お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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ちょっと休ませてください。具体的には今月いっぱいくらい。


第120話 緊急隊首会

 旅禍襲来の報についてですが、現れたのは西流魂街――それも門の外側。

 西門の門番、兕丹坊が旅禍の相手をするものの、返り討ちにされる。

 その後、あろうことか兕丹坊が自ら門を開け放ち、旅禍を瀞霊廷へと招き入れようとするものの、三番隊隊長 市丸ギンがこれを阻止。

 門は死守され、旅禍は流魂街へと押し戻された。

 

 その後の旅禍たちの行方は不明ながらも、壁の向こう――流魂街へ閉じ込められ、瀞霊廷への侵入は無いと判断されたため、問題にはされず。

 襲来してきた旅禍たちについては、十二番隊の観測結果によれば五名。

 市丸ギン隊長の報告によれば「一人は萱草色(かんぞういろ)の髪をした死神だった」とのこと。

 他の四名については人相や風体などといった詳細も不明。

 

 また、兕丹坊の安否についても不明。

 ただし怪我を負ったことは確実――旅禍の瀞霊廷への侵入を阻止するため兼、旅禍を招き入れた罰として兕丹坊の片腕を切り落としたと、市丸ギン隊長は証言している。

 

 詳細および続報については、調査中。

 

 

 

「やれやれ……ルキアさんの事でも大変なのに、旅禍が来るなんて……忙しないわね」

 

 というのが、今回の旅禍襲来後の第一報。

 各隊隊長へと配布されたその報告書を、隊首室にて丁度目を通し終えたところです。

 

「……心配ですか?」

「そりゃあ勿論、今はルキアさんのことで頭も手も一杯よ」

 

 勇音の言葉に頷きます。

 

「彼女、なんとかしてあげたいのよ……もう予定日まで十四日を切ってるから……」

「十四日……あっ! そ、それって確か……!!」

 

 通例では、処刑日まで十四日を切ると、極囚は懺罪宮(せんざいきゅう)四深牢(ししんろう)へと移送されます。

 その牢は窓から双殛(そうきょく)と呼ばれる処刑道具が見えるように設計されており、毎日眺めることで己の犯した罪を悔いる――それが懺罪宮と呼ばれる所以だそうです。

 

 ……処刑道具を一日中見せつけることで「もう少しすると自分はアレで殺されるんだ……自分はなんて愚かな事をしたんだ……」と精神的に追い詰めるのが目的という、とんでもねぇドSな目的の牢獄ですね。

 私は入ったことありませんけれど。

 

 どうやら勇音も知っていたようで、それに気付いて顔を青ざめさせています。

 

「そう、懺罪宮よ。扉を除けば、中にあるのは窓のみの牢獄。でもその窓から見えるのは、自分の命を奪う時を今か今かと待っている処刑道具だけ……」

「うぅ……考えただけで気が滅入りそうです……」

 

 怯えるのも無理ありませんね。

 勇音が想像しただけでこれなんですから、今まさに体験しているルキアさんはどれだけの精神を摩耗させられていることやら。

 移送には阿散井君が立ち会ったらしいだったけれど、彼も彼で辛いでしょうね。

 

「……せめて、件の旅禍がもう少し粘ってくれたらねぇ……状況を混乱させてくれれば引っかき回す好機だって……」

「た、隊長!!」

 

 あら、いけない。

 うっかり口に出ちゃってたわ。てへ、藍俚(あいり)ちゃんってばうっかり屋さん。

 

 そんな私の呟きを耳にした途端、勇音が驚いたように声を張り上げました。

 

「私は……隊長のお力になりたいと常々思っています! 朽木ルキアさんの件についても、及ばずながら協力させていただきます! で、ですけど……い、今のは聞かなかったことにしますぅ!!」

「ふふ、ありがとう。頼りになる副隊長で嬉しいわ」

「えへへ……」

 

『さらーっと勇音殿の反応を窺い、味方に引き込むような真似をしてるでござるなぁ……藍俚(あいり)殿ってば本当に逞しくなられて――』

 

 ――カンカンカンカン!!

 

『な、なんでござるかなんでござるか!? 鐘の音が鳴りまくってるでござるよ!!』

 

 射干玉が真っ先に反応するの!? こういうのって私の役目でしょ!!

 

 ……こほん。

 

 こんな風に、四番隊の隊首室にて二人でお話をしていたところ、緊急事態を知らせる鐘の音が鳴り響きました。

 伝令神機も普及しているはずなのに、時々アナログなのよね尸魂界(ソウルソサエティ)って。

 

「隊長各位に通達! 只今より緊急隊首会を招集!! 繰り返す――」

 

 なおもアナウンスは切羽詰まった様子で続いていますが、それを気にしている余裕はもはやありません。

 

「隊首会!? それも緊急!? ということは、おそらく議題は……あれのことでしょうね」

 

 ちらりと、執務机の上に置いた報告書を一瞥します。

 

「さて、どうなることやら……ほら、行くわよ勇音も」

「あうぅ……い、行かなきゃ駄目です……よね……」

「緊急の隊首会よ? 副隊長も行かなきゃ駄目に決まってるじゃない」

「はいぃ……」

 

 隊首会は基本的に、隊長副隊長を伴って出席します。

 隊長が会議をしている間、各部隊の副隊長は側臣室(そくしんしつ)という部屋で待機をしているわけです。

 まあ、中には待機せずに抜け出して会議をこっそり聞いちゃう副隊長もいますが、基本的には待機です。

 

 で、勇音が嫌がっている理由ですが。

 

 ……ちょっと前の話になるのですが、隊首会が開催される度に各部隊の副隊長が疲弊しているという小さな事件が発生しました。

 原因は言わずもがなです。

 だってほら、思い出して下さい。十一番隊の副隊長……

 

『なんでも、同じクラスにやべー不良がいる高校生みたいな緊張状態になってるそうでござるよ! 休み時間でも自由に騒げない、シーンと黙って椅子に座ってるだけ! みたいなイメージでござる!!』

 

 別に、更木副隊長は相手を選ばず噛みつく狂犬ではないので、そこまで気にする必要は無いんですけどね。

 ですがそうと分かっていても、威圧的な容貌がどうしても……

 "絶対に噛まない、襲わない"と保証されていても、ライオンを撫でられる人間はそう多くはない。というわけです。

 

 卯ノ花隊長もそれを分かってか、少ししたら草鹿三席を一緒に出席させているみたいですよ。

 あと海燕副隊長も色々と気を遣ってくれてるみたいで、かなり改善されたらしいのですが……それでも勇音は未だに慣れないみたいで……

 

 というわけで、半べその勇音をあやしつつ、出発しました。

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

「朽木隊長、どうも」

「これは湯川隊長」

 

 隊首会の会場へと向かったところ、そこには総隊長と白哉が既に待機していました。

 二人だけで、他の隊長はまだいないようです。

 

 総隊長は、この隊首会を招集した張本人ですから先にいるのは当然。

 白哉はといえば、ここしばらくは仕事を休んで家でずっと「ルキアさんの処刑を再考して欲しい」と上申書を送り続けているので、来るのも早かったようです。

 

「少し、お疲れのようですが……」

「ええまあ……気がかりが多すぎて、眠れぬ夜が続いて……」

 

 ……あら?

 ちょっと前にもこんな話をしたような……

 

「――ごほん」

「「ッ!!」」

 

 総隊長が咳払いを一つした途端、私たちは背筋を正して口を噤みました。

 私語厳禁、ってことですね。

 

 でも、まだ三人しか集まってないんですからちょっとくらい良いじゃないですか……

 

 そもそも隊長の都合を考えない緊急の隊首会なんですから。

 隊長が尸魂界(ソウルソサエティ)の外れにいるかも知れないんですよ! その場合、開始までにどれだけ時間が掛かることやら……

 

 

 

「……来たか」

 

 案の定、全員が集まった頃には日が沈んでいました。

 私が来たのって、まだお天道様が上にいたんですよ……待ちくたびれました……

 長い時間を掛けて各隊長がポツポツと集まってきて、そして最後の一人がようやくやってきたところで、それを察した総隊長が重々しく口を開きました。

 

「さあ、今回の行動についての弁明を貰おうか! 三番隊隊長、市丸ギン!」

 

 姿を見せた市丸ギンを十二(つい)二十四の視線が貫きます。

 

『お一人は盲目ですので、二十四の視線にはならぬのではござらぬか?』

 

 ……それもそうね。東仙の分は勘定から外しておきましょう。

 

「何ですの? イキナリ呼び出されたか思うたらこない大袈裟な……」

 

 鋭い視線で睨まれているにも関わらず、市丸は飄々とした態度を崩すことはありません。不適な笑みを顔に貼り付けたまま、総隊長との受け答えを始めました。

 

 議題は、先日の一護たちを取り逃がしたという失態についてです。

 ついでに言えば単独行動をしたというのも問題になっていますが、そこは一護たちを捕まえれば相殺してお咎め無しになっていたでしょうから。

 なので「お前隊長だろ? なんで失敗したの? 説明しろ」というのが今回の隊首会の目的です。

 

「どうじゃい。何ぞ弁明でもあるかの……市丸や?」

 

 今回の招集目的を語った後に、ずいっと凄みを見せながら総隊長は市丸からの返事を待ちますが、けれども向けられた市丸は涼しい顔のままでした。

 

「ありません」

「……何じゃと?」

「弁明なんてありませんよ。ボクの凡ミス、言い訳のしようもないですわ」

「……ちょっと待て、市丸……」

 

 あっさりとミスを認める市丸と、その姿を見て藍染が何かを言いかけたところで――

 

 ――ガンガンガンガン!!

 

「緊急警報!! 緊急警報!! 瀞霊廷内に侵入者有り!! 各隊守護配置について下さい!!」

 

 日中、緊急隊首会を開く際に鳴ったそれよりも一段と重々しく激しい音色を立てながら警報音が鳴り響き、侵入者を知らせるアナウンスが響き渡りました。

 

「侵入者!?」

「まさか、例の旅禍では!?」

 

 各隊長たちは驚いています。

 

 けど、コレって確か一護たちがやってきた警告ですよね?

 

「……致し方ないの……」

 

 けたたましく鳴り響く警報に顔を曇らせつつも、総隊長はどこか納得しきれぬ様子で口を開きました。

 

「隊首会はひとまず解散じゃ! 市丸の処置については追って通達する。各隊、即時廷内守護配置に――」

「あの、総隊長」

「なんじゃ?」

 

 総隊長が口にしようとした言葉を遮って、私は口を開きます。

 

「言葉を遮ってしまったことは、申し訳ございません。ですが一つ考えがあるのですが……提案、良いでしょうか?」

「……申してみい」

「ありがとうございます」

 

 総隊長から許可を貰い、私は腹案を口にしました。

 

 

 


 

 

 

不定期連載 今日の一護

 

 

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)へとやってきた一護君とそのお友達のみんな。

 西門にて兕丹坊と市丸ギンとの戦いこそ乗り切ったものの、その後が大変です。

 侵入者がいるということで瀞霊廷内は警備が厳重になったことは想像に難くありません。

 

 そのため、にゃんこ姿の夜一さんは門以外から入ることを提案しました。

 

「長老殿、志波空鶴という者の所在をご存じか? 以前のままなら確か、この西方郛外区(せいほうふがいく)に住んでおったと記憶しておるのじゃが……」

「志波空鶴……ああっ! 都殿の妹さんですな!!」

「……は?」

 

 何故か少しだけ鼻の下を伸ばしたような表情を見せる西流魂街の長老の姿に、夜一さんは間抜けな声を漏らしました。

 

「おや、志波家のことはご存じなのに、都殿の事をご存じありませんでしたか? 海燕殿の奥方様ですよ」

「なんじゃと!! 奥方!? け、結婚しおったのか!! 海燕のやつがかぁ!?」

 

 どうやら長老の話は、夜一さんはどれも初耳だったご様子。

 声を裏返して悲鳴のように叫びます。

 

「あっ! また出やがったなその海燕って名前!! 一体誰なんだよそれ!!」

「喧しいわ!! ちょっと黙っておれ!!」

 

 一護君が耳聡く"海燕"の名前に反応しますが"よるいち の みだれひっかき! こうか は ばつぐんだ!"な結果になりました。

 「ぐおおおおおっ!!」と痛みに悲鳴を上げながら転がり回る一護君を無視して夜一さんは話を進めます。

 

「儂はそんなこと全然知らんぞ……いやまあ、状況を考えれば知らぬのも当然なのじゃが……ぐぬぬ、いったいどうなっておるのじゃ……?」

「その……にゃんこ殿……? 志波家の方が住んでる家ならば、知っておりますが……」

「む! 知っておるのか!!」

「ええ、勿論! というよりも、この西流魂街に住む者ならば誰でも知っておりますぞ!」

「……なに?」

 

 みんな知ってる、と言う言葉になんだか負けたように肩を落とす夜一さん。

 でも仕方ないよね。

 都さんの人気に流魂街の人たちは老若男女問わずにメロメロになってるなんて、現世じゃ知る機会もなかったんだから。

 さもシリアスなことのように尋ねた自分がバカみたいだって思ってしまっても、知らなかったんだから仕方ないよね。

 

 

 

 そうそう、それと一護君ですが。

 

「大丈夫か、一護……」

「な、治したほうがいい……?」

「……男前になったな黒崎」

「石田! これのどこが男前だ!!」

 

 みだれひっかきを喰らって撃沈していたものの、雨竜君の言葉にすかさず反応してしっかりとツッコミを入れる辺り、流石は主人公でした。

 

 

 

 

 その後は、夜も遅くなっており、慣れぬ夜道を歩くのは危険ということで長老さんの家に一晩ご厄介になってから、一護君たちは志波家に出発することになりました。

 

 ……あ、泊まった時に岩鷲君なんて出てきませんよ。

 

 海燕さんは生きてる。

 空鶴さんも隻腕になっていない。

 都さんという義理の姉もいる。

 藍俚(あいり)に子供の頃から気に掛けて貰っている。

 

 こんな状況の彼が「自称・西流魂街一の死神嫌い!」なんて言いながら出てくるなんてありえませんからね。

 巨大イノシシのボニーちゃんに跨がって、暴走族まがいのことをするようなひねくれた性格に成長するような下地すらありません。

 

「さて、地図だとこの辺なんだけど……」

「むぅ……おかしいの」

 

 志波家を目指して歩いている途中、夜一さんが怪訝そうな声を上げました。

 一体どうしたんでしょうか?

 

「本当に近くまで来ておるのか?」

「ええ、そのはずですよ。ほら」

「ならば……どうして旗持ちオブジェが見つからんのじゃ?」

 

 雨竜君の見せた地図を確認してから、さも不思議そうに呟きました。

 

((旗持ちオブジェってなんだーーっ!?))

 

 一護・雨竜の二人は心の中で激しくツッコミを入れます。

 

「ム……旗持ちとは、アレか……?」

 

 同じく話を聞いていた茶渡君が、めざとく何かを見つけたようで指をさします。

 その先には"志波空鶴"と書かれた、いわゆる"のぼり旗"が一本だけはためいていました。

 

「なんじゃ……? 今回は随分と貧相じゃのう……」

 

(旗持ちオブジェ……? オブジェなのかあれ……?)

(貧相ってことは、もっと派手な時もあったということか……!?)

「なんだかラーメン屋さんが開店したときみたい」

 

 なお旗の後ろには志波家があります。

 なので織姫ちゃんの表現も一理あったりします。

 

 とにかく。

 そのまま夜一さんの顔パスで金彦・銀彦のチェックを通り抜けて、志波家の中へと通されて空鶴さんとのご対面と相成りました。

 

「よう、久しぶりじゃァねぇか、夜一」

 

 空鶴さんのお部屋へと通された一護君に、空鶴さんが挨拶します。

 

「まあ、空鶴のお友達かしら? 初めまして、志波 都と申します」

 

 そして彼女の隣には、たまたま空鶴の部屋へと遊びに来ていた都さんが同席していました。

 

「お、おんなぁ!?」

「てか都って、流魂街で話題になってたあの!? この人が!?」

「じゃあこっちが空鶴って人か!?」

「そういえば妹だと言ってたような……」

「んな大事なことならなんでもっと早く気付かなかったんだよ石田!!」

「うるさいな黒崎! キミだって気付かなかっただろう!!」

 

 ツッコミ役の二人はギャーギャー騒いでいます。

 そして織姫ちゃんと茶渡君はというと――

 

「綺麗な人……」

「目のやり場に……困るな……」

 

 ――都さんと空鶴さんについて、感想をこぼしていました。

 女性でも見惚れてしまいそうな都さんから目が離せない織姫ちゃんと、露出度の高すぎる空鶴さんから必死に目を逸らす茶渡君なのでした。

 

「うっせぇぞガキ共!! ……ん? おい、そいつは……」

「あら? あらあら……?」

「な、なんだよ……?」

 

 空鶴さんと都さん、二人がそろって一護君を凝視します。

 

「兄貴!?」

「海燕!?」

「またその名前かよ!! どーなってんだよ尸魂界(ソウルソサエティ)ってのは!!」

 

 顔も知らぬよく似た風貌の相手に間違われ続けてストレスが溜まっていたのでしょうか? 一護君の魂が籠った絶叫が志波家に響き渡りました。

 

 

 

 

 

 

「ところで空鶴、あの旗持ちオブジェは一体……?」

「ああ、あれは姉貴が派手なのを嫌がってな……あんなのぼり旗でも、認めさせるのに苦労したんだぜ……」

「そ、そうか……」

 

 なにやら人知れぬ苦労があったようです。

 




●夜一さんの知識について
現世に逃げてからここで登場するまでの間、尸魂界で起きた事件をどのくらい知ってるのか、の線引きについてのことです。

ちょっと悩んだ結果"面白くなればそれでいいや"と結論づけました。
(なので「結婚したのか!?」とか「都って誰!?」と驚いてます)

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