お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第14話 斬魄刀と対話せよ

 院生寮の自室にて。

 座禅を組んで、意識を集中させています。姿勢を正し、他のことの一切が気にならないほどに深く――何よりも深く集中していく。

 喩え殴られても集中を解くことなく――心頭滅却すれば火もまた涼し――雑事の一切を気にすることなく、深く深く――膝の上に浅打を乗せ、刀一つに心を絞ります。

 

 今やっているのは刃禅という、斬魄刀と対話をする為に長い時間を掛けて編み出された手段。精神世界へと潜り、同調を深める――早い話が仲良くなるためにはこんなことしなきゃならないんですね。

 ですがこうやって自分の斬魄刀と仲良くならないと、死神として強くなれません。同調すれば死神自身の霊力も高まっていくそうですから。

 

 対話を繰り返すことで斬魄刀に認められ、その名を聞き出すことで斬魄刀は始解という一段階目の能力解放が可能となります。名を呼び解放すれば刀の形状も変化し、それぞれの刀固有の特殊能力が使えます。

 形状変化は槍とか爪みたいになったり、特殊能力は炎や冷気を操れたりですね。

 ……まあ、中には形が変わるだけで、何か特別な能力は一切無し! みたいな場合もあるそうですが……その辺は始解してみないとどんな結果になるのか一切不明、開けてみるまで分からないシュレディンガーの猫というわけです。

 斬魄刀ガチャなんて俗称(蔑称?)で呼ばれるのも頷けますね。

 

 そして、死神でも席官――役職についた者――はそのほとんどが始解を習得していますので。仮に院生時代に始解にまで目覚められれば、もうその時点で席官待遇で死神になれるって話ですから!

 そういった意味でも習得するに超したことはありません。

 

 なのでこうやって瞳を閉じ、外界からの全ての情報を遮断し、瞑想にふけり、刀のことだけを――……はっ! 寝てません、寝てませんよ!!

 

 ……こほん。

 

 刀に心を注ぎ込む――それ以外のことは考えない――集中、集中――

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「あれ?」

 

 先程まで、確かに私は寮の自室で刃禅を行っていました。

 それがどうでしょう。

 気がつけば私は、とても不可解な空間にいます。

 

 ただこれは……なんと表現すればいいのでしょうか?

 

 目に付くのは立ち並んだ文明的な建築物の数々。

 線路があって電車もあって、高速道路もあってデパートもスーパーもコンビニもタワーマンションも巨大な電波塔もあって、オフィスビル群が並んでいます。

 

 けれどその人工物と一体化するように、巨大な木々や草花も生えています。

 屋久島の杉の木のように樹齢数百年――下手すれば千年?――もありそうな巨木がビルに巻き付き、アスファルトの道路の上から平然と花が咲き乱れています。

 

 東京とジャングルが合体したような光景とでもいえばいいのでしょうか? 良く言えば渾然一体、悪く言えばひたすら混沌としています。

 

「……これが私の精神世界? ようやくこれたのね……!! 夢を見ているワケじゃないのよね!?」

 

 何かの比喩や暗示、なのでしょうか? 気になりますが、今は――今だけはそんなことは些末な事として考えから弾きます。

 思わず嬉しくて嬉しくて、思わずほっぺたを抓ります。

 

「……痛い。やっぱり夢じゃない!」

 

 やったあああああああぁぁっ!! 苦節三年! 遂に精神世界に入れました!!

 

 蓮常寺さんも綾瀬さんも、もう初年度にはこの段階まで来ていたのに!! 私は全然だったからこれはもう卒業まで対話以前の問題かと思っていたのに!!

 みんなが「名前が聞こえなくてぇ」とか「すごい生意気な性格でよぉ」とか言ってる中で、気を遣って聞こえないフリをしてそっと離れる生活ともおさらばです!!

 

「じゃあ次は、斬魄刀の本体と会話よね? どこかにいるはずだから……」

 

 確か原作だと……一護が死神になるのに入っていたわよね? あの時って……どんなことしてたんだっけ? たしか……

 

「まあ、いいわ」

 

 思い出したところで何かあるわけでもなし。そもそも前述の通り斬魄刀は千差万別、他人の真似をしても、可能性の一つとしての参考程度にしかなりません。

 

「それよりも、何か違和感が……?」

 

 辺りを見回して見回して、ようやく気付きました。

 

「そうよ! 音がない! 物があるのに何にも聞こえてこないんだわ!!」

 

 街中ならば雑踏の音が響き、電車や車の走行音、場所によっては街頭テレビみたいなモニターやスピーカーから音がします。

 森の中であってもそれは同じ。都会と比べれば確かに静かだけれど、それでも風が吹けば葉や草の揺れる音がする。虫や獣がいれば何らかの気配や鳴き声の一つでも聞こえるはず。

 

 それら一切がない……聞こえるのは全部、私が生み出した音だけ。

 時間が停止した世界ってこんな感じなのかしら?

 

「何か、誰かいないの?」

 

 探せばどこかに、斬魄刀の本体がいるはず。まずはそれを見つけて、お互いに自己紹介からでも始めてお友達になっていきましょう。

 

「……えーと……」

 

 建物と木々のせいで死角がたくさんあるわね。これを一つ一つ探していくのは――

 

「ん? 今何か……?」

 

 視界の端を掠めるように何かが動きました。

 

「真っ黒な……ゴム、ボール? いえ、スーパーボールって言うんだっけ?」

 

 恐る恐るその場所へ行ってみれば、そこにあったのはそう表現するしかない物でした。

 

 見た目は真円球とでも呼べば良いような、綺麗な綺麗な球体。

 色は真っ黒でつや消し処理でもされているのか、光を一切反射しない……というよりも光を吸い込んでいるような怖さと美しさがあるわね。

 大きさはバレーボール、いえバスケットボールくらいかしら? 両手で抱える程度には大きくて、手で持ってみたらプニプニと弾力があってなんとも柔らかい。

 ちょっとクセになりそうな感触ね。

 

「でもなんで、こんな物が? 誰かが転がした? それともどこかにあった物が転がって落ちてきたの?」

 

 辺りを見渡しても、誰もいない。手元にあるのはこのゴムボールだけ。

 

「……れしーぶ」

 

 なんとなく思いついて、ゴムボールを軽く打ち上げる。力は殆ど入れていないつもりだったけれど、思いのほか良く飛んだ。

 

「とす」

 

 落下地点へ先回りして今度は正確性を重視するようにもう一度打ち上げ。

 

「あたーっく!」

 

 そして落下してきたそれにタイミングを合わせるようにジャンプして、思い切り打った叩く! ゴムボールはあっと言う間に三百メートルくらい向こうまで飛んでいった。

 予想以上に良く飛ぶわね。それに、私の身体能力もあがっているって証拠でもある。

 

「じゃあ今度は……さーぶ!!」

 

 転がっていったそれを再度拾うと、今度は下から上へ。力一杯打ち上げる!

 

「おーっ」

 

 思いのほか高く打ち上がったそれを見ながら、頭の中で軽く見積もる。

 

 横に飛ばしたときも上に飛ばしたときも、まだまだ余裕はありそうだった。つまりこの空間は想像よりもずっと広い空間だということ。

 上も横も相当なもの、下手すれば十キロ四方くらいあっても不思議じゃないかも。

 ただ、広さの収穫はあっても肝心の斬魄刀との対話が全然なのは問題ね。

 

 

 

 

 でもこうやってボール代わりに使っていると、学生時代を思い出すわ。

 ……バレーとか苦手だったけれど。

 

 どうでもいいけど「体育館の天井にはボールが挟まっているもの」って言うネタはいつまで通じるのかしら?

 ウチの学校、ボールどころか縄跳びが引っ掛かっていたっけ。

 




最後のは実話ネタ。
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