「くっ……!」
藍染の言葉を聞き、思わずうなり声を上げてしまいました。
なにしろ敵対している相手が相手です。
何かしらの手を打ってくるとは思っていましたが、まさか同時進行で来るとは……これはさすがに想像もしてませんでした。
それが狙いだったってわけね。
マズいわね、これはちょっと……下手すると戦力が半減しそう……
『今の二人の剣八殿では、ノータイムで一護殿を手助けするほど友好的ではありませぬからなぁ……比較すれば
自惚れじゃなければ、自分でもきっとそう思うわ。
今ならまだ一護より私の方が強いし、積み重ねてきた物もあるからね。心配してこっちに来てくれるのは嬉しいんだけど……!
あとは、
あっ、でも! 来てくれると気分的には嬉しいけれど、戦略的な面からだとアッチに行って欲しいって思っちゃう……
『
しまった……こんなことならもう少し酷い扱いをしておくんだったわ……
『具体的には?』
え? えーっと……えーっと……その、なんかこう、酷いことするのっ!
そんなことよりも!!
反対に、一護の方へ確実に行ってくれそうなのは……まず白哉たち六番隊よね。
それと多分だけど、十三番隊。
浮竹隊長が行くなら、京楽隊長も期待できるわね。
……あとは……
『二番隊でござりますか?』
うん……砕蜂はどうするのかしら?
せっかく手に入れたのに逃がしちゃった
『憧れの褐色巨乳か、それとも辛いときに支えてくれた年上巨乳か……どちらを選ぶか、悩ましい限りでござるな……嗚呼!! これが二週目、三週目ならばハーレムルートの選択肢が出てくるというのに!! ――という感じで悩んでそうでござるな』
いやいや射干玉、砕蜂よ? そんなコメディみたいなことがあるわけないでしょ。
それより敵対側は――市丸と東仙は確実よね。
総隊長は立場的な問題で無茶やヤンチャは出来ないから、積極的ではないだろうけれど邪魔はしてくるはず。
多分ココまでは確定。
狛村隊長は、あの時の様子を見た限りだと迷ってる印象よね。
何かもう少し決め手があればなんとかなりそうなんだけど。
そして最後に――
「考え事とは余裕だね?」
「うっ!?」
ちょっと思考に気を取られすぎたみたいね。
藍染の斬魄刀を避けきれず、胸元を薄く傷つけられました。
『モノローグ中の攻撃はNGでござるぞ!!』
それ、万国共通のルールだったら良かったんだけどね……
「……あんなことを言われたら、さすがに驚くに決まってるでしょう?」
「おや、そうかい? どうやら私は、ようやく一本取り返せたようだ」
優位なのが分かってるようで、藍染は微笑を浮かべたままです。
「それに先ほどまでの驚いていた表情も、なかなか見物だったよ。私も知恵を絞った甲斐があったというものだ」
「そりゃあ、まさか私の処刑まで同時に行うなんてね……!!」
言葉と同時に手刀で襲いかかりますが、斬魄刀で打ち払われました。
「意外だったかい? なら、楽しんでもらえて何よりだよ」
「楽しいわけないでしょう!!」
払われた衝撃で手が浅く傷つきましたが、そんな怪我は一瞬で治せます。
なので斬られるのを構わずに攻撃を続けて行きます。
「呼び出したいのなら、私だけを呼べば良いでしょう! どうして吉良君たちまで!?」
「なんだ、そんなことを聞きたかったのかい? 簡単な話さ」
何度かの打ち合いの後、今度は藍染が攻撃を受け止めました。
まるで刀同士の鍔ぜり合いのような状態に持ち込まれたかと思えば、あっさりと。さも当然のことのように口にしてきました。
「
「……っ……!」
「
なるほど、さすがによく見ていますしよく考えています。
下手に呼び付けるのは逆効果、一人でノコノコ来るような馬鹿だとは思っていない。
有無を言わさずに連れて行くだけの切っ掛けが欲しかったということですか。
「だから、吉良君たちを利用したっていうの? 私を呼び出す為に!?」
「その通り。元々、六番隊の阿散井君や君の所の雛森君、それにそこで転がっている吉良君もだが。何かに使えそうだとは思っていたんだ。だが惜しくも君に――いや、当時の君の上司に取られてしまってね」
あれは本当に、卯ノ花隊長は何をどうやったんでしょうかね……?
「とはいえ"手に入るならばよし。入らぬならば仕方なし"と、その程度にしか思っていなかったのだが……君が雛森君らを引き込んでくれたおかげで、それよりもっと面白い相手に接触することが出来たよ」
もっと面白い相手、ですか……
「それが、日番谷冬獅郎……」
「ふふふ……なかなかどうして、彼の心の中は鬱屈かつ混沌としていたよ」
この会話を続けている最中でも、私と藍染は小競り合いを続けています。
相手の放つ鬼道を
なのに藍染にはまだまだ余裕がありますね。
「君にお気に入りの相手を取られたのが相当腹に据えかねていたらしい。少し突いてやれば簡単に接触できたよ。加えて十番隊の前隊長が都合良く消えたこともあって、彼の信頼を得るのは非常に容易だった。何しろ私は一般的には"人の良い隊長"で通っているからね」
前隊長……志波一心ですか。
同じ隊長としての立場を上手く利用したってこと。
なるほど、本当に上手いことやるわね! 日番谷って若い天才枠だから実力はあるし、でも若いから対人関係の経験は少なそう。
海千山千の藍染なら、丸め込めても不思議じゃない……わね。
『基礎能力が高く、経験値倍率が常人より高いとしても、経験値そのものを得られなければどうすることも出来ませぬからな』
「とはいえ付き合わされるのも、なかなかどうして苦痛ではあったよ。何の益体もない相談を何度も何度も繰り返し……しかも噂が広がり他の男性隊士まで寄ってくる始末だ。あれだけ無意味な時間を使わされた挙げ句、わざわざ彼に死を偽装したことまで伝えてやった。日番谷君には少しくらいは役に立ってもらわねば割に合わんよ」
うわぁ……ちょっと苛立ってるわね。
実感の籠もった藍染の言葉に、思わず攻撃の手を止めてしまいました。
でもそう言われれば"桃が日番谷に何かアプローチを受けました"みたいな話って聞いたことないわね。
私も立場が立場だし、その手の話はすぐに伝わるだろうから……
それともう一つ、今"死を偽装したことを告げた"って言ったわよね……?
『全死神の中から選ばれた、特別な貴方だけにスペシャルなお知らせでござる!! 実は藍染殿は生きていて、裏切り者をこっそり探していたでござる!! 日番谷殿だけにしか頼めないでござる!! ここで活躍すれば君は英雄でござるよ!! ……とまあ、こんな感じではないかと……』
……案外、引っかかりそうね。なんだかんだ言っても根っこはまだ子供だし……
「まあ、それでも仮に収穫があったとすれば……私が"頼れる兄貴分"という仮面を被るのには向いていないことを改めて認識したことだね。やはり慣れぬことはするものではないな……ああ、そこの吉良君もそうだったね。日番谷君と二人で、結論のわかり切っている議論を何度も何度も……まったく度し難いことだ」
「ッ!!」
あ、吉良君に飛び火した。
「丁度良い、彼女に伝えたらどうだ? それとも私から伝えてやろうか? 君が霊術院の初日から恋い焦がれ、伴侶にしたいと常に下心を持って接していた――」
「う、うわああああああああああっっ!!」
「吉良君っ!?」
まだ治療途中にもかかわらず、吉良君が斬魄刀を手にすると藍染へと向けて斬りかかりました。
『そりゃ、心の内を他人に思いっきりバラされたら恥ずか死は待ったなし、大暴れで襲いかかるでござるよ! 登校したら掲示板にラブレター張り出されてるようなもんでござる!!』
うわ、それは恥ずかしいわね。
「藍染隊長――いや、藍染!!」
「やれやれ……君の役目はもう終わっているんだよ」
「させない!!」
今度は間に合いました!
藍染と吉良君の間へ強引に身体を割り込ませると、片手で吉良君を突き飛ばして距離を離し、もう片方の手は藍染目掛けて拳を繰り出します。
「うわあああっ!?」
「ぐっ……」
「ご、ふ……っ!」
三者三様、悲鳴が上がりました。
吉良君は私に突き飛ばされた驚きと、治療途中に無理に動いたので傷口が開いた痛みとショックがまぜこぜになった声を。
私は無理矢理ねじ込んだために攻撃を避けられず、藍染の斬魄刀に腹部を刺し貫かれた痛みと衝撃の声を。
内臓も傷ついてますねこれは……口の端から血が溢れ出たのが分かります。
そして藍染はというと――
「これは少しだけ、想定外だったかな?」
――あくまで余裕の態度は崩そうとせずに呟きました。
何が"少しだけ想定外"よ! 思いっきり異常事態でしょうそれ!!
殴りました、殴ってやりましたよ!
藍染の頬に拳を叩き込んでやりました!
眼鏡は半分ほど叩き壊され、殴られた衝撃で遠くに吹き飛んで行きました。
本人も殴られるとは思っていなかったんでしょう、軽く仰け反りながらたたらを踏み、怪我の具合を確認するように頬を軽く撫でています。
「まだまだ
絶対に痛いはずなんですが、まるで顔を顰めることもせずに。
一瞬だけ遠くへ視線を投げると藍染はそう口にしました。
「湯川隊長、
「な、何が……?」
お腹を貫かれた傷の治療のせいで、少しばかり動くのに遅れましたね。
その隙に藍染は懐から白い布のようなものを取り出すと、放ちました。まるで布そのものが意思を持っているかのように蠢き、竜巻か何かのような動きで広がっていきます。
「さようなら」
布が藍染を包み込んだかと思えば次の瞬間、強烈な発光が起きます。
それが消えた時にはもう、藍染の姿はどこにもありませんでした。
逃げられた!!
ルキアさんが目的だったはずなのにずっとココにいるから、どうするのかと思ってたけれど……藍染ってばこんな手段も持ってたのね!!
……あっ! しまった!! 肝心なことを聞くのを忘れていたわ!!
『な、なんでござるか!? 急に一体、
検死の時に計測したサイズ! あれが原寸大だったのかを確認したかったのに!!
『え……い、いや確かに! それはそれで気になる情報でござるよ!! 藍染殿ーっ!! カムバーック!!』
「消え、た……?」
藍染が消えたのを見ていたのでしょう。吉良君がそう、力なく呟きます。
「多分あれは、転送装置の一種ね。やられた……あんな物まで用意してあったなんて……」
「て、転送装置!? そんな物があるんですか!?」
「そこまで驚くことはないでしょう? 以前、浦原さんや涅隊長が作った同じような物を作っていたし。最悪、どこかから盗んできて使ってるだけかも知れないけれど、でも使うだけだったら誰でも出来るし……あれ、ひょっとして吉良君は使ったことない?」
「ありません……」
……あ、そうか。
私が知っている転送装置って、
女性死神は大体皆が知ってるのに、男性死神はごく一部しか知らないとか……ま、まあおおっぴらに広めて良い物でもないだろうから……
それにしても、嫌というほどに感じるこの霊圧……なるほどね。
これを察知したから、藍染は逃げたわけか。
この場にいたら、霊圧と数の差で押し切られていたでしょうね。
仮に鏡花水月を使ったとしても「勘」という理不尽な一言で突破されそうですし、そりゃまあ、逃げますよね。
私が逆の立場なら絶対に逃げます。
「卯ノ花隊長! 更木副隊長!」
やってきた二人。元凶たる霊圧を放つ二人に、私は軽く手を振って合図しました。
●格好つけて逃げる
「この二人まで同時に相手にするとか無理……いや、ホントに……」
●問題
「変身(虚化)を解除する描写」……しましたっけ?
(答え:ない(解除してない)