お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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これが2022年の最後の更新。

皆様、良いお年を。


第137話 旅禍三人と一緒に楽しいお話タイム

 さて、ネムさんの件はこれでひとまず終了。

 目的は果たしたので、もう十二番隊に戻らせても問題はないわね。

 じゃあ次は――

 

「あ、隊長。丁度良かった、お声掛けしようとしたところだったんですよ」

 

 隊士の子に話しかけられたので、足を止めます。

 けどよかった……ネムさんの病室にいる時に声を掛けられていたら大変なことになってたわ。

 

「何か用事?」

「はい。八番隊の京楽隊長がいらっしゃってます。湯川隊長にご用があるとか」

「京楽隊長が……? わかりました、すぐに向かいます」

 

 京楽隊長が四番隊(ウチ)に来てる……?

 はて? そんなイベントって何かあったかしら……?

 

「お、藍俚(あいり)ちゃん。いやぁ、ごめんね。わざわざ来て貰っちゃって」

「呼んだのは隊長ですよね……あ、湯川隊長。お疲れ様です」

 

 向かった先は玄関――綜合救護詰所の入り口でした。

 そこには京楽隊長と伊勢さんがいますし、他にも八番隊の隊士が何人か見えます。

 

「いえいえ。京楽隊長の方こそ、わざわざ直接いらっしゃったわけですから、何か特別な要件があるとお見受けしましたが……それと伊勢さん、最近は図書館にぜんぜん顔を出せなくてごめんなさい」

「いえそんなっ! 湯川隊長もお忙しいのは重々承知していますので……お気になさらずに……」

「あー、そういえば七緒ちゃんと藍俚(あいり)ちゃんは昔から読書仲間だったんだっけ? いやいや……――っと、いけないいけない。そんな話をしに来たんじゃなかったんだよ」

 

 思い出を振り返るような懐かしい顔を一瞬浮かべた京楽隊長でしたが、すぐに表情を引き締めました。

 いつもの笠を目深に被りなおして、表情を隠していますね。

 しかも普段ならそのまま伊勢さんのことを軽くからかうくらいは話すようなものなのに……

 

 ……あ、ひょっとして! リサのことを思い出して落ち込むんじゃないかと思って気を遣ったのかしらね。

 

『おお、なるほど!! ありそうでござるな!! かーっ!! イケメンムーブでござるなぁ!!』

 

「実はね。ボク、旅禍を捕まえたのよ。ただそこでちょっと色々あってさ、相手に大怪我させちゃったから四番隊(ここ)に連れてきたわけ。ほらここなら救護役はたくさんいるし、藍俚(あいり)ちゃんにも会えるからね……」

「……隊長? まさかそんな理由でここまで?」

 

 伊勢さんの眼鏡がキラリと光りました。

 口には出してませんが「それが本当なら何考えてんだよこの上官は」ってちょっとだけ苛立ってますね。

 

「あとは、八番隊(うち)の隊士も何人も怪我しちゃったから。ほら見てよアレ、ウチの三席なんだけど……まあ見事にノックアウトされちゃって……」

 

 京楽隊長が指さす方へと視線を動かせば、荷車に寝かされた三つ編みの大男がいました。表現通り、見事に気絶しています。綺麗な一撃が入って気絶させられたであろうことが、ここからでもよく分かります

 その彼と並ぶようにして荷車へ乗せられているのは……あ、この子って!

 

「で、彼の隣に寝かせてるのがその旅禍の子。ちょっと剣を交えただけなんだけど、彼ってばいい男なんだよ。うちの三席は後回しでもいいからさ、この子をちょっと最優先で治してあげてくれないかな?」

 

 そっかそっか、そうだったわね。

 茶渡君を倒すのって京楽隊長だったわ。有名な"霊圧が消える"アレの伏線よね。

 しかし茶渡君、本当に体格が良いわよねぇ……これだけ体格が良いから凄く強そうだし、かなりタフで簡単には倒せないって印象なのよね。

 そんな印象だから"敵の大技を受けて一撃で沈む"とか"ここは俺に任せて先へ行け"の役割が似合うこと似合うこと……

 

 ……あ!

 ということは今頃一護は「チャドの霊圧が……消えた……!?」って名シーンを再現してるわけよね?

 

『多分でござるが……そんな余裕はないと思うでござるよ……』

 

 なんで? ちゃんと「最初は一角で様子を見て」ってお願いしてきたわよ?

 

『……いや、だからでござるが……』

 

 ……なんで?? だって一角よ……????

 

「なるほど、そういうことなら了解しました。もう既に聞いているかもしれませんが、四番隊の牢には旅禍を二名ほど捕縛していますし」

「あれ? そうだったの?? やるねぇ藍俚(あいり)ちゃん、二人も捕まえたんだ」

「いえ、涅隊長が旅禍に手傷を負わせたところを湯川隊長が捕らえたそうですよ。通達があったはずですが……」

 

 伊勢さんが補足してくれました。

 

 まあ「旅禍を二人捕まえました」って連絡は既に上に上げてありますから。

 同時に「怪我してるので尋問は回復を待ってから。経過を見ても数日は掛かる」とも言ってあるので、織姫さんたちが今すぐにどうにかされるわけではありません。

 

 勿論「涅隊長が旅禍を追い詰めるものの、予想外の抵抗を受けて遁走。そこを捕縛しました」って報告もしています。

 

『(その言い方だと、マユリ殿が返り討ちにあった無能に見えるでござるなぁ……わざと!? わざとでござるか!?)』

 

「あれ、そんな通達あったっけ? ま、いいや。んじゃ、後のことはお任せするよ」

「承りました」

 

 このまま京楽隊長たちと一緒に楽しいおしゃべりをしたいところですが、まずはやることを済ませちゃいましょう。

 なので四番隊(うち)の子たちへ声を掛けます。

 

「はーい皆、また急患が来たわよ! まずはこっちの旅禍の子から大急ぎで! 次に八番隊の怪我人を! この三席の隊士は後回しで大丈夫よ、京楽隊長から許可も取ってるからね!!」

「はい!」

「え、また旅禍ですか!? って、大きいですねこの人!?」

「治療室の準備とかって出来てたか!? すぐに確認して、まだならすぐに準備しとけ!」

「はい先輩!!」

「……あれ、この人……円乗寺三席ですよ! ……え? 三席なのに最後に回して大丈夫なんですか……?」

 

 とまあこんな風に、一声掛ければ皆が即座に動いてくれます。

 昨日からこっち、急患が頻発してますからねぇ……嫌でもどんどん上手く回るようになりますよね……

 

 若干一名、三席を心配していますが大丈夫! 上手にやられているので、唾でも付けとけば勝手に治るから。

 

「――というわけなので、私も旅禍の治療に加わります。ですから、何かご用があるのなら手短にお願いしますね。あまり長くは引き延ばせませんから」

「ありゃ、やっぱり気付かれてた?」

「え、あの……隊長? 湯川隊長も……? いったいどういう……?」

 

 伊勢さんが困惑してます。

 

 だって、茶渡君の治療が目的なら救護部隊を呼びつければ良いから。この怪我なら、私を呼ぶのもちょっと不自然だからね。

 だから"旅禍は捕らえたが念のために隊長が護送に参加する"という名目で、私に何かを聞きに・言いに来た。

 ついでに言うなら、八番隊の受け持ちの外に出て"ちょっと寄り道"しても不自然じゃないような状況を作りたかった。

 そんなところでしょうね。

 

「んじゃ、簡単に。どうも今回の件、動きが妙に思えてさ。ちぐはぐっていうか、なんて言うんだろうね……そもそも四十六室の動きも気になるし、急にあの四楓院隊長が現れたのも気になる。なんであんな派手な真似をするのか、さっぱりわかんない」

 

 でしょうね。

 藍染を思いっきり使い倒してやろうと私が嫌がらせしましたから。

 だから藍染がその状況を逆に利用してやろうと思って……頑張ったハズなんですけどね。うん……

 

「その辺り、どう思ってるのかなって」

「そうですねぇ……」

 

 砕蜂があんなことをする(本人を連れてくる)から、逆に変なことになりました。

 ある意味ではすごくすごく混乱しました。

 ……って、おおっぴらには言えないわよね。少なくとも今この場所では。

 

「少し前に浮竹隊長(・・・・)とお話する機会があって、そこで興味深いお話(・・・・・・)を聞けましたので、顔を出してみると良いですよ」

「へぇ……浮竹のところ、ね……」

 

 十三番隊には大体の理由を話してあるから、問題ないです。

 むしろもう、浮竹隊長と京楽隊長の二人に全部お任せしちゃった方が楽なんじゃないかって気すらしてきました。

 

「わかった、ありがとう。帰りに顔を出してみるよ。んじゃ、行こうか七緒ちゃん」

「ちょっと隊長! ああもう、湯川隊長。ありがとうございました!」

 

 さっさと先に行ってしまった京楽隊長の後を、伊勢さんが小走りでついて行きました。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 茶渡君の治療は無事に終了。

 かなりの大怪我だったけれど、傷そのものは刀傷だったし。多分伊勢さんがやったんでしょうね、手当もされていました。

 なので実際には私が治療に参加する必要はありませんでした。

 

 とあれ。

 

「まだ怪我している所申し訳ないんだけど、キミには牢に入って貰うわね。」

「ム……」

 

 茶渡君を牢へと連れてきました。隊長自ら移送するという破格の待遇です。

 

「そんな不満そうな顔はしないで。気に入って貰えるはずだから」

「…………」

 

 いや、そう言われても牢を気に入るわけないだろ。みたいな顔をされました……いえ、元々そんな表情なのかしら……? イマイチわかんないわ……

 でも気に入って貰えるのは本当だから、安心してね。

 

「ほら、あそ――」

 

 既に織姫さんと石田君を収監済みの牢が見えてきた頃でした。

 

「ええっ!! じゃ、じゃあ現世にはそんなのがあるの!?」

「そうそう! でね、私も学校の帰りなんかにはよく寄ってて!」

「いいなぁ、私も食べてみたい!」

「じゃあ今度食べにおいでよ! もうね、舌が蕩けそうで……!」

「一緒に先生も誘ってもいいかな!? あ、それと織姫さんがさっき言ってた黒崎さんも一緒に誘っちゃおう!!」

「ええっ!! く、黒崎君も!! 桃さんの気持ちは嬉しいけど、で、でででででもそれはちょっと……えへへ……ど、どうしようかな……」

「大丈夫大丈夫! 私も協力するから! ね、ね! ほら、みんなと一緒だと誘いやすいでしょう?」

 

「――こ……の、牢……? 牢……??」

 

 ものすっごい楽しそうな声が聞こえてきました。

 

 あれ? ここ、牢屋よね……? なんでこう、わいわいきゃーきゃーな声が途切れることなく聞こえてきてるのかしら……??

 全面石壁で寒々しい雰囲気のはずなのに、それを一瞬で吹き飛ばすくらいの女子オーラが放たれているのかしら……!?!?

 

『いつの間にか拙者たちは、放課後の女子校の教室にワープしていたようでござるな……』

 

 なんですって……!? ……いや、そう思っても仕方ない状況だけど!!

 

「ム、この声は……井上?」

「……え、ええそうよ。井上織姫さん。茶渡君のお友達、よね?」

「ああ、そうだが……待て! 何故、俺の名前を!?」

「その説明も含めて牢の中でするから、ちょっと待っててね……」

 

 茶渡くんが色々と困惑してる……でも私も混乱してるのよ!

 

「えっと、桃? それに織姫さん? ちょっといいかしら?」

「……あ、先生! 私、ちゃんと捕縛して牢に入れておきました」

「はい! 桃さんに案内してもらいました!」

 

 捕縛して牢に入れて、ってお願いはしたけれど……

 楽しそうに談笑しろとは言ってないのよねぇ……捕縛された方も凄く良い笑顔だし……

 

「そ、そうなの……仲良くなったみたいで、私も嬉しいわ……」

「先生聞いて下さい! 織姫さんってすごく良い人です!」

 

 うんそれ私も知ってる。

 ……おかしいわねぇ。一応、囚人と看守の関係のハズなのに、なんでこんな……囚人の方が「ちゃんと案内してもらいました!」ってニコニコ顔で言えるのかしら?

 まあ、協力できる立場だし険悪になるよりはよっぽど良いんだけど……

 

 そういえば茶渡君の治療の時に、桃の姿は影も形も見えなかったわね……ってことは、あのときからずっとおしゃべりしてたの!?

 さっきの話の盛り上がりから察するに、多分そうなんでしょうね……

 

「……んで……こ……な……ありえ……むり……りかい……」

 

 やたらと元気な桃と織姫さんがおしゃべりすること数時間。

 それをただ一人で聞かされ続けた石田君は――目が完全に死んでました。しかもなにやらぶつぶつ呟いていています。

 女性二人のパワーに圧倒されたみたいね……ちょっと合掌。

 

「その、それでもう一人連れてきたんだけど……」

「あっ! 茶渡君! よかった、茶渡君も無事だったんだね!」

「井上! いや、無事ではないんだが……」

「これが織姫さんが言ってたもう一人の?」

「そう茶渡君っていうの! 優しくて力持ちですっごく良い人なんだよ!!」

「あっ、黒崎さんじゃないのね。ちょっと残念。織姫さんの意中の人の顔を見てみたかったんだけど……」

「いちゅうの……う、うん……」

 

 あーもう!! 桃がスッと一瞬で話に入ってくる!!

 どれだけ相性良いのよあなたたち!! 良い友達が出来て良かったわね二人とも!! もう少ししたら織姫さんは自由の身になって待遇も良くなるはずだから、ちゃんと相互に連絡を取れるようにしておくのよ!!

 

『あー、なるほど……お互い、思い人がいる女性でござるからなぁ……その辺から仲良くなってあっという間に打ち解けたわけでござるか……』

 

「えーっと……とりあえず石田君、茶渡君、織姫さんの三人にはこっちの事情を色々説明するわね。まず黒崎一護は今のところ無事よ。それでこっちと協力して――」

「ほら茶渡君! 黒崎君の字で書かれた手紙だよ」

「ああ……確かに一護の文字だな……」

「これさっきも見せて貰ったけれど、男の子って感じの字だよね。それで織姫さん、黒崎さんの字を知ってるって事は――」

「ええっ! そ、それはその……」

「――試験の前とかに一緒に勉強とか稽古とかしたの!? もしかして二人っきり!?」

 

 やめて桃! 話が進まないじゃない!!

 

 

 

 この後なんとか、石田君たちに事情を説明し終えました。

 




●雛森と織姫の関係性
乱菊とは、破天荒だけど頼れる姉御(原作)
雛森とは、何故かウマが合う同級生(拙作)

織姫の一護ラブガチ勢の空気を感じ取った瞬間、仲良くなった模様。

●織姫
気がついたら石田と茶渡に恋心を知られていた。
だが二人とも一護に言うようなタイプではないので問題ない。
むしろ「やっぱり……少しくらいは手助けしよう」と思われていそう。

●一角
藍俚がすごく舐めていたように見えるが、これは「しっかり手加減して一護の実力を伸ばしてくれるはず」という信頼から。
(ツートップが危険すぎるだけともいう)

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