お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第147話 藍染先生のぱーふぇくと解説教室(抜け漏れと嘘がいっぱい)

「生きて、いたんですか……?」

「おや? 酷いな吉良君は。私の生死については君たち四番隊が"生存の可能性もある"と結論を出したじゃないか。もう忘れたのかい? ねえ、湯川隊長?」

「……ええ」

 

 私は絞り出すように頷きました。

 だって、この"もう善人イケメンの仮面を被るのは終わりだ!"とばかりの不敵な表情に加えて一人称も"私"になってるんですよ!?

 もうこれは藍染が隠す気がない証拠ですね。

 

 それにしても藍染は、どこに隠れていたんでしょうか?

 どこかから出てきたのなら、気づけそうなものですが……ああっ!

 倒れていた隊員の数が一人分足りない!!

 

 え? ということは最初からいたの?

 もの凄い近くでずっと張り付かれて監視されていたってこと……!?

 くっ! 分かっていたとはいえ、こうやって実体験させられるとその恐ろしさを改めて思い知らされるわね……!

 

『しかも、吉良殿に"わざと負ける"というサプライズ演出付きでござるよ! サービス精神旺盛といいますか、演技派と言いますか……かーっ!! これだからイケメンは!! でござる!! 何をしても絵になるでござるなぁ!!』

 

「ですが、藍染隊長……生きていたのならどうして今まで姿を隠していたんですか?」

「それは勿論、君の動向の監視と確認のためだよ。湯川隊長。日番谷隊長が説明しただろう?」

 

 ああ、あのトンデモ理論ですか。

 ……ということは、あの筋書きを考えたのも藍染ってことかしら。

 

「この事件、何か裏で動いている者がいるのではないか? 糸を引いている者がいるのではないか? そう考えた私は、自分そっくりの人形を作り、死を偽装することで自由に動ける立場を手に入れた」

「僕たち全員を欺いて、ですか……!? けれど、どうしてそこまでする必要が!?」

「敵を欺くにはまず味方から、と言うだろう? 自由に動けるようになってからは、この議事堂に潜みつつ監視と調査を行っていた。ああ、当然だが四十六室の許可は取っているよ。彼らに迷惑を掛けるワケにはいかないからね」

 

 迷惑を掛けない、ねぇ……

 

『相手はもう死んでるから迷惑もクソもないでござるな!!』

 

「だがどうやら、湯川隊長。君は私の説明に不服のようだね。今の話を聞いても"最初っから何も信じていない"と顔に書いてあるよ」

「当然でしょう? 身に覚えが全くないんですから」

「ふふふ……良い声だ。けれど、申し開きは四十六室の前でするといい。さあ、こっちだ。案内してあげよう」

 

 まだその無意味な演技を続けるのね。

 

「だ、駄目だ!」

 

 怪しげに手を差し出してきた藍染から私を守るように、吉良君が立ち塞がりました。

 

「理解しているのかい? 自分が何をやっているのかを?」

「わかっています! それでも、それでも僕は……!!」

 

 叫ぶ吉良君の姿に、藍染は額に手を当てると軽く嘆息しつつ一度天を仰ぎました。

 

「はぁ……唯一想定外だったのは吉良君、(きみ)の存在だよ」

「え……なに、を……?」

「君の性格ならば、湯川隊長を素直に差し出すと思ったが……まさかここまで共に来るとはね。君の打算にはとても驚かされたよ」

「打算……ち、違う僕は……」

 

 打算? 何のことかしら?

 でもなんだかよく分からないけれど、吉良君が藍染の想定を上回ったみたい。凄いわよ! 吉良君ってば!! 流石私の教え子!!

 

藍俚(あいり)殿の教え子ならいっぱいいるでござるよ? それこそ、あの荒巻殿だって教え子でござるが?』

 

「四十六室に引き渡す直前で裏切り、彼女を救出する……か。なかなかどうして、悲劇性と印象をより強くする素敵な演出じゃないか」

「違う!」

 

 あ、打算ってそういうことね。

 

「このような場所で解放すれば、彼女が逃げてもすぐに追いつける。さほど強くもない相手を自ら蹴散らすことで信頼感を得られ、逃避行を共にすることで自然と寄り添えると考えたわけだ」

「違う!!」

「ああ、ひょっとして君がこの計画に協力した時点で、このような青写真が既に頭の中にあったのかな?」

「……ッ!! それは!! あなたが!!」

 

 ちょっと藍染! 流石にそれは言い過ぎ!! 吉良君はそんな子じゃない――いえ、まさか! 逆上させるのが狙い!?

 

「まったく……恋というのは度しがたい。君のような好青年が、このような下劣で低俗な考えを抱いてしまうのだからね。君の相談に乗った自分が馬鹿みたいだよ」

「それ以上! 言うな!!」

「駄目ッ!!」

 

 激昂した吉良君が藍染へ斬りかかろうとしますが、私は彼を掴んで止めます。いえ、止めるだけではなく一気に後ろへと跳躍して距離を取ろうとしました。

 ですが――

 

「三席が隊長に刃を向けたとなれば、それは反逆罪だよ? そしてこれは正当防衛だ」

 

 藍染の刃はそれよりも早く動き、吉良君の身体を深々と切り裂きました。

 

「あ、あああああああああああああっっっっ!?!?」

「落ち着いて! すぐに治すから!! ――ッ!!」

 

 一拍遅れて激痛が走ったのでしょう。吉良君の口から悲鳴が上がりました。

 彼を落ち着かせるべく声を掛けつつ回道を使おうと――

 

「大丈夫だよ。湯川隊長ほどではないが、吉良君も四番隊の優秀な隊士だ。そのくらいの傷なら自力で治療出来るはず。すぐには死なないよ」

 

 ――したところを、藍染の攻撃に邪魔されました。

 しくじりましたね。殺意の籠もった強烈な一撃に、思わず身を引いてしまいました。

 藍染は私と吉良君の間に立ち、こちらを威圧しながら淡々と語ってきます。

 

「なにしろ、そうなるように調整したのだから」

「……二度は言わないわよ。どきなさい」

「断る。何しろこれでようやく、あなたと気兼ねなく話が出来るのだからね」

 

 こちらも殺意をぶつけてみたのですが、藍染はそれをさらりと受け流します。

 そして……え!? 私と話?

 

『なんか藍染殿が変なことを言い出したでござるよ?』

 

「そこの吉良君は痛みで話を聞くどころではない。無粋な隠密機動にも先ほど(とど)めを刺しておいた。誰に憚ることもないだろう?」

 

 トドメを!? ああもうっ! なんで不必要に血を流すのよ!!

 吉良君は……よし! なんとか回道を使い始めた! これなら助かるわね!

 

「なんでこんなことをするの!? さっぱり意味がわからないわ!! 用や話があるなら私だけを素直に呼び出せばいいでしょう!?」

「それをして君が無為無策で来てくれるなら、私だって喜んでそうしたよ。だが君は、そうするタイプではないだろう? 故に、こうでもする必要があった。いや、こうでもしなければ君は素直になってくれない(・・・・・・・)……そうだろう?」

 

 素直になって"くれない"って……?

 

「単刀直入に聞こう。湯川隊長、君はどこまで知っている(・・・・・・・・・)?」

 

 ――!!

 

「おや、表情が少し変化したね。四楓院夜一と接触して何かを聞いたか? それとも、もっと前から気付いていたのかい? たとえば――」

 

 

 

 

 

「――君が、平子真子の部下だった頃の私を"藍染隊長"と呼んだときから、かい?」

 

 

 

 

 

 気付かれてた!! あんな時から!!

 私がうっかり平子隊長の前で「藍染隊長」って口に出しちゃった時の事を!!

 あの後毎回毎回同じボケを続けて必死で笑いのネタにして誤魔化してたのに!!

 

『あー、やっぱりアレは危険だったのでござるな……とはいえあの時点では"疑いの目を向けられた"くらいの危険度だったのでしょうが。ですが"ターゲット・ロック!"されたのは間違いないでござるよ!!』

 

 ああ、もう!!

 アレは百年前の事件の後で「冗談で言ってたのに、本当に藍染隊長になっちゃいましたね」ってしんみりしたシーンを挟んだことで完全に帳消しになったはずでしょう!!

 なんでまだ覚えてるの!! 根に持ってたの!?

 

「まさか、それを聞くのが狙いだったの? そのために日番谷隊長たちを操ってまでこんな面倒なことを!?」

「今度はとぼけるのかい? ああ、でも確かに日番谷隊長には少しだけ悪いことをしたよ。私としては、彼の話を少々聞いて助言(・・)をしていただけなのだが……思った以上に懐かれてしまってね。どうやら"とある人物の目"が"どこかの誰か"に向いているのが、よほど面白くなかったらしい」

 

 とある人物って……桃よね、絶対に。

 彼女の気を引いちゃって、しかも何故か四番隊まで入っちゃって。それが回り回って、こんな面倒な目になったってこと!?

 でも、それだけであんな短絡的な行動を起こすかしら?

 

 ううん、でも藍染は"助言"って言ってた。

 ならそこから言葉巧みに操ってる可能性も加味すべきよね。

 

藍俚(あいり)殿が日番谷殿を甘やかしていれば、もしかしたら結果はまた違っていたかもしれんでござるな』

 

 そんな"たられば"の話をされても困るってば!!

 

「それに"自分だけの特別扱い"というのは、思った以上に効果があるようだ。それは日番谷隊長といえども同じだったようで、驚かされたよ。ただ少し"顔を合わせて"説得しただけなのだけれどね」

 

 顔を合わせて? ……あっ! そういうこと!?

 

『どういうことでござるか?』

 

 多分だけど、藍染は自分が生きていることを明かしたのよ。

 死んだと思っていたハズの相手が実は生きていて、ついでに「君にしか頼めないことなんだ」みたいな殺し文句も添えたんでしょうね。

 

『なるほど、確かに。それなら特別扱いされていると思ってしまって、舞い上がりそうでござるな!』

 

 元々交流をしていたらしいから、そういう下地は十分に出来ていたんでしょうね。

 

「さて、そちらの質問には答えたよ。今度はこちらの番だ。ああ、そうだ。答えにくいなら手助けをしてあげようか?」

「ぐあああああああ!!」

 

 回道に集中していた吉良君の足を、藍染は斬魄刀で刺し貫きました。

 

「吉良君っ!! やめなさい藍染!!」

「ふふ……」

 

 どうやらやるしかないようです。

 藍染を止めるべく飛びかかれば、相手は即座に刃を引き抜き私へと向けます。

 

「そうか、本人の身体に直接尋ねるという手もある。迷うね」

「くっ……!」

 

 切り上げの一撃を身をよじって躱しましたが、相手の攻撃はそれだけでは止まりません。

 切り下ろしから横薙ぎへと変化する斬撃をなんとか見切り、動きに合わせて回避します。

 

 ですが、さすがは藍染。認めたくはないですが、剣の腕も大したものです。

 

『認めたくないものでござるな……』

 

 今はチャチャ入れないで!!

 

「う……っ……」

「おや、集中が途切れたね。何か気になることでもあったかい?」

 

 射干玉のボケにツッコミを入れた瞬間、わずかに避け損ないました。

 頬を薄く切られ、同じく刃から逃れきれなかった頭髪が数本はらりと宙を舞います。

 

 でも集中が途切れたって……まさか、射干玉のことまで気付いてるの?

 

『ええっ!! せ、拙者もついに銀幕デビューでござるか!? 困ったでござるなぁ……』

 

 んなわけないでしょ!

 藍染が一瞬だけ視線を動かしたから、多分吉良君に注意を向けさせようとしているはず。そっちのことよ、多分。

 

『残念、吉良殿のことでござったか……』

 

 あっちはあっちで危険なの! さっさと治さないと命が危ないのに!!

 なのに藍染は邪魔してくるし! そもそも斬魄刀が無いから大変なのよ! 私の戦い方って基本的に武器ありきなんだから!

 

 でも、無いものねだりしてる余裕はないわよね!!

 

「このっ!!」

 

 斬撃に合わせて拳を放ち、(しのぎ)を打ち払いつつ懐まで飛び込みます。

 剣術と比べれば稚拙ですが、これでも白打の心得だってあるんですよ!!

 狙いはその顔面! 一発くらい殴ってやる!!

 

「ほう? 流石だね」

「……くうぅ……惜しい……!」

 

 相手に手で受け止められたわ!

 悔しい!! 絶対に殴ったつもりだったのに!!

 

「けどっ!」

「ぐっ!?」

 

 そこで動きを止めるわけにはいきません。防がれたならそれはそれ! 

 受け止められた体勢はそのまま、倒れ込むようにして肩での一撃を放ちます。

 どうやら意外と有効な手段だったようで、藍染もこれは防ぎきれませんでした。

 

『藍染殿-! 拙者をうけとめてー!! スタイルでござるな!!』

 

 今だけは茶化さないでって言ってるでしょう!?

 

 相手が姿勢を崩したところで、もう片方の手で掌底を放ちます。

 狙うは腹! 衝撃を送り込んで内部から揺らしてやるわよ!! ゲロの一つや二つ、覚悟しなさい!!

 

「せいっ!」

「むっ!!」

 

 嘘でしょう!? 後ろに飛んで逃げられた!!

 当たったけれど、これじゃあほとんどダメージが出ないじゃない!!

 いえそれ以上に間合いが広がったのが問題なのよ!!

 

「怖い怖い、さすがは霊術院で新入生たちを指導していただけのことはある。思わず背筋が震えたよ」

 

 軽口を叩ける程度には余裕を取り戻したみたいね。

 でも実際、これでまた大幅に不利になったわ。

 斬魄刀がないから大幅に戦力はダウン。

 白打は出来るけれど、藍染に何度も通じるかと聞かれたら疑問。

 鬼道なら可能性はあるけれど、下手をすると吉良君を巻き込みかねない。タイミングを要・調整ってところね。

 

 他に何か、戦闘手段になるもの……は……――

 

 

 

 ――あっ!!

 

 

 

 ある……

 

 けれど……

 

 まさか!?

 

 まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか!?

 

 アレが目的だったの!?

 私にアレを使わせたいために、こんな面倒をしたの!?

 

 いえ、でも確か藍染の目的って……その一つに……じゃあ、まさか……!?

 

 確証はない……でも、多分……間違い、なさそう……

 

「……ああ、なるほど。そういうことだったのね」

「おや、どうしたんだい湯川隊長?」

 

 そういえば藍染は「誰に憚ることもない」って言ってたものね。

 アレの言葉もヒントだった。途中の迂遠な行動も並べ立てた言葉も全部、私を追い詰めるためだったわけか。

 

「ようやくわかりましたよ、あなたの狙いが」

 

 でもまさか、そのためだけにこんな回りくどい方法を取ったなんて……

 私が評価されたと思うべきか、それとも舐められたと思うべきか……

 

 いいわよ! 乗ってやろうじゃない!!

 

「狙い? なんのことかな?」

「吉良君、聞こえる!?」

 

 藍染の言葉を無視して、吉良君へと声を投げかけます。

 

「ちょっと前に君に"今日のことは秘密ね"って言ったでしょう? あれ、今も継続中だから……だからこれ(・・)も、秘密にしてね……はあああぁっ!!」

 

 ――(ホロウ)化。

 左手を顔の前へと翳し、内なる霊圧を身体全体に纏っていけば、それだけで変身は完了です。

 

「ほう……」

 

 藍染が一瞬、満足そうな薄笑いを浮かべたのが仮面の下から見えました。

 

 どうやら私の推測は当たっていたようです。

 




●日番谷と吉良
藍染に行動を操作された子。

●虚化
かなり回りくどいことをした藍染の狙い。
藍俚に「見せて」って言っても絶対に見せてくれない。
周りに人がいたらそもそも絶対に使ってくれない。

なら「周囲に無関係な人間はいない」「人質(吉良)もいる」という「本気を出さざるをえない」状況を作り上げればいい。
(それが現状になります。
 邪魔する相手も気にするような相手もおらず、斬魄刀もない(作中では藍俚が自分から差し出したが、本来は誰かが取り上げる予定だった)ので卍解もない。残るは鬼道ですが、強い鬼道は周囲を巻き込むので使い難い(吉良を巻き込みかねない)
 直接藍俚(あいり)を呼びつけた場合は最悪「付き添いで来ました(剣八二人)」があり得るので、泣く泣くこういう形を取った)


崩玉を手に入れるつもりはあるものの、それはそれ。
行きがけの駄賃として、虚化の力を見たい(データを取って自分の配下と比較したい)
あわよくば、崩玉を使わないで虚化する方法を知りたい。

という考えから。
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