第163話 修学旅行の初日みたいな感じで
一護たちの扱いが"お尋ね者"から"賓客待遇"になりました。
というのもですね。
ルキアさんの捕縛命令を始まりとして、それ以降に四十六室から出された命令は全て藍染が捏造した偽りの命令――すなわち
よってこの事件の全ては無かったこと扱いになり、今は死神の皆で一致団結して事態の収拾と回復に努めましょうという流れに――
……え? もう知ってる? なんで??
ねえ射干玉……私、この説明したっけ……??
『いえいえ、してないでござるよ。ですが! 目を通している皆様はおそらくご存じかと思います!』
そう、よね……!
決して「雛森いいいいぃぃぃっ!」の絶叫だけ覚えてて、それ以外は記憶から吹き飛んでる。なんて事は無いわよね!
――というわけで。
乱暴な言い方をしてしまえば「全部
その影響で「一護たちは被害者、むしろ彼らがいなかったらルキアが殺されていたかもしれない」ということで、大切に扱われることが決定しました。
ほんのちょっとだけ「
とあれ、こうしてお客様待遇となったわけです。
「はい、それじゃあ皆さん。四番隊へようこそ」
そして、一護たちは怪我人です。
「怪我が治るまでは、
怪我を負わせたままだったり、何もせぬまま帰すのは面子が立たないということもあって、しばらくの間は
ちなみに宿泊宿は
病室と言っても、貴族用の良い部屋を特別解放してます。
一人一部屋、個室ですよ。快適ですよ。ロイヤルサルーン――は言い過ぎだけど。
織姫さんたちを
けどこちらとしても願ったり叶ったりというか、うふふ……
「それと、一応案内役も用意しておいたから。身の回りの事とか分からないことがあれば、この二人に何でも聞いてね」
「よろしくお願いします……」
「よろしくね、織姫さん!」
さらに大盤振る舞いは続きます。
四人のお世話係として、吉良君と桃を用意しました。
吉良君は男性を、桃は女性――といっても織姫さんしかいないので専属みたいなものですが――を担当します。
ちょっと担当人数差で吉良君が大変かもしれませんが。でも同性の方が気も楽でしょうし、同性だから気付く事もあると思ったんですよ。
別に誰かに頼み込まれたわけではありません。
「うん! こっちこそよろしくね、桃さん! なんだか、お泊まり会みたいで楽しそう!」
「あっ! じゃあ私、織姫さんの部屋に泊まりに行っちゃう!」
「本当!? えへへ、嬉しいな……」
……重ねて言います。決して、桃に頼み込まれたからじゃないんだからねッ!
「……なあ、石田。なんで井上はあんなにフレンドリーなんだ……?」
「黒崎、色々あったんだよ……」
「お、おう……」
「……よろしく」
「よ、よろしくね……」
一方男性陣は、ちょっと及び腰ですね。
でもこの子たちは面識ないから仕方ないわよねぇ……
『吉良殿が茶渡殿にちょっとビビってるでござるな』
見た目はちょっと怖いかもだけど、一番善人なのにね。
仕方がない。ここは私が一肌脱ぎますか。
「ごめんね吉良君、三人も押しつけちゃって」
「あ、先生……いえ、その……」
「この子は吉良 イヅル君。しっかり者で責任感も強いし、三席だから腕も立つわよ。ただちょっと遠慮がちな所があるから、黒崎君たちは遠慮しないで話しかけてあげて」
「そっか、よろしくな! 吉良! 俺は黒崎一護! ……って、もう知ってるか?」
「石田雨竜だ。短い間だが、よろしく」
「茶渡、泰虎……よろしく」
「こ、こちらこそ! 改めて、吉良イヅルだよ。皆、よろしくね」
とりあえず、ファーストコンタクトはこんな所かしら?
えーっと、次は……
「失礼します! 隊長、お客様です」
突然部屋の外から声を掛けられました。
え? お客? もう日も暮れているんだけど? 誰かしら?
「急を要する要件でしたので、勝手ながらこちらまで案内させていただきました」
「失礼する」
「狛村隊長!?」
部下の子を押しのけるようにヌッと入ってきたのは、ふさふさ毛並みが自慢の狛村隊長でした。
双殛の丘で皆に姿がバレたことが切っ掛けでようやく開き直れたので、今はもうケモノ要素がふんだんな姿をしていますよ。
「どうしたんですか?」
「夜分遅く、すまぬ。礼儀を失していることも理解しているが、一刻も早く"これ"を返したかったのでな」
「あ……」
差し出されたのは、私の斬魄刀でした。
そういえば、手ぶらだったわね。
『ね-、でござるな。拙者も気付きませんでしたぞ』
いやアンタは気付きなさいよ!
「すみません。わざわざ届けていただき、ありがとうございます」
「気にするな。おそらく、一刻も早く斬魄刀を取り戻したいのではと思ったのでな」
……射干玉なら、案外自力で戻ってきそうよね。
『刀に手足が生えて勝手に大脱走するレベルでござるな! 夜中に穴掘って逃げるでござる!! トムは駄目なのでハリーから逃げるでござる!!』
また古い映画の話を……
「いえいえ、お気遣いありがとうございます。それよりも、桃――雛森三席や織姫さんたちを守っていただいたそうで、ありがとうございます」
「む!? いや何、大したことはしておらぬ。それに守ったといえども、結局儂は藍染に敗れてしまった……あやつの狙いであった朽木ルキアを連れて行かれ、それどころか……東仙よ……お主は一体どうして……」
何があったのか、大凡は桃から聞きました。
そっかぁ……東仙との友情を感じていただけに、別れの瞬間に間に合わなかったのはショックよね……
それで、一護と茶渡君の関係を自分と東仙に重ねて気になってるんだなってことも、なんとなくですが分かりました。
自分が気落ちしていることと、私の視線に気付いたようで。狛村隊長はわざとらしく咳払いを一つすると話題を変えてきました。
「そ、それとだな! 泰虎らの怪我の具合はどうだ?」
「もうすっかり良くなりましたよ。明日か明後日くらいなら、一日中走り回っても問題ないです」
「そ、そうか。うむ、ありがとう。邪魔したな。また後日、厄介になるぞ」
そう言うとそそくさと帰っていきました。
ただ「また後日」とさりげなく約束を取り付ける辺りは流石よねぇ。
「お待たせしました!」
「ど、どうぞ。口に合えば良いんだけど……」
「おかわりもあるから、遠慮しないでね」
狛村隊長が帰って、歓迎会という名のお食事会を開催しました。
人数が少ないと寂しいので、四番隊の隊士もできるだけ参加させて少しでも賑やかな感じにしてみました。
勿論、言い出しっぺは私ですから準備から調理まで頑張りましたよ。
「おっ! 待ってました!!」
「やったーっ! 隊長の手料理だ!!」
ウチの隊士たちがもの凄い喜んでいますね。
「な、なんでこんなに活気が!?」
「あーっ……石田は知らねえのか。ま、良いから一口食ってみろ。そうすりゃわかるぞ」
ちなみに今回の献立は「さっぱりうどん」と「ネギ塩やきそば」と「あんかけ豆腐」に「野菜サラダ」です。
今現在は夏ですから、できるだけさっぱりして食べやすいメニューにしました。
うどんはさっぱりあっさり風味に。反対に焼きそばはボリューム感も味わえるようにしています。
バイキング形式ですので、各自のお腹具合を考えて後はお好きにどうぞ。
「……むっ! こ、これは……」
「うまい」
「だろ?」
一護が何やら得意げになってますね。
考えれば、お弁当の差し入れで食べる機会があったわけだから。私の味を知っている立場からすればそういう態度にもなるわね。
「これも、よかったら……僕が作ったものだけど」
「へえ、これ吉良が作ったのか! どれどれ……美味え!!」
うんうん。
どうやらなんだかんだで馴染みつつあるみたいね。
それと、もう一方は――
「ふわわわわっ!? なにこれ、美味しいよぉ……」
「そう、良かったぁ……これ、私が味付けしたんだ。先生の腕に負けてないと良いんだけど……」
「ええっ!! 桃さんが作ったの!? うわー……いいなぁ……すごいなぁ……」
「そんなことないよ! 私もまだまだ先生の腕には……」
――こっちは気にするまでもなかったわね。
そんな感じで、お食事会と歓迎会の夜は更けていきました。
途中で一護たちに「現世のことを教えて」という話の流れになったところ、隊士達から出るわ出るわ質問の数々。
反対に一護たちからも「
ところで「だから四番目とか言ってたのか!」って怒ってたけど、何のことだったのかしら……?
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――翌日。
「湯川さん湯川さん!」
夕べはあれだけ大騒ぎをしたのに一切の疲れた素振りすら見せることなく、一護がやって来ました。
「朽木家ってどこだ!?」
「え、朽木家? 六番区だけど……どうしたの?」
「六番区か! ……六番区ってどこだよ!?」
何やら片手に紙を握ったまま、エキサイトしています。
「落ち着いて。何があったの?」
「それが、朽木家からの使いってのが来てよ。お礼をしたいから屋敷まで来てくれって言われたんだけど……」
説明しつつ手にしていた紙――招待状を私に見せて来ました。
「あら、そういうこと……じゃあ、一緒に行きましょうか?」
「え?」
「私も貰ってるから」
笑みを浮かべながら、一護に私宛の招待状を見せてあげました。
●この辺の日程
原作だと藍染が「わたてん」してから一週間後くらいに現世に戻っている。
(8月21日位に現世に戻っているようです)
つまり自由行動は一週間くらい。
この間に色んなイベントを少しだけ挟む予定です。
(9月3日にウルキオラとヤミーが来て、その約40日後には虚圏へ……)
●トムだハリーだ
映画「大脱走」より。
収容所の捕虜が逃げるときに使ったトンネルの呼称。
……前にこのネタ使いましたっけ……?
●狛村隊長
あのときのモフモフ事件と、チャドと相性が良さそうと思ったばかりに。
出番がちょいちょい増えてる。
●だから四番目とか言ってたのか! という台詞
非常に分かりにくかったと思うので、追記です。
ちょっと前の話で市丸が「ボク、四番目なんやね(ニヤニヤ)」という描写がありました。
そして、一護が死神相手に戦ったのは順番に
恋次・アイリ殿(現世で戦った相手)
兕丹坊・市丸(尸魂界に来て最初と二番目に戦った相手)
になります。
だから市丸を「四番目」と認識していました。
ですが、ここで問題発生。
一護が「蒲原喜助が死神だと、イマイチちゃんと認識していなかった」のです。
その結果。
本来なら「市丸って五番目に戦った死神じゃねえか!!」という気づき。
市丸に「自分を四番目に挙げるとか(浦原のこと気づいてないんだ(笑))」と、遠回しに馬鹿にされたこと。
という、上記二点に気付いて「だから四番目とか言ってたのか!」と怒っていたわけです。