お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第13話 働けど働けど我が暮らし……

「ふむふむ……」

 

 院生寮内の自室にて、瀞霊廷通信の最新号に目を走らせています。

 瀞霊廷通信とは九番隊が発行している公報誌やら官報みたいなものです。瀞霊廷全土で出回るのは当然として、時には流魂街にも一部出回っています。

 私も流魂街にいた頃に目を通したことはありました。

 

 ですが、私のお目当ては記事でありません。

 

「特に見知った名前は無し、か……」

 

 瀞霊廷通信には年に二回、護廷十三隊在籍者名簿が付属してきます。これには各隊ごとに席順で、無席の隊士は五十音順で氏名が列記してあるというもので。

 とはいえまだ院生の身ではそれほど意味がないのですが、今の私には有り難い情報なわけです。

 

 すなわち、知っている名前があるかどうかを調べるのに。

 

 いえ、師匠が教えてくれた護廷十三隊の各隊長たちの名前を疑っているワケではありませんが、アレも結構昔のことですし。毎年師匠に「隊長の名前を教えてください」と尋ねるのも不自然ですし。

 なので、最新の情報が欲しかったわけで。その意味ではこの瀞霊廷通信はとても有用でした。定期的に名前の確認が出来ますからね。

 

 残念なことに、知っている名前は――師匠に聞いた以外には――無かったわけですが。

 

「確か、京楽・浮竹隊長なんて結構ベテランみたいに描かれていたはずよね? でも名前が一般隊士の欄にも無いって……どれだけ昔なのよ……」

 

 ひょっとして原作開始前に寿命が来て死んじゃう、なんてことはないですよね!?

 そんなの困る!! 織姫が! 乱菊が! ハリベルが! バンビエッタが! まだ山を見てすらいないのに!!

 

 気晴らしと現実逃避を兼ねて、瀞霊廷通信に目を通します。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………つまんない。

 

 予定表を読んでいるような気分になって、思わず放り捨てました。そのまま畳の上に寝転がります。

 

「出来事と予定を列挙しただけ! って感じなのよね。もっと楽しい雑誌みたいな記事も載せてくれれば良いのに」

 

 以前、流魂街時代に目にしたそれと変わらない内容に辟易します。

 見たことがありませんが、江戸自体の瓦版とかってこんな感じなのでしょうか? それとも、死神の発行物なのですからこういったお堅い読み物なんでしょうかね?

 

 それに予定表として考えれば、すこぶる優秀ではあります。何が起きたとかが物凄く簡潔に書かれているので、面白くはありませんが読みやすくはあります。

 最低限の要求と義務感目一杯って感じなので、面白くはないですけれど。

 ゴシップ記事や捏造記事がさも"事実です"と書いてあったり、個人的な意見をさも"全体の意志です"と書かれるよりかはマトモなのかもしれません。

 

「……あ、いけない!」

 

 予定表で思い出し、慌てて起き上がります。

 

「今日は図書館の仕事の日だった!」

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 霊術院には夏休み・冬休み・春休みがあります。

 意外でした。

 もっとこう"死神になるためには月月火水木金金! 休みなどないと知れ!"みたいに厳しいものだと思っていましたが、案外現代社会の教育に近い所があるんですね。

 

 そして現在は夏――夏休み期間中です。

 

 瀞霊廷に家のある院生はこれを機にと一時帰省をしていますが、私のような流魂街出身の場合はそういうわけにも行きません。

 まだ瀞霊門を自由に行き来できる身分ではありませんからね。下手すれば通行証の発行だけで休暇期間を潰しかねません。

 なので基本的にずっと寮にいます。院側もそういう事情を汲んでくれるので――平時より規模は小さいですが――施設や食堂が利用できます。

 

 ちなみに綾瀬さんたちは貴族なので、現在帰省中です。なので訓練を積んでもいいのですが……

 

「すみません、遅れました!」

「ああ、湯川さん。大丈夫、時間ぴったりだよ」

 

 慌てて図書室に駈け込むと、どうやら遅刻はせずに済んだようです。

 

「じゃあ、始めようか?」

「はい! 任せてください!!」

 

 以前も言いましたが、霊術院生は基本的にお金を使わなくても大丈夫です。

 最低限の衣食住に加えて、授業などで必要な物は支給されます。

 足らなければ申請すれば手に入ります。

 

 ですが手に入るのはあくまで必要な物だけ。

 私的に必要な物の場合は、自腹を切らなければ手に入りません。貴族ならばお金も簡単に手に入りますが、流魂街出身の場合はそういうわけにも行きません。

 

 なので、霊術院側でもお手伝いの募集――いわゆる大学が斡旋しているアルバイト――をしており、そこで少額ですがお金が手に入ります。

 実入りはホントに少ないですが。

 

 そして今日の私は司書のアルバイトというわけです。

 

「じゃあまずはこの本を――……これはあっちの棚に――……こっちはまだ管理していないから後回し――……」

「はい、この箱に入っているのがあっちですね? で、これが向こう……」

 

 やっていることは本の整理です。

 ただ、背は高いし力もあるしで、物凄く捗ります。書架の最上段も楽々、梯子要らず。

 

「えーと、この本は? あ!」

「これは……ああ、これはいいよ」

 

 慌てて隠すように手に取ったその本のタイトルを、私は見逃しませんでした。

 そこにあったのは"高等鬼道教本"の文字、難解かつ危険なので院生が操るには不適切な鬼道が載っている本です。

 

 教員が目を通すならともかく、院生が読むには危険過ぎる代物です。そして読んでしまえば、今度は強力な鬼道を操りたくなるのも当然。

 きちんと制御できれば問題ないでしょうが、そういう強力なものは得てして手に余って暴発するのが世の常です。

 術者本人だけが大怪我をするのならまだしも、ほぼ必ず周囲にも迷惑が掛かりますし。下手をすれば管理不行き届きで大目玉を喰らうことにもなりかねません。

 

「……見なかったことにしておきます」

「ごめんね、そうして貰えると助かるよ」

 

 そんな私の気遣いを察してくれたのでしょう。すんなりと"無かったこと"を落とし所にできました。

 けれどこれは、弱みを握った様なものですからね。ちょっと我が儘を言うくらいなら許されるでしょう。

 

「その代わり、一つお願いが」

「ん、なんだい?」

「鬼道の簡略化についての本とか、技術とかってありませんかね?」

「……簡略化? 一体どういうものだい?」

「言ってしまえば、詠唱を破棄しても完全詠唱に近い威力を発揮する方法とか、何か道具を使って簡単に鬼道を発動できるようにする方法とかです」

 

 求めるのは、流魂街時代から追い求めていた簡単で強力な鬼道を操る方法です。目指せ、無詠唱! とばかりに試行錯誤をしていますが、未だ進展は無し。

 今のところ、虚閃(セロ)を無言で放つくらいしか手はないのですが、霊術院の関係者ならひょっとしたら――

 

「すまない、そういうのは知らないんだ」

 

 ――ひょっとしませんでした。

 

「うーん……じゃあ、そういうことを試したけれど、駄目だった。失敗した。みたいな記録だけでも残ってたりしませんか?」

「そういう本も聞いたことはないねぇ……まあ、私もここの本の全てを読んだわけじゃないから、どこかにあるかもしれないけれど」

 

 駄目ですか……失敗の記録だとしても、試行錯誤の回数を減らせたり自分では思いつかなかった別の観点や手段に気付けるかもしれないから、欲しかったのですけれど。

 

「ここになくても、真央図書館ならあるかも――」

「――真央図書館!? どこですかそれ!?!?」

「ち、中央一番区にあるよ」

 

 詳しく話を聞いたところ、瀞霊廷にある中でも最も大きな図書館とのこと。

 なるほど、そこになら情報があるかもしれませんね。

 

「今度時間がある時に連れて行ってあげるけれど、今はお仕事優先でね」

「そうですね」

 

 忘れるところでしたが今はバイト中の身です。

 ですが本の整理がてら面白そうな本があったり、参考になりそうな本を見つけたときにはその場所を覚えておき、後日その本たちを読むのが密かな日課でもあります。

 

 肝心の鬼道の簡略化については……気長に行きましょうか。

 




●瀞霊廷通信
 九番隊が発行している公共機関誌。
 原作時点では、いわゆる月刊の情報誌やタウン誌のような雑誌。
(「死覇装の着崩しテクニック!」とか、浮竹隊長の連載冒険小説「双魚のお断り!」があったりとコンテンツは充実している)

 が、それは東仙要が九番隊の隊長になってからのお話。
 それまでは(今回の藍俚(あいり)が読んでいたように)瓦版みたいな、ただ周知事項や事件や予定などを列挙していただけの触れ書き。詰まらない物だった。

 また、年に二度の護廷十三隊の全隊士名簿が付属される。

(小説BLEACH より)

●バイト
 貴族の子なら「お小遣いちょーだい」って言えば幾らでも手に入ると思いますが、流魂街出身の場合はお金なんて持ってないでしょうし。
 でも瀞霊廷ではお金が無いと暮らしていけない。
 →なので霊術院で最低限の暮らしと必要な物は支給されるという設定を入れた。
  →なのでお金稼ぎの手段としてバイト(単純作業で安いけれど手間賃を得られるような仕事)はあっても不思議ではない。
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