「ルキア……すまぬ……」
格子を挟んでルキアさんと対峙していた白哉は、開口一番にそう告げました。
「何度も働きかけたのだが……駄目だった……私は、無力だ……」
「そんな……兄様、お顔を上げて下さい……!!」
無力感に打ちひしがれる白哉を前に、ルキアさんは必死に声を掛けます。
「くそおおっっ!! やっぱり駄目なのかよ!!」
「すまぬ、恋次……お前は……いや、お前たちはこれからだというのに……」
「隊長……!!」
白哉の隣にいる阿散井君もまた、悔しそうに叫びました。
阿散井君とルキアさんが交際を始めたというのは、白哉の耳にも届いています。義理の妹と義理義理の弟(予定)の幸せのためにと、
「第一級重禍罪により、朽木ルキアは極囚とする。これより二十五日の後に真央刑庭に於いて極刑に処す――か……」
決定事項と記載された書面、その書面の内容を私は読み上げます。
朽木家が大々的に、そして浮竹隊長と海燕副隊長の両頭を柱として十三番隊の面々が働きかけていましたが、決定が覆る事はありませんでした。
それどころか罪(カッコカリ)から、括弧が取れてしまいました。
ある意味、予定通りといえば予定通りなのですが。
ですがそれを知っているのは
「いや、まだだ! まだ諦めるには早い! 十三番隊とも連携して、なんとしてでも……」
「そうっスよ隊長!! もうちょっとだけ待ってろルキア! すぐにここから出してやるからな!!」
「やれやれ……男性陣はなんとも頼りになるわね。そう思わない?」
「え……!? ええ、まあ……確かに、そうですね……」
そっと尋ねてみれば、彼女は困惑したような返事をしてくれました。
ルキアさんが牢に入ってから、さらに数日が経過しています。
その間、阿散井君は毎日欠かすことなく見舞いに来ては、ルキアさんに励ましの言葉と今日までの状況を話しているみたいです。
私も、毎日ではありませんが彼女の顔を見に来ています。
それ以外は、日々の業務の合間を塗って、他にも協力者を増やせないものかと各隊長にコンタクトを取っています。
具体的に言うと八番隊の京楽隊長とか、七番隊の狛村隊長とかですね。
白哉はといえば、上への訴えを止むことなく続けていて、ルキアさんに顔を見せたのも数日ぶりでした。
十三番隊の面々も、何度も彼女の顔を見に来ているみたいです。
こういった部分だけをピックアップすると、とてもではありませんが彼女が牢に入っているとは思えませんね。
『"123番! 面会だ、出ろ!!"と言われた十分後くらいに"また面会者が来たから出ろ! また来たぞ!"と連続で言われてるようなものでござるな! なんという忙しない囚人でござりましょうか!! 一度に全員来て欲しいでござるよ!!』
ま、まあ……暇よりは良いんじゃない……?
これだけ慕われているってことで、再考してくれる可能性も高まりそうなものだし。
……普通ならね。
前述の通り、彼女への対応は変わらず。
白哉が今日来たのは、この決定を直接伝えるためと、伝えてもなお抗い続けるという意識共有のためです。
私も付き合わされました。
嫌ではありませんけどね。
「でも本当に、最後の最後まで諦めちゃ駄目よ。特に阿散井君のことは、ちゃんと見ててあげてね」
「あ、う……恋次とは、その、まだ……」
「その"まだ"って言葉を消せるように、私も微力ながら協力させてもらうわね」
にっこりと微笑みながら、私も及ばずながら彼女を元気づけてあげます。
……あ!
そういえば、彼女の魂魄の中――だっけ!? に、崩玉っていう何でも願いを叶えてくれるタマが隠されてるのよね!?
……しくじったわ!!
これ、ひょっとしたら
いえいえいえ!! 駄目よ、そんなことしたらハリベルさんが産まれないかもしれない!!
仮定に仮定を重ねても無駄!! ここは我慢、我慢のしどころよ!!
『褐色爆乳丸出し下乳な相手と知り合いになるためならば、拙者たちは泣いて馬謖を斬る覚悟で進むでござるよ!!』
そうよね! なんのために頑張ってきたのよ私たち!! 初志貫徹!!
『その通りでござる!! だからこそ
そうよね! ありがとう馬謖さん!!
……でも、一応ルキアさんは拝んでおきましょう。
崩玉さん崩玉さん、なんとなく良い感じに上手く展開が転がって行って、無事にハリベルさんと知り合いになれますよーに!
あと良い感じに強くなって、ハリベルさんから信頼されて彼女のおっぱいを揉めますよーに!!
「あの、先生……?」
「なんでもないわ。ルキアさん、そろそろ牢が変わる時期だけど。でも気をしっかり持ってね」
二礼二拍手一礼の代わりに、じーっと見つめましたからね。
突然そんなことされたら、不審に思うのも当然よ。
崩玉、御利益があるといいなぁ……
……
それから数日後。
私は協力者捜しをなおも続けていました。
「――ということで、藍染隊長にもお力をお貸しいただきたいんです」
今日向かったのは五番隊です。
もっとはっちゃけて言うとラスボスに「助けてくれ、お前の計画を潰すためにお前の力を貸してくれ」って協力の要請に行ったわけですね。
そりゃ、この人が眼鏡を握り潰して天に立っちゃう人だってことは知ってますよ。
今回のルキアさん事件について、裏で糸をマキマキしてるんだって知ってますよ。
でも普通に隊長やってる時の藍染の対外的な評価は超善人です。
色んな死神から慕われて頼りにされる完璧超人です。
それが仮面を付けた偽りの表情だとしても、利用しない手はありません。
大体、私が霊術院で非常勤講師をやっていた頃も、彼を散々利用してやりましたからね。特別講義と銘打って、彼の持つ技術を何度となく吐き出させたものです。
なので今回も。
マッチポンプだろうと狐と狸の化かし合いだろうと、利用出来る物は利用してやります。
そう簡単に身を隠して暗躍出来るとは思わないことね!
『立ってる物は親でも使え、の精神でござるな。なんとも
「なるほど……そういうお話でしたか……いや、なんとも……答えにくい話ですね……」
藍染は頬を軽く掻きながら、なんとも言いにくそうな様子でした。
――って、あれ?
「あの、藍染隊長……失礼ですが、お体の具合でも悪いのですか? なんだか顔色が悪いように見えますが……」
「いや特には……強いて上げれば少し眠れない日が続いているぐらいですよ」
なんとなく藍染が疲れているというか、やつれている……?
ちょっと弱っている感じでした。
なんでかしら? あんなに偉そうに悪の親玉みたいな態度と言動をしてたのに、ひょっとして緊張して眠れぬ夜が続いてるのかしら……?
だとしたら可愛いわね、遠足前日の子供みたいで。
「そうですか。話の腰を折ってしまい、申し訳ありません。何か不調を感じたら、四番隊にご連絡くださいね」
「そうさせて貰います。それと、先ほどのお話ですが……」
おっと、藍染が声を潜めてきました。
「確かに、僕の目から見ても今回の事件は異常だとしか思えません。確かに彼女の罪状は重罪ではあるものの、極刑に処すほどではない。前例すらない」
「ですよね。私もそう思います」
「四十六室の決定とはいえ、異例づくめである以上は僕たちにも異を唱える権利はあるはずだ。できる限りだが、協力させてもらうよ」
「ありがとうございます!」
まあ、眼鏡を掛けてる藍染だったら、立場的にこう言うしかないでしょうね。
内心は「何でこんなことしなきゃいけないんだ!!」と
と、ラスボスから協力を取り付ける言質を取ったところで――
「――
瀞霊廷全域を対象とした緊急警報が発令されました。
「これは……!?」
「どうやら、何者かが
これ多分、一護たちが来たって事ですよね?
よかった……諦めて高校生の夏を満喫しようぜって思考になってたら、どうしようかとずっと気になってたわ。
『作中の日付としては、八月になったばかりでござるからなぁ……まだまだ遊びたい年頃でござるよ……一夏のアバンギャルドぉ……』
今日の一護は、特に描写する部分がないので休載。
(タイミングとしては兕丹坊と戦うちょい前ですので)
多分、次話は大量になります。
●馬謖
山に登った(山の上に陣取った)ことで、やらかした。三国志の有名人。
●あっち側の裏側(※ イメージ)
??「朽木家から訴えが来ましたよ。あ、また来ました。あ、さらに来ましたよ。これ、処理しないと不審に思われるんとちゃいますか?」
??「またか!! 連日連夜、こちらの都合も考えずに……全く、面倒だが対応しないわけにはいかないだろうね……鏡花水――」
??「おや、今度は十三番隊からも訴えが来てますわ。連名で山のような書類が。あ、こっちは四番隊の隊長さんから」
??「もうやだ!! 限界!! 残った事務仕事は全部キミがやれ!!」
??「いやいや、ボクじゃ不審に思われますってば」
??「え、栄養ドリンクです……(←目が見えないので手伝えない)」
多分きっと、こんな感じ。