お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第162話 黄昏の結末

 日番谷周りはまだまだイジり足りない気持ちはあれど、ずーっとかまっている訳にはいきません。

 

『いやぁ、それはそれで需要はありそうでござるよ?』

 

 うんまあ、それはそうなんだけど……その辺りばっかり描写しちゃうと「他の人たちはどうなったんだ?」とか「お前は仕事しないのか?」って事になっちゃうからね。

 ということで――

 

「雀部副隊長たちの治療はもう済んだのね? なら、あなた達も十三番隊の対応に回って。あと手の空いている子は綜合救護詰所への移送と準備の手伝いも!」

「「はい!」」

 

 ――四番隊本来の役目である救護業務に精を出しています。

 

 指示を出しつつ、茶渡君の治療も平行して行っていますよ。

 だって遅れて来たんだし、その分だけ頑張るのは当然よね。桃も頑張ってくれてたみたいだし、ここでその頑張りを無駄にするなんて出来ないもの。

 

「湯川隊長。勝手を言う様だが、どうかこの者を……泰虎のことを……」

「ええ、わかっています。かなりの重傷ですが、絶対に助けてみせますよ」

 

 それにしても茶渡君、何があったのかしら? 桃たちが応急処置をしたって話だけは聞いたけれど……でもこの怪我って、多分だけど……

 黒棺を受けたのよね、きっと……

 傷の具合が斬術や白打とは違う、凄い力で押しつぶされたような感じだから。

 

 ん……? ということはこの子、藍染と戦ったの!? よく、生きてたわね……生命力が半端じゃないわよ……

 

 やたらと肩入れしてくる狛村隊長の様子も併せて、すっごく気になる……何があったのか、後でちゃんと事の顛末を聞いておかないと。

 回道を使いながらそんなことを考えていたところ、彼が突然動き出して私の手を思い切り握ってきました。

 

「えっ!?」

「お、俺……よりも、一護を、先に……」

「喋らないで! 今は自分の身体を休めて回復させることだけを考えて!」

 

 口を動かすだけでも辛いでしょうに……そこまで、一護のことが気がかりなのかしら?

 

「それと、安心して下さい。黒崎君なら今、織姫さんが治療中ですよ。あなたの治療が終われば、私もそっちに回ります。絶対に助けますよ」

「井上、が……? そうか……よか……った……」

 

 そう言うと茶渡君は、ゆっくりを目を閉じて――

 

「泰虎あああああぁぁああぁぁっっ!!」

 

 ――って、うるさい!!

 

「大きな声を出さないで下さい。気を失っただけです」

「むっ! ……す、すまん……」

 

 注意すると狛村隊長の獣耳が申し訳なさそうにペタンと倒れました。

 かわいい。撫でたい。

 

「茶渡君には桃が手当をしていましたし、元々の生命力も凄く強いみたいですから。処置を終えてから経過観察を含めて……一日もあれば、といったところです」

「一日か……良かったな、泰虎……」

 

 ホッとしている狛村隊長ですが……本当に、何があったのかしら? もの凄い気に入ってるみたいだけど。似たような立ち位置の二人だから、意気投合したのかしらね?

 

『案外相性も良さそうでござるよ』

 

「それと狛村隊長? あなたもですよ」

「儂も、か……?」

「ええ。動ける程度には回復したとはいえ、怪我人には違いないんですから。暴れないでくださいね」

「……すまん」

 

 一応狛村隊長も現在は四番隊(ウチ)の伊江村三席が治療中です。

 私が来るまでは彼が茶渡君の治療をしていましたが、怪我の具合が酷いということもあって交代しました。

 

「それにしても……」

 

 ちらりと織姫さんの治療の様子を覗き見ます。

 アレが噂に聞いた"事象の拒絶"という能力ですか……こうして実際に目にするのって初めてだけど、とんでもないわね。

 一護の怪我の具合についても聞いていたけれど、結構エグい傷が多かったのに一心不乱で治療をしているその一途な想いも良いわよね。

 そういえば、織姫さんが一護の治療をするのは桃が許可したって話だけど……そっかそっか、想いをもう知ってるものねえ。

 好きな相手には尽くさせてあげたいわよねぇ……

 

『一護殿が羨ましいでござるなぁ……』

 

 ホントホント。

 でもあの能力って、ちょっと怪我を治すのには一長一短っぽいのよね。

 

『ふむ、と申されますと?』

 

 事象の拒絶――つまり「ぜーんぶ無かったことにしちゃえー」ってことだから、傷や毒に対しての抵抗力や免疫力を得られにくくなりそうで。

 筋肉痛にあの能力を使うと「痛みがなくなる代わりに筋肉の超回復もしない」みたいな結果になりそうなのよね。

 運動する前の状態に戻しちゃいそうで。

 

 でも、自分の能力について正しく自覚すると、その欠点も無くなるんでしょうね……純粋に"怪我だけ拒絶する"という便利な能力にきっとなっちゃうはず……

 ちょっと嫉妬しちゃう。

 

 とまあ、そんなことを考えている間に治療も終わりました。

 

「う……俺、は……こ、こは……」

「泰虎! 無事か!?」

「あ……っ」

 

 茶渡君が目を覚ましたのを見て、狛村隊長が彼の肩を掴みます。

 あーあー、また勝手に動くから伊江村三席が困った声を出してるわね。

 

「伊江村三席、もう狛村隊長の治療はいいですから。移送の準備の方をお願いします」

「隊長……はい、わかりました」

 

 嘆息しつつこの場を去って行く伊江村三席でした。

 動き回る患者だもんねぇ……ため息の一つも吐きたくなるわよねぇ……

 決してあなたの治療の腕が悪いわけじゃないから、安心してね。

 

「これで動くだけなら問題ない程度には回復させましたよ。もう起き上がれますよ」

「な……っ!?」

 

 私の言葉に茶渡君は跳ね起きました。

 その後、自分の肉体の様子を確かめるように軽く肩を回しています。

 

「本当だ……痛みが、ない……」

「一応それでも経過観察の意味で綜合救護詰所に入院させますよ。拒否は不可能です」

「う……わ、分かった……」

「それじゃあ、行きましょうか?」

「行く……どこにだ?」

 

 そこでどうして首を傾げるんですかね?

 ああもうっ! ギャップでちょっとだけ可愛く見えちゃうじゃないですか!!

 

「黒崎君の様子を見に、ですよ」

「ああ、なるほど……すまない……」

「お気遣いなく。さ、行きましょう」

 

 狛村隊長は"おあずけ"の命令――ではなく、茶渡君の事を気遣って向かわないようです。

 お友達との語らいに、良く知られていない立場の自分は無粋と思ったんでしょうね。

 

 

 

 

 

 

「…………っ…………ぅぅ…………っ……!!」

 

 さてこっちは終わったので一護の方の様子を見に行ってみれば、織姫さんが一心不乱に回復中でした。

 幾つもの汗の粒を額と言わず頬と言わず腕と言わずに浮かべており、集中によって頬が紅潮していています。

 

『入浴中みたいで色っぽいでござるよ!! 艶やかでござる!! 湯煙温泉女子高生一人旅!! ポロリもピッコロもあるよ!! でござる!!』

 

 そのノリはともかく感想はちょっとだけ同意するわね。

 

「石田、一護の様子はどうだ?」

「見ての通りだよ。さっきから井上さんが必死で治療中だが、どうやら思った以上に傷が深いようだ」

 

 そう返事をするのは石田君です。

 どうやら無事だったらしい彼は、近くで治療の様子を見ていたみたい。

 

 でもたしか一護の傷って、内臓に大怪我って報告を受けていたんだけど……

 普通だと外傷治療だけじゃ追い付かないから、手術して内臓治療から始めないと完治は難しいハズなんだけど……

 一護の顔色が良くなってるわよね……これが織姫さんの力かぁ……近くで見ると本当に凄いわねぇ……

 

「それより、そっちこそ大丈夫なのかい?」

「ああ……湯川さんに助けてもらった」

「そ、そうなのか……すまない」

「気にしないで。それしか出来ないんだから」

「それしか……ねぇ……」

 

 現世でのやり取りがあったからか、かなり訝しげな目で見てきますね。

 でもあのくらいなら、他の隊長でも程度の差こそあれ出来るわよ? あの頃はまだ一護たちもそこまで強くなかったから。

 

『それが一ヶ月もしないでこれほど強く……藍俚(あいり)殿など始解までで百五十年……』

 

 言わないで! それは言わないで!!

 

「はぁーっ……! はぁーっ……!!」

 

 と、そんなやり取りをしていたら、織姫さんが不意に精魂尽き果てたような大きな息を吐き出しました。

 見れば回復術もいつの間にか止まっています。

 

「井上……?」

「黒崎君……?」

 

 なるほど、どうやら一護がまともに応対出来る程度までには回復したみたいね。

 それを見て安堵しちゃって、今まで極度の緊張状態で治療を続けていたのが解放されちゃって疲労が一気に襲ってきた――と、そんなところかしらね。

 

「よかった、よかったよぉ……!!」

「お、おい井上!? あだだだだだだだっ!!」

 

 疲れ切っちゃってるから行動の歯止めが利かなくなってるのか、それとも桃との会話で恋心を擽られたのが原因なのか。

 ともあれ感極まった様子の彼女は、勢い余って一護に抱きつきました。

 ただ、怪我そのものが完治したわけではないので痛みに耐えきれずに悲鳴を上げているのがちょっとマイナス点かしら?

 そこは痛みを全力で我慢して熱い抱擁を受け止めるシーンでしょうが!!

 

「はーい、イチャついてる所で大変申し訳ないんだけど。選手交代の時間ね」

「おおっ!! ゆ、湯川さん!? いや、イチャついてなんざ……てか、井上! お前も……井上……?」

「すぅ……すぅ……」

「寝てるわね」

 

 この場所に来る前にも怪我人の治療をしていて、その後はずっと一護の治療を続けていた。それだけ働けば、そりゃあ疲れ果てて寝ちゃっても仕方ないわよね。

 彼女を起こさないようにそーっと動いて、一護の治療を引き継ぎます。

 

「それじゃあ黒崎君は彼女を起こさないように抱き締めておいて。さっきまで頑張ってたんだから」

「お、おう……いや、抱き締めって……その……」

「しーっ」

 

 軽く霊圧を当てて怪我の様子を確認していきますが……あ、凄い。内臓はほとんど治ってるわね。これなら私は外傷治療だけで済むから。

 明日には元気に「月牙天衝!!」って叫べるわね。

 

「一護! 気がついたのか!?」

「お、ルキア! お前も無事だったか!」

 

 騒がしくなった事に気がついた様で、ルキアさんが現れました。

 彼女もちょっと色々あったので、四番隊(ウチ)の女性隊士が異常が無いか診断していたって報告は受けていたけれど……この様子を見るに、元気そうね。

 まあ、獄舎暮らしが祟って少しやつれているのを除けば、だけど。

 

「おっ! 一護も気がついたか!」

 

 続いてやってくるのは阿散井君です。

 

「お前がいなかったらルキアが死んでたかもしれねえって聞いて……ありがとうよ!!」

「あ、ああ……けどな、恋次……もうちょっとその……声を……」

「ルキア! お前も元気そうで……良かった、本当に良かったぜ!!」

「れ、恋次……や、止めぬか馬鹿者! 人前だぞ!?」

「それがどうした!?」

 

 ルキアさんが無事だったので、阿散井君は泣いて喜びながら熱い抱擁をしています。

 人前で思いっきり抱きついているので、やられているルキアさんの方が顔を真っ赤にしていますね。

 でも口では「止めろ」と言っていても顔はまんざらでもない様子ですね

 

『やめろと言われてももう遅いッ! やめろと言われてももう遅いッ! 二回言ったのには特に意味はござらん!!』

 

「ルキア……! よかった、無事だったか……」

「に、兄様!?」

 

 さらにこの場に白哉まで来ましたよ。

 

「黒崎一護、礼を言う。そなたがいなければ、おそらくルキアは……」

「いや、そんなことは……」

「謙遜するな、妹の命を救ったのは紛れもない事実だ。日を改めて礼をするが、この場は口頭のみで礼を言わせてくれ……ありがとう」

「あ、ああ……」

 

 良かったわね、きっと朽木家総出で歓迎してくれるわよ。

 

『一護殿が朽木家に呼ばれる話を書くという伏線でござるな! なんとわかりやすい!!』

 

「それと、恋次……恋次!」

「恋次! おい恋次! いい加減止めぬか!!」

「んだよウッセぇ……た、たたたた隊長!!!!」

 

 それはそれとして。

 流石に見咎めたのか、白哉が阿散井君に声を掛けます。

 けれども気分が有頂天だったのが災いしてしまい、誰に声を掛けられたのか即座に気付かなかったようで。

 そりゃルキアさんも焦って注意を促しますよね。

 ようやく気付いた時には顔を真っ青にしながら即座に正座をしました。

 

「この様な行為はするな――などと狭量な事は私は言わぬ……だが、もう少し節度と秩序をだな――」

「すんません! すんません!!」

 

 お説教と謝罪が始まってしまいました。

 なんてカオスな空間なんでしょうか。

 

 しかし、これだけ騒がしくなったのに起きない織姫さんは凄いわね。

 

「………………ッ!!」

 

 あ、違う。もうとっくに起きてるわね。

 でも幸せな状況だから必死で寝たふりしてる。

 夕日にでも染められたみたいに、首筋まで真っ赤にしてるし。

 

 まあ、指摘するのも野暮ってものだし。

 思う存分、寝たふりを続けさせてあげましょう。

 




●ちゃんと書いてなかったかも知れないと思ったので、ここに記載
四番隊の三席は
『伊江村』
『吉良』
『雛森』の三人体制になっています。

え? 三席が三人とか大丈夫なのか?
元隊長が副隊長に引きずり下ろされて「剣八二人の某隊」よりはマシだから……
(あと剣八の相手が出来る数少ない人材だし、この程度の無理は通るハズ)
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