お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第144話 おねえさんとショタがプロレスごっこする話

「そ、そんな! 先生に手を出すなんて出来ません!!」

 

 日番谷の言葉を、けれども吉良君はきっぱりと断りました。

 

「そもそもここでは先生を捕縛するまでだったはずです! 勝手に処刑をするなんて、許されることじゃない!! 下手をすれば……――」

「うるせえっ!!」

 

 捕縛、ねぇ……まあ普通はそうよね。

 捕まえようとしたら相手が抵抗して暴れたから、こっちも手荒な真似をした。みたいな言い訳が立たないわけじゃないけれど、私は別に抵抗してないから。

 

「そんなもん"湯川が暴れたからコッチも刀を抜いた"とでも報告しときゃいいんだよ!!」

「そんなことできるわけないでしょう!!」

 

 ……シロちゃん!? あなたいつからそんな残念な考えになったの……?

 そもそもあなたは一番最初、説明もせずに斬りかかってきたでしょうが!

 それに引き換え、吉良君のツッコミが正論すぎて偉いわね。後で頭くらいは撫でてあげましょう。

 

「ちっ、役に立たねぇ……おらあああぁぁっ!」

 

 直接戦闘は分が悪いと思ったみたいで、斬魄刀から水と氷の竜を生み出しぶつけようとして来ました。

 凄まじい勢いで襲いかかってくる青い竜の突進ですが、でも多分このくらいなら……

 

「先生っ!?」

「はああっ!!」

 

 竜と激突する瞬間、全身から霊圧を放出してその一撃を受け止めました。

 瞬く間に、芯まで凍えそうな冷気が身体中に襲いかかってきます。しかも受け止めただけでは竜の一撃は止まりません。

 なにしろ水と氷で出来た竜ですから、形状を変化させる位は簡単です。そのまま水の氷の塊のようになって、さらに私を押し潰そうとしてきます。

 

「さすがに、少し冷えるわね」

「……化け物が」

 

 化け物呼ばわりとか、失礼ね!

 青い竜の一撃を正面から全て受け止めただけじゃない! 冷気のせいで死覇装とか髪とかの一部は凍っちゃってるけど、ノーダメージで耐え切っただけじゃないの!!

 まったくもう! 暴れる竜を押さえ込むの、凄く面倒だったのよ!

 

 でも次からはちゃんと避けたい。

 だって、冷え性になっちゃうもん……

 

『かき氷が作れるでござるな!』

 

 氷輪丸が作る氷って、空気中の水分とかが原料でしょう?

 そんなもの食べたらお腹壊すからだーめ。

 煮沸消毒くらいはちゃんとやらないと。

 

 というか、日番谷も良い度胸よね。

 ここ、少し離れたとはいえ十一番隊の隊舎の近くなのよ?

 こんな場所で仕掛けた挙げ句に斬魄刀まで使うなんて、戦いの匂いを嗅ぎつけた剣八が来ても知らないわよ?

 

「まったく、何を考えているのやら……私が押さえ込まなかったら、吉良君や周辺にも被害が出ていたところですよ?」

「……あ! そ、そうか……!」

「テメェ……!」

 

 軽く指摘してあげると、吉良君は「そう言われれば!」とばかりにハッとした表情を。日番谷の方は、とんでもなく冷たい目でこっちを睨んできます。

 おー、こわいこわい。

 

「それと、そろそろ私の番ですよね?」

「な……っ!! うおっ!?」

 

 瞬歩(しゅんぽ)で即座に接近すると、頭部と足下を同時に払って一回転するように崩してやります。ちょうど、おへそを中心にして車輪を回すような感じですね。

 くるりと半回転したところで勢いを失った日番谷は、そのまま地面を舐めることに。

 

「ぐあっ!」

 

 その隙を逃さずに片手を踏みつけて、手にしていた斬魄刀を無理矢理引き剥がします。

 シロちゃんって小さいから、本当に楽で扱いやすくて助かるわ。

 

「ぐ、テメェ……湯川……!」

「いきなり襲いかかられたら、そりゃあ抵抗くらいはしますよ」

 

 ほらほら、踏みつけてる手をグリグリしちゃうぞ♪

 

「うぐ……っ!! く、この……」

 

 痛みで顔を歪ませますが、まあこのくらいはしてもいいよね?

 日番谷も日番谷で必死に腕を伸ばそうとしてますけど、無理無理。

 ちょっと特殊な体重の掛け方をしているからね。実際の体重はともかく、受けてる方は想像よりもずっと重いように感じてるはずよ。

 

「がああ……こ、このデブ女……」

 

 あー、そんなことを言うと……グリッ☆

 

「があああああああああぁぁっ!」

 

 良い声で鳴くわね。

 なんとなく、日番谷の霊術院時代を思い出すわ。

 あのときも私が講師で、下で踏んでるのが生徒だったっけ……懐かしい……

 

「ぐ、お、おらああぁっ!!」

「……っと、危ない危ない」

 

 あら、シロちゃん頑張ったわね。

 空いてるもう片方の手で地面を殴ることで反動をつけて、なんとか踏みつけられてる手を脱出させたわ。

 そのまま斬魄刀を回収――しないで私を攻撃しようとしてる!?

 いやいや、その勇気は買うけど……もう少し冷静になりなさいよ……

 

「はい、残念」

「おぐっ……!!」

 

 今度は両肩を手で押さえつつ、片膝を背中に突き刺して地面に縫い付けます。

 さっきよりも状況が悪くなってるけど、シロちゃん……そろそろギブアップしてもいいのよ?

 

『ショタを地面に磔状態でござるな!! ここから濃厚なおねショタが始まるでござるよ!!』

 

 シロちゃんは、もう私のこと「おねえちゃん」って呼んでくれないの? 残念だなぁ……ちゃんと良い子で「おねえちゃん」って呼んでくれたら、もーっといっぱい、色んな事してあげるつもりだったのに……

 

 具体的にはドラゴン・スクリューとか垂直落下式のDDTとかブレーンバスターとか、いっぱいしてあげちゃう♥

 

『地面の上では痛そうでござるなぁ……』

 

 じゃあ|ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロック《S・T・F》ね! ぎゅううううってしてあげる♥

 

「ぐ……吉良! なにしてやがる!! コイツを引き剥がせ!」

「ぼ、僕は……その……」

 

 え、また吉良君頼りなの?

 でもまあ、この状態だとシロちゃんは自力逆転はかなり難しいだろうし。仮に鬼道を唱えようとしたら、その瞬間に頭を叩き付けて妨害するつもりだから。

 正しいといえば正しいんだけど。

 

「捕縛対象が暴れてんだぞ! 何をためらってやがる! お前らも!!」

「でも、でもそれは……」

 

 いやいや、こんなの吉良君じゃなくても「その理屈はおかしい」って思うわよ?

 困惑する吉良君と私の下で悶え苦しむ日番谷の間に緊張が走ります。

 

 ……って、"お前らも"……?

 

「その辺にしとき。いくら隊長かて、他隊の部下にそない無茶なことは言うもんやないで」

「市丸……隊長……」

 

 その均衡を破ったのは、市丸の声でした。

 吉良君は市丸の登場にどこかホッとしたような表情をしています。

 

「それに湯川隊長も。その辺でもう許したってや。じゃないとボクも――ボクらも参加せなあかんから」

 

 ボク()も。

 そういった途端、市丸に続くようにして東仙と狛村隊長が出てきました。

 なるほどね、だから複数形だったわけか。

 

 うーん……というか、この面子は……

 どう考えても、藍染が絡んでますね。

 

 せっかく休みが取れたんだから、一週間くらいバカンスとか行きなさいよ!

 今日はこれから四番隊で、織姫さんと二人っきりで特訓をする予定だったのに!! とろ~り濃厚な個人授業をするはずだったのに!!

 

『い、一応はチャド殿も特訓対象でござるよ……? 消して良いのは霊圧だけ! 存在まで消しちゃ駄目でござる!!』

 

「わかりました。こちらも争うつもりはありませんし」

 

 隊長三人――あ、私の下にもう一人いたわね――隊長四人を相手に大立ち回りをするつもりはありません。

 なので日番谷をとっとと解放しました。

 それにこれだけ人数がいれば、日番谷も暴れ出さないでしょうし。

 

「ところで、狛村隊長たちまで何か御用ですか?」

「それは……」

「いややなぁ、湯川隊長。とっくに想像はついとんのやろ?」

 

 狛村隊長に話しかけたのに、なんで市丸が割って入ってくるんですかね。

 

「そこの日番谷十番隊長さんと同じ理由やね」

「そこの、ちょっと茶色で汚れた日番谷隊長さんと……?」

「……っ!!」

 

 地面に転がったからね。

 ちょっと土の色が付いちゃって、純粋なシロじゃなくなっちゃったわけですよ。

 この例えに日番谷は"イラッ"としたようで私に殺意の籠もった視線を向けてきます。

 

「そのくらいにしておけ、日番谷。湯川も、不必要な挑発は慎め」

 

 あらら、東仙に注意されちゃいました。

 

「湯川隊長は四十六室に呼ばれとるからねぇ……ちょっと喧嘩するくらいならともかく、処断まですると大問題になってまうよ?」

「……チッ。ちょっと痛めつけとく位が、この女には丁度良いんだよ……」

 

 続く市丸の言葉で、日番谷はなんとか怒りを飲み込んだようです。

 でもシロちゃん? そのセリフは負け惜しみを通り越してるわよ。

 

「……まあ、想像はついてましたよ。私を――隊長を捕縛するのに万全を期するためにも、複数の隊長で来た。そんなところでしょう?」

「そういうことやな。日番谷隊長が詰問役。吉良は内偵役。ボクらは、万が一のための戦力として待機しとったんよ」

 

 ……それつまり、日番谷と私のやりとりを全部見ていたわけよね?

 

「だったら、もう少し早く登場しても良かったのでは?」

「いやぁ……日番谷隊長なら自力で突破できると思っとったんやけどなぁ……」

 

 面白がって見てた、と。

 

「東仙隊長? 狛村隊長もですが……」

「そもそも最初に襲いかかったのは日番谷だ。それに斬魄刀も抜かず、相手は素手。痛める様子も見られなかったために、(けん)に回っていただけのこと」

「……すまぬ。東仙らにまだ早いと言われて……」

 

 言い方を変えてますけど、本質は面白がってみてるのと同じじゃないですかそれ?

 そして素直に謝る狛村隊長はちょっとカワイイですね。

 

「日番谷隊長がちょっと先走って暴れたんは問題やったけど、湯川隊長が四十六室に呼ばれとるんは、ほんまの事なんよ……せやから……」

 

 あら、怖い。

 ちょっとだけ、市丸が殺気を放ってきました。

 ここから先は抵抗したら本気で襲いかかるぞ、と言外に語っています。

 どうやら東仙も同じご様子。先ほどから少しだけ体勢を変えており、いつでも戦える準備が整っています。

 日番谷は言うに及ばず。

 

 狛村隊長は……戦う姿勢は見せてないわね。まだ迷ってるのかしら? 私への嫌疑については、理屈はわかるけれど強引すぎるって思ってくれてるのかもね。

 一緒にモフモフした時間で育まれた絆は無駄じゃなかったってことか。

 

 最後に吉良君は――って、うわぁ……何コレ、顔が真っ青になって俯いてる。

 今にも自害しそうなくらい落ち込んでるわよ……

 

 ……あら? 誰かが吉良君に意識を向けているような気配が……

 

「名前、吉良クンやったよね? そんな落ち込んだ顔はせんとき。ボク、キミとは気が合いそうに思うててん。これが終わったら、ゆっくり話し合いでもしようや」

 

 私が気付いたことに相手も気付いたみたいね。

 市丸が吉良君へ親しげに声を掛けてます。

 これは私への牽制と、吉良君をさらに動き難くするのが狙い……かしら?

 

「はぁ……わかりました」

 

 仮に抵抗した場合、間違いなく戦いになるわね。

 市丸と東仙は強いし、そこに日番谷も加わってくる。狛村隊長は……良くて双方不干渉くらいかしら? 

 となると三対一。

 しかもこっちは吉良君を庇う必要まである……流石に勝ち目は薄そう。

 

 それともう一つ、理由があります。

 

 虎穴に入らずんば虎児を得ず! 何を企んでいるのか、飛び込んで確かめてやるわよ!

 こう見えてもね、しぶとさだけなら自信があるんだから!!

 

『乗るっきゃねぇ! このビッグウェーブに!!』

 

「元々抵抗するつもりもありませんでしたけどね。どうぞ、捕まえて下さい」

 

 私は観念したように両手を差し出しました。

 




●タイトル
お姉さんもいるし、小さい男の子もいる。
プロレスも出てきている。
よって何も偽りはない。

●捕まるルート
キチと出るし、(キョウ)と出る。

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