お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第157話 双殛の丘にて その3

「おらああああぁぁっ!!」

 

 既に始解済みの蛇尾丸を振り回しながら、阿散井は雄叫びを上げる。

 無骨な程に巨大であるはずの蛇尾丸は、まるで風に棚引く吹き流しのような軽やかな動きにて三名の副隊長たちへと襲いかかった。

 

「はああっ!!」

「うおっ!?」

「く……っ!!」

 

 複雑なうねりを見せながら襲いかかる蛇尾丸の攻撃を、雀部は手にした斬魄刀にて見事に防ぐ。

 だが戸隠、檜佐木の二人はといえば、その場から大きく離れて攻撃範囲から逃れることでなんとか回避していた。

 

「なるほど、お見事! これほどまでに斬魄刀を操るとは……」

「へっ、そいつぁどーも!!」

 

 攻撃を防がれたのと、躱された。

 たったそれだけの違い、たったそれだけのやりとり。

 だがそれだけのやりとりでも雀部の練度の高さがよく分かるというものだ。

 褒め言葉の返礼代わりとばかりに、阿散井はさらに蛇尾丸を暴れさせる。

 

「ならばこちらも遠慮は不要!」

 

 今度の攻撃は防がれることはなかった。

 雀部もまた大きく距離を取るように飛び退くと、斬魄刀を手にしたまま祈りを捧げるような姿勢を取る。

 

「穿て! 厳霊丸(ごんりょうまる)!」

「巻きて昇れ! 春塵(しゅんじん)!」

「刈れ! 風死(かぜしに)!」

 

 雀部の動きに同調したかのように、戸隠、檜佐木の副隊長たちも、さながら示し合わせたかのように始解を同時に発動させる。

 

 雀部の手には、刺突に特化した――いわゆるレイピアと呼ばれる形状へと変化した斬魄刀があった。

 戸隠は長大な鎌へと変化した斬魄刀を握りしめる。

 檜佐木もまた斬魄刀を鎌へと変化させたが、彼の手にあったのは少々特殊な形状をしていた。

 戸隠の持つ鎌は長い柄と片刃の大鎌であるのに対して、檜佐木の持つ鎌は両刃の大鎌――それも、まるで風車のようにそれぞれの刃が逆向きで付いており、そんな少々異様な形状をした大鎌をそれぞれの手に一本ずつ握っている。

 

「ここからが、本番って事か……」

「そういうこった!!」

 

 最初に動いたのは檜佐木だ。

 彼は手にした大鎌の片方を阿散井目掛けて力強く投げつける。

 

「やっぱりそう来たか!」

 

 大鎌同士は鎖で繋がっているため、ただ振り回すだけでなく鎖鎌のように投擲して扱うことも可能だろうということは見た目から推測できた。

 予想通りの檜佐木の攻撃を打ち落とそうと、蛇尾丸を操る。

 

「甘えんだよ、阿散井!!」

 

 蛇尾丸の動きに呼応したように檜佐木は鎖を握り、強く引く。それだけで繋がれた先端の大鎌の軌道が変わり、まるで蛇尾丸から逃れようとするかのように動いた。

 

「そりゃコッチのセリフっスよ!!」

「なっ……!」

 

 しかし阿散井もその程度は想定済みだ。

 真の狙いは大鎌そのものではなく、二振りを結びつけるその鎖。それを絡め取るなり断ち切るなりしてしまえば、相手の攻撃力は半減する。

 今まで愚直に大鎌に食らいつこうとしていた蛇尾丸の刃が不規則に動いたかと思えば、鎖を狙う動きへと変わる。

 

「浅慮なり!」

 

 蛇尾丸が鎖に食いつこうとしたその寸前、戸隠が春塵を大きく振るった。だが、春塵が如何に長柄であろうとも、そこは蛇尾丸から大きく離れている。

 どれだけ手を伸ばそうとも、柄の下を握ろうとも絶対に届くことのない距離。

 よって影響はない――はずだった。

 

「う、おおおおっっ!?」

 

 春塵の軌跡をなぞるように、突風が吹き荒れた。

 猛烈な勢いと風圧によって風死の鎖は蛇尾丸の顎から逃れ、蛇尾丸そのものもぶつけられた風圧によってコントロールを失う。

 それどころか風は阿散井のいた場所まで届くと、彼の身体を強烈に叩いた。

 蛇尾丸が制御を失ったかのよう暴れていることもあって、バランスを崩してしまう。

 

「厳霊丸!」

 

 その隙を、雀部は決して逃さない。

 刀身から雷を生み出すと、阿散井目掛けて即座に放つ。

 

「があああぁぁっ!!」

 

 今にも倒れそうになっている身では、その攻撃に反応することすらできなかった。

 いや、そもそも雷という超速の攻撃では、放たれる前に反応できなければそもそも回避すら不可能なのだろうが。

 とあれ高電圧の一撃により、口から絶叫が迸った。

 肉体が内側から焦がされるような痛みに、意識が飛びそうだ。

 

 ――まだ……まだだっ!!

 

 激痛に悲鳴を上げる身体を無視して阿散井は蛇尾丸を引き寄せると――

 

「っ、だらあああぁぁっ!!」

「むっ!!」

 

 ――そのまま伸ばすことなく叩き付けた。

 その一撃は厳霊丸の刀身へとぶつかり、攻撃を受け止める。

 

 遠距離攻撃によって一時的な足止めをした後に、接近して本命の刺突を叩き込む。雀部が狙ったのは、それだけのことだった。

 それだけのことを阿散井もまた看破し、斬魄刀にて攻撃を受け止めただけだ。

 

 とはいえ、雷撃に焼かれる中でそれに気づき、稲妻と比べても引けを取らぬほどに鋭い雀部の刺突を防いだだけでも十分に賞賛に値するだろう。

 

「隙だらけだぜっ!」

「はああっ!!」

「ぐっ……! うおおおおっっ!!」

 

 息つく暇もなく、檜佐木と戸隠の二人もまた斬り掛かってきた。

 

 三対一の不利を覆せぬまま、阿散井はじわじわと押されていく。

 

 

 

 

 

 

「あらら、逃げられてもうた」

 

 清音らが逃げていくのをその狐のような目で追いかけながら、さして残念そうでもない様子で市丸は呟いた。

 

「しゃあないなぁ……ほな、キミたちの相手をせんとボクらが怒られてまうやん」

「貴様らを倒し、後を追わせてもらうぞ」

 

 二人は斬魄刀を抜き放つと、一護らに向けて構える。

 

「正気か? 数はこちらが上じゃぞ?」

「そう易々と通すと思うか?」

「行かせねーよ!」

 

 そして一護らもまた、それぞれ斬魄刀を抜き放つ――夜一のみ徒手だが――と、闘志を高めていく。

 

「確かに、数だけならばこちらが不利だな。だが、その程度の差など覆す方法はいくらでもある」

「ボクら二人を相手にするんは、少しばかり実力が足らんのがおるようやけど?」

「……ッ!」

 

 チラリと向けられた視線に、一護は思わず息を呑んだ。

 

 この数日、十一番隊にて鍛えられた。

 そして卍解の修行も始めた。

 だが卍解は未だ会得には至らず、そして実力についてもイマイチ自信がなかった。いや、間違いなく強くなってはいる、成長しているのだ。

 ただ、彼が少し前に見た"剣八と藍俚(あいり)の戦い"が、その自信をグラつかせていた。

 

 藍俚(あいり)は、一護に初めて巨大すぎる壁を見せた相手である。

 現世で出会ったときには何も出来ず――本当に何も出来なかったばかりか、怪我の治療までされた程に実力差が開いていた相手だった。

 そんな相手が、剣八を相手に必死の戦いを繰り広げていたのだ。

 隊長の強さとは? 自分はどれだけ強くなっているのか? 彼の中の"そういった認識の物差し"が壊れてしまっていたとしても、不思議ではない。

 

 卍解が出来ぬという負い目と、強さの基準の混乱という二つの要素。

 そして、そんな要因を二つも抱えていることはこの場では致命的だった。

 

「敵は弱いのから倒せ、が鉄則やからねえ。悪く思わんとき」

「うおおおっ!!」

 

 市丸はそんな一護の心を易々と見抜き、襲いかかってきた。

 正面から叩き込まれた強烈な斬撃をなんとか受け止めるものの、市丸の強烈な一撃に押されて大きく後退せざるを得なかった。

 

「一護!」

「行かせん!!」

 

 一護の事を気に掛けていたのは夜一も同じだ。

 ならば二人掛かりで片方を相手にしようと考えていたところ、その目算を崩されて少しばかりの動揺が走る。

 動こうとする夜一に先んじて、東仙が動いた。

 

「卍解」

「な、なんじゃこれは!?」

「む……!?」

 

 東仙の持つ斬魄刀――その鍔を飾る輪が巨大化したかと思えば、一瞬にして無数に分裂して周囲を囲んだ。

 かと思えば次の瞬間にはそれぞれの輪の内側から黒の奔流が溢れ出し、夜一と砕蜂の二人ごと周囲を一瞬にして覆い尽くす。

 

鈴虫終式(すずむしついしき)閻魔蟋蟀(えんまこおろぎ)

 

 黒で覆われた空間に、東仙の言葉だけが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「――と、言っても……既に見えも聞こえもしないだろうがな」

 

 自嘲するように東仙は呟いた。

 

 周囲はまるで黒いドームテントのような物で覆われており、なんとも薄暗い。

 だが決して見えないほどに暗いわけでもない。広々としたこの場所ならば、小さな音でもよく通るだろう。

 

 だが――

 

「な、なんじゃこれは……!? 見えぬ……聞こえぬ!? 儂の声を、儂自身が聞けぬということか……!?」

 

 ――予期せぬ現状に夜一は珍しく慌てていた。

 だがそれを責めることなど誰が出来ようか

 

 一定範囲の空間を形作り、その空間の中に存在する者の視角・聴覚・嗅覚・霊覚の四つを封じる――鈴虫終式・閻魔蟋蟀の能力だった。

 有象無象の区別はなく、敵味方の区別もつかない。

 ただ空間内に存在するものは全員が同じ状態へと陥る。

 

 例外はたった一つ、斬魄刀鈴虫の本体へと触れた場合のみ感覚が元へ戻る。

 

 音も光も、匂いも霊圧感知すらまともに出来ない状態へ突然陥っては、さしもの夜一とて混乱するのは当然だった。

 

 そして、それは当然――

 

「夜一様!!」

 

 同じく囚われた砕蜂もまた、同様の状態に陥っていた。

 だが彼女はといえば、どうやら夜一よりは随分と落ち着いているようだ。

 

「ふむ……音は聞こえず、目も見えず、か……これが東仙の卍解なのだろうな……」

 

 確認するように再度口を開き、そしてやはり言ったハズの言葉が聞こえなかったことに満足すると、彼女は自らの手の甲に軽く歯を突き立てた。

 

「味はする、痛みもある……なるほど」

 

 その結果に、ほんの少しだけ口元を歪ませる。

 皮膚を舐めた感触と歯を突き立てた痛み、そして口の中に軽く広がった血の味にて、彼女は卍解の能力をほぼ完全に看破していた。

 

「さすがだな砕蜂。既に私の卍解を見極めたか、だがっ!!」

 

 冷静に現状を分析し続ける砕蜂の方を先に脅威と見なしたのだろう。

 闇の中、東仙は刃を振るう。

 攻撃の気配を感じて反射的に身を引くものの、だがその一撃は彼女の肩を切り裂いた。

 

「……っ!!」

「理解したところで、見えぬという結果は変わらぬ! 私の動きにはついてこれぬ!!」

 

 再び放たれた攻撃が、彼女の頬を切り裂いた。

 

 ――今、一瞬だけだが感覚が戻った。ならば、斬られる……斬魄刀に触れることが能力解除の条件と見た!

 

 ダメージを受けながらも、さらに情報収集と分析を続ける。

 ここに来て、どうやら彼女は卍解の能力を完全に見切ったようだ。

 

「ならば」

 

 砕蜂は自ら目を閉じた。

 攻撃を受けた瞬間だけ感覚が戻るのだからこそ、闇と光に翻弄されてしまい余計混乱する。ならば最初から目など見えぬ方がマシだと考えた。

 光を持たぬ東仙は砕蜂のその行動に気付かぬまま背後へと回り込み、彼女の背中へ目掛けて刃を放つ。

 

「ちっ!」

「なんだと……!?」

 

 その一撃は、彼女の薄皮を一枚切り裂いただけに終わった。

 まるで東仙の動きが見えているかのように砕蜂は動き、攻撃を躱して見せたのだ。

 

「そこか!」

 

 それだけではない。

 攻撃後の隙を目掛けて、彼女は斬魄刀を振るった。

 当たりこそしなかったものの、その動きは東仙の心を大きく動揺させる。

 

「違ったか……? どうやら、まだ少し甘いか」

 

 呟きつつ彼女は自らの肩を斬魄刀の峰でトントンと叩く。その動きはまるで、何かを調整しているようだった。

 

 砕蜂は決して見えているわけでも聞こえているわけでもない。

 攻撃を察知できるのはたゆまぬ訓練による気配の察知。

 そして居所を察知しているのは触覚――空気の動きを肌で感じ取っていた。

 

 表に出ることなく、裏方にて任務を遂行する隠密機動。そこに属するものは皆、目を塞いでも戦えるように訓練を受けている。

 ましてや彼女はその隠密機動の頂点なのだ。

 普段通りの実力こそ出せぬものの、大きな障害にはなり得ない。

 

「くっ!」

「おや、今度は当たりだな」

 

 再び繰り出した攻撃からは、刃先が何かを掠めた感触が伝わってきた。

 それと同時に空気が動く感覚、これは東仙に間違いない。動きに迷いがない。

 

「聞こえているのだろう? 確かに、他の者ならばこの闇は効果的だ。だが私を誰だと思っている? 音と光を奪った程度では私は止められん!」

 

 彼女は無明の闇に向けて、自らも聞けぬ声を放った。

 

 

 

 

 

 

「そういえばキミと最初に戦こうたんは、ボクやったね」

「ああっ!?」

 

 市丸と一護。

 二人が斬り合いをしている最中、市丸はふと懐かしいことを思い出したように口を開く。

 

「あの頃と比べて、随分と強うなっとる思うてな。たいしたもんや」

「ざけんな!!」

 

 まるで世間話をしているかのようなその様子と口調が、一護の神経を逆撫でする。

 自分からすれば必死で戦っているというのにまるで相手にされていないようで、感情の任せるままに叫んでいた。

 

「俺が最初に戦ったのは恋次! 次が湯川さんだ! 兕丹坊も加えりゃ、テメエは四番目だよ!!」

「ああ、そうやったん? ……ん、四番目……?」

 

 四番目という言葉に何かが引っかかった様な物言いをする。

 

「そうかぁ、ボク四番目なんかぁ……」

「何を……っ!?」

 

 勿体ぶった態度に苛立ちが抑えきれなくなった瞬間だった。

 

「神鎗」

「うおおおっ!?」

 

 隊首羽織で隠すようして刀身が伸びた神鎗の突きを、一護は仰け反るようにしてなんとか回避する。

 避けられなければ間違いなく胴体のどこかを貫かれていただろう。

 

「油断禁物やで」

「テメエ……!!」

「まあ、四番目やと本気で思うとんなら……そらそれで幸せかもしれへんな」

「だから、さっきから何を……」

 

 怒声は最後まで紡がれなかった。

 

「おや、これは偶然だ」

 

 朽木ルキアを担いだ藍染が、そこにいた。

 




●厳霊丸(ごんりょうまる)
みんな大好き長次郎の始解。
能力は(原作では不明)アニメにて「刀身から雷を放つ」と設定された。

なお卍解とか、千年前の戦いがやべー斬魄刀。

●春塵(しゅんじん)
一瞬だけ登場した三番隊の戸隠の斬魄刀。
死神の鎌みたいな形状に変化する。それ以外の描写が無いので詳細不明。

なので好き勝手やりました。

「春塵」の名前や「巻きて昇れ」の解号から「いわゆる風を操る系」の能力に設定。
(安易と思われるかも知れませんが、ちょいと妄想にお付き合いくださいませ)

バズビーに一瞬でやられたあのシーンで、他の二人も始解しています。

吾里(ごり) 武綱(たけつな):(吹鳴らせ)虎落笛(もがりぶえ)
 長方形な刀身をした大剣に形状変化する。
 峰の側には、規則的に並んだ穴が空いているのも特徴。

片倉(かたくら) 飛鳥(あすか):(打消せ)片陰(かたかげ)
 刀身が音叉のようなUの字の形に変化する。
 (刀身を限界まで肉抜きしてる安全ピンみたいな形状に変化してる、
  と言う可能性もちょっとだけあるかもしれませんが)

この二人も形状変化以外は描写されていないので、さらに能力を妄想。

・ゴリさんの斬魄刀
 解号や名前からアレは笛と認識。振り回すと穴から音が鳴って効果発動。
 音色で味方を強化・援護するのか、敵を攻撃・弱体化するのかは知りませんが。

・アスカの斬魄刀
 解号と刀身から察するに、能力は振動波を操る。
 敵の攻撃に逆位相の波をぶつけることで相殺させる、カウンター防御系能力。

と、それぞれ妄想。

この二人の能力に加えて、戸隠の風の能力で音を放てる。
(風を吹かせて虎落笛や片陰を外部から鳴らしたり、増幅したりする)
いうならば斬魄刀の相性がとっても良い三人。

さらに「ローズの金沙羅舞踏団と合わせてオーケストラ状態」も夢ではない……んじゃないかなぁ……と妄想。

ということで「風を使う」なのです。
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