お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第124話 今日の一護 ~拡大版 その2~

「さて、どうにか突入は成功したな」

 

 無事に瀞霊廷内――その通りの一つへと無事に着地した空鶴さんは、油断なく辺りを見回しながら一人呟きました。

 

 花鶴射法によって霊珠核を打ち上げ、瀞霊廷に無理矢理侵入するという方法はなんとか成功しました。

 衝撃によって一護君たちはバラバラに分かれてしまいましたが、それはそれ。

 侵入には成功したので結果オーライです。

 

 かなり派手な侵入になってしまいましたが、幸いにも周囲に死神たちはいなかったようで、彼女は少しだけホッと胸を撫で下ろしました。

 

「しかし一護、お前本当に使えねえのな。おれがいなかったら落下の衝突で死んでたぞお前……」

「う、うるせえな!! そんなもん習ってなかったんだから仕方ねぇだろうが!!」

 

 なので続いて、一緒に行動することになった一護君へと目を向けます。

 なにしろ今の一護君に出来るのは、剣を振って戦うことが精々です。その戦いも、落下の衝撃を和らげるような器用な真似なんてできません。

 原作では岩鷲君が石波(せっぱ)という術を使って道路を砂に変えてくれたおかげでなんとか軟着陸出来たように、こちらでは空鶴さんが術によって落下の衝撃を相殺してくれました。

 おかげで砂まみれになることもなく、二人は無事に着地できました。

 

「てか空鶴さんよ、なんなんだよその格好は……」

「あん? 似合うか?」

「いや……まあ……似合うっちゃあ似合うけどよ」

 

 さて現在の空鶴さんの格好ですが、普段のような肌色を目一杯強調したお色気たっぷり目のやり場に困るような格好ではありません。

 潜入ということもあってか、肌の露出をできるだけ抑えたできるだけ地味な忍者のような格好をしています。とはいえ肌にぴっちり張り付いたボディラインが丸わかりの衣装をナイスバディの女性が着ているので、それはそれで目のやり場に困るわけですが。

 

「そのお面のせいで台無しだぞ……」

「へへへ、いいだろう?」

 

 そして顔には訳の分からないオブジェのようなデザインの仮面――お面? を被っていました。

 

「兄貴に迷惑が掛かるからな。正体がバレないための工夫だぜ」

 

 これはこれで、空鶴さんなりの"自分は志波家とは関係ない。海燕の出世にも、岩鷲の将来にも関係ない。自分が一人で暴れただけだ"という意思の表れだったりします。

 彼女なりの気遣いなわけで、決して正体を隠して楽しんでいるわけではありません。

 

「そうそう。今からおれの名前はシバ仮面だからな! 間違っても空鶴って呼ぶんじゃねえぞ一護!!」

「へーへー……」

 

 一護君に向けてビシッと指を突きつけながら、空鶴さんは楽しそうに宣言しました。

 

 決して正体を隠して楽しんでいるわけでは……あ、ありませんよ……

 

 とあれ、思春期の一護君がこんな型破りなお姉さんと一緒に行動するのは色々と悪影響が出そうですね。

 

「んじゃ、移動するぞ」

「移動……って、場所わかんのかよ!? てか、井上たちやチャドはどうすんだ!!」

「そいつらにはとっくに説明したぞ。朽木ルキアが捕まってる場所も、分かれた時の行動も含めてな」

「……へ?」

 

 あっけらかんと答える空鶴さんに、一護君は思わずマヌケ顔を晒してしまいました。

 

「な、なんで俺だけ聞かされてねえんだ!?」

「そりゃオメーだけ霊珠核で散々手こずってたからな。必死で居残り練習してる間に、他の奴らには話しておいたんだ」

 

 空鶴さんは比較的瀞霊廷との繋がりが薄い方です。

 ですが彼女の兄は現役の副隊長、兄嫁は元三席、弟は霊術院生ですから。内部情報を知る機会はたっぷりあります。

 なのでルキアさんが懺罪宮に捕まっている程度の情報は簡単に知ることが出来て、ついでに織姫ちゃんたちへの情報共有も済んでいます。

 ましてや打ち上げ係の空鶴さんが同行するわけですから、遮魂膜(しゃこんまく)と激突すれば最悪離ればなれになることも、その際には懺罪宮を目指すことで合流しようということもしっかり打ち合わせ済みだったりします。

 

 知らぬは主人公ばかりですね。

 

「な、なんで俺だけ……」

「オイ、落ち込んでる暇なんてねえぞ。さっさと進んで合流――!?」

 

 そこまで言いかけて、空鶴さんは険しい顔を浮かべます。

 

「ん? 急にどうし――?」

「シッ! 黙ってろ!!」

 

 一護君が疑問符を浮かべますが、その理由はすぐに向こうの方からやってきました。

 

「この辺か!?」

「多分な!! この辺に落ちたはずだ!!」

「探せ!! じゃねえと隊長副隊長に殺されっぞ!!」

「「「ウィッス!!」」」

 

 やたらドスの利いた声と荒々しい口調が目立つ死神たちの姿が見えてきました。

 

「あれは……!?」

「ま、そりゃ見つかるわな。おれのおかげで静かに着地できても、落っこちて来てる姿は地上の瀞霊廷から丸見えだしな」

「どうすんだよ!?」

「どうするって……そりゃ、一つしかねえだろ?」

 

 空鶴さんはそう言いながら懐から球形をした何かを取り出しました。

 それは、打ち上げ花火を見たことがある者なら誰でも知ってるような形状の――いわゆる二号玉とか三尺玉とか呼ばれるような、あの形をしています。

 ご丁寧に導火線まで付いているそれを見て、一護君は猛烈に嫌な予感がしました。

 

「ま、まさかそれ……」

「当然! こうすんだよ!!」

 

 術で一瞬にして導火線に火を付けると、そのままやってきた死神たちへ目掛けて投げつけます。

 

「ん? なんだ? 何かが飛んで来――」

「ちょ! それ……――」

 

 死神たちは反応こそしたものの、その正体に気付くことはありませんでした。

 何かが飛んで来たと思ったところでそれは大爆発を起こし、死神たちを吹き飛ばします。

 

「っしゃあ!! どうだ万花(ばんか)の味は!?」

「な、ななななにしてんだよアンタは!? そんな花火なんて投げたらバレるに決まってんだろ!!」

「ああん? なんだようっせえな……良いじゃねえか別に……」

「良くねえよ!! 俺たちは潜入してんだよ!! 相手に自分の居場所をわざわざ知らせるような真似をしてどうすんだって言ってんだ!!」

 

 一護君のお怒りはごもっともです。

 ですが、空鶴さんの考えは少々違ったようです。

 

「派手に暴れて居場所を知らせりゃ、お前の仲間たちの警戒はそれだけ緩むだろ? そうすりゃ救出も上手く行くってもんだ」

「な……っ……い、いやでもよ……」

「つーことだ! もう一発行くぜ!!」

 

 自分が目立つことで囮になり、敵を引きつける。そのために派手に暴れているんだ。

 という理由を聞いて納得しかけた一護君でしたが、その感情を飲み込むよりも早く空鶴さんが花火を空へと向かって打ち上げました。

 まるで花火大会の一幕のような火で出来た花が空に描かれます。

 

「はっはっは!! 派手に爆発するじゃねえか!! さすがはおれ特製だな!!」

「…………」

「ついでだからな、こっちの道にも仕掛けておくか。コイツらは導火線の長さを調節しておくぜ。こうすりゃ他にも仲間がいると思って混乱するだろうからな。キヒヒ!」

 

 ひょっとして、それも方便で好き勝手に暴れたかっただけなんじゃないだろうか……

 

 一護君は喉まで出かかった言葉を必死で飲み込みました。

 口に出しても詮無きことですからね。

 そして何より――

 

「なんだ今の爆発は!?」

「あそこだ!! あっちの方だぞ!!」

「見ろ! あそこだ!! 誰かいるぞ!!」

 

 ――騒ぎを聞きつけ、わらわらとやってきた隊士たちの姿に、それ以上の問答は無駄だと悟ったからです。

 

「おっ、来た来た。大漁だな」

「だあああっ!! ちくしょう!! やってやらあああぁぁっ!!」

 

 観念したように斬魄刀を構える一護君。

 こうして少年はまた一つ、大人になるのでした。

 

 

 

 

 

 

「おらああぁっ!!」

「ぐえっ!」

「吹き飛べ!! 破道の三十一! 赤火砲!!」

「ぎゃあああああ!!」

 

 一護君と空鶴さんの活躍で、集まってきた隊士たちはどんどん返り討ちにあっていきました。

 ですが二人がどれだけ倒しても、まるで雲霞のごとく次々にやって来ます。

 とはいえ、次々倒されていく仲間たちに隊士たちも怯んでしまい士気が下がっていく――なんてことは一切ありませんでした。

 

「つ、つええ……!!」

「怯むな! ここで怯んだら……隊長に……」

「いや、その前に副隊長に……」

「いやいや、その前に斑目三席に殺されるぞ!!」

「う、うおおおおっ!! あの人たちに殺されるくらいなら!! やってやらあああっ!!」

「旅禍がなんぼのもんじゃああああっ!!」

 

 はい。

 今の会話からわかったように、彼らは十一番隊の隊士たちです。

 どうやら一護君たちが落っこちてきたのは十一番隊の管轄だったようで、騒ぎを聞きつけた十一番隊の平隊士たちがどんどんやって来ます。

 

 そして、彼らからすれば一護君たちよりも怖い相手が大勢います。

 下手にビビって無様を見せて、後で卯ノ花さんたちからキツいお仕置きを受けるくらいなら、たとえ勝てなくても目の前の一護君に挑む方が何百倍もマシなわけです。

 

「な、なんだよコイツら……!?」

「へへ、面白えな。こんだけ倒しても全然ビビらねえ……護廷十三隊の死神ってのは根性あるんだな。甘く見てたぜ……」

「どうすんだよ空鶴さん!? これじゃじり貧だぞ!!」

「馬鹿! シバ仮面って呼べって言っただろうが!!」

 

 ですが、そんな裏事情を知らない一護君たち。

 彼らからすればどれだけ倒されても怯むことなく背水の陣で挑んでくる敵の姿に、むしろ自分たちの方が気圧されていました。

 逃げるにしても戦うにしてもどうにも苦労させられそうで、二人とも次の一手を決めかねています。

 

「斑目三席は!? まだ来ないのか!?」

「逆の方に行ってんだ! まだ時間が掛かる!!」

「よっしゃ!! ならもう少しだぞお前ら!! 十一番隊の意地を見せろ!!」

「「「「ういぃぃっっすっ!!」」」」

 

 そんな一護君たちを取り囲み、じりじりと迫ってくる平隊士たち。

 

 ですが、そんな状況に闖入者がやってきました。

 

「わっ、す……すいませ……あう! わっ、たっ、うわあっ!! あうぉふ!!」

「な、なんだ?」

 

 間抜けな声を上げながら一護君たちの前に転がり出てきたのは、背も低く幸薄そうな顔をした一人の死神でした。

 

「あいたたた……あ、あれ?」

「……っ!! なあ一護、良い作戦を思いついたんだけどよ。乗るか?」

「不本意だけど、仕方ねぇよな……」

「あ、あの……ここって一体……それにあなた達って、ひょっとして……」

 

 一護君と空鶴さん。

 二人はまるで示し合わせたかのように頷きました。

 さすがは親戚同士ですね、こういうときは息が合います。

 

「てめーらどけどけ!! コイツをぶち殺されてえか!?」

「道をあけろ!! じゃねえと怪我すっぞコラァ!!」

 

 転がり出てきた死神を捕まえると、彼を盾にします。

 やってることは完全に悪役ですね。主人公にあるまじき所業です。

 

「はっ、人質だぁ!? 何言ってやがんだ!! そんなもん俺たちには……――!?」

 

 そう言いかけて、彼は絶句しました。

 

「お、おい……アイツ。どこかで見たことないか……?」

「あん? 旅禍にとっ捕まった間抜けな死神だろ?」

「い、いや!! 俺も見たことあるぞ!! たしか、四番隊の死神だ!!」

「「「「なにいいいいぃぃぃっ!?!?」」」」

 

 四番隊(・・・)の死神。

 その言葉を聞いた途端、周囲にいた全員が驚きの声を上げました。

 

「ああっ!! 言われりゃ確かにそうだ!! 結構治療が上手かったぞアイツ!!」

「確か名前は山田……太郎だったような!!」

「いや、山田花子じゃなかったか!?」

「は、はい! 救護作業に来た四番隊の者です! ……あと、ぼくの名前は山田――」

「なんで四番隊なのに前に出てんだテメエは!? 死にてえのか!!」

「――ひっ! すみません!! ただ、迷っちゃって気がついたらいつの間にか……」

「なんてことしてくれんだテメエぇぇっ!!」

 

 やたらと怯えて狼狽して絶叫する十一番隊の隊士たちに、人質作戦を取った一護君たちの方がむしろ呆気にとられました。

 

「……なあ、くうか――シバ仮面さんよ。これ、チャンスだよな?」

「なんだかよく分からねえが……おーしお前ら!! コイツを殺されたくなかったら道をあけろ!!」

「くっ……」

「や、やめろ!! わかった! 道は譲る!! だからそいつは離せ!! なっ、なっ!?」

 

 十一番隊の隊士にとって、四番隊の名前はある意味では鬼門です。

 だって彼らは、過去に四番隊所属の藍俚(あいり)さんにぶっ飛ばされているわけですから。

 あの殴り込み事件を直接体験していない若い隊士であっても、霊術院で彼女にぶっ飛ばされたり、先輩から身をもって話を聞かされたこともあり、骨の髄まで刷り込まれていますからね。

 

 四番隊を舐めると大変な目に遭う――と。

 

 別段、四番隊へ仕事を回すのは問題ありません。

 そもそもが救護や補給などの後方援護を主任務とする部隊ですからね。裏方の仕事を振るのは全く問題ありません。

 

 問題となるのは、四番隊を軽んじたり無礼な態度を取ったときです。

 そのときは藍俚(あいり)さん直々にぶっ飛ばされて、その後は完璧に治療されてからもう一度、今度はシメられると評判なのです。

 

 そんな四番隊の隊士を、自分たちの都合で見捨てるような真似をしたらどうなるか……

 

 その先のことが容易に想像できるからこそ――護廷十三隊のどの部隊の隊士たちよりも一番理解しているからこそ。

 ついでに言うなら、今の十一番隊の隊長は元四番隊の隊長です。そんな彼女に、古巣の仲間を見捨てたなんてことが知られたらどうなるか。

 その先のことについて想像してしまい、なんとか人質を解放させようとする選択を彼らは自然と選んでいました。

 

「ほら、道はあけたぞ!! これでいいか!? よかったらさっさとその山田花子から手を離せ!!」

「あ、あのぼくの名前は――」

「っしゃあ!! 逃げるぞ一護!!」

「オウ!! オラそこ! 妙な真似はすんなよ!! この山田花子の命が惜しかったらなぁ!!」

「くっ……ここまで追い詰めておきながら……畜生!!」

 

 モーゼのように開けた道を通りながら、一護君たちは悠々と逃げていきました。

 

「――山田花太郎ですよぉ……」

 

 力なく呟かれた言葉を聞く者はいませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 ――その一方で。

 

「ん? どうした……なにいいいぃぃっっ!?!?」

 

 伝令神機から届いた言葉を聞いた途端、彼は驚きの声を上げました。

 あまりに突然のその反応に、周囲にいた隊士が何事かと振り返ります。

 

「わかった、ありがとうな都。んじゃ、切るぞ」

 

 通話が切れたことを確認すると、ボリボリと頭の後ろを軽く掻きながら彼――海燕さんは遠くの方へと視線を移しました。

 

「……ったく。やってくれたな、空鶴……」

 

 お兄ちゃんが妹を叱るまで、あと少しのようです。

 




●空鶴(潜入スタイル)
多分、対魔忍のような格好してるのかな?

●一角
藍俚との出会いのおかげで、ある程度は真面目になってる。
なのでサボってない。

●山田花太郎
この世界では最高の人質。
(だって四番隊に所属してるから)

●海燕
(事前に言っていたように)都さんから連絡を貰う。
怒れるお兄ちゃん参戦決定。奇跡の出会いまであと少し。
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