よかったじゃないですか!!」
ニヤニヤ笑いを見せる三席コンビに助けられながら、私は十三番隊を後にしました。
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「さて、次は――」
十三番隊を逃げるように後にして、次に向かったのは十一番隊です。
……こっちは、ある意味で一番危険ですからね。
たしか、瀞霊廷に入ってきて最初に一角と戦う。その後で更木隊長――今は副隊長ですけど――と戦うわけですからね。
下手すれば一護がここで負けて終わります。
だって……
ついうっかり、一角を鍛えちゃったり。
ついうっかり、更木剣八と戦って相手を強くしちゃったり。
ついうっかり、卯ノ花隊長が十一番隊の隊長になって、更木剣八を自分好みに鍛えていたり。
『裏ダンジョンのボスクラスに襲われるレベルでござるよ!! こっちはまだレベル15くらいでござるよ!? 勝てねぇで勝てねぇでござる!! 助けて金髪幼女のTASさんでござる!!』
そのくらいの危険性だからね。
出会った瞬間に敗北からの即死ルート確定です。
そんな状態になっている現状をどうにかして"何でもしますから命だけは助けて下さい"と言えば許される程度まで抑えるためにも、接触予定の人たちへ先に根回しをしておかないといけません。
なので、十一番隊の隊舎まで来たのですが――
「留守ぅっ!?」
「ああ、そうだぜ。隊長も副隊長も仕事だよ、仕事」
――せっかく勇気を出してやってきたのに、いたのは一角だけでした。
「なんか急を要する用事か?」
「急……ではないんだけど……」
まあ、当事者の一人はここにいるからOKとしましょう。
「じゃあ一角に教えておくから、二人が戻ってきたら伝えてもらえるかしら?」
「あん? なんで俺がそんなことを……」
「阿散井君が、現世で死神相手に傷を負ったわ」
「!?」
とりあえず手短に、興味の引きそうな話題を提示します。
「どういうことだ?」
「詳しく言うとね――」
さて、本日二度目の解説です。
ルキアさんのことはともかくとして、こっちは一護のことを話題の中心に。
それに加えて、十三番隊と同じように一護の特徴などを記した手紙も渡しておきます。
「――ってこと。でも信じられるかしら? いくら霊圧を限定されていたとはいえ、教育がされていなくて経験も無い、三ヶ月前に死神になったばかりの人間に、かすり傷とはいえ阿散井君が斬られたのよ?」
「にわかにゃ、信じられねぇな……だが、お前が嘘を言うとは思えねぇ……事実、なんだな?」
「ええ」
思った通り、食いついてきました。
基本的に十一番隊に所属している隊士たちは、強い相手や素質を十分に持っていた相手を餌にすれば簡単に釣れます。
ダボハゼ釣りみたいなものですよ。
「けど、それならなおのこと残念だな。そんな面白そうな相手、一度戦ってみたかったぜ。なんで霊力を消しちまったんだよ勿体ねぇ!!」
「仕方ないでしょう! こっちの任務だったの」
「ちょいとそそったってのに、本当に勿体ねぇな……」
一角はがっかりと肩を落としています。
たしかに「逃がした魚は大きかった」と言われても、聞いている側にはどうしようもないものね。
「そうよね……でも、もしもその人間が霊力を取り戻したら?」
「あん? そんなことありえねぇだろうが」
「人間が死神の力を奪って、
「…………」
食いつきが大きくなってきました。
「その人間は、もしかしたら"死神の力を取り戻す"かもしれない。そしてルキアさんのために"
「……本当かよ? 信じて良いんだな?」
「それは、確約はできないけれど……」
「それじゃ、話にならねぇな」
一角が肩をすくめました。
説得、失敗しちゃったかしら……?
「けどよぉ……三ヶ月で、まともに鍛えずにそれなら、まともに鍛えりゃどのくらい強くなるんだろうなぁ……」
「一角?」
「蜜柑色の髪をした死神、だったな? 一応、覚えておいてやる。隊長たちにも、この手紙も含めて伝えておいてやらぁ」
「……信じてくれて、ありがとう」
よかった。
十一番隊はこれで、多少なりともなんとかなりそうね。
少なくとも瞬殺されて"めでたしめでたし"なエンディングの確率は減ったと思いたいわ。
「夜一様……が……?」
さて、残るは二番隊の砕蜂です。
彼女を食いつかせる餌は勿論、あの褐色爆乳の情報です。
「それは本当ですか!?」
「ええ、現世へ任務で行ったときに。実際に目にしたわけではなく、霊圧を感じた程度だけどね」
「そうですか……」
彼女は落胆したような、けれどもどこか嬉しそうな、そんな複雑な表情を浮かべます。
「ふふ……うふふ……」
「砕蜂……?」
「
「いやいや、ちょっと待って!!」
あ、これ……現地に乗り込んで行くパターンだわ。
「さっきも言ったけど、十三番隊の朽木ルキアさんの件があるの。砕蜂もそれに協力して貰いたいの」
「……あっ! そ、そうでした。申し訳ありません!!」
思い詰めたヤンデレって、多分こんな感じなんでしょうね。
背筋に氷柱を押しつけられた気分だったわ。
「それにもしかすると、夜一さんが
「なるほど……手間が省けるかもしれませんね」
うわぁ……すっごい悪い顔してるわねぇ……
今の砕蜂も可愛いんだけどね。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「疲れたわぁ……」
さて、これで大体は根回しが済んだわよね。
そろそろ帰ろうかしら……
……あ!
朽木家そのもの――というか、緋真さんたちにはまだ話をしてなかったわね!!
……いえいえ。
その辺は白哉がちゃんと話を通してくれているでしょう。
アレだって朽木家の現当主で、緋真さんと
大丈夫……よね……
本当に……大丈夫……だよね……?
……
…………
………………
「やっぱりちょっと心配だし、朽木家にも寄っておきましょう」
ああ、我ながら心配性……
それと最後に。
寄っておいて正解だったことだけは記しておきます。
今日の一護はスポーツ中継延長のため休載です。