景色がとても綺麗です。
空を見ればそこには、煌々と輝く半月が。そして夜空を彩るようにキラキラと輝く星々が見えます。
すっごく見えます。すっごく綺麗に見えます。
だって月や星の明かりを邪魔する光がないのですから。見えるのは精々が蝋燭の灯り程度です。
夜景なんて物は見えません。真っ暗なのです。夜の帳が、色んな物を覆い隠してしまったようです。
ただいま実習中、現世に来ています。
霊術院では、現世に赴いて
本来ならば
やり方はとっても簡単。
斬魄刀の柄で相手の額をこう、印鑑を押すような感覚でペタン、とやるだけです。
「おお、上手上手!!」
私がペタンと押せば、近くにいたクラスメイトが喝采を上げます。そしてスーッと煙が霧散するかのように
まあ、元現代日本人ですからね。印鑑押した回数は百や二百じゃありません。それだけ押していれば、否応なしに慣れて上手になれるわけです。
下手な子がやると、成仏間際に魂魄が痛がって悲鳴を上げるそうですが。
そしてこの
もう五回生ですよ。初回ならば上級生の先輩方の指導の下で
「よーし、次」
そんなことを考えていたら、私の番は終わりました。
大体一人二回から三回、下手な子はもう少し回数を重ねるみたいですけれど。
「結構簡単だったね」
「そうね」
同級生の綾瀬さんの言葉に頷きつつ、私は辺りを見回しています。
ですが現世の光景は、私が知っているそれとはかけ離れたものでした。
冒頭でも触れましたが、暗い。夜だというのに真っ暗です。
いえ、夜は暗い物だと分かっていますよ。でも私の知っている夜は、街灯が光っていたりお店が明々と輝いていて、車のヘッドライトが照らしてて。
光源なんて一切持たなくても平気、という印象がどうにも強かったのです。
それが蓋を開ければ真っ暗。
村落は見えますが、どこも灯りなんて見えません。
よーっく目を凝らして建物の様子を確認すると、それは私の知っているものよりもずっと古い古い建築物ばかり。
見た目だけでしか判断できませんが、江戸時代? いや、もっと前かしら? 安土桃山――それとも室町時代!?
さすがに建物だけじゃ、判断は無理ね……そういう知識もないし。
結局、ずっと昔という、もう分かっていることの再確認にしかなりませんでした。
「そういえばこの
「ふえ? えっと……どういう意味ですか?」
「だから、こう……戦っている最中に柄頭でガツンっと一撃喰らわせて」
「それって、普通に攻撃するのとどこか違うんですか?」
「……あ」
そう言われればそうでした。
「よーし、全員終わったな。それじゃあ帰るぞ」
指導役の生徒の声が響き、その近くには
今回の実習はこれまでのようです。
さよなら現世、また来るからね。
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「お疲れ様。初めての実習はどうったかしら?」
「うーん……なんだか普通、って感じでしたね」
「私も同じね。あ、でも
――開けて翌日。
朝食を取りながらいつもの三人でお喋りをしています。とはいえ、蓮常寺さんは第一組なので既に
「そうでした!
「あはは、でも実習でどれだけ上手く出来ても、本番で失敗したら意味がないから」
「本番ねぇ……」
昨日も少し触れましたが、今や五回生。来年には卒業して護廷十三隊へと入隊予定です。
確かに"何年か浪人してやっと入隊試験を突破しました"という死神も多いようですが、出来れば現役で合格したいというのは、何時の時代も変わらない考えです。
「そう言えば二人は何番隊を希望していたんだっけ?」
「私は四番隊ね。進路希望の用紙にもそう書いたわ」
「私は一応、八番隊希望です。えっと、小鈴さんは確か……」
「私は六番隊。なれれば嬉しいんだけど」
「ああ、六番隊は貴族との繋がりが大きいから、人気が高いんだっけ?」
先日提出した進路希望の用紙を見ていると、ふと学生時代を思い出しました。こういうやりとりって、本当に素敵な経験だったんですよね。
「そうね。代々朽木家の縁者が隊長になるから、私は出世できても副隊長までだけど」
「そんな! 小鈴さんなら隊長にだってなれますよ!!」
「確かにそのくらいの才能はあるけれど、でも五大貴族でしょう? さすがに周りが五月蠅いんじゃ……?」
「持ち上げてくれるのは嬉しいけれど、湯川さんの言う通り副隊長か、三席くらいが限界かもね。そもそも隊長になるなら、今の時期に始解を修めているくらいじゃないと無理なんじゃないかしらね?」
ふと溜息を吐きながら蓮常寺さんが呟きます。
そういえば噂のすごい後輩たちは飛び級していて、もう始解に目覚めたとかもうすぐ目覚めるとか、噂が噂を呼んでいます。
どっちも男性らしいので、私はあんまり気にしてませんけれど。
「そういえば今日の授業ってなんでしたっけ?」
「模擬戦ね。そろそろ卒業と入隊試験を本格的に意識しないと遅い時期だから、実戦形式が多くなるのよ」
「模擬戦かぁ……私、あれ苦手なんです。皆さん私よりも背が高いから……」
「私もちょっと……苦手というか、嫌いかな?」
「あら、どうして?」
「やたらと男子の相手をさせられる事が多くて……」
「ああ……」
「あ、
私の呟きに、二人が必死に気を遣ってくれています。
背が高いから男子側に回されるという理屈は分かりますよ。でも問題はもう一つあって……はぁ、分かっていることとはいえ、気が重い……
「次!」
「お願いします!!」
「……よろしくお願いします」
教師の声が掛かり、模擬戦の順番が回ってきた二人は互いに礼をする。
片方は湯川
それに気付いて、彼女の気分は更に重くなる。
「始めッ!」
「おらああああぁぁぁっ!!」
「……はぁ」
威勢の良い気合の声と共に打ち込んでいく。
それを受けて彼女は――嘆息しつつも攻撃を打ち払った。
「まだまだっ!!」
体勢を立て直し二の太刀を仕掛けるその姿は一心不乱、と言えば聞こえは良いだろう。
だがその実はがむしゃらに挑んでいるだけで、隙だらけ。何よりその無様な戦いッぷりの奥底には、
彼が狙っているのは彼女の胸元である。
とはいえ、直接胸元を狙ってはセクハラ――この時代にそんな言葉はないが――である。それでは幾ら立派な人間であっても、痴漢の
いくらサラシで固め、動きやすいようにしていても限界はある。
激しく動けばそれだけ、胸元も揺れる。なにより
学院生活を続ける男たちにとってみれば、彼女は格好の獲物だったわけだ。
「やっ!!」
「ぐえっ!」
「それまでっ!!」
さすがにこう言う見世物にされるのは何か違う。
とはいえ男共の気持ちが分からないでもなく、サービス代わりに必ず二、三度は回避に専念してから、隙だらけとなった相手に有効打を入れて終わらせる。
いつしかそれが当たり前となっていた。
流されているだけ、とも言う。気をしっかり持て!
それはそれとして。
綺麗な一撃が入り、制止の声が掛かる。
"別のこと"に集中しすぎて防御すら忘れ、直撃を受けて気絶した彼を、回りで見ていた男たちが引っ張って退場させていく。
「よくやった!」
「お前は英雄だ!!」
「安心しろ、はちきれんばかりだったぞ! お前の分も俺たちが見ておいた!! だから後のことは任せろ!!」
口々に褒め称えるそれは、志半ばで散っていった英雄への手向けの言葉。
卒業や入隊に関係する大事な時期なのになにやってんだコイツら?
「これ、訴えた方がいいのかしら……?」