お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第133話 これは一護ですか? いいえ、海燕です

「はい、志波海燕副隊長のできあがり」

 

 力尽くでの染髪作業はとりあえず終わりました。

 終わりましたが、そこには阿鼻叫喚――もとい抱腹絶倒が待っていました。

 

「あはははははは!! あっはっはははははは!! 鏡、本当に鏡から出て来た!!」

「すっげえええっ!! すげえッスよ副隊長!! まだまだコンテンツ力ありまくりじゃないッスか!! ぶははははは!!」

 

 笑い転げる清音さんと仙太郎君。

 

「くっ……」

 

 それどころかとうとう浮竹隊長も我慢出来なくなったようで、必死に堪えてこそいるものの、小さく何度も吹き出しています。

 背中を向けてますけど、その肩が小刻みに震えてもいますからね。

 

「おい黄色! 黄色い染料とか無いのか!? 逆バージョンも確認するべきだろこれは!!」

「姉ちゃん! そりゃいくら何でもまずいってば!! 少しは兄貴を気遣っ……ぷっ!!」

 

 志波家の姉弟(きょうだい)は、なんか凄いこと言ってるわね。

 後で長男に怒られても知らないわよ。

 

「なんでこんな真似すんだよ……」

「異議あり! 断固として否定する!! 俺はこんなツラはしてねぇぞ!!」

 

 当の本人(黒崎一護)と、真似されたご本人(志波海燕)は顔にでかでかと"不本意です"と書きつつ、文句を言ってきました。

 

「ごめんなさい。でもね、一応の大義名分や言い訳は必要なのよ。これで黒崎君は、志波海燕になった。志波海燕の言うことだから、十三番隊の皆は素直に従っていたのも仕方がない――ってわけ。ほら、こうすれば言い訳は立ちやすいでしょう?」

 

 名付けて「えー、このひとって、かいえんふくたいちょうじゃなかったのかー。だまされたー、てきのさくりゃくだったとはー」作戦です。

 

『聞いてる方からすると、ひらがなで言ってるのが滅茶苦茶腹立つでござるな。完全に理解した上でがっつり挑発しに来てるでござるよ……』

 

 まあまあ、そう言わないで。

 世の中には「甘い物は別腹」とか「ちゃんと運動したからご褒美に」とか「これ野菜たっぷりだからセーフ」みたいな言い訳って、よくあるでしょう?

 多少強引でも逃げ道を用意しておいてあげると、気も楽になって自分を騙しやすいの。

 

『このラーメン、油ギトギトでござるよ!! でも野菜たっぷりでござる!! よって相殺してカロリーゼロでござる!!』

 

 かなり強引だけど、そんな感じね。

 

「何よりその髪色がすごく目立つから、対応しないわけにはいかなかったの」

「だからって! もっと何かあっただろ……?」

「簀巻きにして問答無用で運んだ方が良かった?」

「……まあ、この頭で教師に目を付けられることも多かったし、理屈は分かるけどよ……」

 

 一護は簀巻きプレイはお気に召さない――っと。

 

『なんの記録でござるか?』

 

「あの、湯川隊長……ぼくはどうすれば……?」

「え? あ、そうね……」

 

 いけないいけない、山田七席のことはすっかり忘れていたわ。

 えーっと……どうしましょうか……そうだ!

 

「山田花太郎七席」

「は、はい!」

「旅禍に従わざるを得ない状況にあったことは重々承知しています。ですがあなたが、多少なりとも護廷十三隊の隊士についての情報を伝えたこともまた事実です」「うぅ……」

「諸々を考慮し、特別任務を申しつけます。この黒崎一護――もとい、志波海燕(・・・・)副隊長と共に十一番隊へ向かいなさい」

「え……? あの、それって……」

 

 まあ、こんなところでいいわよね。

 

志波海燕(・・・・)副隊長は自身の実力不足を感じ、これより十一番隊で特訓を行います。あなたはその補佐をし、特訓を万全で行えるように助力すること。いいですね?」

「それでいいんでしょうか……? もっとこう、投獄されたりとか……」

「そっちがいいの?」

「い、いえ! 特別任務、謹んで拝命します!!」

 

 その程度? と思ったんでしょうね。

 まあ、内容を聞くだけなら簡単に思えるわよね。回道使ってるだけでいいんだから。

 

 でもこれから一護は、十一番隊――それも三席とか副隊長とか隊長に可愛がってもらうわけだから……

 だから多分、ほぼ休みなく回復させる羽目になると思うから、覚悟しておいてね。

 

「さてでは浮竹隊長。これから志波海燕(・・・・)副隊長は十一番隊へと向かいます。なお四番隊は十一番隊の隊士とよく顔を合わせている関係上、私が仲介役として同行しますが、よろしいですね?」

「くくく……よくまあ、そんなことを言えるもんだ。大したもんだよ……ああ、わかった。十三番隊隊長 浮竹十四郎は、その行動を承認する」

 

 ホント、白々しい会話よね。

 浮竹隊長じゃなくても笑うわよこんなの。

 

「……姉ちゃん、俺たちどうしようか? 何か手伝いたいんだけどよ……」

「あん? そりゃ……兄貴、どうする?」

「そうだな……うーん……」

 

 出発の前に、志波家の面々がそんな会話をしていました。

 なので「黒崎君がまだどこかに潜んでいるように見せかけたらどうか?」とだけは言っておきました。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「すみません。卯ノ花隊長か更木副隊長、斑目一角三席でも構いませんが、いらっしゃいますか? 四番隊の湯川が来たと伝えて欲しいのですが」

「はっ!! はいいっ!! ただいまぁっ!! 待合室までご案内いたしますので、そちらでお待ちください!!」

 

 志波海燕(黒崎一護)――って、もの凄い字面ねコレ――と山田七席を連れて、十一番隊の隊舎まで来ました。

 門番に要件を話せば快く引き受けてくれて、待合室まで通されました。

 隊長とはいえ他隊なのにやたらあっさりと、それでいて丁寧な応対に志波海燕(黒崎一護)と山田七席は落ち着かない様子です。

 現に待合室に通された今も、キョロキョロと辺りを見回しています。

 

「湯川さん、あんたすげーのな……いや、ここもそうだけど、来る途中も……」

 

 言っているのは、道中のことでしょうね。

 何しろ志波海燕(黒崎一護)として瀞霊廷内を顔を隠さず普通に歩いたものの、気付いた人はいませんでした。

 途中何人もすれ違ったんですよ? でも誰も不審に思わなかったわけで。

 まあ、彼には堂々とした態度を取らせていましたし。受け答えなんかは私がしてましたから、気付ける要因は少なかったでしょうね。

 

『一護殿が海燕殿と似ているなんて情報が無いから気づけぬでござるし、なにより現役の隊長がこんなことしてるとは普通思わんでござるよ!!』

 

 立派に反逆行為よね。

 スパイとか通り越してもうテロリストよ、こんなの。

 

「お待たせいたしました!! 隊長をご案内いたしました!! 隊長、湯川隊長です!!」

 

 とかなんとか思っていたら、卯ノ花隊長がやってきました。

 

「湯川隊長、一体何の用です? 昨日の検死のことで何かあった……おや?」

 

 あ、後ろの志波海燕(黒崎一護)に気付いたみたいね。

 視線が私から外れてるもの。

 

志波海燕(・・・・)副隊長ですね? 初めまして。十一番隊隊長をしています、卯ノ花烈と申します」

「お、おう……はじめ、まして……?」

 

 そのまま志波海燕(黒崎一護)にお辞儀をしながら軽く自己紹介をしています。

 というか卯ノ花隊長、察しが良すぎません? 一目で気付くとか……察しが良すぎて、むしろ一護の方が驚いてるわね。

 

「それで藍俚(あいり)、何を考えているのですか? 説明しなさい」

 

 呼び方が名前呼びになったわね。

 ということは隊長じゃなくて個人として話を聞いてくれるわけか。

 

 なので、かくかくしかじかと、経緯と目的を伝えました。

 

「……なるほど。斑目三席から話は聞いていましたが、彼が……」

 

 すぅーっと卯ノ花隊長の目が細くなり、相手を射貫くような、値踏みするような、もっと言ってしまえば"面白い物を見つけた"のような視線で一護を見ています。

 

藍俚(あいり)、分かっていますか? これは護廷十三隊への――ひいては尸魂界(ソウルソサエティ)への反逆ですよ? ましてや旅禍を強くするために力を貸して欲しいなど……私が断って報告したらどうする気だったんです?」

 

 口ではそうは言うものの、卯ノ花隊長の視線は一護から外れません。どうやらまだ値踏みの最中みたいですね。

 少なくとも即時通報みたいなことはなさそうです。

 

「ですが他ならぬあなたの頼みですし、引き受けましょう。私も此度の騒動は、少々思うところがありましたから」

「本当か!?」

 

 あ、卯ノ花隊長の口元がほんの少しだけ緩みました。どうやら一護の中の潜在能力みたいなのを感じ取ったみたいです。

 あの笑顔……怖いなぁ……昔を思い出す……というか現在も怖いなぁ……

 

 そして了承の言葉が出てきたので、一護は嬉しそうに叫びました。

 

「ありがとうございます。それと、ご迷惑をおかけします」

「いえいえ。どうやらこちらにも利はありそうですからね。良い刺激になるかもしれません」

 

 良い刺激、って……

 

『あー……おそらく更木殿、でござるか……?』

 

 でしょうねぇ……現世では大虚(メノス・グランデ)を撃退したし、尸魂界(ソウルソサエティ)でも兕丹坊を倒してる。手加減していたとはいえ、市丸の攻撃を防いでいる。

 海燕さんには負けたものの、普通なら死神になって三ヶ月程度でこれはありえないもの。

 

 コイツひょっとして、もの凄く強いんじゃないだろうか? と思っちゃうわよね。

 

「……卯ノ花隊長、できれば最初は一角と手合わせさせて様子見をさせるようにしてもらえますか?」

「斑目三席とですか? わかりました、では最初はそうしておきましょう。それと、お待たせしました黒崎さん。さっそく稽古に入りましょう」

「よっしゃあ、待ってたぜ!」

 

 何にも知らない一護が元気いっぱいです。

 

「それじゃあ私はこれで失礼します。山田七席、あとはお願いするわね」

「あ……はい」

「なんだ、湯川さんは帰るのか?」

「帰るというか、あなたのお仲間となんとか連絡を取ってみるわ。何のために"これ"を書いて貰ったと思ってるの?」

 

 懐から"これ持っている人は黒崎一護の仲間です"と書かれた例の手紙を取り出し、軽く揺らして見せつけます。

 ……手紙を取り出すときに、一護の視線が少しだけ胸元に動いたのは見なかったことにしましょう。

 

「あ、そっか……悪ぃけど、頼んだ」

「確約は出来ないのが歯がゆいところだけどね。それと最後に、黒崎君に一つだけお願いよ」

「な、なんだよ……?」

 

 さながらヒロインになった気分で、一護の瞳を正面からじっとのぞき込みます。

 

「死なないで」

「……え?」

「死ななければ、なんとかしてあげるから。だから、絶対に生きて、それでまた会いましょうね」

「お、おう……」

 

 それだけ告げて、私は十一番隊を後にしました。

 

 

 

 

 

 

『一護殿、びっくりしていたでござるな』

 

 きっと、心の中では「大袈裟だな」とか「そんなことあるわけない」とか思ってるんでしょうね。

 卯ノ花隊長ってば、優しくて親切な年上のお姉さんって感じの見た目だから。

 稽古をするにしても、そこまで大変なことになんてならない、って思ってそうだったし。

 

『開けてビックリでござるな! 一角殿というワンクッションを挟むとはいえ、更木殿と対峙した瞬間にショック死してもおかしくないでござるよ!!』

 

 むしろそのくらい追い詰められるんだから、危険察知と主人公補正で卍解にまで至ってくれないものかしら……

 

『一護殿は浦原殿とお稽古していたはずでござるが……そのお稽古が天国だったと開始三十分後には思っていそうでござるな!!』

 

 甘い甘い、十分後――いえ、五分後でも不思議じゃないわ!

 

 ――ピリリリリッ!!

 

 あら? 伝令神機が……砕蜂から?

 

「はい、湯川です。砕蜂、どうかしたの?」

藍俚(あいり)様! 夜――私の飼っていた猫を見ませんでしたか!?」

 

 一瞬、夜一って言いそうになったわね。

 

「猫? 確か昨日、藍染隊長の現場で逃げていくのを見たような……」

「ああっ! やっぱりそのときでしたか!! どこかへ行ってしまったことに気付いて、しばらく探していたのですが……」

 

 夜一さん、あのタイミングをこれ幸いと逃げたもんねぇ……

 そうでなくとも、あんな現場に遭遇したら逃げるわよね。

 偽物とはいえ自分がいたんだもの。

 

「なるほど、わかったわ。私も探してみるから。見つけたら連絡するわね」

「申し訳ございません。ですがどうか、お願いします!」

 

 通話を終了させてから気付きました。

 

 そっか、夜一さんもここに連れて来ないと駄目なのね……

 




●カロリーゼロ理論
サンドウィッチマンの伊達氏がかつて提唱していた画期的な学説(当然ネタ)
ネタではあるが、このように言い訳できる要素があると、人は誘惑に負けやすい。

●十一番隊
やべーフラグ満載。なお一護だけが理解していない。

●逃げた猫
逃げ出す理由はイッパイアッテナ……
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