お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第127話 今日の一護 ~拡大版 その4~

「……はっ!!」

 

 おっと一護君、どうやら目を覚ましたようです。

 

「ど、どこだここ……?」

 

 目覚めるなり辺りをキョロキョロと見回しています。

 ですが無理もありません。なにしろ彼が最後に体験したのは、海燕さんに一方的にやられて気絶させられたわけですから。

 

 それが今ではどうでしょう。

 畳敷きの、どこか広いお屋敷の一室のような場所にいるわけです。しかもちゃんと布団の上に寝かされています。

 リアルに「知らない天井だ……」を体験できたわけですね。

 羨ましいぞ! 一護君!!

 

「あ、良かった……気付いたんですね……」

 

 ふとしたときに、一護君へ声が掛けられました。

 

「お前は確か……山田はな――」

「はい! 山田花太郎です!! ぼくのこと、覚えてますよね!?」

 

 どうやら花太郎君、先んじて名前を言うという技法を覚えたようです。

 よかったね、少しは成長できたゾ!

 

「あ、ああ……まあ、な。てか、ここはどこだ!?」

「ここですか? 説明しますけど、ちょっと待ってて下さい。順番があるんですよ」

「順番……?」

「すみません、花太郎です。目を覚ましましたよ」

 

 一護君の疑問に答える前に、花太郎君は声を掛けつつ隣室に通じる(ふすま)を開けました。

 そこには――

 

「だからお前はな……お、なんだ。ようやく気がついたか」

「よ、よう一護……」

「オイコラ空鶴、誰が喋って良いって言った?」

「…………」

「なんだ……こりゃ……?」

 

 一護君が混乱するのも無理はありません。

 彼の目に飛び込んできたのは、あの変な仮面を脱いで正座して項垂れている空鶴さん。その空鶴さんの前に立ち、彼女にお説教を続ける海燕さんの姿でした。

 あの傍若無人で泰然自若な空鶴さんが、まるで借りてきた猫のように大人しくなっている姿は、一護君から見れば信じられない光景です。

 

「えーと、一体――」

 

 何がどうなっているんだ? そう言おうとしたものの、その言葉を口にすることは出来ませんでした。

 なぜなら――

 

「目が覚めたって!? おお、動いてる! 動いてるぞ!! 見ろよ虎徹! 動いてるぞ!!」

「そんなん見りゃ分かるってば!! でも本当に似てるわよね……鏡の中から出てきたって言われたら、多分信じるわ……」

「――な!? なんなんだオメーら!?」

 

 また別の部屋から仙太郎君と清音さんが乱入してきたからです。

 どうやら二人も花太郎君から連絡を受けて、一護君の様子を見に来たのでしょう。

 

「喋った! 喋ったぞ!!」

「でも声は似てない!! リアクションは似てる気がするけど!!」

 

 訂正します。

 様子を見に来たと言うよりも、面白がってきたと言う方が正しかったようです。

 

 ですが、それも無理はありません。

 だって一護君と海燕さんって似てるんですから。

 

 そもそもこの何日か前、藍俚(あいり)さんから「現世で海燕さんの隠し子みたいに似ている相手と出会った」と知らされてからというもの、十三番隊の隊士たちの話題に"そっくりな二人について"たびたび上がった程です。

 一度で良いから見てみたいと思っていたところへ、本人がやってきたわけですから。

 食いつかないわけがありません。

 

「清音、仙太郎も。あまりからかわないでやってくれ」

「あ、隊長」

「すいませんっした!! 隊長!!」

 

 そんな二人に遅れて、浮竹隊長もやってきました。

 

「君は黒崎一護君だよな? 俺は十三番隊隊長の浮竹十四郎だ。朽木がいた部隊の隊長って言えば分かるか?」

「ルキアの!? そうだ、ここはどこだ!? あれから何日経った!? ってか十三番隊って……敵じゃねーか!!」

 

 朽木ルキアの名を耳にして、一護君はようやく状況を飲み込めたようです。

 なにしろ彼の知っている情報だけで判断すれば、浮竹隊長たちは敵としか思えませんからね。慌てて武器を手にしようとして、そこに何もないことに気付きました。

 

「斬月! 斬月がねぇ!?」

「探してんのはこれか?」

 

 海燕さんは、斬月を見せつけるように肩に担いでいました。

 

「ああっ! 返せ、俺の斬月!!」

「断る! ……ってか、お前は俺に負けてんだぞ? 武装解除されるのは当然だろうが。命があるだけありがたいと思え!」

「ぐ……っ……!」

 

 ぐうの音も出ない正論ですね。

 

「そう言われればそうだな……俺、なんで生きてんだ? 布団の上に寝かされてるし……」

「ありがたく思えよ、ついでに怪我も治してやったんだぞ……そこの花太郎がな」

「それは志波副隊長が治しやすいように攻撃してくれたからで……ぼくなんてそんな……」

 

 謙遜する花太郎君でしたが、その言葉は一護君には少々聞き逃せない内容でした。

 治しやすいように、ということはあの戦いの最中にすら、相手に気遣われていたというわけですから。

 

 気を失う直前から感じていた"相手との距離"は、自分が想像していたそれよりもずっとずっと遠かったということをまざまざと見せつけられてしまいました。

 こんなの、普通なら心が折れちゃいますよ。

 

「んでだ、話を戻すぞ。空鶴からも聞いたが、オメーは朽木を助けたいんだろ? そのために現世から尸魂界(ソウルソサエティ)までわざわざ乗り込んできたんだろ? 違うか?」

「……違わねぇよ、その通りだ」

 

 沈んだ顔でぶっきらぼうに頷く一護君でしたが、それを見た海燕さんはにやーっと笑いました。

 

「なら俺たちは協力出来るって事だ。そうですよね、隊長!?」

「ああ、そうだ。ここらで一つ、お互いの立場や事情についての話し合いをしようじゃないか」

「……え?」

「清音、すまないがお茶の用意を頼む。仙太郎は人数分の座布団を」

「了解しました!!」

「はいっ! お茶菓子も付けときますね!!」

「え、え……ちょ、どういうことだよ!?」

 

 話の流れに、完全に置いてけぼりとなってしまった一護君でした。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、あれから少しばかり時間は流れ。

 一護君と十三番隊の面々はとりあえずの情報交換を終えました。

 

 十三番隊の人たちは、一護君とその仲間たちについての情報ですが、これは皆さんご存じだと思うので詳細は割愛しますね。

 

 続いて一護君の方は、彼が気絶してからどうなったのかについてです。

 そもそもが藍俚(あいり)さんから一護君の存在について聞いており、都さんから「空鶴さんと一緒に瀞霊廷に突入した」と知っていた海燕さん。

 一護君をボコりこそしたものの、最初からトドメを刺す気はありませんでした。

 そして空鶴さんが事情を話したこともあり、協力出来ると踏んで彼を十三番隊まで連れてきた。

 そして目が覚めたので、十三番隊がルキアちゃんを助けようと考えて動いていることを伝えた、というわけです。

 

 ちなみに前述の会話でもわかるように、怪我は花太郎君が治しました。

 治療の最中、空鶴さんは海燕さんからずっとお説教をされていました。

 

「……つまりあんたたちと俺たちは、どっちもルキアを助けたい。協力できるってことでいいんだよな?」

「そーそー、私たちも朽木さんを助けたいんだけどさ」

「ったく!! これだから四十六室ってのは頭が硬いんだよ!!」

「……ってかお前らは誰だ!?」

 

 情報交換の場にちゃっかり同席していた清音さんと仙太郎君。

 おせんべいをボリボリ囓りつつ同意してくるその姿に、思わず一護君のツッコミが冴え渡ります。

 

「こいつらは十三番隊(うち)の三席だ。ま、いないものとして扱っとけ」

「ああっ! 酷いですよ副隊長!!」

「横暴だ! 権力の乱用だ!!」

「やかましい! お前らが茶化すと纏まる話も纏まらねぇんだよ!!」

 

 海燕さん、怒りの一喝。

 

「んで、話を戻すぞ。俺たちは同じ目的のために協力できる。お前もそれについては異論はねぇ――って考えて良いんだよな?」

「ああ、まあな……悔しいが、どうやら俺たちだけじゃルキアを救出できそうもねえ……力を貸してくれるなら、ありがてぇ……」

「んじゃ、この話はこれまでだ。後で細かい内容については決めるが、一旦置いとくぞ。もう一つの話をさせてもらう」

 

 納得したように頷くと、海燕さんは――ある意味では今までで一番深刻な表情を覗かせます。その真剣さは、一護君が思わず気圧されるほどでした。

 

「な、なんだよ……?」

「……お前、一心の子供ってのは本当か?」

「……は!?」

 

 思わず一護君の目が点になりました。

 

「湯川から話は聞いてたけどよ、まさかこんなやつがいたとは思わなかったぜ……おら、知ってること全部キリキリ吐け!」

「ちょ、ちょっと待て!! どういうことなんだよ!? さっぱりわかんねえんだよ!! 説明をしてくれ!!」

「チッ! 面倒だな……いいか、まずだな……」

 

 そう言いながらも海燕さん、志波の本家と分家の話を。

 そして藍俚(あいり)さんが現世で一護君と出会った時のことなどについて、お話をしてくれました。

 

「……マジかよあのヒゲオヤジ!! そんな大事なことを今まで黙ってたのか!!」

 

 お話を聞いた一護君、もう色んな感情が爆発したように叫びました。

 

「なんだお前、知らなかったのか? 湯川が一心との関係性について聞いたって言ってたぞ?」

「知らねぇよ! 何回か聞いたけどあのクソオヤジ、肝心なことは全っ然、口を割りゃしねぇ!! そうでなくともコッチはルキアのために時間が無かったんだよ!!」

「おい、今まで大人の対応で我慢してきてやったけどよ……いい加減、言葉遣いくらいは正せよ一護」

「あん? 言葉遣いが……い、いや、ちょっと待った!」

 

 ピキピキと怒りを含むセリフを飛ばされたことで一護君が冷静になりました。

 

「あんたのその話が全部事実だとしたら、つまり俺とあんたは……」

「誰がアンタだコラァ!!」

「わ、悪ぃ!! 海燕さん、って呼べばいいのか?」

「おう!」

「その、俺と海燕さんは……親戚みたいな関係でいいのか?」

「まあ本家筋と分家筋だけどな。考え方としちゃそんなもんだろ」

 

 まさかの親戚同士で喧嘩していた事実に、一護君は感心するやら驚くやら。感情が落ち着く暇がありません。

 

「ちなみに知ってると思うが、空鶴は俺の妹だ」

「まあな。お前からすりゃ、親戚のお姉さんってわけだ」

「親戚のお姉さん……確かにそうだけどよ……じゃあ岩鷲も俺の親戚って事か!?」

「そういや流魂街の志波家(ウチ)に寄ったんだったな。そういうこった」

「いやまてまて! となると都さんと氷翠(ひすい)も……」

「俺の嫁と娘だぞ? 都は家系図上、氷翠(ひすい)とは本当に親戚だな」

「マジかよ……」

 

 まさかの親戚の家にご厄介になっていたことを知って、さらに混乱する一護君でした。

 頑張って一護君!!

 君にはまだ"実年齢でも見た目年齢でも年下だった氷翠(ひすい)ちゃんから霊圧のコントロールを教わった"という事実を知って驚く役目が残っているのよ!!

 ライフポイントは残しておいて!!

 

「海燕、なんというか……奇妙な運命の巡り合わせだな……」

「そうっすね、隊長……しかも死神代行……なんつーか、見えない誰かの手のひらの上で踊らされてる気分っすよ……」

 

 一護君ががっかりしている最中、海燕さんと浮竹さんはそんなことを話し合っていました。

 行方不明になったはずの分家の者の子供が、死神代行として現れる。

 隊長と副隊長のどちらにとっても関係性が深いだけに、偶然とは考えにくい……見えざる何者かの手を感じずにはいられませんでした。

 

「あの、隊長……お話中のところ失礼します……」

「ん? どうした?」

 

 そんなシリアスな空気の中に割って入ったように、一人の十三番隊の隊士が遠慮がちに声を掛けてきました。

 

「海燕副隊長にお客様です。なんでも岩鷲と言えば分かると言っていて……」

「なにっ!? 岩鷲のヤツが!? すぐに通してやってくれ!!」

「はい」

 

 まさかの名前が出てきたことに驚く海燕さんでした。

 そして数分後、隊士たちに連れられて岩鷲君がやってきました。

 

「岩鷲! お前、どうしてここに!!」

「兄貴! 実は姉ちゃんのことが心配で……」

「岩鷲テメエ! なんで来やがった!!」

「……って姉ちゃん!! なんでここにいるんだよ!? てかよく見りゃ、一護まで!!」

 

 瀞霊廷の中で何があったのかを知らない岩鷲君、まさかの再会にびっくりです。

 

「まあ色々あってな、十三番隊まで連れてきたんだよ。それで岩鷲、お前はどうしてここに来た?」

「それは……もう姉ちゃんから聞いてるかも知れないけど、俺は打ち上げ係として家に残ってたんだ。けどどうしても姉ちゃんの事が心配になって、それで兄貴に直接話をして、なんとか力になって貰おうと思って……あっ! 勿論、都の姉さんには許可を貰ってるぜ!!」

 

 つまるところ「家族が心配だから自分も様子を見に来た」というわけ。兄姉(きょうだい)思いな岩鷲君なのでした。

 

「……ヘッ! 何をナマ言ってんだよ! オメエに心配されるなんざ、千年早え!!」

「ね、姉ちゃん! 止めてくれって!! ガキじゃねえんだからよ……!!」

 

 口では突き放すようなことを言うものの、空鶴さんは嬉しそうにして岩鷲君の頭を乱暴に撫で回していました。

 岩鷲君もまた、嫌そうなそぶりは口だけ。その表情には喜びが宿っていました。

 

「ああ、君が岩鷲君だね。海燕から話は聞いているよ。なんでも死神目指して今は霊術院に通っているとか……」

「あっ! う、浮竹隊長!! はい! そうです!! 岩鷲です! 今は霊術院にいます!!」

「いや、そのままで良いよ。家族が心配だったんだろう? なら責める理由はどこにもないさ」

 

 撫で回されているところで浮竹隊長に声を掛けられ、岩鷲君は姿勢を正そうとします。

 なるほどどうやら、海燕さんは弟の成長を楽しみにしているようですね。

 

「卒業したら十三番隊(うち)に来るかも知れないからね……そうだ! 今のうちに、みんなに紹介しておこうじゃないか。勿論、一護君も一緒にね」

「え……お、おいちょっと……浮竹隊長さん!? 何で俺まで……」

「なんでって、俺たちは朽木を助けたい仲間じゃないか。だから、親睦を深めるためにも……」

「いや、ちょっ、離せ……って、力強え!? 全然引き剥がせねえぞ!?」

 

 浮竹隊長の主導で、何故か大自己紹介大会が始まったのでした。

 




●海燕さんと一護が一緒
そんなの、見てる方は笑うに決まってるじゃないですか。

●岩鷲君参加
お姉さんの事が心配だったから来ちゃった。
というかこの世界の岩鷲君ならこのくらいは自然とやるはず。

なお「西門の兕丹坊が大怪我なのに瀞霊廷に入れるのか?」
という疑問を持ってはいけない。
(書いている人は「瀞霊壁って6000秒は閉じられないんだっけ?」とか混乱してたことはナイショ(6000秒は王鍵が無いと入れない結界のアレでしたね))

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