お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第154話 証拠は後付けで

「あら、湯川隊長……ですよね?」

「ん、誰だお前……?」

「あいりん……だよね……?」

 

 卯ノ花隊長と更木副隊長――それと彼の背中にくっついている草鹿三席――は、やってくるなり私を見ながら怪訝な表情をしました。

 まるで私のことが誰か分からないような、初めて会ったときのような反応です。

 なんでかしら……?

 

 ……あっ! まさか今の私って、鏡花水月で藍染の姿にされているとかじゃないでしょうね!?

 もしもそうだったらとんでもなくマズいわよ! この二人相手に真剣勝負とかどう考えても無理……

 

「あの、先生……仮面……」

「……あっ!!」

 

 吉良君がこっそり教えてくれたおかげで、ようやく気付きました。

 そうでした、(ホロウ)化してたんですよね私。

 

『慣れすぎにも程があるでござるよ!!』

 

 うう、射干玉の言う通りだわ……でも、戦ってたからテンション上がっちゃって……(ホロウ)化しててもそれが当然だと感じられる程度には慣らしていたのが仇になったわね……

 

『あーあー、これは……やってしまったでござるな……』

 

 慌てて(ホロウ)化を解きましたが時既に遅し。

 死神の姿へと戻った私を待っていたのは、子供のように瞳をキラキラと輝かせている卯ノ花隊長たちの姿でした。

 

「あらあら。藍俚(あいり)、それがあなたの奥の手ですか? なるほど、ようやく目にすることが出来ましたが……良いですね、実に良いです。是非、手合わせを……」

「はははははははっっ!! 良いじゃねえか良いじゃねえか!! 藍俚(あいり)、お前まだそんな強さを隠し持ってやがったのか!? 斬っても斬っても減らねえ奴とは思っていたが、さっきの姿はマジで斬ってみてえ!!」

「すっごーい!! あいりん、今の何!? 今の何!? 白い仮面がビューって消えて!! でも仮面の時の姿はすっごく強そうだった!!」

 

 うわぁ……大歓迎されてる……今まで以上に目を付けられたわね……

 

『流石は"三度の飯より斬り合いが好き"だったり"茶をしばくより剣でしばくのが得意"な方々でござるな……』

 

 この反応が嫌だったから、今まで必死で隠していたのにぃっ!!

 

「よし、藍俚(あいり)。とりあえずさっきの仮面をもう一回付けろ。んで、斬り合いするぞ。加減は……いらねえよな?」

「剣八、何を言ってるんですか? ここは隊長権限で私が斬り合い――もとい、検分を行います。あなたは下がっていなさい、隊長命令ですよ」

「なんだと!? いくらあんたの命令でも、今回ばかりは聞けねえな……」

「ちょ、ちょっと待って下さい!!」

 

 一触即発の剣呑な空気が流れたので、大急ぎで割って入ります。

 

「お二人はその、私と戦うために来たわけじゃありません……よね……?」

「「…………?」」

 

 そこの剣八二人! なんでそろって頭にハテナマークを浮かべてるのよ!! まさかもう目的を忘れてるんじゃないでしょうね!?

 

「ああ、そういえば……」

「そうだな……」

「あいりんが処刑されるとか、だめーって思ったんだったよね」

 

 良かった、思い出してくれた……

 

「けどなあ、藍俚(あいり)。テメエも悪いぞ? あんな斬り甲斐のありそうな霊圧を見せられたら……我慢なんざ出来なくなるだろうが……」

「そうですね。あれは……うふふ……」

 

『いやぁ、藍俚(あいり)殿……大人気でござるな……』

 

 こんな人気、いらない……

 

「おい、大丈夫か!? ……って、なんだ藍俚(あいり)。お前、元気そうだな……?」

「処刑されるという話だったけれど、変だね……? まさかとは思うけれど、湯川隊長? 四十六室を全員斬って脱走でもしてきたのかな?」

 

 卯ノ花隊長たちから遅れることしばし、一角たちがやってきました。

 

「そんな訳ないでしょう!? ……良いですか、ここで私が知ったことを全てお伝えします……」

 

 とりあえず、藍染の事について色々と情報共有をしておくことにします。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 何があったのかを一通り伝え終えると、その場の全員が神妙な面持ちになりました。

 

「なるほど……何やら妙だとは思っていましたが……」

「全部が全部、仕組まれていたってわけか……」

「それも藍染隊長が、ねぇ……」

 

 それぞれが思い思いに感想を口にする中、草鹿三席が何やら絶望的な表情をしながら唸っていました。

 

「うーっ…………うーっ…………!!」

「あの、どうしたの?」

「これってつまり、あいりんは騙されてただけってことでしょ?」

「え、ええ……そうなるわね……」

 

 見るに見かねて思わず声を掛けてしまったところ、そんな風に叫んできました。

 

「それじゃあ、あいりんを助けてお返しがもらえないの!? お料理作ってもらえないの!?」

「お、お返し……?」

 

 お返しって何のこと?

 

「お返しの意味が分からないんだけど、お菓子とか甘味で良ければ作っ――」

「本当!?」

「――ってあげ……え、ええ……」

 

 間髪入れずに聞き返されました。もの凄い反応速度ね。

 

「私のことを心配して助けに来てくれたことには違いないからね。そのくらいで良ければ、お返しをさせてもらうわ」

「やったーっ!!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねて、大喜びです。

 これだけ見ると、本当に可愛いんですよね。

 

『あー……あの、藍俚(あいり)殿? もう取り消しは不可能でござるよ……?』

 

 取り消し……? お菓子とかお弁当を作れば良いんでしょう?

 

『いえ、そうではないでござるよ……』

 

「良いことを聞きました。ねえ、剣八」

「そうだな。なら、俺たちにも借りを返してもらわなきゃ不公平だな」

 

 ……あ、そういう……こと……?

 

 やる気満々のお二人の姿に、ようやく私は"自分が迂闊な事を口にした"のだと痛感させられました。

 射干玉が言っていたように取り消しはもう不可能……みたいですね……

 

「……わかりました、わかりましたよ!! お二人にも、一角も綾瀬川五席にも、何らかの形でお返しはちゃんとさせていただきます! ただし! ここまで来た以上は、最後までつきあって貰いますからね!! 今の事態にちゃんと決着がついた後です!!」

「その言葉、忘れんなよ?」

 

 ニヤリと犬歯をむき出しにして笑う更木副隊長の姿が、とても怖かったです。

 

「勿論、協力はしますよ。では早速、もう片方の……朽木ルキアさんの方へ向かえば良いのですか?」

「けど隊長。今から全力で向かっても、間に合うかどうか……ちょいと距離がありますぜ」

「いえ、まずは証拠を集めます」

「証拠?」

 

 一角たちが首を傾げながら聞き返してきました。

 

「藍染隊長がココに身を隠していたのなら、その痕跡が残っているはずです。四十六室を意のままに操っていた証拠などを探してもらえますか? 計画書、みたいなのがあればもっと良いんですが……流石にそんな物は無いでしょうけれど……今からルキアさんの所へ向かうよりは建設的なハズです」

 

 四十六室を皆殺しのシーンって、まだ消化してませんからね。

 丁度良いので、十一番隊に見つけてもらいましょう。死体があれば、そこから命令が不当なものだという証拠にもなりますから。

 総隊長や狛村隊長が納得できるだけの"理由"を提示してあげないといけません。

 

「なるほど。わかりました」

「チッ、面倒くせえ……」

「まーまー副隊長、そう言わずに付き合ってやりましょうぜ」

「探検♪ 探検♪」

「探検気分でいられるとは思えないけどね」

「すみませんが、よろしくお願いします」

 

 色々文句を言いつつも、更木副隊長たちは証拠を探しに行ってくれました。

 そんな彼らを見送っていると、卯ノ花隊長が不思議そうに口を開きます。

 

「おや? 藍俚(あいり)、あなたはどうするんです?」

「私は……吉良君の治療をしますので……」

「彼の……?」

 

 一瞬だけ視線を向けて、吉良君の様子を観察します。

 

「見たところ、自力で治療をしているようですが……わざわざあなたが治療する必要はないのでは?」

「いえ、ちょっと……私でないと見られない傷がありまして……」

「……わかりました。ですが、あまりやり過ぎないように。男性というのは、単純ですが意外と脆い部分もあるのです。注意なさい」

 

 これだけで、卯ノ花隊長には分かっちゃいましたか……

 私が見るのは、吉良君の心の傷です。

 

 早い話が、慰めてあげるということです。

 

『それはひょっとして! いわゆる慰めック――』

 

 はい! アウト!! それは口に出しちゃ駄目なワードだから!

 

 

 

 ……こほん。

 

 

 

「吉良君、怪我はもう平気? ごめんね、後回しになっちゃって……」

「あ、先生……」

 

 私が十一番隊と話し合いをしている最中も自己治療を続けていたため、どうやら刀傷の方はもう問題ないようです。

 

「うん、こっちの(・・・・)傷はもう平気ね。でも……」

 

 それでも傷口を軽く視診だけして問題のないことを確認し終えると、私は吉良君を優しく抱き寄せてあげました。

 

「せ、先生……!?」

こっち()の傷は、まだ開いたまま……かしら……?」

 

 抱きしめながら耳元でそっと囁けば、吉良君はしばらくの間呆然としたまま。けれどやがて、大慌てでそこから逃れようと暴れ出しました。

 

「だっ、駄目です! 放して、放してください!! 僕は、先生を……」

「うん……そうだよね。こういうときは、本当はそっとしておいて欲しいって思うもの、だよね……」

 

 でも放しません。

 逆にもっと抱きしめてあげます。

 

「でも今の吉良君は、放っておけないから……自分のことを責めて、潰れちゃいそうだから……」

「…………」

「吉良君は、私のことを思って行動してくれたんでしょう……?」

「……は、い……」

 

 力ない返事が聞こえてきました。

 

「じゃあ、それでいい。結果的にこうなっちゃっただけだから。もう私は気にしないから、ね?」

 

 抱きしめたまま、そっと頭を撫でつつ囁くと、吉良君はガバッと顔を上げます。

 

「そんな! だって僕は――!! んぐっ……!?」

 

 彼の口に指を押し当てて、言葉を遮ります。

 

「今の君は自責の念に囚われちゃってて、冷静に考えられなくなってるから……だから、落ち着いてちゃんと考えて、自分で自分を見つめ直してから、その言葉を聞かせて? それまで待ってるからね……イヅル(・・・)君」

 

 

 

 

 

藍俚(あいり)殿が魔性の女に見えてきたでござるよ……』

 

 下手に落ち込むよりは、スケベ心込みでも前向きにやる気を出せる方が良いでしょう?

 

 

 

 

「隊長!! よかった、ご無事だったんですね!!」

「おい、藍俚(あいり)! 中はとんでもねえ事になってたぞ!!」

 

 吉良君のやる気を出させ終えた辺りで、勇音たち四番隊がやってきました。

 それと同時に、十一番隊も調査を終えて戻ってきたようです。

 

「丁度良かったわ。何があったのか、もう一度摺り合わせましょう。それと勇音は、聞いたことを天挺空羅(てんていくうら)で全死神へと通達して」

「え、あの……天挺空羅ってどういうことですか……? それに十一番隊の……中って一体……?」

「詳しい話はこれからするから、よく聞いてちょうだい。それと、天挺空羅をお願いするのは、私じゃあ伝えても信じてもらえないかも知れないからなの。お願い勇音、今はあなただけが頼りなの!」

「わ、わかりました! 隊長の頼みとあれば!!」

 

 こうして皆さんもよく知った流れで伝達を終えると、私たちは処刑場――双殛の丘まで向かう事になりました。

 

 でもこればかりは……間に合うわけ、ないわよね……

 




●身バレ
剣ちゃんと虚化状態でド突き合うことが確定しました。

●吉良
名前で呼ばれたら、効くと思います。
抱きしめられたら、悩みも吹っ飛ぶと思います。
男の子の大体の悩みはおっぱいで解決します。

●??
私は許そう。だが彼女たち(アイツら)が許すかな?
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