お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第170話 織姫とお医者さんゴッコする話

 前回はまんまと逃げられたけれど、今回はそうはいかないわよ!

 

『いや、あれは藍俚(あいり)殿の自爆では……?』

 

 違うわよ、アレは作戦! 作戦だから! 織姫さんを信頼させて警戒を解くための作戦だから!

 全部計画通りだから! 孔明の罠だから!!

 

 ということで、今日こそは織姫さんを落とします。

 具体的には揉みます! 揉んでみせます!!

 

『意気込みはわかりますが、その、タイトルが……』

 

 あーあー、聞こえない聞こえない!

 

 というわけで。

 

「それじゃあ、朝の引き継ぎ会合(ミーティング)を始めます」

 

 夜勤組と早番組の勤務交代の時間となったので、ミーティングを行います。

 四番隊にしてみれば、これはいつもの光景――

 

「けど、その前に。みんなもう気付いてるとは思うけれど、今日はいつもと少しだけ違います」

 

 ――のはずでした。

 夜勤組も早番組も、というかこの場の全員の視線はいつもと違う……というか、ある一人に注がれていました。

 

「みんなには改めての説明は不要だと思うけれど……まあ、一応ね。彼女は井上織姫さん、知っての通り現世から来て色々な理由で一時滞在してるわ。今日は彼女の希望もあって、四番隊の仕事を手伝って貰うことになったの。短い間だけど、仲良くしてね」

「井上織姫です! よろしくお願いします!」

「「オオーッ!」」

「「キャーッ!!」」

 

 ぺこりとお辞儀をすると、周りから歓声が上がりました。

 まあ、織姫さん可愛いからね。

 女性は良い仲間が出来たと思うでしょうし、男性はもっとわかりやすく……うん、わかりやすいわね。美人が増えたら単純に嬉しいもの。

 オマケにその美人がスタイルも良いと来たら……何人かは彼女の胸元に視線が釘付けになってる……ま、仕方ないわよね。

 

藍俚(あいり)殿も同じ穴のムジナでござるからな』

 

 そういう射干玉もね。

 

「一応は私が付き添うつもりだけど、目が届かない場面もあるかもしれないから。だから今期入った子も、もう先輩の子たちも、ちょっと早い後輩が出来たとでも思って接してあげてね」

「「はい!!」」

「うん、良い返事。それじゃあ、引き継ぎを始めます。まずは夜勤組のみんなから――」

 

 という感じで織姫さんの紹介も終わりまして、続いてミーティングの開始です。

 

 

 

 さて、突然織姫さんが四番隊の仕事を手伝うことになったわけですが、これは私の差し金です。

 そして目的は勿論、拒絶の能力の練習のためです。

 

 私、思ったんですよ。

 「なんだかよく分からないけれど、拒絶したら傷が治る」よりも「身体は骨や筋肉、神経などは正常な場合はこうなっている。でも今はこんな傷がついているから、この傷の部分だけを拒絶して治す」と明確にイメージ出来た方が、効率が上がりそうだったので。

 ほら、パズルだって完成形が分かってる方が作りやすいでしょう? それと同じ理屈が当てはまるんじゃないかと思ったんですよ。

 

 ついでに、もう一つの課題だった「傷だけを拒絶して耐性はそのまま残す」も出来ないかと思ったので。練習を積ませてあげたいと思ったんです。

 

 そして、怪我といったら四番隊(ウチ)です! 何しろ怪我人には事欠きません!

 色々なパターンの怪我人がいるわけですから、色んな怪我の経験を詰めるわけです。しかも運が良ければ病人だっていますからね!

 外傷とはまた違う、ウィルス性や内臓疾患なんかも抑えておけば、応対の幅がさらに広がることになります。

 実技が足らなかったら、座学で直接教えても良いですし。

 ほら私って、一応霊術院の講師をやってましたから! 先生でしたから! 教えるのに最適ですよ!!

 

 ……え? 新入生を圧倒的な実力差でボコボコにしてただけだろ……?

 ち、違いますよ! 現世学と医学も教えてたんです! 適材適所ですよ!!

 

「はい、じゃあ引き継ぎ事項はこれで全部ね。他に周知しておくことはある? ……ないみたいね。それじゃあこれで引き継ぎは終了。夜勤組のみなさん、お疲れ様でした。早番組のみなさん、それと……」

 

 説明している間に情報共有も終わりました。なので最後のシメです。

 一応、一瞬だけ言葉を切って織姫さんに視線で合図を送ったんだけど……気付いてないわねコレは……

 

「織姫さんも、今日も一日頑張っていきましょう」

「「「はい!」」」

「……あ、は、はい!」

 

 案の定、ちょっと遅れていました。

 

『かわいい!』

 

 かわいい!

 

 

 

 

 

 

 さて、こうして織姫さんの職場体験が始まりました。

 死神の世界での新入りは、通例通りであれば先輩に付いて回って一通りの仕事を覚えるわけですが、何しろ滞在は長くても今月(八月)いっぱいまで。

 すぐに帰ってしまいますので、悠長なことは言ってられません。

 飛ばすところは飛ばして、要点だけをさっさと進めましょう!

 

 ――ということで。

 

「はい、じゃあまずはこの患者からね。見ての通りある程度は治療が済んでるから、あとは回復を待つだけなんだけど、怪我の具合は……」

 

 説明しながら包帯を解き、傷口を露わにします。

 

「傷つけた(ホロウ)が乱ぐい歯だったみたいで、傷口が不均等なのよ。こうなると治療に手間も掛かるし、しかもタチの悪いことに妙な毒素も持ってたみたいで、ほらここ、皮膚の色が変わっているでしょう?」

 

 微かに響いた「……っ」という声は聞こえなかったフリをして、さらに続けました。

 一通りの説明を終えたところで、彼女に水を向けます。

 

「この場合、織姫さんならどうやって治すかしら?」

「えーと、だから……まずはその毒素を除去するところから始めて……」

 

 コメカミを抑えながらぶつぶつと呟き、手順を導き出そうと必死になっていますね。

 ご覧の通り、実地訓練の真っ最中です。

 ちゃんと四番隊用の死覇装を纏っており、長めの髪はできるだけ一つにまとめておくというしっかりとした医療従事者スタイルですよ。

 

 ナース服が手に入らなかったのが悔やまれますね。ピンク? 白? オーソドックスに白かしらね。

 

 ……あ、勘違いしないで下さい。

 コスプレを楽しもうとしているわけではなく、まずは形から入らせているだけです。

 

 それともう一つ。

 この実地訓練は、事前に相手から「あなたの怪我を練習に使わせて下さい」という許可と、「織姫さんが治療しますが大丈夫ですか?」という許可は取っていますよ。

 見世物にされるのが嫌だったり、上が許可してても正規の死神教育を受けていない相手に治療されるのを嫌がる相手もいますからね。

 ちゃんと許可を取った中で、面倒な怪我人を選び、訓練用の教材になっていただいています。

 

「――……という順番です!」

「うん、問題はないわ。それじゃあ、その手順を意識してやってみて」

「はい! よかったぁ……」

 

 OKを出されると安心しますからね。

 私が許可を出したことで彼女は喜び勇んで、それでも慎重になることを忘れずに盾舜六花にて治療を開始しました。

 

「あ、あの……湯川隊長……許可はしましたけれど、本当に大丈夫なんですよね……?」

「ええ、勿論。彼女の能力は私も確認しましたし、手順も問題ありません。退院が少し早くなる、くらい気楽に考えていただければ問題ありませんよ」

 

 治療の最中、小声で尋ねられたので同じく小声でそう返事をします。

 すると相手はホッと胸を撫で下ろしました。許可は出していても、やっぱりどこか不安になりますからね。

 

「うんうん、良い感じね。肌の色が健康的になってきてる。その調子で続けて、でも他の部位に下手な影響は与えないように注意して」

「は……はい……!」

 

 時折そんな注意を入れつつ、治療は終わりました。

 

「じゃあ次はこの患者よ。彼の場合は――」

「……うっ……」

「はいはい、気持ちは分かるけれどちゃんと見る! 目を逸らさない! 患者はもっと辛い想いをしてるのよ! 彼の場合は皮膚の欠損が……――」

 

 ですが、終わったのはまだ一人目。

 前述しましたが、四番隊(ウチ)は怪我人に事欠きません。終われば次の患者、また次の患者、そのまた次の患者……と、彼女には経験を積ませていきます。

 

 ちょっと……花の女子高生に見せるにはグロテスクなのが多いんだけどね。

 

『グロ耐性が付いてしまうでござるな!』

 

 織姫さんって案外根性が座っているし、なんとかなるわよきっと……うん、きっと!

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「あうぅ~……」

「お疲れ様」

 

 時刻はそろそろ夕方へと差し掛かろうという頃、食堂のテーブルに織姫さんが突っ伏していました。

 結局あれから、延々と治療を続けさせてしまいました。

 お昼の休憩も挟むことなく。

 

 だって織姫さんってば、筋が良いからつい……教えたことをちゃんと聞いてすぐに取り入れてくれる良い子なんだもん……

 

『たしか校内テストで3番とかでしたな!』

 

 えっ! そうだっけ!? なるほど、基本的に秀才だったのね……だったら納得だわ。

 

 ……でも何故かしら?

 彼女は学業の成績が良い、と聞いてもどうもピンと来ないのよね……他の人にはよく分からない理論を展開していそうで……なんか怖い……

 

「遅くなっちゃったけれど、お昼……どうする? 食べられそう……?」

「いえ、その……あんまり食欲が……」

 

 突っ伏した体勢のまま顔だけ起こして答えましたが、顔色が少し悪いですね。

 まあ、慣れないと精神をガリガリ削られるような物ばっかり見てたからねぇ……

 

「ごめんなさい、織姫さんが優秀な生徒だったからつい……ちょっとやりすぎちゃったわね……」

「あっ! そんなことは……その、とっても勉強になりました! だから大丈夫です!」

 

 少し沈んだ表情を見せれば、彼女は慌てて身体を起こしてくれました。

 良い子だわ……本当に、良い子だわ……

 

「本当に? 今日はこの後、座学も予定していたんだけど……本当に続けて良いの?」

「あ……あの……あはは……ごめんなさい」

「いいのいいの。私もちょっと詰め込みすぎたから」

 

 流石にギブアップでした。

 まあ、彼女が「受けたい!」って言ったとしても、もう今日は切り上げるつもりだったから問題は無いんだけどね。

 

「それに、今日は本当に助かったわ。あれで二週間は退院が早まったみたいだし、みんな感謝してたわよ」

「そんな……でも、そう言ってもらえると……嬉しいです……」

「うんうん。織姫さんには、できればずーっと四番隊にいて欲しいくらいだわ」

「え……?」

 

 ぽかんとした表情の彼女の手をぎゅっと握り、彼女を正面から見据えます。

 ……あ、ちっちゃくて柔らかい。

 

「お世辞じゃなくて、本気よ。どうかしら? 今は確か、高校生よね? 卒業したら、四番隊で正式に働いてくれない? 上位席官で迎え入れるわよ」

「え……ええっ!! あのその……き、気持ちは嬉しいですけど……で、でも私……」

 

 頬を真っ赤に染めて、目を白黒させながらあわあわと泡を食った様子です。

 さて、どう返事をしてくるかしら?

 

「あ……あの……やっぱりごめんなさい!! 無理です!」

「ふふ、まあそうよね」

 

 握っていた手をパッと離しました。

 断られるのは、言ってしまえば想定内です。高校卒業後の進路にまさか「尸魂界(ソウルソサエティ)」って書くわけにも行きませんからね。

 なにより愛しの一護と離ればなれになっちゃいますから、断られるのは確定です。

 

 ですが可愛い姿を見ることができたので、私的には大満足です。

 あと、こっちとしても現世の人間を雇い入れるのは問題になりそうなので。

 

「でも気が変わったらいつでも言って。それにこの経験は、現世で医者とか看護師の資格を取る勉強に役立つ……かどうかは分からないけれど、実習という意味でなら足しになるはずだから」

「お医者さんに、看護師さん……かぁ……でも、どうしてですか?」

「え、だって……黒崎君の家の看護師になるんでしょ?」

「……え? えええぇぇっ!!」

 

 あらら、顔まで真っ赤――ううん、耳まで。首筋まで真っ赤になったわ。

 

「な、なんっ……でっ……」

「現世に行ったとき、クロサキ医院ってあったからてっきり……ああ、そっか。家が医者だからって、必ずしも子供が継がなきゃならないって考えちゃうのは、前時代的だったわね」

「そんな……私が、黒崎君とだなんて……えへへ……!」

 

 あ、ちょっと妄想している。

 あーもう、可愛いわねこの子!! おっぱい揉みた――もとい、おっぱいマッサージしてあげたい。

 

「じゃあその代わりに、一つ良いことを教えちゃおうかしら」

「え……なんですか、良いことって!」

「按摩とか整体とか……ああ、現世風にいうとマッサージよ」

「マッサージ、ですか……?」

「そう、意中の相手の身体の疲れを取ってあげるの。これなら絶対に無駄にならないでしょう? だって、疲れない相手なんていないんだから」

 

 そうやって言葉巧みに勧誘したところ、織姫さんは目をぐるぐる回しながらしばらく考え込んでいました。

 ですがやがて――

 

「……お、お願いしますっ!!」

 

 ――釣れたわ!

 

「ええ、それじゃあ場所を移しましょうか?」

 

 柔和に笑いながら頷き、彼女を隊首室へ連れ出しました。

 




本当はこの話、前話と合わせて1話まるごとの予定でした。
それが気がついたら、チャドと狛村隊長が出張ってきて……

とあれ、実地訓練もしているので実力は高くなっているはず。

そして次話は……(両手をワキワキ)

●織姫の学業
3位なのは原作通り。
ですが彼女のノートには、よく分からない図形は絵が所狭しと並んでいて余人には理解不能らしいです(小説ネタ)
(チャッピーを描くルキアも読み取れないので、多分本人以外は理解出来ないと思う)

●医者になるんだっけ?
原作終了後の一護の職業は翻訳家(読み切り)
織姫はパンとケーキの店の正社員(小説版)

それらの未来を知らないので「父親が医者だし」と適当なことを言う藍俚。
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