お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第167話 ソーイングと白玉ぜんざい

「――引き継ぎと連絡事項は以上ね? それじゃあ、本日の業務も頑張って……って、あら?」

 

 藍染が瀞霊廷に混乱を招いてから三日が過ぎました。

 世間も落ち着きを取り戻しつつあり、四番隊も平常業務に戻りました。

 ……というより、隊長が二日続けて他人の家に呼ばれていて留守でもちゃんと回って四番隊(ウチ)の隊士たちを褒めてあげたいわね。

 勇音に負担を掛けちゃって……本当にごめんね……また明日、負担掛けちゃうんだけどね……本当にごめんね……

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 定例になっている朝のミーティングも終わり、さあこれから業務開始だ! というタイミングで石田君がいることに気付き、思わず声に出してしまいました。

 

「どうしたの? そんなところにいないで、遠慮せずに入ってきなさい」

「すまない。少し、その……声を掛けにくいタイミングだったので……」

 

 隊長の私が変な行動をしたので、隊士たちも思わずそれに倣って石田君のことを見てしまい、その結果たくさんの視線が彼に集中することに。

 注目を集めて進行を止めてしまったのを申し訳ないと思ったらしく、彼はおずおずとしつつも入ってきました。

 

「大丈夫、もう終わるところだったから。あ、みんなは業務を開始して。それと夜勤明けの子たちはお疲れ様、ゆっくり休んでね――はい、これで大丈夫。何の用事かしら?」

「実は、縫製施設を借りられないかと思って」

「縫製施設?」

 

 予期せぬ言葉に思わず聞き返したのは、隣にいた勇音でした。

 

「それなら一階にありますよ、私がご案内しますね。いいですよね、隊長?」

「勿論。ちゃんと断りを入れに来てくれたし、使用は問題ないわ。でも、吉良君は教えてくれなかったの?」

「それが、彼は今日は茶渡君を案内して流魂街の方へ行っていたので。他の方に聞こうかと思っていたところ、声が聞こえてきたので……」

 

 流魂街へ案内にねぇ……知り合いでもいたのかしら?

 

『(おそらく、インコのシバタ殿のことでござるな……藍俚(あいり)殿は覚えてねえでござるよ……)』

 

「ところで、あなたが使うんですか?」

「ええ、現世へ戻るときのために、みんなの服を作っておこうと――」

「えっ! もしかして洋服作れるんですか!?」

 

 きゃっ! びっくりしたわ……勇音が食い気味に言いました。

 ずいっと身を乗り出して聞き返すその姿は、なんというかちょっとこの子らしからぬ反応よね。

 

「ええ、まあ……」

 

 石田君、自分より背の高い相手だからかちょっと圧倒されてるわね。

 

「じゃあじゃあ、あの……一つお願いがあるんですけど……いいですか?」

「待ちなさい、勇音。ほら、石田君も困ってるからあまり無茶なことは……」

「いえ、僕に出来ることなら。使用料代わり、ということで」

「ほら隊長! 石田さんもこう言ってますし」

 

 なんだか勇音が嬉しそうな反応をしてるのよね。一体何を頼む気かしら……?

 

「それでお願いなんですけど……わ、私にも洋服を作ってもらえますか!?」

「なんだ、そんなことですか。お安い御用です」

「本当!?」

 

 了承の返事を貰った途端、胸に手を当てながら飛び上がらんばかりに喜んでます。

 

「じゃあ、すぐにご案内しますね! こっちです!!」

「お! あ!? ちょ、ちょっと待っ……てっ……!!」

 

 石田君の腕を掴むと、振り回さんばかりの勢いで縫製室へと駆けていきました。

 

「うーん……ま、まあ良いか……」

 

 勇音にはちょっと迷惑掛けていたからね。このくらいは許容範囲よ。

 一応後で様子を見に行くくらいはしておくけれど。

 

 でも「洋服が欲しい」なんて、勇音も女の子よねぇ……

 

藍俚(あいり)殿も女の子でござるよ?』

 

 あっ! いっけなーい、藍俚(あいり)ちゃんってば、ついうっかり!

 

『てへぺろ! てへぺろでござる!!』

 

 ……馬鹿なことやってないで仕事するわよ。

 今日は副隊長の分も片付ける勢いでやらなきゃいけないんだから。

 

『と、さりげなく副隊長に気を遣う藍俚(あいり)殿でござったそうな……』

 

 

 

 

 

 

「んっ……! うーん……!」

 

 隊首室にて一人、息を吐きながら大きく伸びをして肩の凝りをほぐします。

 あれから二時間くらいが経過しました。

 真面目に仕事を続けたので、なんとか。直近で終わらせる必要のある分までは全て終わらせましたよ。

 勿論、勇音の分も片付けました。急患や医療関係の業務はまた別ですが、書類仕事だけならばこれで問題ありません。

 

「んー……そろそろ縫製室の様子を見に行きましょうかね……」

 

 外を見れば、太陽は中天の少し前くらい。ちょっと早いけれど、お昼ご飯に誘っても良いかもしれないわね。

 と、そんなことを考えていたときです。

 

「あのぉ~、隊長。よろしいでしょうか?」

 

 部屋の外から声が聞こえてきました。

 この遠慮がちな声は、おそらく……

 

「山田七席ですか? 勿論、大丈夫ですよ」

「はい! 失礼します!!」

 

 予想通り、山田花太郎七席でした。

 ただし、大きな風呂敷包みを胸に抱えながらの入室です。

 

「それは?」

「はい? ……あ! そうなんです! この荷物についてなんですよ!!」

 

 言いながら風呂敷包みを足下に下ろし、包みを解いていきます。

 中に入っていたのはリュックサックでした。

 ただ、彼の所作などから察するに中身は空っぽみたいですね。

 

「実はこれ、朽木ルキアさんが持っていた物だそうです」

「ルキアさんの?」

「はい、なんでも彼女が現世からこっちに連れ戻されたときの所持品だったそうで……」

 

 ……ああっ! そういえば!! こんなリュック背負ってた!!

 私見たもん! この目で見たもん! だって当事者だもん!

 

「それがどうして四番隊に? まさか、盗んできたの?」

「ちちち違いますよ! 実はコレ、技術開発局から回ってきたんです!! 朽木ルキアさんに返して欲しい、って」

「技術開発局から?」

 

 あそこは変人ばっかり――頭にマッドが付く人たちの巣窟なのに、そんな感傷的な行動が取れる人がいたのね。

 

「でも、どうしてこれだけが?」

「なんでも衣類とか履き物とかは処分されちゃったらしくて、でもこの鞄だけは保管……えっと、保管というよりかは……秘匿、かな……?」

「秘匿?」

霊波計測研究所(れいはけいそくけんきゅうじょ)壺府(つぼくら)さんという方がいるそうで、その方が処分されるはずだった鞄をこっそり引き取って……秘匿して……私物化して……?」

 

 表現に迷ってるわねぇ……

 

「なんでも、中に現世のお菓子が入っていたとかで。それが食べたくてこっそり保管していたらしくて……」

 

 聞いた瞬間、思わず「あちゃー」という顔をしてしまいました。

 

『もうそれ私物化ってレベルじゃねえでござる!! 横領でござるよ! 完全なるやらかしでござるよ!! めっちゃ怒られるやつでござる!!』

 

「で、それが露見しちゃったから面倒事を四番隊(ウチ)に押しつけたってこと?」

「そうみたいです。持ってきた方が『副隊長に頼まれなけりゃ、こんなことしないのに……』ってボヤいてました」

 

 でも副隊長ってネムさんよね。

 あの子こそ、そんなことに対応するような子には思えなかったんだけど……

 ……あ!

 あのマッサージ以降、ちょっとだけ反応が良くなったから、まさかその影響で!?

 

『おっぱいを揉めば感情も宿るでござるな!! また一つ、世界の(ことわり)を書き換えてしまったようでござる……!!』

 

 ま、まあ何にせよ気遣ってくれたのは良いことだわ。

 

「そういうわけで、でも一応は隊長にご報告をと思ったので。なにしろ、鞄だけとはいえ現世の物ですし慎重に扱うべきかなって……」

「そうね、ありがとう。でも後のことは私がやるわ。ルキアさんとは知り合いでもあるし、私が返しておきます」

「ええっ! わ、わかりました。じゃあこの鞄はお預けしますね。では、失礼します」

 

 用事は済んだとばかりに、そのまま退出していきました。

 さて、じゃあさっさと要件は済ませてしまいましょう。

 リュックサックを片手に伝令神機を取り出し、そのままルキアさんに通話連絡です。

 

「……あ、ルキアさん? 湯川です」

『せ、先生!? 先日はありがとうございました。おかげさまで身体も軽く、羽の生えたようです!!』

「それならよかったわ。ただそのことじゃなくて、今ちょっと良いかしら?」

『はい、今は問題ありませんが……何かありましたか?』

「実はね――」

 

 かくかくしかじか、と要件を伝えます。

 

「――ということであなたの鞄、リュックサックを四番隊で預かっているの」

『な、中身は! 中身は無事ですか!? 』

「それが……さっきも説明したけれど……」

『そんな……』

 

 声だけでも彼女の項垂れる姿が伝わってきますね。

 

『現世の……美味しい物が……』

 

 ……あれ? この子、一応は尸魂界(ソウルソサエティ)に連れ戻されるの覚悟していたのよね? 割と悲壮な決意をしていたような気がしたんだけど……

 なのになんで、鞄一杯に食べ物を詰め込んでたの?

 

『あわよくば、こっちで食べようとしたのでは? もしくは家族へのお土産というか……』

 

「ご愁傷様……あ、ちょっと待って。まだ何か入ってる」

『おおっ! な、何が!?』

 

 軽かったので当然中身は全部食べ尽くされていると思い込んでいたのですが、覗き込んでみたらまだ一つだけ残っていました。

 

「これって……白玉粉……?」

『あ、それは現世にある布袋屋という甘味処の最高級白玉粉です! それがあればいつでも美味しい白玉がたくさん食べられますよ!!』

 

 ……それを買うお金はどこから捻出したのかしら? というか、割と非常事態だったのに白玉粉をチョイスする辺り、やっぱりどこか思考がおかしくない……?

 

『いやいや藍俚(あいり)殿! ルキア殿は"好きな食べ物:キュウリ・白玉"と公式設定されているでござるよ! よって当然の行動でござる!! おおおおおオフィシャルでございますぞ!!』

 

 そっかぁ……オフィシャルじゃあ仕方ないわね。

 

「白玉粉はともかく、この鞄は届けに行くから――」

『いえ、でしたら自分で受け取りに伺います! 身体の調子もすっかり良くなりましたし、運動がてら外で走り回りたいと思っていたので!』

「そう? じゃあ四番隊で待ってるわ……あ、そうそう。美味しい餡子(あんこ)も用意しておくから」

『……え?』

「え? ……って、作るんでしょう? 白玉ぜんざい。あ! あんみつも良いわよね」

『……え?』

「え? お姉さんやお兄さんに振る舞うために買ったんじゃないの?」

『……あ!』

 

 あ! って……この子まさか、独り占めする気だったの!?

 

『とととととにかく今からそちらに向かいますので!』

 

 そう言って通話が切れました。

 

 …………縫製室に行きましょう。

 

 

 

 

 

 

「えーっと、これは……」

 

 縫製室を覗き込んだところ、普段とはまるで違う華やかな雰囲気に包まれていました。

 勇音が見慣れぬワンピースを身体に当てながら心底嬉しそうに微笑んでおり、彼女の周囲を縫製室勤めの女性隊士が「似合ってます」「可愛いです」といった事を言いながら、羨ましそうに眺めています。

 女性隊士がキャーキャー言ってるので、なんとも賑やかですね。

 あ、石田君はミシンの前に座ってます。

 

「あ、隊長!!」

「ちょっと様子を見に来たんだけど……それ、ひょっとして……」

「はい! 石田さんに作って貰いました! ありがとうございます!」

 

 えーっと……作成開始から二時間くらいよね……?

 ワンピースって、そんな簡単に作れるものなのかしら……?

 

『百巻超えても完結してないでござるよ』

 

 そっちのワンピースじゃないから! マンガじゃなくて、上衣からスカートまで一繋がりになってる服の方だから!!

 

「そ、そうなのね。可愛いし、よく似合ってるわよ」

「えへへ……ありがとうございます」

「石田君も、この子の我が儘に付き合わせちゃってごめんなさい。でも、ありがとうね」

「よして下さい。そんな、お礼を言われる程のことじゃ……」

 

 顔を真っ赤にして、照れ隠しのように一度眼鏡を押し上げると彼は作業に戻りました。

 

「でも、本当にとっても嬉しいんですよ! 尸魂界(ソウルソサエティ)には現世風のデザインの服を売ってるお店もあるんですけど……サイズが合わなくて……うう……」

 

 しょんぼりする勇音ですが、こればかりは私にも無理です。

 服の補修とか型紙とかがあればまだなんとかなるんだけど、いかんせんデザインセンスが古いのよね……

 私に作らせるくらいなら、まだ若い隊士の方が良い物を作ります。

 

「ああ……じゃ、じゃあもう一着……」

「本当ですか!!」

 

 あ、さっきまで落ち込んでたと思ったのにもう笑ったわ。

 

『あれが策略でござるよ。石田殿はまんまと策にハマったでござる! 女性は皆女優、男はああやって貢いでしまうでござるよ……』

 

「そうだ! どうせなら隊長も一着作って貰いましょうよ!」

「え! 私も……?」

「そうですよ! 隊長ってば、そういうのに疎いんですから……着飾るチャンスですよ!」

 

 別に着飾るつもりはないんだけど……

 

「ああっ! 副隊長ズルいです!」

「だったら私も! 私にも一着!」

「抜け駆け禁止!」

「それなら私だって!!」

「私にもお願いします!」

 

 勇音の一言を引き金として、さっきまで遠慮がちに見ていただけの女性隊士たちが堰を切ったように集まり、瞬く間に蜂の巣を突いたような大騒ぎへと発展しました。

 

「さ、流石に全員分はちょっと……それに、現世のみんなの分を先に仕上げたいんだけど……」

「「「「ええぇ~~~~っ!!」」」」

 

 息ピッタリの不満の大合唱ね……ってなんで勇音まで叫んでるのよ!

 

「じゃ、じゃあ型紙だけなら……」

「「「「キャーーーーーッ!!」」」」

 

 続いて歓声が上がりました。

 

「大変ね、石田君……はい、これ。差し入れよ」

「ありがとうございます、なんですかこれ……お茶? ……あ、美味しい……それに、なんだか疲れが取れていくような……」

四番隊(ウチ)特製の、疲労回復効果があるの。漢方薬とかを配合しているから、気のせいじゃなくて本当に回復してるわよ」

「……つまり、これを飲んで頑張れと?」

「……ごめんね」

 

 なんというかもう、謝ることしか出来ませんでした。

 

 

 

 

 

 

「先生! 織姫さんが折り入って頼みがあるそうです!」

「頼み?」

 

 縫製室での騒ぎから一抜けし、所変わってここは炊事場です。

 その片隅を借りて小豆を煮ていたところ、桃から声を掛けられました。

 

 え? なんで小豆を煮ているのか? だってまず渋抜きをしないと……

 

 ……え? だから、これから餡子を作るのよ。

 さっきルキアさんとの話の中にも出ていたでしょう? "白玉ぜんざい"だか"白玉あんみつ"だかを作るって。

 だからその準備をしてるの。

 白玉団子だけならそんなに時間も掛からないし、そこだけでもルキアさんが作れば「手作り料理」と胸を張れるもの。

 

 あと、あわよくば「白玉粉をわけてもらえないかな」って思いもあるんだけどね。一応駄目だったときの為にこっちでも用意してるから抜かりはないわよ。

 隊士のみんなにも、石田君たちにも振る舞ってあげましょう。

 

「湯川さん! 私に料理を教えて下さい!」

「料理を? それはいいけれど、どうして急に……」

「それは! 毎日のご飯も凄く美味しくて……この前に行った空鶴さんの家で、氷翠(ひすい)ちゃんも凄く料理上手で……湯川さんが教えたって言ってたから……」

「つまり、美味しい料理を作って黒崎さんに食べさせたいってことよね?」

「ええーっ!! ちょ、ちょっと待って桃さん! わ、私まだ……」

「まだ! 聞きましたか先生! 織姫さんってば、まだって言いましたよ!」

「や、やだなぁ……桃さん、やめてよぉ……恥ずかしい……」

 

 うーん、微笑ましいやり取りよねぇ……

 でも教えるのは良いんだけど、確かこの子って料理は出来るはずよね? 細かい部分はともかくとして、とりあえずは料理が出来たはず……

 

「教えるのは構わないわよ。でも織姫さんはどのくらい料理ができるのかしら?」

「ど、どのくらい……えーっと……」

「たとえば、最近作った料理とかって何かある?」

「……あ! ありますあります! ココアパウダーと味噌ペーストで……」

 

 ちょ、ちょっと待った!!

 

「え……!? それで何を作ったの……?」

「ボルシチです」

 

 ボルシチ!? その材料でボルシチを作るつもりだったの!?

 

『伝説の料理が出来そうでござるな……中佐が大喜びでござるよきっと!!』

 

「き、基本からやりましょうか……?」

 

 織姫さん……なんでキョトンとしてるのかしらね……

 

 その後、ルキアさんがやって来たので四人揃って白玉ぜんざいを調理中です。

 といっても、私は後ろで口出ししているだけなんですけどね。料理だけなら桃が一人でも十分に出来ますし。

 

「それじゃあ白玉粉と水を混ぜるんだけど、水は控えめにね。こねて変だったら、少しずつ水を足していくこと」

「「はい! 先生!!」」

 

 ルキアさんと織姫さん、二人揃って白玉団子を作り始めました。

 どことなく不慣れな手つきで、一生懸命に白玉粉を練っています。

 

「よく言われているんだけど、生地は耳たぶくらいの固さにするのがコツよ」

「耳たぶくらいの固さ……」

「耳たぶ……耳たぶ……?」

 

 生地をこねこねしつつ、時々手を止めては二人揃って自分の耳たぶを触っています。

 

『拙者も! 拙者もお二人の耳たぶをプニプニしたいでござる!!』

 

 私も!!

 

「なんだか、霊術院で一緒に修行をしていた時みたいですね」

「そうねぇ……なんだか懐かしいわ……」

 

 桃が小豆の鍋と格闘しつつ、そんなことを呟きました。

 

「む! ならば雛森、久しぶりに稽古をしないか!? 私もここしばらくの身体の錆を落としたいと思っていたのだ!」

「あはっ! それ、いいかもしれない! 織姫さんも一緒にどうかな?」

「わ、私も……!?」

 

 白玉粉と格闘していた織姫さんが、慌てて顔を上げます。

 

「でもいいの……?」

「遠慮しないで!」

 

 良いわねぇ……じゃあ、私も……

 

「じゃあ明日なんてどうかな?」

「私は構わんぞ!」

「私は、桃さんにお任せかなぁ……?」

 

 ……えっ! 明日!?!?

 

「先生もいかがで……先生!? どうしたんですか……?」

 

 桃が私の顔を見るなり驚きました。

 多分、その時の私は、この世の終わりみたいな表情をしていたんでしょうね……

 

「なんでもないわ……それと、ごめんね。明日は先約があって……」

「そうなんですか……?」

「ごめんね……本当にごめんね……せっかくの機会なのに……でも、また誘ってね……」

 

 外せる予定なら外してるわよ!! 真っ先にそっちを優先してたわよ!!

 うう……世界が憎い……

 

 

 

 あ、白玉ぜんざいは無事に完成しました。

 ルキアさんはそれを持ってすぐに朽木家へと蜻蛉帰りです。氷で冷やしてあるから、鮮度も問題ありません。

 きっと家族揃って、美味しい甘味に舌鼓を打つんでしょうね。

 

 それはそれとして。

 

「……お疲れ様」

「あ、ありがとうございます」

「疲労回復には甘い物よ」

「ありがとう……ございます……」

 

 よく冷えた白玉ぜんざいを、机に突っ伏したままの石田君の目の前に置きます。

 本来なら、縫製室で飲食は非推奨なんですけどね。

 でも今日だけは許します。

 

 少し視線を動かせば型紙用のロール紙が著しく減っており、綜合救護詰所のあちこちからは女性隊士たちの嬉しそうな声が漏れ聞こえてきます。

 噂が噂を呼んで人が集まってきて、その全員分の対応をする羽目になったようで。

 型紙を書いただけとはいえ作業量と疲労度は相当な物でしょうね。

 

「隊長権限でこれ以上は絶対に増やさないことを約束するから、それ食べて今日はもう休みなさい」

「ありがとう……ございます……」

 

 力ない手でぜんざいを口に運んでいく石田君でした。

 

 お疲れ様。

 




●元ネタ解説
小説 BLEACH THE HONEY DISH RHAPSODY より。

藍染の乱から数日、ようやく落ち着きを取り戻した尸魂界。
怪我をした白哉を見舞うべくルキアが料理を作るが、それが護廷十三隊を巡るドタバタな展開に……

というのが、上記小説の大まかなストーリー。

その作中に
・白玉ぜんざいを作るルキア
・洋服を作る石田
があるので、この世界ならこんな感じかな? と落とし込みました。

(徳利最中とかまだ使えそうなネタもあるんですよね)

●ボルシチ(ココアパウダーと味噌ペースト)
フルメタルパニックより。
なんかネタを使えと降りてきた。

●その後の白玉ぜんざいの行方(妄想)
・朽木家
「美味い! 贔屓の和菓子屋にも引けを取らぬな」
「これをルキアが作ったの!?」
「はい! 頑張りました!(謎の自信満々)」

・織姫
「どうかな、黒崎君……?」
「いやコレすげえ美味えぜ! 特にこのぜんざいが美味え!」
「あはは……(ホントはお団子しか作ってないのに……)」

・雛森
「な、なあ雛森……その、白玉ぜんざい……」
「んー?」
「……ぜ、ぜんざいとか食べに行かねえか!?」
「え、本当! みんな、シロちゃんが奢ってくれるんだって!」

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