お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

126 / 293
第126話 アッチもソッチも怪我人だらけ

「うわ、これは……」

 

 一護たちにやられて負傷したとおぼしき隊士たちが運ばれてきました。

 そんな彼らを見た途端、私は思わず絶句してしまいます。

 

 彼らの怪我は、いわゆる爆発を受けて負った怪我でした。

 刀傷とかも無いわけではありませんが、そのほとんどは「爆弾の直撃でも受けたのか?」と思わせるものでした。

 

 ……あれ? 一護ってこの時点じゃまだ鬼道なんて使えないわよね……? 確か斬術しか使えなかったはず。でもこの怪我は爆発とか火炎みたいなのを操れないと不可能。

 じゃあ誰がこの怪我を……?

 他に可能性があるとすれば茶渡君の能力……? というか彼の能力ってなんだっけ?? 彼については霊圧が消えることしか覚えてないし……

 残るとすれば岩鷲君、かしら……? でもあの子、今は霊術院に通っているはずだから手助けとかする……

 あれ、そうよね!! 今の岩鷲君って霊術院生よね!? なのに一護たちに協力ってするのかしら!? え、じゃあどうやってここまで来たの!? 

 

 ……ひょっとして、私が全然知らない第三者とか介入してるのかしら? まさかとは思うけれど、私みたいなのがあっち側にもいる……とか?

 

 射干玉、何か知ってる?

 

『申し訳ございませぬが、拙者は全く知らぬでござるよ』

 

 え? そうなの!?

 

『拙者は所詮、しがない派遣社員でござるよ……』

 

 ご、ごめんね……なんかその、本当にごめんね……

 

 ととと、いつまでもこんなことを考える場合じゃないわね。

 

「みんな! 爆発による負傷だから、外傷よりも身体の内側に注意して! 高熱の空気を吸い込んで体内に火傷を負ってる場合があるから!! まずは呼吸の確保から!! わかってるわね!?」

「「「はい! 隊長!!」」」

 

 とりあえず救護に当たっている子たち全員に、大声で注意を呼びかけます。

 肺が焼かれたり火傷で気道が塞がれて窒息したりとか、爆発の怪我とか火事の怪我とかって本当に厄介なのよね。

 まだ斬られた方が治療しやすいわよ……

 

「けれど、こんなに大勢の怪我人が出るなんて、思ってもいませんでした」

「そうですね、随分危険な旅禍みたいですし……救護に向かった伊江村三席は大丈夫でしょうか……?」

 

 勇音と桃が不安そうに顔を見合わせています。

 二人ともあんまり戦闘は得意じゃありませんからね、意気消沈してしまうのも仕方ないです。

 ……二人とも霊圧だけなら下手な副隊長よりずっと強いんだけどね。でもどれだけ強くても、気性が争いに向くとは限らないから……

 

「はいはい。そこも気になるけれど、ボーッとしてる場合じゃないわよ。私たちも治療に参加しましょう! 怪我してるみんなはもっと苦しいのよ?」

「あ、は、はい!」

「そ、そうでした!」

 

 二人も慌てて治療に加わります。

 

「手の空いている子は病床の確認と確保を! 患者が増える可能性もまだまだ高いはずだから、部屋割りの再確認もお願い! それと、できるだけ部屋には同じ部隊の隊士を入れるようにしてあげて! 顔見知りがいた方がいいから!!」

 

 私も適度に治療へ参加しつつ、指示を出していきます。

 

 ええ、適度に治療に参加よ。

 だって私が片っ端から治していくと、下の子たちが成長しなくなっちゃうからね。

 そうでなくても、治療班を率いて前線へ出向いた伊江村三席たちがある程度の応急手当はしてくれているので、今すぐ死んじゃうような状態の患者もいないし。

 適度に部下たちの緊張を煽りつつ、本当に危険な時だけはそっとフォローを入れるように周囲を見て回ります。

 

 そうして大半の手当が済んだ頃でした。

 

「隊長!! 急患の連絡が来ました!!」

「また!? 今度は何があったの!?」

 

 部下の子が急報を持って飛び込んできました。

 このタイミングってことは、一護たち関係の怪我人の追加よねきっと。

 

「いえ、別口です! 七番隊で負傷者が出たそうです!!」

「七番隊から?」

 

 え、七番隊……? 何かそんな事件があったかしら……??

 

「怪我人の数と規模は?」

「一名です。ですが深刻な負傷で、とにかくすぐに現場へ行って、隊長に直接診て欲しいとのことです」

 

 あらやだ。直接指名されちゃったわ。

 

藍俚(あいり)殿! 藍俚(あいり)殿! 七番(テーブル)からご指名でござるよ!!』

 

 ボトルとか入れて良い!? ……じゃなくて!!

 

「私が? 勇音とかじゃ駄目なの?」

「いえ、それが――どうやら鎖結と魄睡に傷を負ったとかで……」

「……えっ!?」

 

 鎖結と魄睡に傷を負った――それは、声を潜めながら伝えられました。

 まあ、おおっぴらに口に出せるような内容じゃないからね。

 

「なるほど、それなら話が別だわ。すぐに行くって折り返してあげて」

「はい!」

 

 四番隊(うち)の子たちに下手な動揺を広げるくらいなら、私がこっそり行った方がまだマシでしょうね。

 

「勇音は残って四番隊の指揮をお願い。私は七番隊に行ってくるから」

「はい、こちらはお任せください! だからその、お気を付けて!!」

 

 とりあえず往診用の道具一式を持って、七番隊へと急行します。

 

 その道すがら考えるのは、そんな戦いがあったのかということ。

 思い出せないわ……

 そんなエグい負け方した死神って誰かいたかしら……?

 

 言うまでも無いけれど、鎖結と魄睡っていうのはどっちも死神の急所みたいなもの。霊力の源となる部分で、ここを壊されると力を失っちゃうの。

 それも永久的に。

 基本的には治せない部位だからね。

 

 そんな急所を破壊するなんて……

 なんて酷いことを……! 誰がやったか知らないけれど、そんな酷いことをするなんて!!

 

『あ、藍俚(あいり)殿!? ブーメランってご存じでござるか?』

 

 知ってるけど、それがどうかしたの?

 

『いえ、何でもないでござるよ……』

 

 それっきり、射干玉は黙ってしまいました。

 何が言いたかったのかしら……?

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「お待たせしました!」

「ああ湯川隊長! お待ちしちょりました!! ささ、どうぞ。こちらです」

 

 七番隊へ到着した途端、射場副隊長に出迎えられて即座に患者の元へと案内されました。

 向かった先にいたのは――

 

「ああ、なるほどね」

 

 ――確認した瞬間、何があったのかを思い出したわ。

 

 大広間のような所へ寝かされていたのは、一貫坂(いっかんざか) 慈楼坊(じろうぼう)四席でした。

 七尺六寸(231cm)の巨体と、見た目に恥じないゴツい顔が印象的な隊士ですね。

 西門門番の兕丹坊の弟だということもあってある程度は名が知れていますけれど、これはお兄さんの兕丹坊の名前にぶら下がっているだけだし。

 尤も、近年は鎌鼬の称号を得たことで本人も少しは評価されました……けどねぇ……

 鎌鼬の初代と次代(当初の予定だった方)を知っている私から見れば――

 

 ――鎌鼬(笑)

 

 なのよねぇ。

 "桂馬の高上がり"とか"公卿の位倒れ"って、こういうときに使うんでしょうね。

 

 となれば一貫坂四席の相手は、順当に行ったら石田君よね。

 けど石田君って結構紳士的なイメージがあるんだけど? 鎖結と魄睡をぶち抜くような真似をする子だっけ? 滅却師(クインシー)だから死神が嫌いっていうのは分かるんだけど……

 

「湯川隊長、なんとかなりますでしょうか!?」

「ええ、ちょっと待って……もう少し……」

 

 さて、そんな考えをしながらも私は四席の傷の具合を診ていました。

 ふんふん……あー、これは……結構抉られてるわね。でも傷跡そのものは綺麗ね。

 これと比べたら昔に探蜂さんを治したときの方がよっぽど酷かったわ。

 アレよりも綺麗な傷で、あのときよりも回道の腕も上がってるわけだから。

 

「大丈夫。これなら治せますよ」

「本当ですかい!? 先生、よろしゅうお願いいたします!!」

 

 猛烈に感謝しながら頭を下げて感謝してくる射場さんを背にしながら、私は治療を始めました。

 

 

 

 

 

「はい、これでもう大丈夫ですよ。霊力の方はどうですか? ついでに腕の傷も治しておきましたけど、突っ張ったり違和感を感じたりしますか?」

「お、おお……動く、動きますよ私の左手が! それに霊力も、感じる……感じますよ!! すごい!! まさかこんなに完璧に治るとは!!」

 

 治すのがとってもとっても難しい場所なのでかなり時間は掛かったものの。治療は無事に完了しました。

 一貫坂四席は左手の具合と霊圧の具合を確かめるように身体を軽く動かしています。

 

「湯川隊長! ありがとうございます!! ありがとうございます!!」

 

『死神としてぶっ殺されたと思ったら、藍俚(あいり)殿にぶっ生き返されたわけでござるな! いやいや鎌鼬殿も死んだり生き返ったり忙しいかぎりで!!』

 

 ぶっ生き返すって、何……?

 言いたいことは分かるけど……

 

「一応、三日くらいは安静にしててください。左手の傷はともかく霊圧は何か異常が発生するかもしれませんし、霊力に身体を慣らす時間も必要ですから一ヶ月程度は様子を見ますよ。綜合救護詰所の方に入院の手続きをしておきますから」

「そんな! そんなに長い時間を待ってなどいられません!! 私は今すぐにでも――もがっ!?」

 

 あらあら、やる気というか殺る気になってるわね。

 そんな風に血気に逸る一貫坂四席の口元を、私は砕かんばかりに握って黙らせました。

 

「今のあなたがやることは二つですよ。一つは大人しく入院すること。そしてもう一つは、あなたが負けた相手の情報を嘘偽りなくきちんと話すことです」

「ひ……っ! ひっ、ひっ……!!」

 

 卯ノ花隊長時代から続く伝統技法、にっこり笑いながらのお願いです。

 これをすると大概の隊士は素直に言うことを聞いてくれるんですよ。

 

 私のそんな純粋な願いが通じたのか、呼吸を荒くしながらも静かになってくれました。

 こうなると無力な子供みたいで可愛いですね。

 

『最後の意見だけはどうかと思うでござるよ……』

 

「お、おお! ほう(そう)じゃ、ほう(そう)じゃとも!! 慈楼坊! 何があった!? ちゃんと話さんかい!!」

 

『副隊長殿も藍俚(あいり)殿の怒気の余波を受けて汗だくでござるな! ネタは上がってるでござるよ!! さっさと白状するでござる!!』

 

「あ、あう……わかりました!! 話します! 全て包み隠さずお話させていただきます!!」

 

 こうして一貫坂四席は――

 ・男女二人の旅禍を見つけたこと

 ・手柄を独り占めするために報告せずに先走ったこと

 ・男の方は滅却師(クインシー)だったこと

 ・その滅却師(クインシー)に負けたこと。

 ――といったことを話してくれました。

 

 ですが、私はその滅却師(クインシー)と現世で会っています。

 なので話の途中で「それはおかしいんじゃない? その子、そんな性格じゃなかったわよ?」と少々チャチャを入れました。

 

 その結果、余罪として――

 ・基本的に女性の方を狙っていたこと

 ・それが相手の怒りを買って、鎖結と魄睡を打ち抜かれたこと

 ――がバレました。

 

 そっかそっか、だから石田君が怒って鎖結と魄睡まで破壊したのね。

 気持ちは分かるわ、気持ちは分かるんだけど……アレ治すの滅茶苦茶面倒だからもう止めてくれないかなぁ……

 

 ていうか、一貫坂四席!! アンタねぇ!!

 やるならちゃんと根性入れなさい!! 何を石田君にあっさり負けてるのよ!! 織姫さんを攻撃して、そのときに服をビリっとやって、お色気シーンの一つでも作ってみせなさいよ!!

 それすら出来ずに、ただ織姫さんに危害を加えるだけとか……もう、個人的には大罪人認定です。私の中ではこの瞬間だけは、藍染以上に大罪人ですよ!

 

 あくまで個人的には、ですけどね。

 

 その後ですか?

 射場副隊長の怒りの鉄拳が炸裂しましたよ。

 卑怯な真似をする、結局任務は果たせない、報告で隠し事をしていたで、堪忍袋の尾が切れたみたいですね。

 すごかったですよ「アホんだらぁっ!」って叫んで、映画みたいでした。

 おかげで一貫坂四席は、ちゃんと怪我をした状態で入院できました。

 

『怪我人は入院するのが当然でござるからな!!』

 

 めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 七番隊で治療を終えた帰り道にて、伊江村三席から連絡を受けました。

 

「もうしわけありません隊長! 何度も言いますが、情報が混乱していて、その……」

「それはいいから! 何があったのかをまずは話して!!」

 

 伝令神機からは謝罪の気持ちが痛いほど伝わって来ます。

 

「はいっ! 実はその――!!」

 

 報告されたのは、山田七席が旅禍に人質として捕まったということでした。

 でも、ある意味予定調和みたいなものよね。

 

「そんなことが……なるほど、分かりました。一度四番隊に戻り、詳しい内容を直接聞きます。その後、本部に情報を上げますから。いいですね」

「はい! お待ちしています!!」

 

 やれやれ、結構忙しいものね。

 

 とにかくこれで、旅禍たち――というか一護たちの大体の位置は把握できたわ。

 ……夜一さんを除いて。

 

 しかし、流石に元隠密機動のトップだけあって気配を隠すのが上手いわねぇ。

 多分、瀞霊廷のどこかにいるはずなんだけど……

 

 どうやって見つけようかしら……?

 

 夜一さんによっぽど注意をし続けてる人でもいれば、すぐに見つけられそうだけど……

 




●ブーメラン
お前が言うな。

●一貫坂慈楼坊
鎌鼬(笑)の人。
鎖結と魄睡を壊されたので原作の出番は以降皆無だった。
(某隊長が治せるので)死神に復帰したが、再登場は多分ない。

私見ですが、この人はあんまり尊敬されてなかったように思えます。
隊士たちから「あ、アイツ負けたんだ」くらいの認識されてそう。

●鎌鼬
初代:痣城剣八
次代(予定):朽木白哉
次代(決定):一貫坂慈楼坊(補欠合格)

そりゃ初代も怒る。

●桂馬の高上がり・公卿の位倒れ
実力を伴わずに不相応な地位へ上がって失敗することの例え
(桂馬は進み過ぎすると移動出来なくなり、コロッと取られる)
(官位ばかり高くて生活は苦しい)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。