お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第164話 みんなで朽木家に集合な

「あっ、それ! その招待状! なんで湯川さんも持ってんだ!?」

「それはまあ、私も貰ったから」

「なんで!?」

「なんで、って言われても……理由は朽木家に聞いてね」

 

 手の中で招待状をヒラヒラと弄びながら、からかうような口調で告げます。

 この招待状は簡単に言うと「朽木ルキア()が世話になったから、お礼がしたいです。朽木家に来て下さい」という内容でして、あの場にいたり現世でルキアと交流のあった人たち全員を招待しているそうです。

 私も貰いました。

 

 ……まあ、私はちょっと違う理由で呼ばれているんですけどね。

 

「それより、その招待状を貰ったってことは朽木家に行くんでしょう?」

「あ、ああ。そうなんだよ。それにコレを持ってきた奴も『わからなかったら湯川さんに聞け』とは言ってたから、こうやって聞きに来たんだけどよ……」

「あらら、信頼されてるのね」

 

 しかし、招待状を持ってきた人間にそのまま案内させるんじゃなくて、私に案内を任せるなんて……朽木家からの信頼が厚いわねぇ……

 

『激アツでござるな! 確変待ったなしでござるよ!!』

 

「とにかくすぐに準備を終えちゃうから、そうしたら一緒に行きましょう。お友達にもそう伝えておいてね」

「おう! ……って、準備って何の準備だ……?」

 

 威勢良く返事をしてから、一護は小首を傾げていました。

 

 

 

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「うおっ! な、なんだよココ……流魂街と全然違え……本当に同じ瀞霊廷の中なのか!?」

「うるさいぞ黒崎。往来で叫ぶな、こっちが恥ずかしい」

「けどよ石田、こんなの驚くに決まってるだろ!? 時代劇の超豪華なセットっていうか、超高級住宅街っていうか……! こう、あんだろ!?」

「田園調布に家が建つって……こういうことだったんだ……!」

「シロガネーゼ……」

 

 あらあら、不安になってる不安になってる。

 ルキアさんと阿散井君を初めて連れてきた時を思い出すやり取りよねぇ……

 

 石田君は確かお金持ちだったからある程度は耐性があるみたいだけど、他の三人は……

 一護はわかりやすく驚いてる。

 茶渡君は、また随分古い表現を……あ、でも時代的には合ってるのかしら……?

 

『連載時は2002年でござるからなぁ……そしてシロガネーゼは1998年に作られた造語でござるよ!』

 

 そっちはまだわかる、わかるんだけど……織姫さん!? 星セント・ルイスのギャグは流石に古すぎないかしら!?

 

『俺たちに明日はない! キャッシュカードに残は無い!』

 

 でも織姫さんなら、こんな古いネタを使ってもなんとなく納得しちゃうのよねぇ……

 

「はいはい。みんな、気持ちは分かるけれど今から驚いていると、身が持たないわよ? 今からあそこに向かうんだから」

「あそこ……?」

 

 軽い口調で目的地を指し示せば、全員が釣られたようにそちらを眺めて――

 

「あそこって、あのものすっごくおっきいお屋敷……のこと……?」

「なん、だと……?」

「…………」

「ム……」

 

 あらら、全員絶句しちゃった。

 まあ朽木家は大きなお屋敷が建ち並ぶ貴族街の中にあっても一際大きいから、その反応も当然よね。

 

「アレが朽木家よ。わかりやすいでしょう?」

「わ、わかりやすいっつーか……」

「一目瞭然、だな……」

「あれだけ目立つなら、案内はいらなかったんじゃないか……?」

「待って石田君! 私、ここに一人で行けとか言われたら怖くなって間違いなく辿り着けない自信がある! 湯川さんが案内してくれて本当に助かってるもん!!」

 

 とうとう石田君まで驚いたわ。眼鏡が真っ白になってる。

 あと織姫さんの言うことも分かるわぁ……慣れないと場違い感が凄いから、萎縮しちゃうのよね。

 

「そんなに怖い場所じゃないから安心して。それじゃ行くわよ、ちゃんと着いて来てね?」

「はい、よろしくお願いします!!」

「迷わないように……見失わないように……」

 

 一護たちがやたらと(しゃちほこ)張りながら着いて来ます。

 引率の先生みたいね私ってば。

 

『そのネタ、前にもやったでござるよ? 具体的には81話でござる!』

 

 しーっ! しーっ!! 使い回しだなんて言っちゃ駄目!!

 

 

 

 

 

 

「おお一護! それにお主たちも! よく来てくれたな!」

 

 朽木家に到着して門番に来訪を告げたところ、知らせを聞いて出てきたのはルキアさんでした。

 ですが、出迎えに出てくれた彼女の様子に一護たちは再びぽかーんとしています。

 

「ル、ルキア……だよな……?」

「当たり前だ馬鹿者! 偽物だとでも思ったのか!?」

「いや、なんつーか……その、格好がな……」

「朽木さん、凄い綺麗……! 昔話のお姫様みたい!!」

 

 今のルキアさんはきちんと仕立てられた着物に加えて、髪もしっかり整えられています。 オマケに朽木家に入ったこともあって立ち振る舞いや所作も一通りは学んでいるので、本当に「貴族のお嬢様」という感じです。

 一護たちが驚くのも無理はありませんね。

 彼らが知っているのは「学校の制服」や「死覇装」を纏った姿くらいで、立ち振る舞いもそれに準じたものでしかない――要するに「今まで知らなかった一面を突然見た」わけですから、こういう反応にもなります。

 

「うんうん、似合ってるわよルキアさん」

「先生、ありがとうございます」

「それに体調も取り戻しつつあるみたいね。肌を見ればわかるわ」

「はい! 兄様や姉様、それに朽木家の皆様には本当によくしていただいて……」

 

 二週間くらい獄中生活してましたから、どうしても即座に元の調子には戻りません。ですがたった一日でもこれだけ回復しているというのは、朽木家の皆さんが本当に心配して気遣ってくれているという証拠でもあります。

 

藍俚(あいり)のお姉ちゃんっ! いらっしゃいっ!!」

 

 ルキアさんの健康状態を視診していたところ、鴇哉(ときや)君が奥からやって来たかと思えばそのまま私に飛びついてきました。

 

「あらら、鴇哉(ときや)君こんにちは」

「こんにちは!」

「なんだ……!?」

「子供……?」

「可愛い! 何この子!?」

「ん、この子供……どっかで見たことあるような……」

 

 一護たちは何やら怪訝な表情を……あっ! そうか!! 鴇哉(ときや)君のこと知らないのよね!!

 ルキアさんのお嬢様対応だけでも驚かされていたところへさらに新キャラを追加されたら、こういう反応にもなっちゃうわよね。

 私は私で平然と鴇哉(ときや)君を抱っこしてるし。

 

「まあ、鴇哉(ときや)ったら。湯川先生を困らせてはいけませんよ。それにルキアも、お客様がいらっしゃったのですから、きちんとご案内をなさいな」

「姉様……申し訳ありません!」

 

 あ、さらに新キャラ入りました。

 

「うおっ、なんだルキアが二人……じゃねえな?」

「いやさっき姉様と言っていただろうが! 聞いてなかったのか!?」

「姉、か……確かに似ているな……」

「言われりゃ確かにルキアよりも成長してるっていうか……」

「ええっ! 朽木さんのお姉さん!?!? 美人……それに上品……」

 

 あーあー、混乱してる混乱してる。

 

「黒崎 一護様、石田 雨竜様、茶渡 泰虎様、井上 織姫様ですね? 初めまして。朽木 白哉の妻、朽木 緋真と申します。妹が現世で大変おせわになったそうで、是非お礼をと思いまして」

 

 混乱してる四人の反応とは対照的に、マイペースな自己紹介が始まりました。

 

「妻ぁ……!? 白哉の!?!?」

「いや別におかしくはないだろう」

「は、はじめまして! 井上織姫です! 本日はお招きいただきましてありがひょう(とう)ございましゅ()!!」

「茶渡泰虎です……」

 

 あ、噛んだ。可愛い。

 

「それとこの子は、息子の鴇哉(ときや)です。ほら鴇哉(ときや)、御挨拶を」

「朽木鴇哉(ときや)です。ルキア叔母様を助けていただきまして、ありがとうございます」

 

 私の胸元から降りると、礼儀正しく挨拶をします。

 鴇哉(ときや)君、昔は「ルキアお姉ちゃん」って呼んでたんだけど、いつの間にかこんな風に呼ぶようになったのよね。

 初孫で猫可愛がりされていたんだけど、礼儀作法の教育でもされたんでしょうか?

 ……でもその割には、私の呼び方だけは変わらないのよね。なんでかしら?

 

「おばさま!?」

「井上、姉の子供だから叔母だ」

「あ、そっか」

「白哉の子供か……なるほど、父親に似てるわけだ……」

「なんだろう……このやり取りだけで十年分くらいは驚かされた気分だ……」

 

 石田君が眼鏡を上げつつ軽く天を仰ぎました。

 怒濤の新情報ラッシュを受け止めきれずに精根尽き果ててるようです。

 でもこの程度で十年分も驚いていたら身が持たないわよ? 特にこれ以降の展開。

 

「お久しぶりです緋真さん。体調はお変わりありませんか?」

「まあ、湯川先生ったら……ふふ、ずっと元気なままですよ。なにしろ先生に診て頂いたのですから」

「それはよかった」

「いえいえ、それと本日はよろしくお願いしますね」

「勿論です。お任せ下さい」

 

 こちらはこちらで挨拶をしておきます。

 

「では皆様、お待たせしてしまい申し訳ございません。ご案内させていただきますね」

 

 というわけでようやく中に入れるようで――

 

「うわ……これ玄関かよ……広い(ひれぇ)……」

「ここだけで、私の家よりもおっきいよぉ……」

 

 ――訂正。もうちょっと掛かりそうです。

 

 

 

 

 

 

「おっ、藍俚(あいり)ちゃんいらっしゃい。先に始めているよ」

「やあ湯川隊長」

 

 廊下を歩いている途中も一護たちの"朽木家ってすげー"話が続き、やっとのことで広間へと案内されました。

 入室した私たちをまず出迎えてくれたのは、京楽隊長と浮竹隊長のお二人です。

 

「あっ! 浮竹さん! どうも」

「やあ、一護君。それと後ろにいるのはお友達だね。初めまして、十三番隊長の浮竹 十四郎だ」

「僕は八番隊の京楽 春水、よろしくね。特にそこの可愛いらしいお嬢さんとは仲良くしたいなぁ」

「えっえっ!?」

「京楽隊長、いきなり口説こうとしないでください。織姫さん困ってますから。まずは朽木隊長に挨拶をしてからです」

 

 突然口説かれて戸惑う織姫さんを庇う様に前に出て、一言注意します。

 

「そっか、そりゃ残念。それじゃ織姫ちゃん、またね。今度はお酌とかして欲しいな」

 

 そう言って、入り口近くにいた二人とのやり取りを切り上げます。

 見渡せばどうやら私たちは呼ばれた中で一番到着が遅かったらしく、既に何人かは"すっかり出来上がっている"ようでした。

 

「やはり、儂の様な者がいるのは場違いなのでは……」

「隊長! 何を言うちょりますか(言ってるんですか)! そげんことは(そんなことは)ありゃせんて(ありませんよ)!!」

「そうれふよ狛村隊長! もっろろーろーと(堂々と)しててくりゃはいな!! あのひょき(とき)、隊長にたふけられた(助けられた)のはほんろーに(本当に)感動しらんれふ(したんです)からっ!!」

「そうそうっ! 虎徹の言う通りですぜっ! さすがは狛村隊長! ウチの浮竹隊長の次に素晴らしい!!」

「なんじゃワレぇッ! ウチの隊長にケチ付けるいうんか!?」

「鉄左衛門……その、なんだ……おちつけ……」

「なーに言ってんですか! 自分の所の隊長が一番に決まってるでしょうが!」

「そーだそーだっ!」

「射場副隊長だって、狛村隊長が一番でしょうが!!」

「そーだそーだっ!」

「当然じゃああっ!!」

「鉄左衛門……」

 

 うわぁ……出来上がってるわねぇ……すっかりと……

 

「これがカラミ酒って奴か……」

「僕たちが来るまでの間にもうここまで酔ったのか……」

 

 子供たちがヒいてるわ……

 

「えーっと……お酒は呑んでも飲まれないでね。あと、年齢制限も守ってね」

「お、おう……」

 

『お酒は二十歳になってから! 選挙権は二十五歳から!! 被選挙権は……えーいっ! 出血大サービスで六歳からでどうでござるか!?!?』

 

 変なボケかまさないで。

 タダでさえ部屋の中にお酒の匂いが充満しててちょっとキツいんだから。

 

 背後から聞こえてくる「狛村隊長を十三番隊の副隊長に!」という絶叫を無視して、ようやく白哉のところまでたどり着きましたよ。

 

「朽木隊長、お招きいただきありがとうございます」

「おお、湯川殿! いえ、こちらこそ。ご無理を言ってしまったようで」

「よう一護、ようやくご到着か?」

「ああっ! 恋次じゃねえか! お前もここにいるのか!」

「緋真。お前まで出迎えに行かせてしまい、すまなかった」

「そんな! あの子(ルキア)が世話になった方々と直接お話をしたいという緋真の我が儘を叶えていただき、ありがとうございます」

「いて悪いか?」

「そういうことじゃねえけどよ。しかしここ、すげえ広いのな」

「だよな。俺も初めて来たときは遭難するかと思ったぜ」

「わあ、凄い……ルキアさんのお姉さん、なんだか夫婦っぽいやりとりしてる……」

「石田も、現世じゃ悪かったな」

「……そっちも色々事情があったんだろう? 聞いているし、君に負けたのは僕が修行不足だっただけだ」

「おや……? 湯川殿、もう一人招待したはずなのですが……」

「実は桃――雛森三席は、ちょっと外せない用事があったので。お招きいただいたのに窺えないのを悔やんでいました」

「そうでしたか。であれば、後で何かお礼の品物を贈らせていただきます」

 

 うん、あっちこっちで会話してるから分かりにくいわねぇ……

 

 だって「私・白哉・緋真のグループ」と「阿散井・一護・石田のグループ」で会話をしていて、さらに織姫さんがボソッと感想言ってるから分かりにくいことこの上なし。

 本当ならこれにオマケして、酔っ払いが騒いでる声まで聞こえてくるからね。ノイズキャンセリングしてコレだからね。

 

 ということで、以降この場は私の方だけに集中させていただきます。

 

「ところで、宴の場でこういったことを言うのは恐縮なんですが……もう一つの要件の方を先に……」

「ああ、そうでした。緋真、ルキアはどうしている?」

「黒崎様たちを出迎えたあとは、部屋に戻らせました。いつでも問題ありません」

「そうか――では湯川殿、申し訳ありませんが……」

「はい、勿論ですよ。そのための道具も一式準備してきましたから」

 

 そう言いながら、片手に持っていた鞄を見せつけるように持ち上げます。

 

「親馬鹿――もとい、兄馬鹿と笑って下さい。ですが、長い間獄舎で生活していたルキアの身体のことがどうしても気がかりで……緋真のようなことになったらと思うと……」

「大丈夫ですよ。お気持ちはお察しします」

「私は、先の事件で瀞霊廷に混乱を与えた償いすら、未だ済んではおらぬ身です。本来ならば、このような無理をお願いなどとても出来ぬ立場のですが……」

「そんな! あの事件に関する罪はもう問わないとお達しが……!」

「それでも罪は罪です。これから少しずつでも償っていこうと思っています」

 

 はぁ……本当に真面目ですねぇ……

 

「わかりました。では朽木隊長の憂いを無くす意味も込めて、しっかり検診と施術をさせていただきます」

「よろしくお願いします!」

「湯川先生、私からもお願いします。どうか妹を……!」

「お願いします!」

 

 夫婦揃って――いえ、鴇哉(ときや)君も含めた三人揃って頭を下げられました。

 

 お話を聞いていて分かったかと思いますが、ルキアさんが現在不調です。それを気にした朽木家が「私に診て貰おう!」と依頼をしてきたわけですよ。

 なので鞄の中には診察道具と……マッサージ用の道具も完備です。

 

『何しろ藍俚(あいり)殿は奥方の命を救った英雄でござるからな!! 此度の件と併せてると、もう向こう三代くらいは貸しを作ってるでござるよ!!』

 

 いやだわ、射干玉ったら。そんな大袈裟な事を言っちゃって。

 それに私はルキアさんを揉めれば満足だから。

 

 大騒ぎの広間をそっと抜け出すと、ルキアさんの部屋へと足を運びます。

 




久しぶりにマッサージするわよー


●懺悔という名の忘れ物
本当は雛森も出す予定でした。
が、全部書き上げてから「アレ、いない!?」と気付きました。

なので大慌てで「用事があって不参加です」の一文を入れました。
ごめんね雛森。

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