お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第134話 今日の一護 ~拡大版 その5~

 十一番隊の皆さんに可愛がってもらうことになった一護君。

 ですが、これから一護君が相手にするのは十一番隊でも上澄み中の上澄み。今まで戦ってきた平隊士の皆さんとは比べものにならない人たちを相手にするわけですが……

 はてさて、一護君の運命や如何に!?

 

「なんだ、ここ……?」

 

 卯ノ花さんに連れられて、やってきたのは十一番隊に存在する地下空間でした。

 

「ここは私と剣八が主に使っている特殊な空間です。本来なら余人を招き入れたくはないのですが……まあ、黒崎さんは事情が事情ですから。あまり目に付かないよう今回は特別に、この場所を使うことにしました」

「ふーん……」

 

 聞いているのやらいないのやら、一護君は広々とした地下空間を感心したように眺めています。

 さてこの地下空間ですが、皆さんにはおなじみですよね?

 

 ――そう! 卯ノ花烈と更木剣八が年に一度、激しく愛を語り合う(鍛えた剣技で殺し愛をする)場所、言うなれば二人の愛の巣です。

 まあ他にも、それぞれが稽古をしたり、外部に迷惑が掛からずに思いっきり暴れられる便利な場所でもあります。

 

 本当ならこの場所には――メンテナンスをする十二番隊を除いて――二人の激突に耐えられる程度の実力を持った者以外は入って欲しくない、と卯ノ花さんは密かに思っていたりします。

 乙女の純情ですね。いじらしい。

 

 そんな一見さんお断りならぬ、隊長格以下の霊圧しかない者はお断りな空間なのでしたが、一護君はまったく気付いていないようです。

 

「あー……そういや似てんだな、此処……」

「何に似てるのでしょうか?」

「ちょっと前に俺が修行していた地下空間があってよ、そこに似てんだよ」

 

 どうやら一護君、浦原さんが掘った地下空間を思い出していたようです。確かに似ていると言えば似ていますね。

 

 なお――

 

 

 

「む……っ!?」

「マユリ様、いかがなされましたか?」

「なんでもないヨ。ただ、なぜだか知らんが少しだけイラついただけだからネ……よくわからんが、非常に不本意な相手と比較された気分だヨ。全く忌々しい……」

 

 

 

 ――という会話が、瀞霊廷のどこかで交わされたようですが。ですが一護君たちにはそんなことは全く関係ありませんので割愛しましょうね。

 

「そうでしたか。ですが、そのような些末な事などすぐに気にならなくなると思いますよ」

「そりゃ一体……?」

「おー、いたいた。隊長、なんスか用事って!?」

「……ったく、俺は噂の旅禍と戦ってみてぇんだ。用事があるなら手短に……あん?」

「あーっ! なんだか知らない死神がいるよ!!」

「な……っ!?」

 

 卯ノ花さんに呼ばれて、剣八さんと一角が堂々の参加です。勿論、やちるちゃんは剣ちゃんと一緒ですよ。

 二人の姿を見た瞬間、一護君の動きは凍り付きました。

 

 一角だけでも海燕さんと同格かそれ以上の霊圧を感じるのに、その隣の剣八さんに至ってはもう見ているだけで霊圧に殺されそうな程です。

 

「よく来てくれました。彼は黒崎一護さん、今噂の旅禍ですよ」

「ほぅ……」

「なんだとぉ!? ってことはテメエがウチの平隊士共を倒したのか!? コラァ!!」

 

 旅禍と聞いた途端、剣八さんの口元が凶悪に歪みました。そして一角は、部下たちをボコボコにしてくれた相手だと気付いてちょっと怒っています。

 まあそのボコボコにしたのは、実は空鶴さんの方がずっと多いんですけどね。

 

「詳しいことは後で説明しますが、彼は少し前に藍俚(あいり)が話をしていた現世で見つけた有望株です。彼女の依頼もあって、十一番隊で……というよりも、私たちで鍛えることになりました。なので二人も彼の稽古相手になってください」

「ほう!」

「ほほう!」

 

 藍俚(あいり)さんの名前を聞いて、二人の目の色がさらに変わりました。

 彼女が見つけて推薦したのだから、面白い相手に違いないと確信したようです。

 戦闘狂の二人の頭の中は、一瞬にして"戦ってみたい"という感情で一杯になりました。

 

「面白ぇ! なら俺が――」

「なっ!! お、おいちょっと待て!」

「剣八、気持ちは分かりますが今回は抑えて。まずは一角からにして欲しいと、藍俚(あいり)からの要望もあったので」

「――はぁ! なんだそりゃ!?」

 

 乗り気だった剣八さんでしたが、卯ノ花さんにそう言われては仕方ありません。意外と素直に従い、近くの岩場にドカッと腰を下ろしました。

 

「ちっ、仕方ねぇな……おい一角! とっととやれ! んで俺まで回せ!!」

「何言ってんすか副隊長!? 負けるわけがないでしょうが!!」

 

 そして代わりに、指名された一角がずいっと前に出てきます。

 

「では斑目三席、お願いしますね。ああ、殺すつもりでやって構いませんよ。救護役は控えていますから」

「救護役……? あれ、オメエ……確か四番隊の山田、太郎だったか? 回道が上手いって評判だったな」

「ヒッ! あ、あの……」

 

 花太郎君もちゃんといますよ、救急箱代わりですけれどね。

 そしてやっぱり、回道の腕のワリにはイマイチ名前は浸透していないようです。

 

「コイツがいるなら、本当に殺しちまっても問題はねえわけだ」

「へっ、俺を殺すだと……!? ざけんな!!」

 

 口ではたいそうなことを言っていますが、身体は正直でした。

 海燕さんとの戦いの時にも感じた竦み上がるほどの殺気を受けて、一護君は本能的に斬魄刀を構えています。

 

「おいお前、一護って名前だったよな? 良い名前じゃねえか」

「そうか? 名前を褒められたのは初めてだぜ」

「――あぁ。名前に"(いち)"が付く奴ぁ才能溢れる男前と相場は決まってんだ」

 

 一護君が手にする斬魄刀を見て、一角はニヤリと笑います。

 

「十一番隊三席、斑目一角だ! (いち)の字のよしみで、殺さない程度には手加減してやるよ――ちょっとだけだけどなぁ!!」

 

 抜刀した斬魄刀を右手に、鞘を左手に構えるという一角独自の戦闘スタイルへ瞬時に移行すると、間髪入れずに襲いかかりました。

 

「ぐ……っ!」

「そらそらどしたぁ!? 遠慮はいらねぇぞ!!」

 

 変幻自在の太刀筋に翻弄され、一護は瞬時に追い込まれます。

 放たれる刃はその全てに本物の殺意が込められており、それに気圧されて防ぐのも避けるのも上手く行きません。

 ただでさえ霊圧で負けているのにこれでは、一護君に勝利はほぼ不可能です。

 

「こっ……のっ!!」

 

 なんとか反撃しようにも、攻撃に力が乗るよりも早く一角の鞘に止められてしまいます。

 いえいえ、止められるだけならまだ優しい方ですね。

 

「鈍いなオイ!!」

「ぎっ……!?」

 

 攻撃を止めるだけでは飽き足らず、そのまま鞘を操って一護君を殴ります。

 刀のように刃筋を立てる必要もない。当てればそのままダメージに繋がる一撃が、一護君の体力を容赦なく削っていきます。

 

「この程度でビビッてんのか!?」

 

 刀で斬られると思えば鞘で殴られ、鞘で防ぐと思えば刀で防がれる。それも、気付けば一瞬にして両手にしていた獲物が入れ替わっています。

 決して弱い訳では無い一護君なのですが、それでも一角の無形とも呼べる戦い方には翻弄されっぱなしでした。

 それでも海燕さんとの戦いなどではある程度の決まった型――流れの様なものがあったので多少なりとも予測が出来ましたが、一角が相手ではそれも通じません。

 無数の傷跡と打撲痕が全身に増えていくだけです。

 

 早い話が、まだまだ経験不足な一護君でした。

 

 

 

「うわぁ……うわぁ……!!」

 

 そんな二人の喧嘩を離れた場所から眺めていたやちるちゃん。

 一護君の戦いっぷりに思わず声を漏らします。

 

「だめだめだー! だめだめだよ剣ちゃん! あんなんじゃ、ザコザコのザコみかんだよ!!」

 

 やちるちゃんの基準は藍俚(あいり)さんの戦いっぷりです。

 それと比較されては護廷十三隊の隊士の九割は"不合格"を認定されるわけですが、それはそれとして。

 

 一角にすら押し負ける一護君に、やちるちゃんは不満ぶーぶーです。

 これでは大好きな剣八さんの遊び相手にもなれないと思ってしまったのですから、その反応も仕方ありませんよね。

 

「ま、最後まで見るだけ見てみようぜ……なあ、そう思うだろ?」

「ええ、そうですね。それに――」

 

 近くに来ていた卯ノ花さんに同意を求めれば、卯ノ花さんも同意してくれました。

 

藍俚(あいり)の最初の頃よりはずっとマシですから」

「へぇ。アイツにもそんな頃があったのか」

「それはもう、普通の実力でしたよ。あの子の成長と比較すれば、どうやら見込みはあるようです。ほら……」

 

 そう言いながら、卯ノ花さんは視線で促しました。

 

 

 

「おおおおおっ!!」

「ちっ!」

 

 一護君の強烈な打ち込みに、思わず一角は攻撃を受け止め損ねました。

 

「はっ! ようやく慣れてきたぜ!!」

 

 たった一回ですが、一角の動きを封じられたことで感覚を掴んだのでしょう。

 自在な動きに目が追い付き、対応できるようになった――そんな気がしました。

 

「ここからはコッチの番だ!!」

 

 その感覚を信じて攻撃を行ったのですが――

 

「慣れた? そりゃ……」

 

 一角からすればそれは、迂闊な攻撃以外の何でもありません。

 身を低くしながら大きく踏み込み、攻撃を避つつ悠々と懐まで潜り込みます。一護君からすれば、一瞬で接近されたように見えたことでしょう。

 

「何にだ?」

「な……っ!!」

 

 しかも、身を低くしながらの強烈な斬り上げのおまけ付きです。身体を跳ね上げて起こすほど強烈なバネを生かした攻撃に、一護君はざっくりと斬られます。

 激痛が腰から上へと駆け抜けていき、体勢ががくっと崩れます。

 

「死ぬんじゃねぇぞ一護!!」

 

 まだまだ、一角の手は止まりません。

 バランスを崩した相手に躊躇しているようでは、十一番隊の三席は名乗れませんからね。追い打ちの強烈な斬り下ろしを放ち、一護君の身体に深い傷跡を残しました。

 

「テメェ……本気出して、無かったのかよ……」

「あぁ!? なに勘違いしてやがんだ?」

 

 痛みと衝撃で膝を付き、一護君は恨みがましく呟きます。

 ですがその言葉は、一角にしてみれば心外でした。

 

「俺ぁ、最初っから本気だったぜ? ただ、全力じゃあなかったけどな」

 

 卯ノ花さんは殺しても良いよと言っていましたが、これは稽古です。

 稽古なのですから、一角は一護君に合わせるように、霊圧や戦い方を制限していました。制限こそしていましたが、制限された枠組みの中で手抜きは一切していません。

 

 これが全力を出していたなら、初手から卍解を使っていたでしょうね。

 

「くそ……また、負けんのかよ……」

 

 悔しそうにそう言うのが限界だったようです。

 どくどくと血を流してながら、力なく崩れ落ちました。

 

「隊長、こんなもんでいいんスかね?」

「まだ生きてますからね、まずはそんなところでしょう。ほら、山田隊士。何をしているのです? 黒崎さんが死にますよ?」

「あ……あっ! はい!!」

 

 目の前で繰り広げられたのは、非力な花太郎君では足を踏み入れることも許されないほどの激戦です。

 なのに二人はその戦いを「こんなもん」と評する。

 その意識のギャップに、置いてけぼりになっていた花太郎君なのでした。

 卯ノ花さんに言われなければ、動くことも忘れていたかも知れません。

 

「ありゃりゃ、やっぱりザコザコみかん……ってアレ、剣ちゃん? どうしたの?」

「…………」

 

 やちるちゃんは戦いを詰まらなさそうに見物していましたが、どうやら剣八さんは違ったようで、倒れている一護にゆっくりと近づきました。

 

「あ、あの……なにか……?」

 

 当然、近くには救護しようとしていた花太郎君がいるわけで。

 (ホロウ)より怖い剣八さんが近寄ってきたことで花太郎君は今にも泣きそうですが、剣八さんは気にも止めません。

 

 ただ斬魄刀を抜くと、倒れている一護目掛けて全力で――

 

「おらぁっ!!」

「どわあああぁぁっっ!!!!」

「「ッ!?」」

 

 振り下ろした瞬間、一護君が跳ね起きると斬魄刀を構えて攻撃を防ぎました。

 

「あ、あれ? なんだ……!? って、痛ええええっっ!?」

「ああ駄目ですよ! 動かないでください!!」

 

 自分に何が起こったのか。自分がどうして刀を構えているのか。

 まったく理解できない一護君でした。

 が、怪我しているのは変わらないわけで、そんな状態で動いたことで激痛に苦しめられることになりました。

 慌てて花太郎君が安静な状態にしようとしますが、一護君は痛みでそれどころではありません。

 

「なんだ、やりゃあ出来るじゃねえか……」

 

 反対に剣八さんは一護君の行動ににっこり笑顔です。

 完全に意識を失っていたはずなのに、本能で行ったのか自分の攻撃を防いだわけですから、嬉しいに決まってるわけです。

 オマケに一護君の霊圧が上がっているわけですから「これを繰り返せば遊び相手くらいにはなるかも!?」と期待してしまうのも無理はありません。

 

「少し――ほんの少しだけ、楽しみになったぜ」

 

 そんな剣八さんの独白を聞いていたのは、一護君の懐からこぼれ落ちた仮面だけでした。

 

 禍々しいデザインをしており、切り上げと切り下ろしによって二筋の傷跡が刻まれた仮面だけが。

 




●一角
"さん"付けも"君"付けも、なんとなく似合わないので。
(というかこの文体がもうダメダメな気しかしない)

●ザコみかん(あだ名)
原作と比べて基準が雲の上くらいまで上がってるので。
それじゃあやちるも「いっちー」とは呼んでくれないに決まってる。
強くなれば「温州ミカン」とか呼んでくれるよきっと。

●中の人
仮面でこっそり防がなきゃ一角の攻撃で死んでた……
剣八の攻撃、一瞬でもミスったら剣ごと斬られていた……
十一番隊怖い……

●チャドの霊圧
多分、時間的にはそろそろ消えてる(描写なし)
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