お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第12話 霊術院ってどんなところ?

 どうも。

 一年二組――特進クラスに落ちた女――湯川(ゆかわ)藍俚(あいり)です。

 

 始業式も終わり、本格的に授業が開始してからおよそ一ヶ月が過ぎました。

 

 霊術院の授業というのは、高校と大学の合いの子みたいなシステムでした。

 必須カリキュラムがある程度は決めれていて、その他は自由選択。当人が好きな授業を選択して学ぶことが出来る、といった感じです。

 斬術に不安があれば、斬術を多めに特訓すればいい。鬼道を伸ばしたいので、さらに鬼道の講義を取ってもいい。個人個人の適正や好みもあるので、そういった部分は自由です。

 ただまあ、斬拳走鬼の全てを最低限は学ぶ必要はありますが。他は捨ててどれか一本伸ばしでも何とかならなくはない、みたいです。

 ……走を疎かにした死神が戦いで活躍できるかは知りませんが。

 

 あ、ちなみにこの自由選択は本当に自由です。

 先週は斬術を取ったので、今週は鬼道を学んじゃおう――みたいなことをしても、咎められません。

 最悪サボってもOKです。自由選択どころか、必須選択ですらも。こんな授業形式だからか出席は重要視されていないんですよね。

 

 その代わり、といっては何ですが。

 全員で連携して一体の強力な(ホロウ)を倒そう。みたいな連携訓練は特に行われないみたいです。この辺は死神としての矜持なのでしょうか?

 一対一に拘りがちな部分があります。

 

 そして、意外に思うかもしれませんが、筆記試験が殆ど行われません。

 霊術院の試験は、実技が全てです。

 なにしろ授業で習うのは死神の実務に通じる事柄ばかり。なので、各人の実技を見れば知識が身についているかも一目瞭然、自然にわかる。とのこと。

 どれだけ知識があってもその知識を実際に活かすことが出来なければ何の意味も無い。とのこと。

 

 最初にペーパーテストがないと聞いたときの私の驚きっぷりと、周囲の"何言ってるの? 当然でしょう"という反応の落差がちょっとだけ辛かったです。

 

 

 

 それはそれとして。

 

 

 

 現在は、必須授業の真っ最中です。

 ただ必須授業の中には、色々とぶっ飛んだのもあるわけでして……

 

「そこかっ!」

 

 同級生の攻撃を、私は目を瞑ったまま(・・・・・・・)回避します。

 如何に木刀の一撃とはいえ、当たれば痛いですからね。声を上げて位置を自分から知らせてくれたのもありがたいです。

 

「ふっ!」

「うわっ!?」

 

 回避のすれ違いざま、相手の木刀を上段からの一撃で叩き落とします。予想外の一撃を受けて、彼はあっと言う間に木刀を取り落としました。これが実戦ならば致命的な隙ですね。

 

「そこまでっ!」

 

 教師の言葉が聞こえ、同時に明かりが消えて暗闇が戻ってきたのが感覚で分かります。

 

「次!」

「応ッ!!」

 

 そこから間を置かずに、新しい相手がやってきました。

 先程の相手よりも大柄な男子生徒。背は私と同じくらいですね。今は木刀を肩に担ぐようにして、まともに構えていないのがよく見えます(・・・・・・)

 

 そろそろ、何の授業をしているのか分かりましたか?

 

 正解は"闇夜の戦闘訓練"でした。

 

 月明かりすら存在しない夜の闇の中、(ホロウ)と戦うための訓練です。視覚では何も見えぬ場所での戦いなので、その対応策として鬼道で灯りを生み出したり、夜目を鍛えたりもするそうですが。

 基本は霊圧知覚を研ぎ澄ませて相手の動きを把握するのが骨子となります。

 

 ええ、相手の動きを把握するだけです。間違っても、真っ暗な中で十全に戦うための訓練ではありません。

 でも私の場合、どうにも霊圧知覚で相手の様子がよく見えてしまって。相手の把握どころか一挙手一投足レベルで感知しています。教師からも「自分よりも闇の中で良く動けているのだから、訓練相手を務めてくれないか?」と無茶振りされる始末です。

 

 その結果が(コレ)です。

 

 目を閉じて応戦しているのも、相手が灯りを付ける場合に備えてのこと。せっかく知覚できているのなら、少しでもその訓練のためにと思ったので。

 

「ねえ、訓練とはいえもう始まっているんだから。構えないってことは襲ってもいいのかしら?」

「……ッ!?!? み、見えてんのか!? この暗闇の中で!?」

 

 少し脅すように言うと、相手が焦って木刀を正眼に構えます。

 そういえば、これが今回の授業の最後の相手でしたね。なら、ちょっとだけ悪戯(サービス)してあげましょうか。

 

「構えても灯りを付けない、ってことはそのままでいいのよね? なら……ッ!」

 

 ここで息を吐く音をわざと大きく響かせて"これから攻撃するぞ"と遠回しに伝えます。はてさてその効果はあったようで、ビクッと反応しながら力を込めました。

 ならばと、大きく跳躍します。

 暗闇で何も見えずとも音は聞こえるわけですから、相手の耳にも私が飛び跳ねた音は聞こえたことでしょう。

 真っ暗な中で、音を頼りにしている。ならば、そこが狙い目です。

 

「ど、どこから来るッ!?」

 

 相手がキョロキョロと辺りを見回して私を探しています。暗闇に揺らぎの一つでも見つけられないかと思っているのでしょうが、無駄です。

 だって今の私は空中を走っているのですから。

 

 中空に漂う霊子を霊圧で固め、道無き場所に道を作る技術――死神が空を駆けるのも、この技術があってこそです。そして霊子で霊圧を固めるのは虚弾(バラ)で学んだ技術の応用も可能。

 頭の上によーく目を凝らせば、相手にもきっと霊子の道が見えたことでしょう。

 

「どこを見てるのかしら?」

「ヒッ!?」

 

 音も無く背後に降り立つと、そっと声を掛けます。正面から、それも攻撃が来ると思っていただけにその驚きは相当でしょう。飛び跳ねながらも、それでも死神見習いとしての意地か。

 無茶苦茶な軌跡を描きつつも攻撃してきました。

 

 ――血装(ブルート)

 

 その攻撃に合わせるようにして、無言で血装(ブルート)を発動させて身体能力をこっそり強化します。途端に攻撃がスローモーションになったような感覚を体験しながら、合わせ打ちの要領で一撃を叩き込みました。

 

「ぐはああぁっ!?」

「あ……あら?」

「そ、そこまで!!」

 

 見えぬまま、攻撃を受けるという覚悟も出来ぬままに一撃を受けたのが原因でしょうか? 相手は吹き飛んでいきました。

 霊圧知覚で教師も簡単な状況だけは把握していたのでしょう。慌てて制止の声が一拍遅れて聞こえてきました。

 

「だ、大丈夫か!?」

「ごめんなさい、ちょっとやりすぎたわ!」

 

 暗闇での訓練のため、万が一としてついていた補助員も含めて、状況が分かっている者たちがわらわらと集まってきています。ですが状況判断は私が一番上。なにしろ当事者ですから。

 

「お、おお……!?」

 

 吹き飛ばした相手に慌てて近寄ると、すぐさま回道を唱えて傷を癒やします。

 

「ほう、立派なものだ。もう回道が使えるのか」

「まだまだ未熟ですけど、このくらいは」

 

 回道とは四番隊の隊士が使う回復用の鬼道です。

 それに霊術院では救護・医療についての授業も――選択授業の上、人気はほとんどありませんが――あります。

 お忘れかも知れませんが、私も四番隊志望ですからね。その授業を受けていて、なんと救護系の成績はトップですよ!

 

 ……人数少なくて、成績優秀な人が取ってないからですけどね。

 

「すみません、やりすぎました」

「い、いや。大丈夫だ」

「応急処置みたいなものなので、あとでちゃんと救護室に行ってくださいね」

 

 しばらくすると怪我も完治したのか、身体を起こしながらそう答えます。意識もはっきりしているようで、どこかを庇って無理な動きをしているわけでもない。とはいえまだ見習いの治療ですから。ちゃんとした医者に診て貰うことを勧めておきます。

 

 

 

藍俚(あいり)さん! お疲れ様でした!」

「湯川さんすごいのね……私も少しは自信があったのだけれど、ここまでは……」

 

 最後に一騒動――原因は私ですが――ありましたが。とにかくこれにて本日の特別授業は終了しました。

 この授業は全体訓練なので、一組二組は関係なく全員が受けています。なので綾瀬さんは当然として、蓮常寺さんもいます。二人とも今回は振るわなかった様でどこか落ち込んだ様子を見せていました。

 

「あはは、たまたまよ。それに私のやり方は、本来のやり方とは違うから」

「でも、灯りも無しに戦えるのならそれはそれでやり方の一つとして誇るべきよ」

「そうです! 先生だってあれだけの動きは出来なかったんですから!!」

 

 周囲にいるクラスメイトたちも、そうだそうだと頷いてきます。そう言って貰えると、師匠と特訓していたあの時間も無駄ではなかったんだと少しだけ誇らしいです。

 でもあの授業、暗闇の中で戦う技術じゃなくて、暗闇の中という不利な状況から如何に有利に戦うかを学び考えるのが目的みたいだったんですけれどね。

 私の"月のない夜ドンと来い! 暗殺者なんて返り討ちにしてやるぜ!!"みたいな動きを参考にされて良いものなのか……?

 

 

 

 ――後日。

 

 最後にぶっ飛ばした彼ですが、特進クラスでも斬術が得意としてそこそこ有名だったみたいです。そこに私にぶっ飛ばされたことで自信がグラついたのか、はたまた変な性癖にでも目覚めてしまったのか。

 私を見る度に"姉御!"と呼んでくるようになりました。

 

 ……そういうのは要らない。

 




●霊術院
どんな形式で授業を行っているのかの描写が原作にないので適当に設定。

「実技がメイン」は小説 BLEACH letters from the other side - new edition - より。
なるほど、納得。
(でも十一番隊の荒くれ共がお行儀良くペーパーテストで「分数の割り算はこうやるんだよ」とか言ってたら、絵としては面白いですね)

「闇夜の戦闘訓練」は小説 BLEACH Can't Fear Your Own World Ⅲ より。
少なくとも京楽が院生だった頃は必須科目。
本当なら霊圧知覚で「相手がここにいる。攻撃してきそうだ」を感じ取り、距離を取って明かりのある場所まで逃げるのがセオリー。
なのですが……お尻を触られ続けたのは無駄ではなかったようです。

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