一護君が親戚のお兄さんに可愛がってもらっていたり、
砕蜂ちゃんは
調査の内容は勿論、以前
「ふむ、ここも違ったか……」
ですが成果は芳しくありません。
一応、隠密機動に所属している者たち――その中でも、こういった調査に詳しい者たちを引き連れて調べていますが、まるで雲を掴むかのようです。
「こんなところでグズグズしているわけには行かぬ! せめて手がかりだけでも見つけねば!」
砕蜂ちゃんには二番隊隊長としての業務もあり、現在
が、どうにも不安で完全に任せる気になれずにいました。
何か凡ミスをやらかしそうで、イマイチ信用できずにいるようです。
「もし
なのでさっさと情報の一つでも見つけて、報告に戻りたくてたまらないようです。
すっかり飼い主の気を引く子犬みたいな思考になっちゃってますね。
可愛いから許しちゃう。
「あの、軍団長。差し出がましいのですが、これと思しき場所は既に一通りを調べて終えています」
「それに主要な隊士たちにも聞き込み済みです」
「にも関わらず、これだけ調べても見つからないということは……そんな者はいなかったか、何者かが嘘をついているかのどちらかではないかと……」
「ふむ……」
そんな子犬みたいな感情を一切顔に出すこともなく、部下の隠密機動たちの言葉を聞いて思案顔を浮かべます。
この姿だけを見れば、いつでも冷静沈着でとても仕事が出来そうに見えますね。
「確かに、現時点ではその可能性も……ッ!!」
一理あると考えて調査を一度終了させようと思った、そのときでした。
砕蜂ちゃんの霊覚が、とある霊圧を捉えました。
それも、彼女が一瞬にして言葉を失うほどの霊圧です。
「あの、軍団長……?」
「……分かった。お前たちはもう一度だけ、各隊士たちに聞き込みをしておけ。虚偽の申告をしている者がいないかをチェックするだけで良い」
「はっ!」
「それと私は少し野暮用が出来た。少しこの場を離れるぞ」
そう言うが早いか、砕蜂ちゃんはその場から姿を消しました。
「軍団長!?」
「も、もういない……!? 霊圧知覚でも、捉えられないぞ……!!」
「一体あの一瞬でどれだけの速度で動いたというのだ……」
残された隠密機動の者達は、自分たちのトップの実力に恐怖すら覚えていました。
まるで煙か霞のように一瞬にして姿を消し、どこまで遠くまで移動したのかまるで分かりません。皆さん、隠密機動に属する者として身のこなしや霊覚にはそれなりに自信があったはずです。
そんな彼らが知覚すらできない。
「あれで、四楓院家の次期党首が就くまでの間の代理とは……なんと勿体ない……」
「ああ、俺もそう思うがな。昔からの慣習として決まっているから……」
「くだらないよなぁ……」
つまらないしきたりに左右されることなく、きちんと名実共に軍団長となってくれればと思わずにはいられませんでした。
やがて、一人の口から子供の遊びのような疑問が飛び出してきました。
「なあ……仮に、仮にの話だぞ。砕蜂軍団長と先代の軍団長、どっちが上だと思う」
「そうだな、どっちの本気も知ってるわけじゃないが……俺なら……」
彼らは在籍歴も長く、先代の軍団長のことも知っていました。
そんな彼らが判断した答えを聞いて――彼らは納得したように頷きました。
さて、一人別行動を取った砕蜂ちゃん。
彼女は今、瀞霊廷を猛スピードでひた走っていました。
道無き道など何するものぞとばかりに、時には建物を足場として、時には空を掛け抜けながら、目的の場所目掛けて最短距離をまっすぐに直進していきます。
獲物を見つけた獣のような鋭い目で先を凝視しながら、文字通り"まっすぐ"に。
「見つけた! 見つけた! 見つけた!!」
そして口からは押さえきれない歓喜の声を繰り返していました。
信じられない速度で瀞霊廷を横断するように移動して、ついに彼女がたどり着いたのは――
「見つけましたよ!! 夜一様!!」
「ぬ……っ! 砕蜂か……」
そこにいたのは、一見すればタダの黒猫でしかありません。
ですが砕蜂ちゃんはその黒猫の正体をよく知っていました。
可愛い可愛い黒にゃんこの姿は世を忍ぶ仮の姿。
その正体は先代の隠密機動の軍団長、四楓院夜一さんです。
「よく、儂の場所がわかったな……」
「それはもう。夜一様の事は二番目によく考えていますから」
長年探し続けていた夜一さんをようやく見つけられて、砕蜂ちゃんは嬉しそうに微笑んでいました。
ちなみに夜一さんのことは二番目によく考えていると言いましたが、一番は
砕蜂ちゃんは家族想いで仲間想いのとっても素敵な死神さんなのです。
ですがそんな砕蜂ちゃんの心など知らず、夜一さんは心の奥底で大量の冷や汗を流していました。
――くっ! 儂としたことが、完全に気付くのが遅れたわ!! 霊圧を知覚したと思った途端、目に前まで現れよって……!! 砕蜂め、どれほど力を付けたというのじゃ!?
突然、それこそ流れ星が目の前に降ってきたかのような速度と勢いで現れたわけで。それだけでも夜一さんと砕蜂ちゃんの現在の力量差が透けて見えてきます。
なお、砕蜂ちゃんが移動を始めた場所から夜一さんが今いる場所までは、直線距離で考えても相当な距離がありました。
霊圧知覚で居場所を捉えるだけでも、並の隊長クラスであっても不可能なくらい距離が離れていたわけですが、どうやら砕蜂ちゃんの常識からすればできて当然のようです。
これも砕蜂ちゃんが夜一さんのことを慕っている証拠です。夜一さんってば、愛されていますね。
「それで砕蜂、どうやらお主一人で儂の元まで来たようじゃが……はて、どうするつもりじゃ? 反逆者として捕縛し、四十六室にでも突き出すつもりか?」
「いえ、そのようなことはいたしません。むしろその逆です!」
「逆……?」
てっきり捕まえに来たと思っていただけに"逆"という返答は予想外だったようです。
だけどね夜一さん、安心して。
これからもっとビックリするから。
「私が夜一様の無実を証明します!!」
「なん、じゃとぉっ!?」
まさか自分が想定していた内容とは真逆のことを聞かされてしまった夜一さん。
可愛い可愛いにゃんこ姿なのにその表情は「なん……だと……」状態――いえいえ、にゃんこ姿なので「にゃん……じゃと……」状態ですね。
「強くなって、実績を上げれば隠密機動の軍団長にだってなれる! 無実を証明することだってできる!!
「む、むう……?」
「そして、全部が終わったら、私の副隊長になってください!!」
「は……? 副隊長……? 儂が……か!? お主の……?」
「だって私の方が強いのですから、当然ですよね?」
――
慕ってくれていた砕蜂に黙って現世に行ってしまったのを気にしていました。とはいえ
それが、今やどうでしょう。
純粋に慕っていてくれた頃の砕蜂ちゃんの姿は、どこにもありませんでした。
まだ幼くも純情でまっすぐな志を持っていた少女は、立派に成長したみたいです。
それに今だって、ちょっと「思ってたんと違う」かもしれませんが、夜一さんのことはちゃんと敬ってますから。
どうしてこうなった、自分が悪かったのか、と今になって後悔の念が夜一さんの心をガンガン刺激していきます。
「もう二度と、夜一様はどこへも行かせません!! 逃げるようなら、絶対に捕まえてみせます!!」
「はぁ……もうよいわ……」
色々と言いたいことをグッと全部飲み込んで、そう呟きました。
多分、大蛇でも丸呑みに出来ないくらい大量だったと思います。すごいぞ夜一さん。
「理由や考えはどうあれ、儂はまだ捕まるわけには行かぬのでな」
そう言いながら、にゃんこ姿から人間姿に戻ると同時に黒装束を身に纏います。
あ、そうそう。決して――
「その服はどこから取り出した!」
――とか
「にゃんこ姿の時は全裸って裸族かよ!」
――とか言ってはいけませんよ。
「お主がそう来るのなら、儂も力尽くで応じさせて貰うぞ!!」
衝突は避けられないと理解したのでしょうね。
一瞬にして間合いを詰めながら、砕蜂ちゃんへと攻撃を繰り出しました。
夜一さん自慢の俊足を存分に活かした、目にも映らぬほど高速の拳打です。
「はっ!」
挨拶代わりと呼ぶには強烈すぎる攻撃でしたが、砕蜂ちゃんは腕ごと脇に抱えるようにして掴み取って見せました。
「なっ……!?」
「やぁっ!!」
それどころかそのまま、抱えた腕を軸にして投げを放ちます。
「くっ! ……ぬおっ!?」
とっさに流れに逆らうことなく動き、受け身を取った夜一さんでしたが、そこへさらに砕蜂ちゃんの追撃の一撃が放たれます。
慌てて身を起こして距離を取ったものの、砕蜂ちゃんはその動きにピタリ追従してきました。
どうにか振り切ろうと速度に緩急をつけたりランダムに動きを変化させるものの、まるで接着剤で身体と身体をくっつけられているかのように、離れることはありませんでした。
視線を動かせばすぐそこにはいつでも砕蜂ちゃんの姿があります。
それはつまり、夜一さんの動きに砕蜂ちゃんが対応している……見てから動く砕蜂ちゃんの方が素早く動いているということでした。
瞬神と評されるほどの高速移動を得意としていた夜一さんでしたが、これには肝を冷やしたようです。
――戦場から離れていたとはいえ、ここまでついてくるか!!
思わず心の中で舌打ちしてしまいました。
「離れんかっ!!」
「ふふっ、お断りです♪」
相手の行動を妨害するような一撃を夜一さんは放ちます。
完全に相手の死角から放ったはずですが、その動きを砕蜂ちゃんは一瞥することなく弾き飛ばしました。
と同時に、夜一さんへの反撃の一撃を放っています。
「ぐっ……!?」
――なんじゃこれは!? 身体が……!!
払われた同時にたたき込まれた一撃は、高速移動していたはずの夜一さんの身体をふわりと浮かせます。
「はああっ!!」
「ぐうっ!!」
中空へと無防備に投げ出された夜一さん目掛けて、砕蜂ちゃんはついに本命の拳打を叩き込みました。
――まるで砕蜂に動きを支配されたようじゃ!!
思わず防御すら忘れてしまうくらい見事な一撃。
殴打された痛みに苦しめられながら、夜一さんはそんな事を考えていました。
「ふ、ふふふ……じゃが甘いのぉ。拳ではなく斬魄刀を使っておれば、勝負は決していたやもしれぬのに……」
ですが年長者の意地でしょうか。
すぐさま体勢を立て直して着地すると、さも平然とばかりの姿を見せました。
さらに減らず口を叩くことも忘れません。
「そんな! 夜一様が徒手なのに私だけが刀を使うわけには参りません! それに、先ほど確信しました! 今の夜一様でしたら、斬魄刀を使うまでもありません!!」
ですが砕蜂ちゃん。
相手のそんな心に気付かず、むしろ良い笑顔でナチュラルに心を折りに来ました。
「ええい、言いおったな!! ならもう手加減はやめじゃ!!」
ならばと夜一さん。奥の手を使う事に決めたようです。
肩から背中に掛けての布を弾け飛ばしながら、瞬鬨を発動させました
決して挑発に乗ったわけではありませんよ。砕蜂ちゃんを油断ならない強敵と認めたからこそです。
「儂もそう簡単に捕まるわけには行かぬからな! 少々本気で痛めつけさせて貰うぞ!!」
「あっ! 瞬鬨ですね!! さすがは夜一様! すごい練度です!!」
瞬鬨を纏った夜一さんの姿を見た途端、砕蜂ちゃんは無邪気に喜びつつも瞬鬨を発動させました。
「思わず見とれちゃいました。けど、私も出来ますよ」
「なん……じゃと……」
今はにゃんこ姿ではないので「なん……じゃと……」状態です。
「瞬鬨!? 馬鹿な、どうやってそれを知った!? 」
「え?
――あああああぁっ!!
このまま全部を忘れて、頭を抱えてジタバタしたい衝動に駆られています。
けれど夜一さんは同時に凄く納得していました。
しかも四番隊の隊士として、様々な現場に出て色々な隊の隊士たちを見ています。
そんな彼女ならば、当然のように様々な知識や経験も持っているはず。
それこそ、隠密機動の軍団長だけに伝えられる秘技・瞬鬨について知る機会があったとしても、不思議ではないのだろう。
夜一さんはそう結論づけました。
――じゃ、じゃが存在を教えただけではこうはならん! 瞬鬨の仕組みを解明しており、何よりも砕蜂にとてつもない才覚があったということか……!!
夜一さんの中で砕蜂ちゃんの評価が天井知らずに上がっていき、その勢いは留まるところを知りません。
もはや手加減など考えていたら、逆に完膚なきまでに叩き潰されちゃいそう。
「な、なかなかやるのぅ……じゃが!!」
思わず顔をひくつかせるものの、夜一さんにも先輩としての意地があります。
「おおおおおっっ!!」
「らあああああっっ!!」
これで勝てば全てチャラ、とばかりに砕蜂ちゃんへと襲いかかりました。
そんな夜一さんの行動を嬉しく思いながら、砕蜂ちゃんは迎え撃ちます。
先代の軍団長と当代の軍団長とが、激しくぶつかりあいます。
二人はまるで短距離の瞬間移動を繰り返しているかのように瞬時に場所を変えながら、超高速の攻撃を繰り出し合っていました。
姿が消えたかと思えば相手の背後へ回っている。かと思えばさらに相手の背後へと回っている。
強烈な蹴りを蹴りで打ち落とし、拳の一撃を打ち払って防ぐという途轍もない激戦。
しかも瞬鬨状態のため、二人の手足には鬼道の力が乗っています。相手に掠っただけでも大ダメージ必死の中にあってなお、二人は怯むことなく戦い続けていました。
互いに攻撃を繰り出す度に、相手の身体に決して小さくはないダメージが刻まれていきます。
やがて、戦いの流れは徐々に砕蜂ちゃんの方へと傾いている模様。
夜一さんはじわじわと砕蜂ちゃんに押されていきました。
いったいどうしたんでしょうか?
――これはまさか……瞬鬨のエネルギーを利用しておるのか!!
なんと砕蜂ちゃん、瞬鬨によって自ら纏った風のエネルギーを手足だけではなく、全身へと纏わせていました。風を破壊だけでなく、身体能力の後押しにまで使っているんですね。
これは後に夜一さんの秘技である"
――押し負け……!!
「があああっっ!!」
夜一さんの脳裏に、ちらりとでも弱音がよぎった瞬間に勝敗は決しました。
相手の瞬鬨を打ち消してもなお余りある強さで放たれた一撃は、そのまま夜一さんを巻き込んで凄まじいダメージを与えました。
大ダメージに吹き飛ばされる夜一さん。
そのまま地面をゴロゴロと転がっていったかと思うと、やがて全てを諦めたような表情でむっくりと身体を起こします。
「あーもう! わかったわかった!! 儂も女じゃ、文句は言わぬ!! 降参じゃ、なんでもお主の好きにせい!!」
両手を挙げての降伏宣言です。
この瞬間、勝敗は決しました。
瞬鬨の攻撃を受ければ、そのまま戦闘不能になっても不思議ではありません。
ですが攻撃を受けてもなお夜一さんが五体無事で身体を動かせるというのは、砕蜂ちゃんに手加減されていたことの証明です。
ここまではっきりと力の差を見せつけられては、夜一さんにもう打つ手はありませんでした。
「はい! 好きにさせていただきますね!」
地べたにあぐらを掻いて座り込んでいた夜一さんを、砕蜂ちゃんは担ぎ上げます。
「お、おい砕蜂!? お主いったい儂をどうする――」
「違いますよ夜一様! 砕蜂隊長です!!」
「――いや、その――」
「砕蜂隊長です!!」
「――~~~~っ!! ええいっ! 砕蜂隊長殿! 儂をどこに連れて行く気なのじゃ!?」
「勿論、
「は……?」
夜一さん一人を抱えながら風よりも速く駆け抜けていく砕蜂ちゃん。
そして理解不可能な答えもあって、夜一さんは頭の中が?でいっぱいです。
「待て待て待て! ちょっと待たんか!! せめて猫の姿にならんと要らぬ混乱を招くことに……おい砕蜂!! いや隊長殿!! 儂の話を聞いておるか!? 置いていったことに対する意趣返しか!?」
こうして――暫定的ながらも――副隊長の事を"様づけ"で呼ぶ隊長が誕生しました。
事態はひっそりと、けれども確実に狂っているようです。
●にゃん、じゃと……
言いたかっただけ。
●砕蜂ちゃん
本来の素質・実力 + 藍俚の強化
((原作より)霊圧がずっと高い・瞬鬨の練度も高い。
加えて変な体術まで覚えてる ⇒ 超やべー)
なによりこじらせ続けた想いがやべー。
●夜一さん
前線から遠ざかっていた弱体化状態で、やべー砕蜂を相手にする羽目に。
気がついたら砕蜂の後塵を拝しまくっていた。
それよりなにより(元部下・現暫定上司の)想いが重い。
●結果
力があればかつての上司を無理矢理部下にしても許される。
だって藍俚にそう教えて貰ったから。だから捕まえた。
力はいいぞ、欲しいものが手に入る。
●何故私を連れて行って下さらなかったのですか
(原作でもこっちでも)置いていったら凄い事になってた。