お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第172話 虚化に興味津々

「なあ、湯川さん……突然ですまねえんだが、ちょっと相談に乗ってくれねえか……?」

「……? それは大丈夫だけれど、どうかしたの?」

 

 織姫さんのおっぱいを思う存分堪能した翌日、お仕事中に執務室へやって来るなり開口一番、一護はそう切り出しました。

 なにやら思い詰めたように深刻な顔をしており、それだけで悩みの度合いがひしひしと伝わってきます。

 ですので仕事の手を止め、とりあえず彼を応接用の椅子へ座らせました。

 

「はい、どうぞ。粗茶ですけど」

「あ、ああ……ありがとう」

 

 長話覚悟でお茶も出したので、準備は万全です。

 さて、なにを聞かれるのかしら……? 

 

『それは勿論! どうやったら自分も織姫殿のおっぱいを揉めるかでござるよ!!』

 

 それは……ないと思う……多分だけど……

 

『では愛の告白でござるな!!』

 

 それもないと思う……

 

「その、ここ二日ほど一角と恋次に稽古を付けて貰ってただろ? その時から、感じるようになったんだ……」

「感じるようになった……って、なにを?」

「分かってんだろ……! 俺の中の力……(ホロウ)の力だよ……」

 

 あらら、ついに来たのね。

 おめでとう! 今日はお赤飯を炊かなきゃ!!

 

『一皮ムケた男になれるでござるよ!!』

 

 実際には被るんだけどね。お面を。

 

「――信じてやれ、優しくしてやれ」

「……ッ! その言葉……!!」

 

 と射干玉と二人で盛り上がっていると、どこかで聞いたセリフを言われました。

 具体的には30話くらい前にどこかの誰かが言ったような……

 

「ああ、そうなんだ。前に湯川さんから言われた言葉だ……けどよ! 信じろって言われても、いったいどうすりゃいいんだ!? 俺はアイツに乗っ取られちまうんじゃねえかって……そんな風に思っちまうんだよ……」

 

 目の前のテーブルをバシンと叩き、身を乗り出すようにしてこちらに迫ってきました。

 

「だから頼む! 俺にも、あの変な仮面の被り方を! あの力の使い方を教えてくれ!!」

「…………ずずず」

「茶ぁなんか飲んでないで! 頼む!! この通りだ!!」

 

 現実逃避気味にお茶を一口飲んだら、一護はさらに興奮してきました。

 とうとう床に正座して頭を下げています。

 

 ……さて、どうしたものかしら?

 

 (ホロウ)化って、ここで全部教えても良い物なのかしらね?

 えーっと、確か本来の流れだと……どうなるんだっけ……確か平子隊長が……

 

 ……ま、いいか。

 

「教えても良いんだけど、出来る?」

「本当か!! 何をすりゃいいんだ!? なんだってやってみせるぜ!!」

 

 現金なもので、そう言った途端に立ち上がって食いかかるように私の肩を掴みました。

 

『ん? 今なんでもするって……』

 

 ややこしくなるからやめて!

 

「まずあの面を被るのは、(ホロウ)化って呼んでるわ。そしてやり方は至極単純、内なる(ホロウ)を屈服させることよ」

「屈服させる……そうすりゃ、俺もその(ホロウ)化ってのが出来るようになるのか!?」

「そうなんだけど、もう一度確認するわね。"本当に出来るの?" 聞いたところによると、卍解も満足に使いこなせていない様だけど?」

「……ッ!!」

 

 その指摘に、一護は絶句しました。

 私の肩から手を離し、痛い所を突かれたとばかりに奥歯を噛みしめています。

 

「以前、私と更木副隊長との戦いを見学していたときに暴走しかけたでしょう? 屈服に失敗するとああなるの。理性を失って暴れ出すかもしれない――ううん、最悪の場合は(ホロウ)になってしまうかもしれないの。だから、色々と危険なのよ」

「また、(ホロウ)になるかもしれないってことかよ……!」

 

 なんとも複雑な表情が浮かびました。

 

 そういえば一護は以前にも、(ホロウ)になりかけたことがありましたね。

 死神の力を取り戻すために因果の鎖を切られたんでしたっけ? ……あらやだ、そういう意味では私にも遠因がありますね。

 

「私の場合は一晩でなんとか屈服できたけれど、黒崎君の場合も同じように上手く行くとは限らないわ。下手をすれば、私たちはあなたのことを"瀞霊廷に沸いて出た(ホロウ)"として処理(・・)しなきゃならないの……そんなことになったら、色んな子が泣くことになるから」

「そうだな……すまねえ、湯川さん! 少し、焦りすぎてたみてえだ!!」

 

 両手をパンと合わせながら頭を下げてきました。

 

「そんなに気にしないで。焦るのも当然だし、それにまあ……やり方もあるといえばあるのよ……」

「あ、あるのか!? 教えてくれ!!」

「そんなにがっつかなくても、教えてあげるから」

 

 さっきまで多少すっきりした顔をしていましたが、私の一言に食いついてきました。

 焦っても碌な事にならないのは事実ですが、解決策が欲しいのもまた事実ですからね。

 相手を落ち着けるためにくすくすと笑いながら、続きを話してあげます。

 

「まず、暴れても良いように結界を張るの」

「結界だぁ!?」

「そう。その結界の中で、内なる(ホロウ)を屈服させるのよ。内在闘争って言うんだけど、斬魄刀と対話するでしょう? あれと似たような感じよ」

「あー、アレか……」

 

 そういえばこれって以前に脅された「過度な干渉」に抵触しちゃうのかしら……?

 だ、大丈夫よねきっと! だってこれは一護の方から聞きに来たんだからセーフ!!

 こっちから「一緒に(ホロウ)化しようぜ♪」って誘ってないからセーフ!!

 

 ……ここは殴ってでも止めるのがお前の役目だろ! とか難癖付けられたらどうしようかしら……?

 ええい! ままよ!!

 

「ん? じゃあなんで結界が必要なんだ……? 今の話じゃ、特に暴れ出すような要因はねえんじゃねえのか?」

「ああ、それは卍解取得と同じ理由よ」

「同じ……って……?」

 

 一護が首を捻っています。

 なんで分からないのかしら。

 

「卍解を会得するためには、斬魄刀の本体を具現化して屈服させるでしょう? その時に、外部に影響が出るの」

「ああっ! なんだ、そういうことかよ!! 斬月のオッサンと戦ったアレみてーなもんか!」

「多分、想像しているそれで正解よ。ただ今回は相手が(ホロウ)だから、どんな影響が出るかはわからない。だから結界を張っておくの」

 

 たしか、そんな感じで一護を結界に閉じ込めていましたよね。

 

「あと前にも体験したはずだけど、(ホロウ)化は面を破壊することで外部から強制的に解除することもできるわ。だから、最悪の場合はそれで無理矢理止めることもできる――はず」

「はず!? ハズってのはどういうことだよ!?」

「どうなるかが、誰にもわからないからよ。仮面を割れば何度でも挑戦できるのか、それとも一度しか挑戦できないのか。はたまた仮面を割っても止まらないのか、そういうのを全部ひっくるめて情報が足らないのよ」

 

 私に言える事なんて、原作知識と微々たる実体験だけなんだもん。

 それを理解してもらえたのか、一護は申し訳なさそうに頭を掻き始めました。

 

「あ、ああ……そっか、すまねえ……」

「それともう一つ。今の黒崎君ってかなり強いのよ? 卍解まで会得した死神が、(ホロウ)化状態でさらに強化されて暴れてるの。そんな相手の仮面だけを壊すのって、かなり大変なのよ」

 

 かなり強い、と言われてちょっとだけ「まんざらでもない」といった表情になりました。

 十一番隊の頂点付近と稽古してたら「俺って弱いんじゃ……?」って思っちゃっても仕方ないからねぇ……

 

「まあ、それでも平時に影響が出る可能性もあるかもしれないから……その時は吉良君に頼みなさい。あの子なら鬼道で結界も張れるし、仮に暴れても能力で押さえつけられるわ。荒事の腕前もあるから、仮面もなんとか割れるわよ」

 

 吉良君に頼め、と言ったら一護がなんとなく拍子抜けした顔を覗かせました。

 

「え……吉良にか? アイツ、強いのか……」

「あのねぇ……あの子、阿散井君の次くらいには強いのよ」

「恋次の次に!?」

「そのくらい、霊圧を感じ取れば分かるでしょう? なんだかんだで一緒にいる時間は多かったのに……」

「いや、その……そういうのはどうも苦手で……」

 

 吉良君は見た目がちょっと、頼りなさそうな部分があるからねぇ……

 でもまあ、そこが可愛いんだけど。

 

「他にも、茶渡君や織姫さんも頼れると思うわ。二人とも、色々と思うところがあるみたいで足掻いてるわよ。うかうかしてると、追い越されちゃうかもね」

「チャドと井上が!?」

 

 あら? その辺は知らなかったのかしらね。

 意外そうな顔で「初耳だ!」って反応をしてる。

 

「あと現世に戻ったら、一心さん――お父さんにも聞いてみるのもいいかもね」

「ああ、それは当然、っていうか親父は絶対シメる。シメて聞き出してやるぜ! ……しかし、あの親父に聞くことがガンガン溜まっていくな。ヤミ金の利息じゃねえんだから……」

 

 シメるだなんて物騒ねぇ……

 

 ……え? 自分も霊術院の新入生をシメていただろうって……?

 あーあー、きこえなーい。

 あ! ヤミ金で思い出したわ。 

 

「そういえば現世にはあの子が……」

「まだなんかアテがあるのか!?」

「うーん、でもこれは内緒」

 

 平子隊長のことまでは流石に黙っておくとしましょう。

 放っておいても向こうから一護に接触してくるだろうし……あ! でも一筆くらいは助力してあげましょうかね。

 でも今はまだ内緒。なので指を一本立てて、秘密を表すポーズを取ります。

 

「それよりも今は自分を少しでも高めた方が良いと思うわ。自分を正しく律せるようにして、内なる(ホロウ)にも負けないくらい強くなるようにすれば――」

 

 と語っていたところで、外の方からドタバタとけたたましい足音が聞こえてきました。

 誰かしら、廊下を走っているのは? ……あ、止まった。

 

「た、たたたた隊長! 大変です! 大変なんですよぉっ!!」

「なっ!? なんだなんだ!?」

 

 扉を勢いよく開けて入ってきたのは勇音でした。

 身体を目一杯使って「緊急事態です!」と表現しているその姿は、慣れぬ一護を驚かすには十分みたいですね。

 私はなんというか……慣れたもんです。

 

「あらら、一体どうしたの?」

「その、涅隊長が来たんです! それで、隊長を出せって……!!」

「……はぁ!?」

 

 涅隊長が!? しかも私に用事!?

 全然身に覚えがないんだけど……!! 一体何かしら……?

 

「よく分からないけれど、どうやら私が行った方がよさそうね」

「お願いしますっ!」

 

 覚悟を決めつつ、私は執務室を後にしました。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「ああ、ようやく来たのかネ。まったく、遅いのだヨ」

「ずいぶんと御挨拶ですね、涅隊長」

 

 慌てて四番隊の玄関先まで出向いてみれば、こちらの姿を確認した途端に涅隊長が文句を言ってきました。

 

「それに、突然の来訪である以上は待たされることも想定出来るのでは?」

「フン! この私がわざわざ尋ねてやったのだ。無駄な予定など切り捨てるべきだヨ」

 

 相変わらずですねぇ……態度が本当に、唯我独尊って感じで……

 

「……まあ良い。こんな問答、それこそ時間の無駄だネ。とっとと要件を済ませるとしよう……」

 

 そういうと涅隊長は隊首羽織を脱ぎ捨てて……いえ、さらに死覇装を上半身まで一気に脱ぎました!

 えっ、えっ、何!? なんなの一体!? 何をする気!?

 

「さあ、私にマッサージをしてみたまえ!!」

「……は?」

 

 突然どうしてそんなことを……

 と思っていると、涅隊長の背中からほんのりと頬を赤らめたネムさんがこっそりと姿を表しました。

 

 あ! ものすっごく身に覚えがあった!!

 

マッドサイエンティスト(パパ)感づかれた(バレた)でござるよ!!』

 

 というか、まず服を着て!

 玄関先で上半身裸の男と会話しなきゃならないとか、どういうプレイよこれ!!

 

「聞こえなかったのかネ!? ネムに施したあの施術を、私にもしろと言っているのだヨ!! 早くやりたまえ!!」

「いえ、それは分かったのですが……一体どうして?」

 

 なんとなく理由は察しが付きますけど、一応尋ねておきましょう。

 

「なんだ、そんなもわからんのかネ? お前がネムの治癒を行ったと聞いて、データを取り直したんだヨ。その結果、どうにも肉体の反応が良くなっていてネ」

 

 あー、やっぱりソレですか。

 

「聞けばお前は、女性隊士をマッサージしているそうじゃァないか。美容に良いだとか、つまらん御託を並べて盛況だそうだが、特に興味など無かった……だが、データを見て興味が沸いてね。肉体の再生と活性化を促すにせよ、その数値はあり得ないものだ」

「……それで、ご自身で体験をしに来られた、ということですか?」

「そういうことだヨ! わかったら、さっさとやりたまえ!!」

 

 どうでもいいですけれど、叫ばないでもらえませんかねぇ……

 半裸の男が女性に向かって「俺をマッサージしろ」っていうのは、絵的には完全にアウトなのよ!!

 

「なんだなんだ……? って、うおおっ!?」

「あれって、技術開発局の……」

「涅隊長よね?」

「なんで脱いでるんだ……?」

 

 ほらああぁぁっ!! 騒ぎを聞きつけて野次馬が集まってきたじゃないの!!

 これ絶対に変な誤解されるやつじゃない!!

 

「……とりあえず、今日はもう帰ってくれませんかね……」

「どういうことだネ!? この私がこうして出向いているのだヨ!!」

「だからですよ!! 大したことはしていませんし、あの技術も大したものではありませんから、諦めて下さい!」

 

 ……本当は、かなり大したものなんだけどね。

 射干玉の執念がたっぷり含まれた粘液みたいなものだから。

 

『いやぁ、照れるでござるなぁ!! そんなに褒められると!!』

 

「フン、まあいい。そっちは"ついで"だ」

 

 強く断って強硬姿勢を見せていたところ、涅隊長は露骨に顔を顰めながらも矛を収めてくれました。

 

 って、ついで!? まだ何か用事があるの!?

 早く帰ってくれないかなぁ……

 

「……(ホロウ)化」

「ッ!!」

 

 狙いはそっち!?

 

「アレはいったいなんなんだネ?」

「……どこでそれを?」

「あの地下空間を作ったのは技術開発局(ウチ)だヨ? 気付かれないとでも思っていたかのネ?」

 

 なるほど、納得。

 筒抜けだったってことね、迂闊だったわ……

 もう十一番隊の地下を使うの、止めた方がいいのかしら?

 

「お前の霊圧についてはデータも取得済みだ。その能力、是が非でも解析させてもらうヨ」

「……まずは採血くらいで勘弁してもらえませんか?」

 

 降参だ、とばかりに片腕を差し出します。

 ここで抗っても仕方ありませんからね。

 

 力尽くで撃退することは可能ですが、そうなると後が怖い――というか面倒くさい。

 技術開発局を下手に敵に回せば、口に含む物まで全てを……それこそ空気すら疑ってかからないと、命が幾つあっても足りません。

 

「いいネェ……協力的な態度を取るのなら、コチラとしても強引な手段は取らんヨ。用意してきた捕獲道具が全て無駄にはなったがネ」

 

 そんなもん用意してたんかい!

 ……あ! よく見たら、あちこちに仕掛けっぽい雰囲気が漂ってる!!

 使われなくて良かった……

 

「あの、湯川隊長……私も少しだけ、よろしいでしょうか?」

 

 どこからか注射器を取り出した涅隊長が私の血を抜いている途中、ネムさんが話しかけてきました。

 

「先日、四番隊で洋服を作ったと聞きました」

「それって石田君のことだと思うけれど……」

「はい、その件です。それで、その……出来れば私にも一着、(しつら)えて貰えるように、頼んでいただけませんか……?」

 

 周囲を気にしながら遠慮がちに頼むネムさんは、もの凄く可愛かったです。

 

「任せて頂戴!」

 

 だから、思わず全力で引き受けてしまった私は悪くありません。

 




●マユリ
血液を貰ってとりあえず満足。
剣ちゃんとのバトル映像と霊圧データもあるので、研究が捗る。

●ネム
このあと、雨竜お手製のワンピースを貰えてご満悦。
ただ勿体なくて着れず、私室に飾っている。

●一護
虚化についてマユリに協力を頼もうかと一瞬考えるが、無事踏みとどまる。
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