お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第146話 休み明けは元気になるから

「これは……?」

 

 吉良君が斬魄刀を一閃させましたが、その狙いは私の手錠――それも両手首の輪を繋ぐ鎖の部分でした。

 元々かなりの腕前を持っている吉良君です。

 彼の手から放たれた刃は鎖などまるで意に介さずに切断してしまいました。

 

「はあっ!」

 

 さらに返す刀が走れば、今度は切っ先が腕輪へ縦の切れ込みを深く入れました。

 このくらい深く切れ目が入れば、壁などに叩き付けるか最悪子供の力でも無理矢理壊して枷を外せるでしょうね。

 しかも手首そのものには全く傷がついてない。

 さすがは吉良君! 良い腕してる!

 

「吉良三席!?」

「一体何を……!!」

「ご自分が何をしているか、おわかりですか!?」

 

 驚くのは周囲をとり囲んでいた隊員の方々です。

 そりゃそうですよね。ちょっと前まで従順だと思っていた相手が独り言を呟いたかと思えば、突然暴れ出して私の手錠を破壊したんですから。

 

『おまっ! 突然何を考えてんだよ!! ってツッコミの一つも入れたくなるでござるよ! 相手はようやく仕事が終わると思ってたんでござるよ!? しかも隊長なんて危険物の移送でござるよ!? 宮仕えの苦労も少しは分かって欲しいでござる!!』

 

「ああ、分かってるさ……自分がどれだけ馬鹿なことをしたのか……」

 

 なんでこんな馬鹿なことをしたのかはともかく緊急事態になったわけで、隊員さんたちは全員抜刀して吉良君を囲みます。

 そんな彼らに対して吉良君もまた平然と斬魄刀を構えつつ叫びました。

 

「先生、逃げて下さい!」

「え……っ!?」

 

 いやそんな、急に逃げろって言われても……信じてくれるのは嬉しいんだけどね

 手枷なんで既に片腕は壊しちゃったし、もう片方は無傷だけど霊圧を操れるようになったからこれなら素手でも破壊できると思うわ。

 だから逃げるのは簡単なんだけど――

 

「吉良君! どうしてこんなことを!?」

「今日、朝から先生と行動を共にして! 先生の話を聞いて! 日番谷隊長のことを見て! 改めて思ったんです! 先生が捕まるのは、絶対に間違っているって! こんな遅い決断ですみません!」

 

 あー……吉良君、ずっと悩んでいたものねぇ……

 それが今になって、駄目な方向に覚悟がガン決まりしちゃったの!? 

 

『あと拙者が思うに、藍俚(あいり)殿が今朝方に"恋次殿が告ったよ"と教えたでござろう? アレが原因でせっかく決めていた覚悟が揺らいでしまったのではござらぬかと……囚われの姫を助けるというのは王道でござるよ!!』

 

 あー、阿散井君の告白。そういえば話をしたわね。

 ……えっ! アレが原因だったの!?

 

『お尻に火が付いたんでござろうなぁ……』

 

 そうなのね……男心は複雑怪奇だわ……

 

『(焦って藍俚(あいり)殿に良いところをみせようとしたんでござろうが……今のこの状況は、冷静に見ればただのマッチポンプでござるよ……)』

 

 射干玉、何か言った?

 

『いやいや、何も。それよりほら、吉良殿が何か言ってるでござるよ?』

 

「せめて、ここは僕が引き受けます! だから先生! 逃げて下さい! 早く!!」

「そんなこと、出来るはずがないでしょう!」

 

 逃げろと叫びつつも、吉良君は周りの隊員たちに斬魄刀を振るっています。

 始解もしないままではあるものの、どうやら実力は吉良君の方が圧倒的に上のようで。

 一合もするかしないかの間に即座に相手の懐まで入り込むと、見事な横薙ぎの一撃を決めました。

 

「応援だ! 応援を呼べ!」

「議事堂も近いのだ! すぐに連絡を……!」

「させない!!」

 

 この場から離れようとする相手を優先的に狙い、一刀で倒していってますね。

 おまけに刃ではなく峰を強く叩き込んで、行動不能にするだけに留めています。相手からすれば、鉄の棒でぶったたかれるか刀で斬られるかの違いでしかないわけですが。

 斬られて出血するよりかはマシよね。

 

 そんな吉良君の大立ち回りを、私は足を止めて眺めていました。

 ……いや、ホント……どうしろっていうのよコレ……? 逃げて、って本人には言われたけれど、ここで見捨てて逃げられないでしょう!

 それに下手に逃げたらどうなるか……

 多分どこかで監視してるんでしょうね、眼鏡をたたき割ってやりたいあの男が。

 

 なので、とりあえずは準備から。まだ残っていたもう片方の手枷を外しておきました。

 え? どうやって……って、当然こう、力尽くで引き千切ってよ? 霊圧を操れるようになればこのくらいはできるもの。

 

 そんなことをしている間に、あっという間に戦いは終わってしまいました。斬魄刀を鞘へと納めながら、吉良君が心配そうにこちらへと寄ってきます。

 

「先生、どうして逃げなかったんですか……!?」

「どうしてって……吉良君を置いていけるワケないでしょう?」

「それは……でも、僕は先生を裏切る様な真似をしたんですよ!! 心配されるような資格は……」

「吉良君がこんな行動をするとは思わなかったけれど、でも私のことを思ってしてくれたんでしょう?」

 

 辺りを確認しつつゆっくりと吉良君に近づいていきます。

 自惚れかもしれないけれど、そろそろアレが来るでしょうからね。

 

 可能性があるとすれば、近くで倒れている隊員たちに化けているってところかしら。

 それとも、この吉良君が既にすり替わっている? いえ、それはあり得ないわね。さっきの戦いは見ていたから、すり替わっていたなら気付くはず……

 流石に今日の最初から入れ替わっていたらお手上げだけど。

 

「そうだねぇ……私としても、君のこの行動は想定外だったかな?」

「ッ!!」

「え……っ! そんな……この、声は……」

 

 不意に聞こえてきた声色に、私も吉良君も思わず身構えます。

 そっかぁ……そう来たかぁ……

 

 私が相手なら、小細工も必要ないってことかしらね。

 

「久しぶりだね、湯川隊長。吉良三席」

「藍染……隊長……どうして……!?」

 

 吉良君が信じられないものを見たような顔を浮かべます。

 

 大物感たっぷりのゆっくりとした動作と余裕タップリ影の黒幕フェイスを浮かべながら、藍染惣右介が登場しました。

 




区切りが良かったのでここで切りました。
ごめんなさい。

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