お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第149話 同時進行の裏側で

 湯川藍俚(あいり)の捕縛と朽木ルキアの処刑。

 ほぼ同時に発令された二つの事柄は、尸魂界(ソウルソサエティ)の各所に衝撃と混乱をもたらした。

 

 

 

 

 

 ――十一番隊の場合。

 

「大変だ!!」

 

 始まりは、綾瀬川弓親の叫びからだった。

 黒崎一護が鍛錬を続けている地下空間へと全速力で飛び込むと、彼はあらん限りの大声で叫び、異常事態が発生したことを知らせる。

 その鬼気迫る様子は、一護が思わず手を止めてしまうほどだった。

 

「なんだなんだ?」

「どうしました綾瀬川五席? 騒々しいですよ?」

「ああ、隊長……って、そんなことじゃないんですよ! 大変なんです!!」

 

 大急ぎで駆け込んできたため、軽く息切れする自らの身体を無理矢理平静に戻しながら弓親は続く言葉を口にした。

 

「湯川隊長が先ほど捕まりました」

「なんですって!?」

「なんじゃと!?」

「はぁ!? どういうことだよ!?」

「ええーっ!?」

「おい! そいつぁ、どういうことだ!?」

 

 その衝撃的な内容に、その場にいた全員が一斉に弓親の方へと振り向いた。剣八など、彼へと掴みかかったほどだ。

 

「ぼ、僕に言われても詳しいことは……!!」

「待ちなさい剣八。その手を放して、詳しい事情を聞きましょう」

「ん……ああ、そうだな」

 

 卯ノ花にたしなめられ、剣八は素直に手を放す。彼女の諫めが無ければ、手に込められていた力は弓親を握り潰さんばかりだったのだ。

 なんとか解放され、弓親は咳き込みながら続きを口にする。

 

「よし、話せ」

「ゴホゴホ……あ、ああー……よし、声は出るね。捕まったと言いましたけど、僕もあまり詳しいことは聞いてません。ただ――」

「ただ!? なんだよ!?」

「――ただ、十一番隊の隊舎から離れた場所で小競り合いがあったらしい。ほら、平隊士から"いざこざがある"との報告を受けて、僕が様子を見に行っただろう? アレがそうだったのさ」

「ああ、そういや……湯川さんのメシを食った後でアンタ、どこかに行ったよな?」

 

 子供のように続きを強請る一護に、弓親は自分がこの空間に不在だった理由を説明する。

 

「アンタ……ま、まあいい。その騒動こそが、彼女を捕まえていたようだ」

「おや、それは不思議ですね。そんな騒ぎがあれば、私が気付かないはずは……――」

 

 騒ぎがあった、という説明に卯ノ花が首を傾げる。

 控えめに評しても、彼女の霊圧感知は下手な隊長とは比べものにならないほど群を抜いている。

 その卯ノ花が気付かないとなれば……そこまで思考を巡らせた後に、彼女は軽く手を叩いた。

 

「――……もしや、誰かが隠していたとでも?」

「そこまでは……ただ、近くの者の話では四名の隊長がいたそうです」

「隊長四人がかりで取り押さえですか……霊圧知覚を乱すような小細工をしてでも……あの子もようやく一端(いっぱし)になってきましたね」

「い、いっぱし……? って、そう使う言葉だっけか夜一さん……?」

「儂に聞くな……」

 

 卯ノ花独自の評価基準に未だ慣れぬ二人が頭を抱えているが、それはそれとして。弓親は一護たちを一瞥した後に、卯ノ花と更木へ伝える。

 

「それともう一つ悪い知らせです! 上に、彼らを匿っていることがバレました」

「なん、だと……!」

「儂らのことが……いや、藍俚(あいり)のことから考えれば当然かもしれぬな」

 

 その言葉に夜一はさもありなんと頷いた。

 精力的に動き回っていた彼女の動きは、他者からすれば異質に映ることもあるだろう。むしろ今までが上手く行きすぎていたとすら思えてしまう。

 

「既に四十六室からは旅禍への最後通告の文書が来ています。読みますよ?」

 

 そう前置きしてから、弓親は書面へと顔を落とした。

 

 ――通告。

 件の旅禍を十一番隊が匿っていることは既に判明している。

 だが首謀者 湯川藍俚(あいり)は既に捕らえ目的も割れた。

 もはや旅禍を捕縛し、尋問して目的を探る意味もない。

 よって十一番隊に告げる。

 その旅禍たちを殺せ。

 自らの手で嫌疑の汚名を濯ぎ、死神としての誇りを証明してみせよ。

 それが為されない場合は、十一番隊を反逆者と見なし実力行使も辞さないものとする。

 理性ある行動を求める――

 

「――だそうです」

 

 抑揚なく、さながら機械のように無感情で読み上げられたその文面。

 それを真っ先に笑い飛ばす者がいた。

 

「はっ! 理性ある行動と来たか!! よりにもよって、俺らによぉっ!!」

「一角!? 急にどうしたんだい!」

「どうしたもこうしたもねえよ! 用事があるから来たんだ!」

 

 彼の記憶では、今日は十一番隊の指揮を取っていたはずだが一体どうしたのだろう。

 突然の襲来にそう驚く弓親を尻目に、斑目一角は真剣な表情を見せる。

 

「……隊長、悪い知らせと悪い知らせがあります」

「いや、どっちも悪いのかよ!!」

「黙って聞いてろ一護!!」

 

 思わずツッコミを入れてしまったが、一角のその態度に茶々を入れるような場面ではないと悟り、一護もまた表情を引き締めた。

 

「聞きましょう。何がありました?」

「まず一つ目は、藍俚(あいり)が捕まりました。罪状はまあ……旅禍を利用したとか尸魂界(ソウルソサエティ)を滅ぼそうとしてるだとかいう、これがまた頭の悪いっていうか、こんなものを信じる奴はいねえような、到底ありえねえモンなんですがね……」

 

 この知らせもまた、各隊に書面にて知らされていた。

 一応、現在の現場最高責任者であった一角は書面に――流し見程度だが――目を通しており、その時のことを思い出して思わず鼻で笑う。

 

「問題はそこじゃなくて。藍俚(あいり)の奴は四十六室にとっ捕まって、審問の後に死刑だそうです」

 

 そう告げた途端、周囲がざわめき始める。

 

「馬鹿な、性急すぎるぞ!!」

「夜一さん、やっぱりコレっておかしいのか!?」

「当たり前じゃ……む、とは言い切れぬ、か……? 百年前のことを考えれば……むむむ……じゃ、じゃがやはり異質……何か裏が……?」

「おいおい、勘弁してくれよ……」

 

 なまじ百年前の浦原たちの事件で似たような体験をしているため、思わず夜一は考え込んでしまい、それを見た一護は思わず肩を落とす。

 

「それはそれとして置いておきましょう。それで、もう一つの悪い知らせというのは?」

「こっちはどっちかって言うと一護、お前たちに関係する方だ」

「へ? 俺たちに……か……?」

 

 突然槍玉に挙げられ、一護が思わず気の抜けた返事を返す。

 

「ああ。朽木ルキアの処刑が再決定した」

「なっ……どういうことだよ!? だって、ルキアの件については一時延期したって白哉と恋次が……!!」

「その延期の原因を捕まえたから、再開すんだとよ。しかもご丁寧に、今日これから刑を執行するとまで言ってきやがった」

「っ!?」

 

 その言葉に一護は今度こそ言葉を失った。

 

「クセえな……」

 

 だが一護とは対照的に、剣八はにやりと凶悪な笑みを浮かべる。

 

「ええ、そうですね。ここまで意図的かつ作為的なものを堂々と見せてくるとは……」

 

 卯ノ花もまた、剣八の意見に同意する――柔和だが、どこまでも底冷えするような笑みを浮かべながら。

 

「ねえねえ剣ちゃん。あいりんのこと助けに行こうよ」

 

 そして草鹿やちるだけは、剣呑な空気の一切を無視して気の抜けた声を上げる。

 

「あいりんを助ければ、貸しがいーっぱい! そうすれば、お菓子もいーっぱいもらえちゃうかもよ!!」

「貸し、か……なるほど。言われりゃ確かにそうだ。せっかく藍俚(あいり)が昨日からやる気を出してんだ……こりゃあ、またとねえ絶好の好機って奴だな……」

「そうだよそうだよ剣ちゃん! だから行こう! ねっ、ねっ!?」

「いいですねえ。草鹿三席の言うとおりです。それに――」

「それに……なんですか?」

 

 もったいぶった言い方をする卯ノ花の言葉に、一角が恐る恐る尋ねる。

 

「――四楓院さんの説明からすれば、藍染隊長とも刃を交えられるかもしれませんから」

「おおっ! そりゃあいいな!! ちょいと得体の知れねえって話を聞いてから、一度斬ってみてえと思ってたんだ!!」

 

「は、はは……すっげー頼もしいのな……」

 

 始祖の剣八と当代の剣八。

 最強の二人が意気投合して藍染を狙うその姿に一護は思わず度肝を抜かれていた。

 一護は四十六室のことなど何も知らなければ、藍染惣右介という死神の顔も知らない。

 だが彼は、そんな顔も知らぬ相手のことをほんの少しだけ同情していた。

 

「すまねえ、一護。俺も藍俚(あいり)の方に行く! 本当ならお前を助けてやりてえんだが……俺もちょっとばかし、思うところがあってよ……」

「お、おう。気にしないでくれ一角」

「そうじゃな。剣八の助力を得られぬのは残念じゃが……少なくとも六番隊と十三番隊は協力してくれるじゃろう」

 

 そう頭の中で算盤を叩く夜一であったが、一護はそれをきっぱりと否定する。

 

「何言ってんだよ夜一さん! 俺は一人でもルキアを助けに行くぜ!!」

「むっ! そうじゃったな。儂らは元々、その腹づもりでここまで来ていたのじゃ。今更臆すなど愚の骨頂か」

 

 そう語り合う二人の横では。

 

「勿論、僕も一角と一緒に行くよ」

「無理しなくてもいいんだぞ、弓親」

「わーい! みんなでおでかけ!!」

 

 みたいなやりとりが行われていたのだが。

 

 

 

 

 

 

 ――十三番隊の場合。

 

「はぁ!? なんだそりゃ!!」

 

 十三番隊隊舎内に、志波海燕の怒声が響き渡った。

 

「おかしいだろうが! 絶対におかしいだろうがよこんなの!!」

「あ、兄貴?」

「一体何が……?」

「どーしたんですか、副隊長。あんまり怒ると早死にしますよ?」

 

 事の起こりは十三番隊へ届いた二通の書類だった。

 それを浮竹十四郎が目を通した後に、海燕が目を通したかと思えばこの反応なのだ。

 近くにいた岩鷲や部下たちが驚くのも当然だろう。

 

「読んでみろ!」

「わ、っとと……えーと、何々……」

 

 彼らの反応に海燕は「説明するのも面倒だ」とばかりに書面を投げつけた。

 それを慌てて受け取ると、彼らは車座になってしばしの間読みふける。

 

「あ、兄貴! これって……!!」

「ああ、書いてある通りだ」

「じゃあ本当に、藍俚(あいり)の姉さんが!?」

「こっちには朽木さんがこれから処刑されるって書いてあるわよ!?」

「なんだとぉっ!? そんなことが書かれてんのか!?」

「……いや仙太郎、あんた読んでなかったの?」

「俺はまだそっちは読んでねえんだよ! あ、こら!! 馬鹿を見る目で見るんじゃねえよ!」

 

 途端に始まる大騒ぎだったが。

 それはそれとして、浮竹と海燕は神妙な面持ちで相談を始める。

 

「時間的にはほぼ同時だ。本来ならば両方とも回りたいところだが、それは不可能だ。つまり、手助けするにはどちらかを見捨てなければならない」

「そうっスよね……」

 

 海燕は額に皺を寄せ、軽く悩んでから答えを口にした。

 

「ま! 湯川なら、自力でなんとか出来るでしょ? 俺にはあいつが死ぬところは想像出来ねぇや。ねえ、隊長?」

「ああ、そうだな。見捨てるようで心は痛むが、俺たちの目的は朽木だ。そこを取り違えるわけにはいかない」

 

 どうやら二人の心は既に決まっていたようだ。

 悩んでいたのはほんの数秒だけのことでしかなかった。

 

「それに、俺たちが向かわなくとも彼女のことだ。おそらくは……」

「ああ、そうっスね。アイツの――」

 

 だが二人が即決出来たのは、何も彼らが藍俚(あいり)の事を見捨てたワケではない。

 自分らが手を貸す必要などないことを、彼らは熟知していたのだ。

 

「――尸魂界(ソウルソサエティ)で一番の剣八世話係って異名は伊達じゃねえよ」

 

 それは、どこからともなく。いつからか、人々の口から自然と語られるようになった呼び名だった。

 曰く、十一番隊の剣八を御せるだけの存在がいる。

 曰く、剣八に振り回されつつも同時に振り回せるだけの実力を持っている。

 曰く、剣八の遊び相手をいつでも務められる者。

 

 そんな噂が、この十年ほどの間に瀞霊廷内でまことしやかに広まっていたのだ。

 そんな噂をされるような相手に、下手な心配など無用――いやむしろ邪魔にしかならないかもしれない。

 

 故に、二人の心は決まっていたのだ。

 

 ――十三番隊は朽木ルキアの救出に向かう。

 

 それはこの場の全員の心でもあった。

 

 

 

 

 

「あの、兄貴……俺、藍俚(あいり)の姉さんを助けに……」

「まーまー岩鷲、ちょっと考えてみろ。いいか、元々おれたちは夜一からその朽木ルキアを助けるために動いてただろ?」

「あ、ああ……」

「つまり、朽木ルキアの方に向かうのは初志貫徹! 一度決めたことを曲げるのは男じゃねえよな? 藍俚(あいり)だってそんなお前を見れば惚れ直すだろうぜ?」

「ほ、惚れ直す……っしゃあ! わかったぜ!!」

「ちょっれー……我が弟ながら、ちょっれー……」

 

 この姉弟も参加するようです。

 ……なんだか騙されてるような気もしますが……

 

 

 

 

 

「そうだ副隊長! ものは相談なんですけど……」

「あん? って、清音! お前――」

「ぶはははははははははっ!!」

 

 出立直前、謎のやりとりもされたようですが……

 

 

 

 

 

 

 ――六番隊の場合。

 

「隊長、朽木隊長!」

「どうした恋次? 騒々しい」

 

 隊首室の戸を蹴破るほどの勢いでやってきた阿散井恋次の様子を、朽木白哉は落ち着いた声色で出迎えていた。

 

「どうしたじゃありませんよ! ルキアと先生が……!!」

「ああ、そのことか。それならば、既に知っている」

「え……?」

 

 そこまで告げられて、恋次は気付いた。

 白哉の格好が、普段よりも物々しいのだ。

 平時こそ上級貴族としての模範たるような衣姿と佇まいをしているものの、今日はどこかが違う。

 身につけているものに何か大きな違いがあるわけでもないのだが、はてどうしたことかと首を傾げてしまう。

 

「行くぞ恋次」

「行くって……どこへです?」

「無論、ルキアの所だ――妹を助けねばならぬからな」

「……はいっ!! お供します!!」

 

 恋次はようやく理由を悟った。

 覚悟が違ったのだ。今の白哉はさながら、戦場に赴いて絶対に生還してみせる。とでも言わんばかりの決意に満ち溢れていた。

 その決意に負けじと、恋次もまた闘気を心の中で燃え上がらせ――ようとしたところで、はたと気付く。

 

「ですけど、その……先生の方はいいんでしょうか?」

「湯川殿か……無論、気にならぬわけではない。だがおそらくは、湯川殿本人がそれを望まないだろう」

「そう……スね。下手に先生の方に行ったりしたら、逆に叱られそうです」

 

 思わず恋次は頷いていた。

 人は誰しもが、譲ることのできない優先順位というものがある。ここでルキアを選ばないということは、彼には不可能なのだ。

 加えて、なんとなく見えていた。

 仮に――本当に仮に、藍俚(あいり)を選んでいたならば……きっと烈火のごとく怒られるだろうと。

 

「あと――先生のところには俺たちよりも、もっと頼りになる人たちが行きそうで……」

「そうだな。尸魂界(ソウルソサエティ)で最も剣八の扱いが上手い――その代名詞は、決して偽りでも無ければ誇張でもない。純然たる真実なのだから」

「裏を返せば、下手に手を出すと卯ノ花隊長と更木副隊長を敵に回すってことですからね……おっかねぇ……俺なら絶対に嫌です」

 

 最も剣八の扱いが上手い……どうやらそんな風にも呼ばれているようです。

 

 

 

 

 

 

 ――四番隊の場合。

 

「副隊長! こんな書面が届きました!」

「それに、四十六室からもこんな通告が!!」

「え、えええっ!? ど、どうしよう……」

 

 突如として隊士たちから告げられた内容に、虎徹勇音は完全にパニック状態になっていた。

 だがそれも当然だろう。

 

 自部隊の隊長が消えたかと思ったら捕縛、かと思えば処刑。

 それとほぼ間を置かずに、捕まえている旅禍を殺せと言われているのだ。

 

 しかもその旅禍はその渦中の隊長が連れてきた者であり、彼女の取りなしもあって隊内には大小差こそあれど受け入れられている。

 総責任者たる湯川藍俚(あいり)が不在のまま、副隊長の彼女がそれらを採決せよというのはかなり荷の重いことだった。

 

「これって、織姫さんたちを手に掛けろってことですよね! 私、そんなの絶対に嫌です!!」

「いや、そうは言うけどねぇ、雛森君……上からの命令だよ。下手に逆らうのは」

「じゃあ伊江村三席はこのまま見殺しにしろってことですか!? 織姫さんたちも! 隊長も!!」

「そうは言ってませんが……ど、どうしますか副隊長……」

「うう……えーと、えーと……」

 

 勇音は霊圧こそ高いものの、気の弱い性格ゆえにこういった"ビシッと仕切って決める"ような事は苦手である。

 そこに強硬論と慎重論とがぶつかり合い、頭の中はもはや爆発寸前だった。

 何を選んでも誰かに角が立つのではないか? そんな相手のことを汲みすぎる心根が、決断を鈍らせ続けてしまう。

 

 ――こ、こんな時、隊長だったら……

 

 そう考えた瞬間、彼女の心は決まった。

 

「よ、四番隊は!! 湯川隊長をシンジします!」

「あの、副隊長……シンジしますというのは……?」

「あ! ま、間違えました! 信じます!!」

 

 開口一番こそいまいち決まらなかったものの、それでも勇音は必死で言葉を紡いでいく。

 

「私は、まだ自分が新人隊士だった頃に隊長が必死に仲間を救うその瞬間を見ました! あれを見たから、私は隊長のお役に立ちたいって思いました!! そんな隊長が間違ったことをするはずがありません!! だから四番隊は、こんな命令には従いません!!」

 

 さらには決意の証とばかりに、通告の書面を破ると床にたたきつけてみせた。

 

「それと縫製室担当のみなさん! 死覇装を三人分用意して下さい!! 男性用を二つと、女性用を一つ! あ、男性用の一つは特大サイズでお願いしますっ!!」

 

 男性用を二着と女性用を一着。

 その注文が何を意味しているのか、この場にいる者たちは全員が理解していた。

 

「織姫さんたちは隊士に変装させて逃がします! 雛森さんは護衛についてください! 私は隊長を助けに行きます!! これは隊長代理として、副隊長の私が出した命令です!! だから、全責任は私にありますっ!!」

「「「「はいっ!!」」」」

 

 勇音の決死の覚悟にも命令にその場の多くが返事をする一方、雛森だけが頭を抱えて悩み続けていた。

 

「わ、私も隊長を助けに……うう、でも織姫さんを見捨てるのも……うう……」

「あの、雛森さん……?」

「……わかりました! でも副隊長! 抜け駆けは駄目ですからねっ!!」

 

 何やら葛藤があったようです。

 

 

 

 

 

 

 ――二番隊の場合。

 

 

 

 

 

 

 ……? あれ、二番隊は無し?

 

 

 

 え、静かにしろ? 遠く離れた場所からそっと覗いてみろ……?

 

 

 

 

 

「ああああああああっっ!!!! 藍俚(あいり)様が四十六室に囚われただと!? しかも此度の事件の首謀者!? 本来ならば藍俚(あいり)様の所へ向かうべき……だが、同時に朽木ルキアの処刑もされるという!! 事前に知らされた情報から判断すれば、あの旅禍は救出に向かうはず! となればおそらくは夜一様もそちらにいる可能性が高い!? 夜一様を再び捕まえるまたとない好機なのでは!?」

 

「あの~隊長……?」

 

「だが、そうなれば私は藍俚(あいり)様を見殺しにすることになってしまう!! どうすれば、どうすればいいのだ!! 考えろ、考えるのだ砕蜂!! 夜一様か藍俚(あいり)様か!? 藍俚(あいり)様か夜一様か!? 駄目だ!! 答えが出ない!! なぜ、どうして私には身体が二つないのだ!! 身体が二つあれば……藍俚(あいり)様にお仕えしつつ、夜一様とも一緒に過ごすことが出来る……!? そんな、そんな夢のようなことが本当に出来て良いのか!?!? くっ! 鬼道衆はなぜ、二人に分身出来るような鬼道を開発しなかったのだ!! それがあれば、絶対に会得してみせたというのに!!」

 

「この朽木ルキアって極囚の処刑をするんで、各隊の隊長副隊長は参列せよって命令が来てましてね……駄目だこりゃ、聞いてねえ……」

「聞いているぞ!! 大前田三席っ!! 聞こえているから悩んでいるのだ!!」

「ひいいいっ!! す、すみませんすみません!! あと、ちょっと前からちょくちょく三席呼びなのはどうしてなんですかねぇ……俺、副隊長なんですけど……」

「新しい副隊長が決まったからだ! ああ、夜一様……副隊長……」

「そりゃねえっすよぉっ!! え、なんで急に降格!? 本人に一言の話もなく!?」

「騒ぐな!! 騒々しい!!」

 

 

 

 ……もたらしていますね……衝撃と混乱……これでもかってくらい……うん……

 

 




●剣八のお世話係だ扱いが上手いだ
??「なにそれしらない」

●剣八二人の動き
本編中でも書きましたが二人は「「藍俚の方に行く」」ルートです。
(一護側に諸手を挙げて協力するほどではない(藍俚の方に天秤が傾く)
 他の部隊がルキア救出に動くのを知っているからなんとかなるだろう。
 といった理由があるので、勝手にそっちへ行きます))

そして。
更木さんは藍染が警戒しまくっていた相手です。
ですがそんな狂犬を引きつけるのに、便利な餌(藍俚)がいるわけで。
餌がここにあるよ、とアピールすると狂犬を引きつけられるわけです。

(ホロウ)化の力を確認したかったというのも勿論目的の一つ。
でも本命は崩玉の奪取ですから。
なので「餌をぶら下げれば」ルキアルートの戦力を削れる(他の連中も上手くすれば引っ張れる)だろうという目論見がありました。

結果的に戦力を良い感じに分散させられて藍染もにっこり。


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