「こっちです! 遅れないで着いて来て下さい!」
「ありがと! 桃さん!!」
雛森を先導役に、織姫たちは処刑場への道中を必死で移動していた。
彼女らは四番隊にて変装用の死覇装を用立てて貰っており、それを身につけている。以前追い剥ぎ同然に手に入れた際とは違い、襟に縫い付けられた刻まれた隊章も四番隊の証である
これなら例え疑われたとしても押し通せるだけの材料は揃っている。
――尤も四番隊三席である雛森が先導しているのだから、疑いを掛ける物好きな死神はいないだろうが。
「石田君たちも平気!?」
「ああ、問題はない。だが井上、あまり声を上げない方が良い……目立つのは避けるべきだと思う……」
「そ、そっか! ごめんね」
茶渡が言葉少なめにそう返せば、織姫は軽く反省しつつ前を向き直った。
「すまない、茶渡君……」
「気にするな」
雨竜は茶渡の背中越しに思わず呟くが、彼はまるで気にした素振りを見せなかった。
なにしろ現在の雨竜は霊力を全く操れない状態であり、そのため身体能力は一般人と変わらない。
だが今は少しでも急ぎたい時である。そのため少しでも早く移動するため、茶渡が雨竜を背負って走っていた。
男子高校生一人を背負って走っているのに速度を落とすこともなければ、息一つ切らさない茶渡の身体能力は驚愕の一言に尽きるだろう。
――うう……でも……
そんな状況にあって、先頭を行く雛森は軽く頭を悩ませていた。
茶渡、織姫の両名とも十分に早く走っている。
護廷十三隊の隊士と比較すれば、上位席官と遜色ない。一部の隊を覗けば三席だってやっていけるだろう。
だがそれでも雛森の基準からすれば「遅い」と言わざるを得なかったのだ。
――もっと急ぎたい! でも多分、これ以上の速度では間違いなく着いてこれない……!
自隊の隊長が危機に陥っている現状、その場所へ一刻も早く駆けつけたいという気持ちをグッと堪えて案内役を引き受けたのだ。
ならば雛森の役目は"織姫らを無事に、そして遅れることなく送り届ける"ことである。
――あまり急がせると、たどり着いても動けないくらい疲弊しちゃう……だったら私が癒やす? ううん、それでもどこかで無理が出るかもだし……それ以前に移動の途中で潰れかねない……むしろ遅れるかな……?
頭の中で織姫らの能力と余力、移動距離と移動時間を必死で計算し続けながら、彼女は大通りをひた走る。
織姫らが信じて着いていく中、だが先頭の彼女は急に足を止めた。
「止まって!」
「え、何!?」
「む……」
突然の静止指示に戸惑うものの、織姫らはなんとか互いに激突せずに止まれたようだ。
とはいえ一体何事かと思い始めたところで、横道から二人の男がぬうっと姿を見せる。
「すまぬが、この道は通行止めだ」
「七番隊……狛村隊長……射場副隊長も……」
「よお、雛森の嬢ちゃん。久しぶりじゃのう」
現れたのは、どちらも雛森からすれば見上げるほどの巨躯を誇る相手だった。
しかもここに現れて雛森らの前に現れたということは――
「んで――その後ろにおるんは四番隊の新入りか?」
「……ッ!!」
射場にそう尋ねられた瞬間、雛森は斬魄刀の柄に手を掛けていた。
心体とも瞬時に戦闘準備を整え、何があっても即座に対応して動けるように身構えると、腹の底から声を張り上げて織姫らに逃げるように促す。
「皆さん! 逃げて下さい! ここはなんとか、私が食い止めます!! だから皆さんは、早く……!!」
「はぁ……そがあな態度を取るんいうことは、やっぱり、そうなんけえな……」
今のような状況に備えて、全員に処刑場の場所と道順については簡潔ではあるものの周知済みだ。
隊長と副隊長がそれぞれ一人ずつ。
自分が必死になって抑え続ければ、なんとか三人が逃げ切れるまでの時間稼ぎが出来るだろうという目算もあった。
そんな雛森の行動に、射場は思わず嘆息する。
「けどわかっとるんか? 嬢ちゃんがそがあな態度を取るんいうことは、儂らも引けんくなるいうこっちゃ……そうでしょう、隊長?」
「…………」
「う……く……っ……!」
水を向けられた狛村は、雛森へ無言で殺気を放つ。威圧、と呼んでも良いだろう。
そんな目に見えぬ圧を感じ取り、彼女は小さく呻き声を上げる。気を抜けば今にも押しつぶされそうな重圧に必死で耐え、それでも戦闘態勢を崩さずにいた。
「駄目だ」
「……え……? さ、茶渡さん!?」
そんな雛森を庇うように、茶渡が前へ出た。
狛村にも負けぬ巨体が割って入ったことで彼女を視線から遮り、拳を握ることで戦意を示す。
雛森が一瞬だけ背後へ視界を向ければ、石田は下ろされており織姫が支えているのも確認できた。
「ここは俺が引き受ける。だから、皆は先に行ってくれ……」
「そんな、ここは私が! それに皆さんは目的が……!!」
「道案内は、必要だ。それに俺は足が遅い。あんたが本気で先に行った方が、きっと早いはずだ……」
「……!!」
思わず雛森は息を呑んだ。
確かにそう思っていたが、態度や表情はおろか雰囲気を匂わせることすらしないように注意していたはずだ。
それがまさかこうも的確に言い当てられるとは思ってもみなかった。
そしてそんな茶渡の言葉は相手の興味をも引いたようで、狛村は雛森へと放っていた威圧の向かう先を変更する。
「ふむ……自ら犠牲となる、か……」
「…………っ…………く……」
数日前、京楽と相対した時に感じたのと似た重圧に、茶渡の息が詰まりそうになる。
だが彼にすれば、今回で二度目だ。一度感じたことならば、身体が対処法を覚えている。
放たれる重圧に怯むことなく、茶渡は強靱な意志を持って立ち向かう。
「だがお主、わかっておるのか? そこの雛森三席が時間を稼ぐと言っておるのだ。お主らからすれば、願ってもないことではないのか?」
「かも……な……」
「ならば何故!?」
その問いかけに、茶渡は自信を持って答えた。
「一護のためだ」
「その者はお主の友……か?」
「ああ、そうだ」
再び彼は、一切迷うことなく頷いてみせる。
いつの間にか狛村から発せられていた重圧は霧散していた。
「ふっ……わっはっはっはっはっ!! そうか、友のためか!!」
「む……?」
「た、隊長……!? どないしたん、ですかいの……?」
狛村の笑い声が響く度、それまで張り詰めた糸のようだった周囲の空気が、ゆっくりと緩慢なものへと変わっていく。
剣呑な雰囲気が完全に消失しており、むしろ茶渡らが拍子抜けするほどだ。
「鉄左衛門!」
「はっ!」
「引き上げるぞ!」
「は……? そりゃ、いったい……?」
「此度の命について、元柳斎殿と四十六室へ今一度確認に行く。儂も湯川隊長については、まんざら知らぬわけでもない。その湯川殿が匿っていた旅禍たちだ。なんらかの理由はあろう。それを確認せねば、万が一ということもありえる!」
「その、隊長……ええんですかい!?」
「不服か?」
「いえ……その、隊長! 儂は、一生隊長について行きますぜ!!」
「そうか。好きにするがよい」
そこまで告げると、この場所にもはや用はないとばかりに狛村はさっと身を翻した。
言うまでも無いことだが、本来は再確認に戻る必要などないのだ。
死神にとって上の命令は絶対にも等しい。たとえ総隊長の山本とて、四十六室から命ぜられれば従うしかない。
隊長である狛村がそんなことを知らぬわけがない。
ならばこれは、婉曲的に見逃すと言ってるに等しい。
だが狛村の言葉はそれだけでは終わらなかった。
「ああ、そうそう。雛森三席。それと旅禍の者たちよ。お主たちも来るか?」
「え、あの……狛村隊長、それはつまり……」
「勘違いはせんでもらおう。儂はあくまで確認に向かうだけだ。確認が取れた後は、再びお主らの敵に回るかも知れぬぞ?」
伝え忘れたとばかりに、一度向けた背を再び翻すと雛森に尋ねる。
その申し出は、処刑場までの道中を護衛してやると言外に述べている。そうでなければ態々「敵に回るかも知れない」などと告げる必要も無いだろう。
「お願い、します……狛村隊長」
「承知した、雛森三席」
僅かな逡巡の後、雛森は頷いた。
だがそんな彼女の行動など気にも止めず、続いて狛村は茶渡へと視線を移す。
「儂は七番隊隊長、狛村左陣だ。お主、名は何という?」
「
「泰虎……虎か。良い名を貰ったのだな」
「ああ……」
ただお互いに、自らの名を名乗っただけ。
だが二人は、不思議と満ち足りたような感覚を味わっていた。
●七番隊二人
一時加入
●四番隊の隊章(
花言葉は「正義」「貞節」「誠実」「的確」「悲しみに暮れるあなたが好き」
(最後の言葉よ(苦笑))
●狛村隊長とチャド
原作では全然交流とか無かったけど、実は案外仲良くなれると思う。
(一緒に五郎(犬)の散歩とかしそう)
……自分で言っておいて何ですが、この二人が一緒に犬の散歩してるのって凄く似合いそう……めっちゃ見てみたい……