お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第158話 双殛の丘にて その4

「ルキア! 何でここに……!? それにアンタ……いや、お前は……!?」

 

 思わず一護は叫んでいた。

 とはいえ、安全な場所まで逃がしたはずの朽木ルキアが一体どうしてこんな場所にいるのか、それを鑑みればその反応も当然だろう。

 まるで物か何かのように小脇に抱えられた彼女の姿に驚き、続いてルキアを抱えて現れた死神の姿に驚いた。

 

 一護本人は、彼の姿を見たことはない。

 だが夜一ら数名の死神から、彼については知らされていた。

 藍染が、どのような容姿をしているのか。

 藍染が、百年前に何をしたのか。

 

 そして藍染が、この事件の裏で何かを画策して動いていることを。

 

「テメエ……ルキアから手を離せ!!」

 

 そこまで思い出すと、一護は斬魄刀を藍染へと向けた――が。

 

「珍しいなギン。君がまだ手こずっているとは」

「すんません。相手が相手だけに、下手に手ぇ出すんもアカン思いまして」

「なるほど……」

 

 その一方。

 刃を向けられていることなど歯牙にも掛けず、二人は会話を続けていた。

 ここが戦場だということを忘れてしまいそうなほど、普通の調子で。さながら日常業務の定期連絡か何かのように、淡々とした口調で言葉を交わす。

 

「……あら、その顔……どないしたんです? それに眼鏡も……」

「ああ、これは……少し、厄介な相手にじゃれつかれただけだ。気にすることはない」

「なるほど……なるほどなるほど……」

「気にすることはないと言っただろう?」

「別に気にしてまへんって。心外ですなぁ」

 

 明言を避ける言い回しに何があったのかを察し、市丸はニヤニヤ顔を崩さない。

 

「無視してんじゃねえよ!! 聞こえなかったのか!?」

「ならば、掛かってくればいいだろう?」

 

 そこまで叫ぶとようやく、藍染は一護へと視線を向けた。

 

「私は先ほどまで、君のことを無視してギンと会話をしていた。隙も機会も十分あったはずだが……? ああ、不意打ちは卑怯などと言うつもりは毛頭無い。こちらの都合を考えることも遠慮も、それら一切が無用だ」

 

 言外に、動かずにいたことを恐れによるものだとあざ笑いつつ、掛かってくるように促してみせる。

 

「ああ、それとも……朽木ルキアがいるから攻撃が出来ないのかな? なら、ギン」

「はいな」

「……ひっ!」

 

 抱えていたルキアを下ろすと、市丸の方に向けて背中を押す。

 自由になったはずのルキアであったが、だが逃げ出すことはおろか抗おうとする動きすら見せず、市丸に受け止められた。

 

「あらら。ひょっとして、藍染隊長の霊圧に当てられてたん? ま、そやったら逃げようとも思わんわな」

「う、あ……あ……っ……」

 

 首輪を掴みながら彼女の顔を覗き込む。

 その恐ろしさと異質さ、そしてルキアが抱いていた市丸への苦手意識から何度も恐怖の声を漏らし続ける。

 

「さあ、これで言い訳の要素は無くなったぞ? それともまだ何か理由を付けて諦めるか? そうだな……今日は日が悪いから止めておく、などは――」

「おおおおおおおおっっっ!!」

 

 繰り返される挑発を受けて追い込まれたように、一護は雄叫びを上げて襲いかかった。

 

「そうそう、やれば出来るじゃないか……だが」

 

 その動きを満足そうに見つめながら、藍染は――

 

「もう、君の出番は終わりだよ」

 

 ――手にした斬魄刀で一護の腹を刺し貫いた。

 

「い……一護ッ!!」

「が……は……っ……」

 

 それだけでは飽き足らず、藍染は柄を握る手をグイッと捻り上げた。

 

「があああああああぁぁっっっ!?!?」

 

 刃に貫かれた傷口が円を描くように広がり、空いた隙間から空気が入り込む。

 自らの腹部を刺し貫かれた痛み。

 身体の中に異物を差し込まれた痛み。

 腹の中を無遠慮に傷だらけにされ、臓物を攪拌される痛み。

 それらが一気に襲いかかり、一護は口から大量の血を吐き出しながら悲鳴を上げた。

 

「さようなら」

 

 斬魄刀が引き抜かれる。

 傷口に刀身が走る痛みに、一護は更なる絶叫を上げながら倒れ込む。

 そこには真っ赤な絨毯が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

「あらら……けど、ええんですか?」

「構わないさ。さて、まずは"やるべき事"を済ませてしまおう」

 

 一人の人間の腹に大穴を開けた直後だというのに、気にした様子は微塵も感じられない。

 そんなことは些事だと言わんばかりに、藍染はルキアに付けられた首輪を掴む。

 

「けどそれやったら、藍染隊長がその()を捕まえはった時にちゃっちゃと済ましてもうたら良かったんとちゃいます?」

 

 思わず口から出た市丸の疑問に、藍染はちらりと視線を上に向けながら答えた。

 

「多少は目立つ場所にいなければ、見つけられぬ恐れもあるだろう?」

「……ああ、なるほど」

 

 その視線は空へ――いや、その向こうに存在するとある世界(・・・・・)と、そこに住まう異形の住民(・・・・・)達へと向けられている。

 なるほど、万が一にも彼らが見失うようなことがあれば笑い話にもならないだろう。

 それに気づいた市丸は、得心したように手をポンと鳴らした。

 

「それに先ほどまでは邪魔者もいた。妙な横やりを入れられて、最後の最後で下手を打つような無様な真似は避けたかったからね。ただでさえ今回は、予期せぬ邪魔が多かった。もはやのんびりとは構えていられる程の余裕はない。迅速かつ正確に、目的を済ませてしまおう」

 

 邪魔者というのは、ついぞ先ほど蹴散らしてきた狛村たちのこと。

 予期せぬ邪魔というのは、藍俚(あいり)の悪巧みと妨害のことを。

 そしてのんびりと構えていられないとは、剣八たちのことを指している。

 自らの身を餌としてまで、乱暴で強引な手段を強行してまで、邪魔される事の無いように十一番隊を引き離したのだ。

 ここまで来て失敗しては目も当てられない。

 

「これを探すことすら、いらぬ苦労を掛けさせられたからね」

 

 妙に感慨深い口調で呟きながら、藍染は懐からとある道具を取り出した。

 それは紫色をした万年筆のキャップのような形状をしており、一見しただけではその用途がまるで分からない。

 

「だがそれも――」

「あ……なに……がっ……!?」

 

 その上部にあるボタンを、藍染は周囲を見渡すと注意深く押す。

 すると奇妙な音を上げながら地面から六本もの奇妙な円柱が、ルキアの周囲へ生み出された。

 まるで地中から生えてきたようなそれらは、緑色をしていることもあってまるで竹が突然生えてきたようにも思えるだろう。

 だがこれは指――彼女を狙わんとする悪魔の鉤爪だ。

 その証拠に、藍染の片腕は――先ほどの道具が変化したのだろう――緑色の長手袋を付けたようになっていた。

 

「全てはこの時のために」

 

 緑色の腕をルキアの胸元へと突き刺す。

 まるで手刀によって貫かれたような光景が浮かんだかと思えば、その手を引き抜く。そこには奇妙な物体を掴んでいた。

 

「これが崩玉(ほうぎょく)……ようやくこの手にできた……」

 

 それを確認し、驚き混じりの声を藍染が上げる。

 透明な正多面体の中に、黒みがかった真円球が収められているそれは、正確にカットされたダイヤモンドが結晶体を包んでいる、とでも表現すればよいのだろうか。異様な気配を放ち、藍染の手の中で怪しく輝く。

 

「な、なんだ……そりゃ……」

「おや、知らなかったのかい? 浦原喜助から聞いていたとばかり思っていたよ」

 

 傷の痛みすら忘れたように崩玉を見つめ、思わず零した一護の言葉を藍染が拾い上げる。

 

「その表情……いいだろう。何も知らずに死ぬというのも、寝覚めが悪いだろうからね」

 

 何のことだか分からぬといった表情を見せる一護に、藍染は自らの行いを浪々と語り始めた。

 

 全ては、崩玉を手に入れるためだった。

 (ホロウ)化することで死神の限界を突破した存在となる手段を模索するために様々な実験を行ったこと。

 だが藍染でも独力ではその方法を見つけられなかったこと

 浦原喜助がその方法を実現する道具――崩玉を作りだし、それを朽木ルキアの魂魄の奥底へと封印したこと。

 その崩玉を手に入れるために、ルキアの魂魄に埋め込まれた異物を取り出すために双殛を利用しようとしていたこと。

 そのためにこの状況をコントロールしていたこと。

 結局、目論見は上手く行かずに次善策を――魂魄に埋め込んだ異物を直接取り出す方法を調べ上げ、その手段を以て崩玉を取り出したことまでを。

 

「とはいえ、もう少しだけ時間を掛けたかったのもまた事実だがね」

 

 全てを語り終えた後に、藍染はそう口にした。

 

「湯川藍俚(あいり)……一体何をしたのやら……調べ尽くしてみたい気持ちはあったが……崩玉(これ)が手に入った以上はもはや無用だ」

「湯川さん、が……?」

 

 一体なんのことか、こればかりは一護は理解できずにいた。

 とはいえこれは流石に理解できずとも仕方ない。

 凡人故の膨大な時間と修練の果てに、そして斬魄刀との相性によって独自に(ホロウ)化へと至れたのだが……そもそも彼女が(ホロウ)化出来ることを一護は知らず、その方法は藍染にとっては理解の外の事柄だったのだから。

 

「さて、少々喋りすぎたようだ。朽木ルキア、君ももう用済みだ。守人役、今までご苦労だった」

「なっ……!!」

 

 その言葉に一護の顔が青ざめる。

 おしゃべりと知らぬ事実を一方的に語られ続けたことで意識の外に追いやっていたが、なるほど確かに。藍染からすれば、もうルキアに価値などない。

 処分しようと考えるのは当然だ。

  

 ――くそっ! 動け! 動けよ俺の身体! 

 

 魂魄を強制的に抜き取られた衝撃があまりにも大きかったのか、ルキアは未だピクリとも動かずまるで死んでいるかのようだ。

 人形のように動かずにいる彼女に向けて、藍染の刃がゆっくりと迫る。

 

 ――なんのために! 何の為にここまで来たんだよ! 何のために、尸魂界(ソウルソサエティ)のみんなの世話になったんだよ……!!

 

 声にならぬ声を上げながら、一護は必死で手を伸ばす。

 そして――

 

 

 

「ならばどうする、一護よ?」

「ん……? おわっ!! ここ、斬月の中か!?」

 

 気がつけば、斬月が目の前にいた。

 同時に、自分がまるで違う場所に――けれども霊圧を取り戻す際や始解に目覚める際などに、幾度か訪れた内面世界にいることに気がついた。

 長髪に髭面、サングラスに似た眼鏡を掛ける壮年の男性――斬月の存在と相まって間違いないと悟る。

 

「そうだ。お前があまりにも強く、私に呼びかけるのでな」

「そうか……だったら話は早え! 斬月のおっさん! 俺と一緒に戦ってくれ!!」

 

 その訴えを、斬月は首を横に振り応える。

 

「私は既に、始解してお前と共に戦っているではないか。これ以上どうしろというのだ?」

「分かってんだろ!? 卍解だよ、卍解! このままじゃルキアが殺されちまうんだ! だから頼む!」

「……正気か一護? お前は未だ、卍解を会得していない。既に教えられただろう、卍解には斬魄刀の屈服が必要だと」

「分かってる! んなことは分かってんだよ!!」

 

 まだ卍解まで至れていない。

 それは、口にしている一護本人が痛いほどよく分かっている。

 

「けど、今ルキアをどうにか出来るのは俺しかいねえんだ! だから……頼む!!」

「なるほどな……だが、たとえ卍解を会得したとて、お前では目の前の相手には決して勝てはせぬ――」

「そんなことはねえっ!!」

 

 斬月の言葉をきっぱりと遮ってみせた。

 

「恋次に! 湯川さんに! 白哉に! 海燕さんに! 浮竹さんに! 剣八に! 卯ノ花さんに! 強え死神たちを俺は見てきた! 全員、斬魄刀を使いこなして信頼しあっていた!! 単純にすげえと思った!」

「…………」

「でもあの人たち以上に、斬月はもっともっとすげえ斬魄刀なんだって俺は理解してんだ! お前と一緒なら、恋次も! 湯川さんも! 白哉も! 海燕さんも! 浮竹さんも! 剣八にだって、卯ノ花さんだって超えられる!! 短い付き合いかもしれねえが、それでも俺は心の底からそう信じてんだ!!」

「……ほお」

 

 

 

 ――仕方あるまい! ならば一護よ! 叫べ!! 我が名は――

 

 いつの間にか、意識は元の世界へと戻っていた。

 藍染がルキアを手に掛けようとしているのがはっきりと目に映る。

 身体の内側、奥底から聞こえてくる声に従い、一護は叫んだ。

 

「卍解! 天鎖斬月!!」

「たいしたもんやなぁ……ホンマ、たいしたもんや。けど……」

 

 一護の想いに、彼の斬魄刀は応えた。

 自らの想いに応えてくれた斬魄刀への感謝を感じながら、一護は動く。

 

「土手っ腹にも(ひと)つ穴ぁ開けたら、流石に無理やろ?」

「が、は……っ……!」

 

 だが――想いだけでは通じない事など、山のようにある。

 

(ちから)も、手段も覚悟も、キミには何一つ足りてへんよ」

 

 誰にも聞こえないほど小さな声で市丸は囁く。

 神鎗の刃は瞬時にして伸びゆき、一護の身体にもう一つの風穴を開けていた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「春塵!」

「うおおおっ!?」

 

 戸隠の春塵による風圧を受けて、阿散井は大きく吹き飛ばされた。

 乱気流に流されるその姿は、まるで洪水の河に浮かんだ笹舟の様だ。方向も規則性をも無視して、上下前後すら分からぬほど強烈に

 

 ――けど! 助かったぜ!!

 

「……っ! いけません、その攻撃は……!」

 

 風で揉みくちゃにされて吹き飛ばされる中、阿散井はニヤリと笑う。

 その笑顔が浮かぶのと同時に雀部もまた狙いに気付き、思わず苦言を口にするが、全ては遅かった。

 三人の副隊長たちによる息の合った連携攻撃に押され続けていた阿散井は、今まで思う様に戦うことが出来ずにいた。

 狙いの悉くを潰され続けていたところで、その強敵たちから距離が離れるという千載一遇の好機を得たのだ。この瞬間を利用しない手はない。

 

「くっ……! 厳霊丸よ! 敵を射貫け!!」

 

 もはや間に合わぬがせめて一太刀とばかりに、雀部が刀身より強烈な雷撃を放つ。直撃すればそれだけで戦闘不能に陥るであろうその一撃は、だが容易く無力化された。

 

「卍解……狒狒王蛇尾丸!!」

 

 阿散井の握る斬魄刀――その刀身より伸びたる大蛇が、獲物を丸呑みするが如く雷を飲み込んでいたからだ。

 その光景は、雀部らの動きを止めるには十分すぎた。

 

「馬鹿な……副隊長が卍解……だと……!?」

「あの噂、マジだったのかよ……!」

「なんと……まだまだ稚拙ではあるものの、なかなかどうして……」

「そらあああああぁぁっ!!」

 

 三者三様の感想を口にする中、阿散井は斬魄刀を叩き付けた。

 始解から卍解へと変じようとも、彼の持つ基本的な戦闘スタイルは変わっていない。鞭を操るかの様に、相手を攻撃するだけだ。

 強烈な一撃を、三人は別々の方向へと避けることで対応しようとしていた。

 

「まだまだ――ッ!?」

 

 身を躱した相手への追撃を仕掛けようとしたその瞬間、阿散井は。いや、全員が同じタイミングで動きを止めた。

 

 その場の四人の死神たちへ、勇音の天挺空羅が――真実が飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 ――同じ頃。

 

「あらら……こりゃまた……驚いたねえ……」

 

 天挺空羅は、京楽らにも当然届いていた。

 猛火の壁が作り上げる戦場の最中にて、京楽はおどけた口ぶりでそう感想を漏らす。

 

「どうやら今の、事実みたいだし……となると、山じい? もう僕たちが争う理由ってないんじゃない……?」

「元柳斎先生!!」

 

 京楽の言葉を後押しするかのように、浮竹もまた叫ぶ。

 教え子たちの声にしばらくの間、山本は思案顔を浮かべていた後に――

 

「……よかろう」

 

 その意思を示すかのように、周囲の壁がふっと消滅した。

 と同時に白哉がガクリと膝を突き、大きく息を吐き出した。

 山本との戦いにより、精魂尽き果てたのだろう。体中に大粒の汗を浮かべ、荒い呼吸が止まらない。頬は紅潮しており、顔色もやや悪い。流刃若火の影響によって死覇装はボロ布のようになっており、火傷もあちこちに負っている。

 

 尤もそれは白哉だけに限らず、浮竹もまた同じような状態だ。

 長年に渡る治療と体質改善を続けていなければこの瞬間に倒れてしまい、挙げ句何日も寝込んでいたとしても不思議ではないだろう。

 

 そして――

 

「た、隊長……」

 

 京楽の背中からは、か細い声が聞こえてきた。

 

「ありがとうございます……」

「なーに、心配ないって。七緒ちゃんの笑顔が見られるなら、(ぼか)ぁ元気百倍だよ」

 

 本来ならば戦いになった瞬間に逃す予定だったのだが、山本があまりにも手早く炎の包囲を敷いたため逃げ遅れ、京楽は彼女を庇いつつ戦わざるを得なくなった。

 彼が身を挺して守り続けてきたおかげで、伊勢はほぼ無傷だった。

 無論、その分だけ京楽の負担は重く、この場で一番の怪我人といえるだろう。

 

 ――ま、でも……これはこれで……かな?

 

 とりあえずの一時休戦が締結されたことと、自らの副官を守り抜けた。それらの結果に、京楽は安堵の息を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

「ぐ、おおおおおおおっっ!!」

 

 天挺空羅により齎された情報を聞きつけて、狛村は全身の痛みを無視しながら身を起こした。

 体中が苦痛の絶叫を上げながら、筋繊維や傷口が開くのが伝わってくるが、彼はそれら全てを無視して立ち上がる。

 

「だ、駄目です狛村隊長! まだとても立ち上がれるような状態じゃ――」

「構わぬ!」

 

 満身創痍の狛村が動くなど、雛森からすれば到底看過できることではない。というよりも、彼女の常識からすれば立ち上がっている時点であり得ないのだが……とあれ彼女は必死で制止しようとするが、相手は聞く耳を持たない。

 

「お主も聞こえたであろう!? これが本当ならば、儂は這ってでも行かねばならぬのだ!!」

「……うぅ……っ!」

 

 そう言われれば、雛森とて強く出られなかった。

 狛村の想いもよく分かる、行かせてやりたいという気持ちもある。

 だがここで悩むのは下策中の下策、時間を浪費すれば浪費するだけ状況は悪くなってしまう。

 

「わかりました。ただ、私に十秒だけ時間を下さい! その間にせめて動いても問題無い程度には回復させてみせます!」

 

 言うが早いか、彼女は全身全霊で回道を唱え始めた。

 その隣に織姫がそっと並び、彼女もまた自らの能力で狛村の傷を癒やし始める。

 

「桃さん、私も手伝います! 二人でやれば少しは……」

「……っ! ええ、お願い!」

 

 それは、たった十秒間の出来事。

 だが当事者たちには、永遠に等しいほど長い時間だった。

 




ようやく区切り……

●卍解の屈服(口説き落とす)
つい許しちゃう、中の人の激々甘々っぷり。
「心の底から思ってる」とか言われたら狂喜乱舞しちゃう。
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