「何でも良いから、次に繋がる情報……ねぇ……」
四番隊へと搬送された藍染の遺体を前にして、私は額に手を当てながら悩みます。
さて、これを調査するとなると――
「まずは遺体の再調査ね。精巧な偽物という可能性があるから、その可能性を判断する。その後は損傷について調査するわよ」
「損傷、ですか……?」
「そうよ。創傷の具合から、成傷器はどんなものだったか。どの程度の殺傷力を持っていたか。そういったことを調べる。夜一さん――四楓院夜一が本当に犯人なら、創傷には隠密機動の癖が見えるはずだから」
まあ、藍染のことだから疑われないように、そういう証拠もしっかり用意してあるんでしょうけどね。
「そういえば先生は二番隊の隊長とお知り合いでしたね……」
「ええ、そうよ。だから砕蜂の動きを基準として、隠密機動の特徴が見えるかを調査するの」
簡単に言ってますがこれ、医者が暗殺者の戦い方を知ってるからこそ出来ることです。
……まあ本来なら卯ノ花隊長が検死していたわけで、あの人は私よりももっと刀傷に詳しいから……そういう癖とか瞬時に見抜いていると思います。
つまり、医者になるには殺人術を習得していないと駄目ってこと……? 医大生って大変なのね……
「とりあえず、そこから調査しましょう。大変だと思うけれど、お手伝いよろしくね」
「はい」
あ、そうそう。紹介がまだだったわね。
検死の助手をなんと、吉良君が務めてくれています。
勇音も桃もまだ忙しそうだったから。間が良いのか悪いのか、彼の手は空いていたからお願いしちゃったの。
ということで、検死を始めま――
『拙者、知ってるでござるよ!! 検死医というのは科捜研の人に"念のために!"と無茶ぶりされて苦労するでござる!!』
……まあ、卯ノ花隊長に無茶ぶりされると考えれば当たらずとも遠からずよね。
こほん。
では改めて、検死を始めました。その後、一通り調査をしましたけれど――
「義骸や人形といった可能性は極めて薄い……というか調べれば調べるほど、医学的な見地は藍染隊長が死んだことを後押ししてくれるわね」
――完璧でした。
頭のてっぺんからつま先まで、最後まで藍染たっぷりだったわ。
よくもまあ、これだけのことを催眠術でやってのけるわね。
それ以上に卯ノ花隊長が凄いわよ。
あの人は予備知識もないのによくこれを「あ! これ瀞霊廷で大人気の藍染隊長等身大フィギュアだ!」と気付いたわよね。
やっぱりあの人、おかしいわよ……
「はぁ……はぁ……」
「吉良君、大丈夫?」
なんだか吉良君の息が上がっています。
動揺していますし、なんだかちょっと顔色も悪いです。
「す、すみません……ちょっと気分が……」
「そっか……見知った人の遺体を調査だもんね、気分も悪くなるわよね」
「ええ。藍染隊長はたまに相談に乗ってくれて……僕だけじゃなくて他にも話を聞いてくれたり助言をしてくれたりして、なのに藍染隊長は死んでて、僕はそんな人の検死をしてるんだって思ったら……」
相談? 何か碌でもないことを吹き込んでたのかしら?
まったくこれだからあの眼鏡握りは! 油断も隙も無い!
『眼鏡を握りつぶすから、とうとうお寿司みたいな表現になったでござるな……』
「気をしっかり持って、今だけは集中して。心ここにあらずで挑んで、決定的な見落としなんてしたら、藍染隊長への冒涜になるわよ」
「は、はい! 先生、僕頑張ります!!」
『おお! 女隊長が年下の男性部下を元気づける、なんとも可能性を感じさせるシーンでござるなぁ!! これはフラグが立ったでござるよ!!』
いや、そういうシチュエーションってあるけど……
でも藍染の遺体がすぐ隣にあるんだけど……射干玉はそれでいいの?
まあこれ偽物なんだろうけれど、それでも絵的にはかなりアウトよ?
「じゃあ元気が出たところで次は血液検査ね。それと同時に体表検査をもう一回行うわ」
「えっと、それはどうして……?」
「創傷からも判断出来るように、藍染隊長は何も抵抗せずに殺されているの。流石におかしいでしょう? 相手は部屋の中にいた隊士たちを全員斬って、最後に藍染隊長を刺してるのよ?」
確か本来だと"仲間内に裏切り者がいるから一人で説得しに行く"みたいな感じだったのよね。
でも殺された。
しかも一撃で殺されてて、遺体を壁へ磔にする。
みたいなこれでもかって位に死を強調する形で。
その理由については「一人で向かったことに加えて、説得したいと思っていた相手だから油断していた。だから、抵抗も出来ずに一撃で殺されたのでは?」みたいに思われたんだっけ?
よく覚えてないから、この辺はかなり推論込みの意見なんだけどね。
ところが今回の場合、藍染以外にも人がいるからね。
少し考えれば抵抗するだけの時間はあったのは誰でも気付く。
なら抵抗出来なかった何らかの理由があったはずと、普通なら考える。
となると当然その辺も調べておかないと給料泥棒って思われちゃうし、それ以前に普通に不自然だからね。
案外卯ノ花隊長が気づけたのも、四番隊隊長としての知識からじゃなくて元十一番隊隊長としての直感――殺し合いの残り香が感じられなかったからかもしれない……
「あっ、そうか! それが本当なら抵抗する時間くらいはあったはず! 無抵抗なのは変ですよね!!」
細かい部分で不自然な状況になってるから、この死の演出はアドリブ……?
いや、これもそう見せかける計算なのかしら……?
「そういうこと。となると事前に薬で意識を朦朧とさせられていたかもしれない。そういう部分も調べていくわよ」
「はい!」
ということでまだまだ検死は続きます。
もう一度、藍染の頭のてっぺんからつま先までじっくりと見ました。
それどころかお尻の穴まで確認したわよ。薬を直腸吸収とかしてるかなぁって。
『藍染の全身を調査でござるな!! それでご感想は!?』
別に何も。というか、いちいち反応なんかしてられないわよ……
あ、でも。多分だけど平均以上だったわ。
『何が!? 何がでござるか!!』
「特に何も無し、ですね……」
「となるとやはり何もせずに無抵抗で殺されたことになるわね」
「ですがそれはおかしい、そう思っているわけですよね」
「ええ、そうです。藍染隊長が気付くだけの時間は十分あったはずですから」
「前提が間違っているのでは? 最後に藍染隊長を殺したのではなく、最初に手を掛けたということは?」
「え、あの……先生?」
「遺体に創傷は一つだけでしたから、一撃で絶命しているのは間違いありません。私も現場にいましたが、周囲には重傷の隊士が倒れていて藍染隊長を刺していましたから、最後で間違いないでしょう。改めて話を聞く必要はあるかもしれませんけど」
「精巧な人形の可能性は?」
「あの、あの……」
「かなり低いですがまだ残されているというところです。ただここまで精巧な人形を作ったとなれば、技術局に記録が残っているかもしれませんね。他にあるとすれば……そういえば昔、十二番隊でそんな研究をしていたはずです。確か霊骸、だったかな……? そっちも併せて調査が必要かもしれません……ところで――」
吉良君も困っているし、そろそろ突っ込んでいいわよね。
「――古巣とはいえ、無断で入らないでいただけますか? 卯ノ花隊長」
「あらごめんなさい。四番隊の子たちにお願いしたら、全員快く教えてくれたものだからつい」
さらーっと入ってきて、さらーっと会話に加わられて、どうしたものかと思ったわ。
「まあ、それはもういいです。せっかく来たのですから手伝って下さい。十一番隊隊長としての見立てもお聞きしたいですから」
どうせ文句言っても聞いてもらえないんだから。
だったら戦闘集団のトップに立つ者としての意見も聞いておきましょう。
「あら、部外者を手伝わせて良いのですか?」
「傷については私よりもお詳しいでしょう? それにここまで足を運ばれたということは、反対しても強引に見るんでしょうから」
「そんなことはありませんよ。手塩に掛けて育てた可愛い部下の働き振りを見たいという、少しばかりの郷愁に駆られただけです」
「ありがとうございます。ですが視線を遺体の傷から離して仰られたら、その言葉も手放しで喜べました」
「あの先生、卯ノ花隊長も……穏便に……」
吉良君が怯えてるわね。
このくらいでビビってると潰れるわよ?
こんな感じで、卯ノ花隊長と意見交換もしました。
結論としては「これは藍染の遺体だが、その死には疑問が残る」という感じです。
しかしこの検死、なんというか白々しいわよねぇ……
ところで意見交換の最中、吉良君はずっと震えてました。寒かったのかしら?
「もう夜中じゃない……」
あの後、解剖報告書を作成して総隊長のところまで届けました。
報告書には「遺体は精巧な作り物の可能性がある」の一文も載せておきましたよ。
作成して、提出して同時に報告もして、全て終わって帰る頃にはもうすっかり遅い時間です。
「十三番隊に行くのは明日ね……」
浮竹隊長がわざわざこっそり話しかけてきたとなると、またぞろ面倒事が待ってるんでしょうねぇ……
●無茶ぶりされる検死医
風丘早月先生(科捜研の女)
●藍染の尻の穴を見る
がっつり凝視して、直腸温度も測ってると思います。
偽物(催眠)ですけど、きっと本物と寸分違わぬと思います。
……改めて見ると、凄い字ですね……
●卯ノ花隊長
絶対興味を持つでしょうし、絶対来ると思うわけで。
(しかも検死の責任者じゃないから気も軽い)
二人掛かりで調べられたら流石にキツい。