お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第122話 今日の一護 ~拡大版~

 海燕という名前に振り回されていた一護君。

 ここに来て、ようやく都さんと空鶴さんから説明のチャンスを得られました。

 ですが、人生というのはそう上手くは回ってくれないもので……

 

「姉ちゃん! なんだよ今の大声は――!?」

 

 空鶴さんの部屋から聞こえてきた、志波家には少々似つかわしくない大声を聞きつけ、岩鷲君が様子を見にやってきました。

 

「母様、どうしたの?」

 

 そして彼の姪、氷翠(ひすい)ちゃんも岩鷲君に連れられて登場です。

 

 海燕さんと都さんのお子さん、志波 氷翠(ひすい)ちゃん。

 今までの登場シーンでは赤ん坊の姿でしかありませんでしたが、あれから時間は十分に経過しており、今や少女と呼べる程度の容姿に成長しています。

 見た目はお人形さんのように華奢で可愛らしく、特別にあしらえた小袖がよく似合っていて彼女の容姿をより魅力的な物にしています。

 志波家の者によく見られる、義理人情に熱い親分肌といった印象は薄く、どちらかといえば冷静でクールな印象が見られますね。

 

 加えて、やはり志波家に産まれたからでしょうか。

 小さな身体に似つかわしくない、強い霊圧を宿しています。

 まともな霊圧知覚を持っていたら、この子はとんでもない才能を持っているとすぐにわかったことでしょう。

 

 ついでにいうと、見た目はともかく実年齢は十歳を超えています。

 一護君とは、年の近い親戚という関係になりますね。

 

「なっ!?」

「え……?」

「また新しいのが来た!?」

 

 何の予備知識も無い状態で出会ってしまった、一護・岩鷲・氷翠(ひすい)の親戚。三人はしばらくの間、驚きのあまり固まったまま見つめ合ってしまいました。

 

「海燕の兄貴!?」

「父様……?」

「んで、またその名前か!! ……って、父様だと!?」

 

 そしてお約束の海燕に間違われるのに加えて、さらに父親と間違われています。

 ましてや氷翠(ひすい)ちゃんは、見た目だけで判断すれば小学校低学年くらいの幼女です。

 そんな子供から知り合いが父親呼ばわりされたとあっては、多感な時期の高校生たちは動揺を隠せません。

 

「黒崎……なるほど。隠し子がいたのか」

「く、黒崎君……駄目だよそんなの!! ちゃんと父親としての責任を!? え!? あれ……?? え、じゃあお母さんは誰……? 黒崎君に恋人がいたの……?? 私、そんなのしらない……」

「ばっ、馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ!! 俺がそんな無責任な男に見えるかコラァ!! あと井上!! 違うからな!! 俺はまだ誰にも手を出しちゃいねぇ!!」

 

 からかうような雨竜君の言葉と、本気で信じ込んで心配したり混乱したりしている織姫ちゃん。ましてや一護君に好意を抱いている織姫ちゃんは大混乱してしまい、つられて一護君も大混乱です。

 

「まだ……?」

「違う!! チャドもからかわねぇでくれよ!!」

 

 もうやめてあげて! とっくに一護君の精神はいっぱいいっぱいよ!!

 

「ううん、よく見たら違う……あなたはだぁれ? 父様のお友達?」

「だよな! 髪がオレンジ色だし、兄貴はこんなに凶悪そうなツラはしてねぇ!」

「誰が凶悪そうなツラだって!? てかオメェー初対面の相手になんてこと言いやがる!!」

「あぁん!? そっちこそ紛らわしい顔しやがって!! ウチの姪っ子が困ってるじゃねぇか!! とっととそのツラ整形して出直してこい!! てか、俺が顔の形を変えてやろうか!? この拳でよぉ!!」

「っるせーぞテメェら!!!!」

 

 一護君と岩鷲君、初対面のはずなのですが何故か異常なほど息の合った喧嘩を始めました。こういった所は、もしかしたら彼らが親戚だという証拠なのかもしれませんね。

 

 とあれ、いきなり険悪な雰囲気で口喧嘩を始めた二人に、空鶴さんの怒りのゲンコツがたたき込まれました。

 

「……うぐ……」

「姉ちゃん、ごめんなさい……」

 

 とりあえず二人仲良く地面を舐めることで、この騒ぎは一旦静まりました。

 

「岩鷲兄様、大丈夫ですか?」

「お、おう……なんたって俺は、兄貴みたいな死神目指して修行中だからな。この程度は、なんでもねぇよ」

 

 姪の心配に、岩鷲君は痛さを堪えて元気満点な姿を必死に見せます。

 年上としては情けない所は見せられませんからね。

 

「それとこっちの……」

 

 続いて氷翠(ひすい)ちゃんは、一護君の方も心配してくれます。

 ですが一護君を近くまで寄ると、彼女は相手を観察するようにじーっと見つめます。

 

「な、なんだよ……? 俺の顔に何かついてるか?」

「うん、やっぱり。父様じゃないけれど、どこか父様と同じ匂い……ううん、岩鷲兄様や空鶴姉様にも近いような……どうして……?」

「は……?」

 

 倒れている一護君の顔をのぞき込みながら、くんくんと犬のように匂いを嗅ぐ幼女の姿に、一護君も困惑気味です。

 落ち着いて! あなたたちは親戚なの! 今のところ、誰も知らないし気付いてもいないけれど!!

 

「あん? おれや岩鷲にも近い……? 氷翠(ひすい)、そりゃどういうこった?」

「空鶴姉様……ごめんなさい、よくわからないの……ただ、なんとなくそう感じて……」

「実は私も、なんとなくそう思ったの」

「都の姉さんもか!?」

「ほら、この子は海燕に顔つきが似ているし。氷翠(ひすい)がそう感じるのも当然かも知れないわね」

 

 志波家とは血の繋がりが無いからでしょうか、都さんもそう思っていたようです。

 

「……まさか!!」

「ん? どうした岩鷲」

「いや、さっきそっちで隠し子がどうとか言ってたから……いや! 海燕の兄貴に限って、そんなことはねえ!! ……と思うんだけどよ……」

「バ、バカかお前!! んなこと、思っても口に出すな!!」

 

 岩鷲君がさらっと、新たな火種になりそうな事を言いました。

 つまり"一護君は海燕さんの隠し子ではないか"と思ってしまったわけです。

 そんなことを奥さんのいる前で言うなんて、デリカシーがないぞ岩鷲君! そんなんじゃ、藍俚(あいり)さんに愛想を尽かされちゃうぞ!!

 

「あら、そんなこと……でも平気よ」

「え?」

「だって私は海燕のことを信じているから」

「「「おおーっ!!」」」

 

 さらりと言ってのけた妻として深い愛と信頼に、その場のほとんど――志波家側も現世組も含んだほぼ全員――が思わず拍手をしました。

 

「の、のう……空鶴。すまぬが、儂がここに来た理由を話したいのじゃが、よいか……?」

 

 ただ一人、話の流れとノリについて行けなくなっていた夜一さんだけが、申し訳なさそうにそう切り出しました。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、話は大体わかった」

 

 さて、気を取り直して。

 夜一さんは志波家まで来た理由を説明しました。

 

「仕方ねぇな……って、言いたい所なんだけどよぉ……」

 

 空鶴さんはちらりと横目で都さんを見ます。

 

 夜一さんは言ってしまいました。

 瀞霊廷内へ無許可で侵入するのに協力してくれと言ってしまいました。

 都さんたちもその場にいるのに、それも構わずに言ってしまいました。

 

「浦原も噛んでるなら、協力してぇんだけどよぉ……」

 

 空鶴さんが非常に歯切れ悪く呟きました。

 

 でも仕方ないですよね。

 都さんがかつて十三番隊で三席まで上り詰めた女傑だなんて、夜一さんは知らないんですから。

 これはつまり、元警官の前で「この屋敷に忍び込むのに力を貸してくれ」と依頼しているようなものです。

 しかも夜一さんたちは尸魂界(ソウルソサエティ)的には旅禍の立場ですから、密入国者が犯罪を犯そうとしている現場そのものです。

 

 でも仕方ないですよね。

 知らなかったんですから。

 

「夜一!! お前、頼むにしても時と場所を考えろ!!」

「む!? 何がじゃ!?」

「よりにもよって都の姉貴がいる前で! なんてこと言いやがんだテメェは!!」

「だから何がじゃ!? どういうことじゃ!!」

「あー……姉ちゃん? 俺、今の話は聞かなかったことにするわ。ほら、行くぞ氷翠(ひすい)

「あの、岩鷲兄様? 母様、今のお話は一体……?」

 

 危険を察知して、岩鷲君が氷翠(ひすい)ちゃんを連れて退席しようとします。

 退席というよりかは、避難と言った方が正しいかもしれませんね。

 氷翠(ひすい)ちゃんは何のことかキチンと理解出来なかったようで、頭の上に疑問符を浮かべています。

 

「待て岩鷲! もう聞いちまった以上は、テメェも同類だ!! 逃げたら俺が兄貴にチクる!!」

「ちょ……!! そりゃねぇよ!!」

「それと都の姉貴! 無茶言ってんのは百も承知だ!! けどよ、おれにも立場とか義理とかがあるんだ!! 頼む!! 目を零してくれ!!」

 

 岩鷲君の首根っこを掴むと、そのまま姉弟一緒に土下座をして都さんに懇願します。

 

「空鶴……? お主、一体……?」

「夜一! オメェも頭を下げろ!! 都の姉貴は、兄貴の嫁! 元十三番隊の三席なんだよ!! 実力は勿論強えし、下手すりゃ今すぐ兄貴に連絡されてお前ら一瞬で捕まるぞ!!」

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

 やっと夜一さんたちも、状況が飲み込めたようです。

 

「そ、それは……」

「どーすんだよ夜一さん!! 下手すりゃ俺たち、ここで終わりかよ!?」

 

 夜一さんに問い詰める一護君でしたが、そんな中で都さんに頭を下げる人がいました。

 

「あ、あの。私、井上織姫って言います! その、尸魂界(ソウルソサエティ)の法律からすると、私たちがやろうとしているのは悪いことだと思います。でも、朽木さんを助けたいんです! だから、お願いします!」

「い、井上……?」

 

 それは織姫ちゃんでした。

 都さんの前に座って、真摯に頭を下げています。

 

「そう、織姫さんって言うね……織姫さん。一つ、聞いてもいいかしら?」

「は、はいっ!」

「織姫さんは、どうして助けに行きたいの?」

「そ……それは……」

 

 織姫ちゃんは顔を真っ赤にして言いにくそうに口をもごもごさせていましたが、やがて小さな声で――都さんにだけしか聞こえないような小さな声で、答えました。

 

「く、黒崎君の力に、なりたい……んです……」

「そう……わかったわ」

 

 織姫ちゃんの恋する気持ちを悟り、都さんはにっこりと微笑みました。

 

「今回のこと、目をつぶってあげるわ。でもそれは、織姫ちゃんたちが瀞霊廷に入るまでの期限付き。それが終わったら、私は海燕に連絡する。これが、私にできる最大限の譲歩よ」

「ほ……っ……た、助かったぜ……」

「いや、姉ちゃん……結局兄貴に怒られるのは変わらねぇんじゃねえか?」

「いいや、お前はもっと怒られるんだよ」

「へ……っ!?」

 

 にやりと意地の悪い笑みを浮かべるお姉ちゃんの顔に、岩鷲君は背筋が寒くなるのを感じました。

 

「何しろ、お前もコイツらと一緒に瀞霊廷へ突入するんだからなぁ!」

「なっ!? なななな何馬鹿なこと言ってんだよ姉ちゃん!! 俺の立場は知ってんだろ!?」

「おー、当然知ってんぜ。霊術院生だろ?」

 

 実は岩鷲君、現在は死神になるために霊術院に通っています。

 お兄さんや憧れの人が死神になってますからね。

 姪の氷翠(ひすい)ちゃんも大きくなって、お母さんの手も掛からなくなってきたので、霊術院に入学したわけです。

 元々の素養に加えて、海燕さんや都さんから手ほどきも受けていたので、今のところ大変優秀な成績を修めているそうですよ。

 入隊確実と評されていて、ちょっと天狗になっているみたいです。

 

 そんな岩鷲君。

 いつもは寮から霊術院に通っているのですが、今は夏。霊術院も夏期休暇中です。

 なので実家の志波家に戻っていた所でした。

 今日は久しぶりの帰省で久しぶりに再会した姪の氷翠(ひすい)ちゃんと遊んでいたところ、夜一さんたちが尋ねてきて、こんな風に巻き込まれてしまったというわけです。

 間が悪かった、というべきなんですかね。

 

「わかってんなら、なおさらだぜ! 霊術院生が旅禍に手を貸して瀞霊廷に侵入したなんて知られたら、退学どころじゃ済まねぇよ!! 下手すりゃ殺される!! 頼む姉ちゃん! 考え直してくれ!!」

「うっせーな! コイツらが悪さしねえように見張ってましたとでも言やぁ良いだろ」

 

 必死に懇願しますが、お姉ちゃんは聞く耳を持ってくれません。

 

「それにだ! 花鶴射法(かかくしゃほう)でコイツらを瀞霊廷にブチ込むにゃ、打ち上げ係以外にも細かい操作をする係が必要なんだよ!」

「やっぱり花鶴射法(かかくしゃほう)かよ! てか、それなら姉ちゃんが行けば良いだろ!! 俺は嫌だ!!」

「……あん?」

 

 苦し紛れに口にした言葉に、けれども空鶴さんは――

 

「なるほど……そいつはアリだな」

「へ……?」

「このところ刺激が足らねぇと思ってたんだ」

 

 ――ニヤリと物騒な笑みを浮かべました。

 

 

 

 

 

 

 

「ぬふあああ……!!」

 

 志波家の練武場から、一護君の情けない声が聞こえてきます。

 

 霊珠核(れいしゅかく)に霊力を注ぎ込んで弾丸にして、花鶴大砲で打ち上げて瀞霊廷へ突入するという説明はとっくに済みました。

 そして今は一護君が霊珠核へ霊力を注ぎ込もうとしています。

 

 ですがニワカ死神の一護君、普通の死神なら誰でも出来ることが満足に出来ません。

 霊力を込めようとしているのですが、まるで駄目。なんだか隔壁っぽいものがなんとなくできあがるだけです。

 雨竜君・織姫ちゃん・茶渡君の三人は少し練習しただけで出来るようになったのに、これはちょっと情けないぞ一護君。

 

「駄目だっ!! ぜんっぜん上手く行かねぇ!!」

「オメー……いくら何でも下手すぎるぞ。霊術院の一回生だって、もう少し上手くやらぁ」

「う、うっせーな岩鷲!! 人には向き不向きってもんがあんだよ!!」

「あらあら……」

 

 一護のみっともない姿を見ているのは、岩鷲たちだけではありません。

 都さんと氷翠(ひすい)ちゃんも揃って見ていました。

 

「……黒崎さん、少し良いですか?」

「あん? あんたは確か……都さん、だったよな……?」

「ええ、それとこの子は娘の氷翠(ひすい)です」

「よろしくお願いします」

「お、おう。よろしくな」

 

 なんともクールな氷翠(ひすい)ちゃんの態度に、一護君は気圧されてしまいます。頑張れ一護君、君の方がお兄ちゃんなんだから!!

 

「それと、霊力の込め方ですが……」

「母様、あれ私もやってみて良いですか?」

「え? うーん……無茶はしないでね」

「はい」

 

 氷翠(ひすい)ちゃんは、一護君から霊珠核を受け取り霊力を込めます。

 

「おお……うめぇ……」

 

 一瞬にして綺麗な真円をした隔壁ができあがりました。その見事さは一護君も思わず目を奪われるほどです。

 氷翠(ひすい)ちゃんは死神同士から産まれ、しかも志波家という特殊な家で育っています。

 そんな彼女からすれば、霊力のコントロールなどは出来て当然なのでした。

 

「――はっ!! か、貸せ! そのくらい俺だって……」

「駄目です」

 

 しばらく見惚れていた一護君ですが、自分よりもずっと小さい女の子がいとも簡単に出来たことで、年長者として恥ずかしくなったようです。

 奪い取るように手を伸ばした一護君でしたが、彼から逃げるように氷翠(ひすい)ちゃんは距離を取りました。

 

「一護さん、やり方が間違っています。霊力を込めるのに、力は要りません。私がもう一度同じ事をするのでよく見てて下さい。こうやってイメージをして……」

「お、おう……イメージだな……」

 

 年下の女の子から説教されるようにして説明を受けつつも、一護君は必死でやり方を学んでいきます。

 氷翠(ひすい)ちゃんが落ち着いた物言いをしているためか、自然と言うことを聞いているようです。

 

「それと、一番大事なのは集中を切らさないことです。母様も藍俚(あいり)おば様もそう言っていました」

「ああ、わか……ん? 誰だよ、藍俚(あいり)おば様って……?」

「? 藍俚(あいり)おば様は藍俚(あいり)おば様ですよ?」

「いや、そうじゃなくてだな……」

氷翠(ひすい)、黒崎さんは知らないでしょうから……その方は湯川藍俚(あいり)さんといって、四番隊の隊長のことです。私もこの子も、あの人には随分とお世話になっているんですよ」

 

 利発そうに見えても、やっぱり子供です。

 子供らしい問答巡りにお母さんが補足説明という助け船を出しました。

 ですがその名前を聞いた途端、一護君が眉間に皺を寄せます。

 

「ん……? その名前、四番隊……あっ! 俺のことを刺した死神じゃねぇか!!」

「え? まあ、そうだったんですか?」

「てことは何か!? 俺は自分のことを刺した死神から間接的に教えを受けてるわけか!? なんだよそりゃ……」

「むっ! 藍俚(あいり)おば様の悪口は駄目……!」

「いや、そういう事じゃなくてだな……」

 

 どこか、妹たちの世話をしている時を思い出しながら氷翠(ひすい)ちゃんへ必死に説明をする一護君でした。

 

 

 

 あ、霊珠核へ霊力を込めるのは、氷翠(ひすい)ちゃんの教えもあってすぐに成功しましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして諸々の準備も終わり、いよいよ打ち上げ――今はその直前と言ったところです。

 

「姉ちゃん……本当に行くのかよ……?」

「当たり前だろう? 中に入って操作するヤツがいなきゃ失敗するのは、お前だって知ってんだろうが」

 

 一護たちと瀞霊廷に突入する気が満々の空鶴さんに、岩鷲君は心配そうに声を掛けます。

 

「いや、そういうことじゃなくて! 俺は――」

「言うな岩鷲!!」

 

 なおも何かを言おうとした岩鷲君の口を、空鶴さんは物理的に塞ぎました。

 

「考えてみりゃ、お前じゃ瀞霊廷の死神にツラが割れてるかもしれねぇ。だったら、おれが行った方がまだバレねぇだろう? ま、この空鶴姉さんにドーンと任せておけってもんよ!!」

 

 片手で口を塞いだまま、もう片方の手で誇らしげに自分の胸を叩きました。

 

「だからよ、岩鷲。お前には、後のことを頼んだぜ……海燕の兄貴と都の姉貴、それに氷翠(ひすい)のこともよ……あと、一割くらいはお前が立派な死神になれるように祈っといてやるよ」

へえちゃん(姉ちゃん)……」

 

 岩鷲君は、今になって、その言葉を聞いてようやく理解しました。

 空鶴さんは決して、自分の楽しみだけで瀞霊廷に行くのではありません。

 

 岩鷲君を無理に同行させれば、弟の選んだ道に傷がつくかもしれません。

 下手をすれば、兄の海燕さんや都さんにまで迷惑が掛かるかもしれません。

 そんなことになるくらいなら、自分で選んで自分で責任を取って自分一人がやったと言い張る方が、ずっとマシだと思ったのです。

 

 そう判断したからこそ、彼女は自ら同行するという道を選んだのです。

 

「っしゃあ!! 行くぞテメェら!! 花鶴射法用意!!」

「おう!! 姉ちゃん!!」

 

 瞳に浮かんだ涙を腕で乱暴に拭い去ると、岩鷲君は打ち上げの用意を始めました。

 

 心の中で、無事に帰ってきて欲しいと願いながら……

 




この後、打ち上げられたわけです。

●志波 氷翠(ひすい)
とりあえず(名前の氷から)クール系の幼女として設定。
実年齢は12歳くらい。これでも一護と一番年齢が近い親戚。
(出自が出自なので、下手したらホワイトぽいのが産まれながらに同居してそう)

●空鶴さん参戦
原作だと、岩鷲が死神が嫌いだけど乗り越えて一護に協力したわけですが。
こっちの岩鷲にはそんな感情なんて無いですから。

じゃあ、もう空鶴さんが行くしかないじゃない。
(弟や兄の迷惑にならないように「今回のことは自分一人でやった!家も家族も一切関係ねぇ!!」と言い張る覚悟もできている。腹切るのまで覚悟の上)

……一角たちを「ハゲとオカマのコンビかよ!!」とか笑うんでしょうか?

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