お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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前回のあらすじ:絶対に外せない予定がここにある



第168話 虚化 対 始解

 どうしても外せない予定ってありますよね。

 例えば――

 

 ――大切な人との約束、とか。

 

 ――自分が行かないと後々で大変なことになってしまう、とか。

 

 ――今を逃すとこれっきり、とか。

 

 ――進退に関わる重要な要件、とか。

 

 そうそう! そもそも「先約があるから」っていうのも十分な理由ですよね。

 

 ……うん、大体当てはまっているのよね……

 

 

 

「よお、待ちくたびれたぜ」

 

 十一番隊の敷地内に存在する地下空間――技術開発局が心血を注ぎ込んで完成した、剣八が暴れても大丈夫なあの場所――へと赴けば、更木副隊長は開口一番そう言い放ちました。

 ……凶悪な笑みを浮かべながら。

 

「約束しましたからね。逃げ隠れはしませんよ」

 

 そう告げると、凶悪な笑みがますます凶悪になりました。

 もうその表情だけでこの空間が、夢と希望と鉄錆の味が満載な決戦のバトル・フィールドへと早変わりです。

 

『……拙者、逃げてよいでござるか……?』

 

 ……逃さん…………お前だけは……

 

『ひいいいいいぃぃぃぃっっっ!!』 

 

 ということで。

 以前に約束した「お返し」のために、十一番隊へ訪れています。

 

『具体的には154話にあった、アレでござるよ! そして剣八殿の望むお返しは、言うまでもござらんが"(ホロウ)化状態の藍俚(あいり)殿との斬り合い"でござる!! うっはぁ!! 燃え尽きるでござるよ!!』

 

 ……前話の時点で、日程含めて予約が済んでいたんです……

 ああっ! こんな約束がなければ、今頃織姫さんのおっぱいを堪能――もとい! 織姫さんの稽古とかしてたのに!!

 

「がんばれがんばれ(けーん)ちゃん♪ がんばれがんばれあーいりん♪」

 

 くっ! 草鹿三席は気楽でいいわね……!

 

「あー……んっ!! んん~~~っ!! 幸せぇ……なにこれ、ほっぺが溶けちゃうよぉ……」

 

 心の中で苦悩する私とは対照的に、彼女は適当な応援を済ませると目の前のお菓子へ荒々しくも勢いよく齧りつき、にっこり破顔しました。

 こちらも想像は付くと思いますが、アレは彼女への「お返し」です。

 なにしろ注文が大量のおやつだったので、頑張って作りました。

 昨日(前話)の白玉粉を使った白玉あんみつとか、クッキーとかケーキとかフィナンシェとかブリュレとかババロアとかを、重箱が七段になるまでこれでもかと詰め込んだ力作です。

 暑い時期なので冷たい系も良かったんですけどね。

 

「美味そうなもん食ってんのな……」

「だめーっ! あげないよ! コレ全部あたしのなんだから!!」

「別に取りゃしねえよ!」

「その甘味、どれも美しく輝いているというのに……なぜそんなに汚い食べ方を……」

 

 草鹿三席の隣には、一角と綾瀬川五席もいます。

 一角のお返しはまだなんですが、綾瀬川五席の方は「私が更木副隊長と戦って負けるところを見たい」とのことです。

 ……どういう願いなのかしら? まあ、そういうことなのでこの場に同席しています。

 

「なあ、夜一さん……俺、なんで呼ばれたんだ?」

「儂に聞かれてものぅ……儂も藍俚(あいり)に呼ばれたクチじゃ」

「さあ? ですが藍俚(あいり)にも何か意図があるから、お二人を呼んだのだと思いますよ」

 

 そうそう! 忘れるところでした!

 一護と夜一さんも呼んでます。

 狙い? そんなの、一護に(ホロウ)化を見せつけるために決まってるじゃない。後学の為にも。

 

「黒崎君は、是非見ておいた方が良いと思ったので呼びました。それと夜一さんは、万が一の時に備えるため特別にお呼びしました」

「万が一じゃと……? 一体なにを……む!」

 

 夜一さんの目を見てから、続いて一護のことを見ます。

 万が一、一護が暴走したりしたら止めてくれ。という意思表示ですね。

 

「お願いしますね」

「うむ……大体わかったわい」

「あと、ちゃんと仕事をしてくれたら今日だけは砕蜂に報告しないでおきますから」

「本当じゃな!!」

 

 一番良い返事が来ました。

 

「座興はそのくらいで十分でしょう? ではそろそろ……」

 

 頃合いを見計らって場を取り仕切るのは、勿論卯ノ花隊長です。

 そういえば卯ノ花隊長の「お返し」も「(ホロウ)化した私と戦う」で、ただ日を改めて……ということだったんですが。

 この戦いの最中、我慢出来るのかしら……?

 

「――始めッ!」

「おおおおおっっ!!」

 

 開始と同時に、待ちきれなかったとばかりに更木副隊長が飛びかかってきました。

 私たちの間に多少なりともあった距離が一瞬で消滅し、すでに刃が届く間合いです。手には当然斬魄刀が握られ、振りかぶり終えています。

 

「やああっ!!」

 

 勢いよく振り下ろされた斬魄刀を、こちらも斬魄刀を抜いて受け流します――いえ、受け流そうとしました。

 

「くっ! 重い……!!」

 

 想像以上の鋭さと重さで放たれた斬撃に、受け損ないました。

 腕に強烈な痺れが走りますが、それは回道で瞬時に癒やしてカバーします。

 

「ははははははははははっっ!! 嬉しい、嬉しいぜ! ちょっと前からお前が本気になってくれてよおっ!! これでますます、斬り合いが楽しくなりやがった!!」

「それは……どうも!!」

 

 リア充のような嬉しそうな表情を浮かべながらの攻撃を、こちらも攻撃を合わせることで潰します。

 

「あ゛ぁ゛ん!?」

「らああああぁぁっ!!」

 

 斬魄刀同士を打ち合わせて攻撃を弾き飛ばし、弾いた勢いを乗せたまま反撃に転じます。おかげでなんとか一太刀、浴びせる事に成功しました。

 

「まずは一手」

「へへ……いいぜ……乗ってきたな」

 

 とはいえこの程度の傷では、更木副隊長にはかすり傷以下です。

 むしろこの一撃で、さらに相手の霊圧が上がりました。

 

「けどよ……なんで、あの力を使わねえんだ!?」

 

 いや、イキナリ斬り掛かってきたのはそっち……

 

「そうだよあいりーん! 使ってあげてーっ!! 剣ちゃん今日が楽しみで、昨日はなかなか寝られなかったんだから!!」

「遠足前の小学生かよ!」

 

 ……なんだか、外野から気の抜ける声が聞こえてきましたね。

 

「別に、焦らすつもりは無かったんですけどね……なら!」

 

 ――虚閃(セロ)!!

 

「はっ! なんだこりゃ!?」

 

 無言で光線を放ち相手の動きをなんとか押さえ込もうとしましたが、相手は斬魄刀を地面へ叩き付けるように打ち下ろして、それを弾き飛ばしました。

 剣圧とそれによって発生した霊圧による衝撃波で瞬時の障壁を張って打ち消した、というところでしょうか。

 まあ、防がれても構いません。

 (ホロウ)化する一瞬がどうにも隙があるように思えて、それを防ぎたかっただけですから。

 

「仮面よ!」

 

 左手を眼前へ翳し、そのまま内なる霊圧にて全身を覆えば(ホロウ)化は完了。そして、ここからが本番ですよ!

 

「ようやく……ようやくか!! 勿体ぶりやがって!!」

「更木、剣八……いくわよッ!!」

 

 (ホロウ)化により全体的な能力を向上をフル活用しながら、お返しとばかりに斬魄刀を振るっていきます。

 こちらも相手も、未だ始解すらしておらず素の斬魄刀のまま――つまりは純粋な技術と肉体能力だけでの斬り合いです。

 ならば今が好機!

 

「そこっ!」

「ぐおおっ!!」

 

 何度かの打ち合いの後に、それまでよりも大きく踏み込んでの一撃を放ちました。

 渾身の斬撃は(ホロウ)化を加味したことでより破壊力を増し、更木副隊長の鋼鉄の肉体をも易々と切り裂きます。

 ですが、身体から出血しながら更木副隊長は嗤っていました。

 

「速ええな! それに剣も(おめ)えっ!! なんだよ、愉しいじゃねか!!」

「まだまだああっ!!」

 

 どれだけ愉しめても、ダメージは蓄積する! 傷を積み重ねれば動けなくなる!! だから、ここが正念場!

 

「おっ! でやがったか!!」

「やったーっ!! あいりんかっこいーっ!! ……えーっと、マスク・ド・あいりんとか呼んだ方が良いかな?」

「止めておけ……情けがあるなら……」

 

 ――全力の斬り合いを繰り広げる一方、観戦者たちは大喜びでこちらを見ています。

 まあ、私の(ホロウ)化のことを知らない数名は例外ですけどね。

 

「な、なんだよ……ありゃ……!?」

「あれが彼女の切り札――ですよ。どうですか黒崎さん? ご覧になったご感想は?」

「わかんねえ……さっぱりわかんねぇよ……ただ、あれは……まるで……」

「まるで……なんでしょうか?」

 

 卯ノ花隊長に聞かれても、一護は呆然と私たちの方を眺めているだけでした。

 ただ、その視線はどこか恐ろしい物を見ているような……

 

藍俚(あいり)め……お主……どういうことじゃ!! まるで訳がわからんぞ!!」

 

 あらら、夜一さんはわかりやすいわね。

 

「おかしいじゃろ……絶対におかしいじゃろ……この百年、一体何があったというのじゃ……」

 

 多分だけど、平子元隊長(・・・)やリサが(ホロウ)化できるのは知ってるはずだから、その辺の知識が邪魔して余計に驚いているんでしょうね。

 あとは……単純に、霊圧に格差がありすぎて驚いてる、とか……?

 うーん……わかんない。

 

 

 

「おおおおおっ!!」

「せいっ!!」

 

 戦いは、私が(ホロウ)化してもまだ一進一退感が拭えない、と言ったところです。

 有効な斬撃が放てるようになったとはいえ、その程度では一瞬たりとも安心できません。むしろ手強い相手だと再認識したことで、更木副隊長の霊圧がますます上昇していくんですから!

 元々「手加減……なんだそりゃ?」な人でしたが、それでもある程度は自分で自分の霊圧を抑えられるようになっていたんです。

 

「くううううっ……!」

「があ……っ……! ははははははっ!!」

 

 ですが、そんな枷は私の(ホロウ)化を見て完全に吹き飛んでいます。

 文字通り「身体で覚えた」卯ノ花隊長仕込みの剣術と、本人の野生の勘による戦い方を、感情の赴くままに放ってくるわけですから。

 

 なんとか必死に刃を受け止め、受け流し、隙を見ては反撃をして、そして相手に斬られる。そんなことの繰り返しです。

 周囲の地面は戦いの余波で抉れ、掘り起こされ、爆撃でも受けたような様相へと変貌しています。

 

虚弾(バラ)!」

「なんだそりゃ!!」

 

 鍔迫り合いになりかけたところを強引に崩して振り払い、片手で生み出した一撃を相手の顔面目掛けて放ちました。

 ……ですがなんとビックリ、軽い頭突きで相殺されました。でも良いんです、これは目眩ましですから。

 

虚閃(セロ)!!」

「おおおおおっ!!」

 

 先ほどと同じく、虚閃(セロ)による一撃です。

 ですが今回は叫んでいる――つまりは威力が上がっており、加えて今は(ホロウ)化もしています。

 元々が(ホロウ)の操る技なのですから、今回放ったそれは先ほど放ったのよりも速度も威力も段違いで効果的な一撃に――

 

「……さっきよりも威力が上がってやがる」

「ま、そうなるわよね……」

 

 ――なるはず、だったんだけどねぇ……

 姿を現した更木副隊長は、それでも多少のダメージはあったのでしょう。口から血塊をペッと吐き捨てると冷静に呟きました。

 

「その光を放つ技、時々使ってやがったが……なるほど、その仮面の姿の時が本調子ってことか……」

「さすが……戦いに関することだけは本当に理解が早い……」

 

 嫌になっちゃう。もうバレちゃった。

 

「こんだけ暴れられりゃ、出し惜しみすんのも失礼ってもんだ!」

「……ッ!?」

 

 相手の急激に霊圧が高まってる!! ということは……来るッ!!

 

()め! 野晒(のざらし)!!」

「くっ……! (まみ)れろ! 射干玉(ぬばたま)!!」

 

 相手の始解に合わせるようにして、私もほぼ無意識に始解していました。

 

「の、のざらし……!? あれが、剣八の……!?」

「ええ。アレがあの子の始解ですよ」

「見ておいた方が良いって……こういうことかよ湯川さん……」

 

 一護が顔を真っ青にしています。

 私も顔を真っ青にして、できればそのまま逃げたいです。

 

『拙者も!! 拙者も逃げたいでござる!! 暖かいお布団で寝たいでござるよ!!』

 

 それが出来ないから、今こうしてるのよ!

 

「出た……わね……」

 

 思わずゴクリと生唾を飲み込みました。背中に一筋、嫌な汗が流れたのを感じます。

 

 それにしても……野晒、久しぶりに見たわね……初めて見たのって、もう何年か前……だったわよね……

 改めて、野晒へと視線を向けます。

 

 その形状変化により、手にしていた斬魄刀は斧へと姿を変えています。

 戦斧、と呼ぶのが正しいようなのですが……ただ、果たしてこれを斧と呼ぶべきか?

 斧の範疇に当てはめて良いものなのかしら……?

 

 全長だけでも、十三尺(4メートル)はあります。更木副隊長が肩に担いでなお、持て余すほどの巨大さです。

 信じられる? 六尺六寸(2メートル)の上背の大男が小さく見えるくらい、馬鹿でかい斬魄刀なのよ!!

 そして当然ながら、その巨大さに恥じないだけの破壊力を兼ね備えてる!

 

『オマケにボロボロに刃こぼれしたギザギザ刀身だから、ビジュアル的にもメッチャ怖えでござるよおおおぉぉっ!!』 

 

「なんだ。その変な仮面被ってても、始解できるんじゃねえか! ケチケチしてんじゃねえよ!!」

「そっちこそ……野晒を使ったのは随分久しぶりね」

「あぁん? 前に見せたときにゃ、逃げられちまったからな。逃げられるくれえなら、使わない方が斬り合いを愉しめると思ったんだ。だがよ――」

 

 動いた!!

 

「――今のお前なら、コイツを使っても愉しめんだろ!!」

「ぐううううううううっぅぅぅぅっっ!!

 

 まるで一瞬消えたかと思うほどの速度での攻撃。

 とはいえ始解しているわけだから、単純に基礎能力も上がっているわけで。そこに野晒による質量と破壊力による暴力的な攻撃が叩き込まれるわけです。

 

「う、で……が……折れたかと思ったわよ!」

「はっ! 何度斬ったと思ってんだ! お前の腕がこの程度で折れるわけねえだろうが!!」

 

 なにその嫌な信頼感!!

 折れてたわよ! あ、正確にはヒビだけど、でももう治したし!

 あと受け止められたのもかろうじてだし! 受け止めた斬魄刀も下手すりゃ刀身全部吹き飛んでたわよ!!

 

『拙者の身体はもうボロボロでござるよ……』

 

 耐えなさい!! 後でギュッてしてあげるから!!

 

「おらあああぁぁっ!!」

 

 長大な柄を両手で握り締め、軽々と振り回しているように見えます。

 が、どうやら更木隊長はそれでも野晒を持て余している様子。

 武器に振り回されている、とでも言えば良いでしょうか? 攻撃と攻撃の間のつなぎ目が大きいですね。

 こちらとしてはそこが反撃の狙い目なんですけど……

 

「ぐ、ぐぐぐ……」

 

 反撃に転じる余裕がありません。防御で精一杯です。

 乱暴に振り回すだけで攻撃力に押しつぶされそうで、振り回す余波だけで消し飛びそうになります。

 これ、振り回しただけで弱い(ホロウ)なら一瞬で霧消してますね。

 

「どうしたぁ!? やけに大人しいじゃねえか!!」

 

 そうしている間も相手の攻撃は続きます。

 刀の時と違い、ブンブン振り回すのを主とした乱暴な攻撃ですが……反撃できない!!

 受け止めるだけで、身体中がミシミシと嫌な音が鳴ってるわ……これ、蓄積した衝撃で腕とか足とか取れたりしないでしょうね!?

 

「これで終わりなんて、つまらねえ結果だけは勘弁してくれよ!」

「安心……しなさいっ!!」

 

 それでもようやく受け止められるようになってきたわ!

 相手の一撃に逆らわず後ろに飛んで距離を開けると、瞬歩(しゅんぽ)で一気に近寄って切り裂きました。

 腕を斬ったからこれで少しは威力も落ちるはずだけど……期待しない方がいいわね。

 

「その調子だ! それと、あの滑る能力を使っとけ! 遠慮すんな!!」

「どうせ無力化されるし! それにこの戦いにはちょっと無粋でしょうが!!」

「はっ、違えねえ!! 藍俚(あいり)、お前やっぱいい女だ!!」

 

 斬り合いの最中でなければ、思わずキュンとしちゃいそうな殺し文句ですね! ちょっとだけ嬉しいじゃない!!

 

「なら、コイツがお礼だ!!」

「……ッ!!」

 

 担いだ!? そんな大ぶりの攻撃したら……!!

 

「らあああああぁぁっ!!」

 

 大きく担ぎ上げて、そのまま勢いよく振り下ろして地面まで叩き付ける。

 斧を使った攻撃では、多分一番シンプルで強力な攻撃方法だと思います。

 

 ――ただそれを更木副隊長が、野晒で、遠慮無くやったらどうなるか……?

 

 そう判断した瞬間、私は身体を無理矢理操り強引に距離を取りました。

 

「わ、わああぁぁっ!?」

「うおおおおおっっ!?!?」

「きゃーっ! 剣ちゃんすっごーい!!」

 

 地面に叩き付けられた途端、まるでそこに爆薬でもあったかのような強烈な衝撃が生み出されました。

 ――巨大な隕石が衝突したとしても、多分もっと控えめなんじゃないか?

 そう思わせるほど、無茶苦茶な一撃です。

 衝撃に地層が地中深くから掘り起こされて間欠泉のように吹き上がり、地表には幾重もの亀裂が走りました。

 単純に打ち付けた衝撃だけでもまるで地震が発生したみたいで……

 

 これ、周辺の建物とか大丈夫なのかしら……? 倒壊してないわよね……?

 

「ブ、血装(ブルート)!!」

 

 離れた場所の一護たちでさえ戦慄するような攻撃となれば、爆心地間近の私なんて被害をモロに受けます。

 直撃こそ避けましたが、下手すればそれでも死にますよ。

 少しでも防御の足しにと血装(ブルート)モドキを発現させつつ、必死で衝撃から身を躱して次への一手を開始します。

 これだけの大技となれば、反撃のチャンスでもありますから。

 

「射干玉! 油を!」

 

『了解でござる!』

 

虚閃(セロ)!!」

 

 それまで控えていた粘液の分泌を解放して斬魄刀の刀身にたっぷりと塗りたくり、さらに刃へ虚閃(セロ)を放ち、粘液と混ぜ合わせます。

 言うなれば、月牙天衝や斬華輪のような技を刀身に留めておきながら、同時に強烈な斬撃を叩き込む荒技ですね。

 

「はあああぁぁっ!!!!」

 

 仮称・閃光虚斬(せんこうこざん)――とでも呼びましょうか。

 王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)が霊圧に自分の一部を混ぜ込んで威力を上げる技なんだから、射干玉の油でもきっと効果はあるはず! だって私と一心同体だもん!

 

『照れるでござる!』

 

 これで斬れば――!

 

「はっはぁーーっ!!」

 

 ――爆煙を切り裂きながら、更木副隊長が姿を現しました。

 その手には柄を逆手に握り締め、私の攻撃に合わせるように野晒を振り上げています。

 

「吹き飛べっ!!」

「ぐぐぐぐ……うがあっ!!」

 

 激突の瞬間、閃光虚斬のエネルギーが解放されて相手へ襲いかかります。

 攻撃そのものは野晒で受け止められましたが、その奔流までは止めきれません。ほんの一瞬だけグラリとフラついたのを見逃しませんでしたよ!

 

「能力は、使わねえんじゃなかったのか!?」

「滑らせるのには使ってないでしょうが!!」

「はっ! なるほど納得したぜ!!」

 

 正直に言って、こちらも受け止められた衝撃で身体が……

 これ、どこか折れてるか出血してますね。凄く痛い! でも止まったら確実に死ぬ! ここは攻め続ける!!

 

「木の葉落とし!」

「ぐううっ……!」

 

 よし、これなら……!

 なまじ巨大な野晒だけに、細かい攻撃を受け止めるのには適しません。だからここからは瞬時に隙の少ない連続攻撃を放てば――

 

「え……っ!?」

「へっ! アテが外れたか?」

 

 ――なんで! どうして受け止められ……!? 違う! 野晒じゃない!! あれって……!!

 

「始解を解除した!? そんな……」

 

 そんな"らしくない方法"を取るなんて……

 いえ、違う! 目の前の相手は"斬り合いを愉しむため"なら、なんだってする……だったら、この行動は……!!

 

「最も……更木剣八らしい方法……!」

「止まってんじゃねえよ!」

 

 思わず動きを止めてしまいました。そこへ相手の一撃が飛び込んできます。

 駄目ッ!

 受けも回避も間に合わない!! 出来るのは、こっちも玉砕覚悟の一撃だけ!

 

「ぐううううっ!!」

「ははははははははっ!!」

 

 お互いに、相手の身体を深々と切り裂く結果となりました。

 戦闘不能どころかこのまま死んでもおかしくない重傷なのに、更木副隊長は哄笑しています。ただそれでも傷の影響は無視しきれないようで、どこか動きが変ですね……

 

 けどこっちも、まずい……これは……内蔵が、出血が……今までの蓄積も一気に来てる……うう、見たくないけど感覚で分かっちゃう……

 片腕が曲がっちゃ駄目な方向に曲がってる……呼吸するだけで、身体の中が悲鳴を上げてるわ……

 ううう……もうこれは、使うしかないかしら……!

 

「卍、か――ッ! え!? この霊圧は!!」

「あん……なんだ、ありゃ?」

「ウオオオオオオオッッ!!」

 

 突如として外野から強烈な霊圧が放たれ、私たちを刺し貫きました。

 二人してその出所の方を向けば、まるで(ホロウ)化したような姿の死神が……ってあれ、一護じゃない! (ホロウ)化してる……というか、暴走してる!?

 身体が半分くらい(ホロウ)になってるわよ!? なんで!?

 

『ああ、これはアレでござるな。ムラムラしすぎて我慢出来なくなったでござるよ』

 

 はぁ!? 欲求不満じゃないんだから!? ……え、欲求不満??

 

藍俚(あいり)殿の(ホロウ)化の力と、更木殿の単純な超パワーを見続けて、一護殿の心が思い切り影響を受けてしまったでござる。お二人の戦い振りに、我慢がリミットブレイクしたでござるな』

 

 なるほど、欲求不満……考えてみれば十六歳だもんね。

 変な方向に影響を受けちゃったかぁ……

 

『ついでにいうと、一護殿の中の人がパワフル全開してしまったでござるな。大丈夫、お前ならそのくらい出来るから。だからちょっと行って「一緒にあーそーぼっ♪」って言ってきなさいって……』

 

 ちょっと! そっちは止めなさいよ!!

 ――って、来てる来てる!!

 

「なんだオイ、よく見りゃ一護かよ!! お前もそのお面被れたのか!! いいぜ、飛び入り大歓迎だ!!」

「ガアアアアッ!!」

 

 更木副隊長が受け止めてくれました。

 事態を一瞬で大体理解してもう斬り合っているし!! 身体も痛いだろうに、よくやるわよ本当!!

 暴走している一護も一護で、なんかちょっと嬉しそうね……

 

「って、感心している場合じゃない!」

 

 確かアレの対処方法は――

 

「――仮面を! 割る!!」

「ギャアアアッッ!!」

 

 柄頭を顔面に叩き込んで、粉々に砕いてやりました。更木副隊長が相手をしてくれていたので、とっても簡単でした。

 

「あ……? お……? もどった……?」

「はぁ……はぁ……あーもう! 身体痛い!!」

 

 少年的な反応に戻ったので、どうやら成功ですね。

 

「んだよ藍俚(あいり)! 今から面白くなるところだろうが! 何を勝手に切り上げてんだ!!」

「どう見ても暴走していましたからね。乱入はともかく、そっちは見過ごせません! ……というか卯ノ花隊長! 近くにいたんですから止めて下さいよ!! 夜一さんも!!」

 

 たしか二人とも、一護の隣で見てましたよね!?

 

「おやおや……すみません、ちょっと二人の戦いが……羨ましかったもので」

「儂、もう要らんじゃろ……」

 

 ……夜一さんが完璧に落ち込んでる……

 

「一護! お前、さっきの仮面もう一回付けろ! んで、藍俚(あいり)と三人で続きやんぞ!」

「はああああぁぁぁっっっ!?!? 無理無理無理無理無理だって!! だいたい何がどうなったか分かんねえんだよ!!」

「あら、それは駄目ですよ剣八」

 

 卯ノ花隊長が"良い笑顔"で割って入ってきました。

 

「ここからは私も参加します」

「ええっ!? あの、卯ノ花隊長は後日だって……」

「参加します」

 

 有無を言わせてくれません……

 

「待て待て待てぇっ! 俺も参加するぜ!!」

「一角も!? あなた、まだ考え中だって……」

「今決めた! こんな面白そうな祭り、見てるだけなんざ詰まらねえんだよ!!」

「くはははは!! いいぜ一角! よく言った!!」

 

 うわぁ……大混乱の予感……これ、絶対に一護も無理矢理参加させられるのよね……

 私はそろそろ倒れそうだし、庇いきれない可能性が高そう……なんとか被害を少なくする方法を……

 

 あ! そうだ!!

 

「じゃあ、こうしましょう。決め事を設けるんです」

「決め事だぁ?」

「ええ。自由参加で、期間は仕切り直しから業務終了の鐘が鳴るまで」

 

 護廷十三隊は一応業務時間が決められているので、終了の鐘が鳴るの。

 

「鐘が鳴ったらどんなに良い時でもそこで終了、鳴ったときの姿勢で止まって動かないこと。で、その時に頭が一番高い位置にある人の勝ち……でどうですか?」

 

 単純に言うと、時間が来たときに最後まで立っていた人の勝ちです。

 他にも「倒れている相手は狙わない」とか「そもそも相手を殺さない」とか、細かいルールを付けましたけどね。

 

「なるほど……要は、全員ぶっ倒して這いつくばらせりゃ勝ちってわけだな」

「身長だけで考えれば私が一番不利ですが……ですが、このくらいは手合割(ハンデ)ですね。なにしろ、疲れているのが二人ほどいますから」

「乗った!」

「え……俺も参加するの……?」

「儂、帰る……」

「逃がしませんよ。実力不足を嘆くなら、ここで少しでも鍛えましょうね」

 

 逃げようとする夜一さんを掴んで地獄に引きずり込――参加させます。

 

「じゃあ、みんな準備はいいよね!? よ~~~~い…………スタート♪」

 

 何故か草鹿三席がスタートの合図をしてくれました。

 

 

 

 とりあえず、死人はでませんでした。

 




●野晒(のざらし)(剣八の始解)
拙作中ではチラ見せ程度(105話)で、ちゃんと描写したのはこれが初めて。
原作では隕石ぶち壊したりする凄い破壊力。これで始解……

 藍染「……え? 二ヶ月後にコレの相手しないと駄目なの……?」
 陛下「……え? 一年半の間にコレの対処考えるの……?」
夢想家「……え? 一年半後にコレと戦うの……?」

●リア充
り合(・・)いが()実している――よってリア充。

●閃光虚斬
早い話が王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)

●弓親は?
夜一さんが捕まってる間に逃げました。
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