お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第174話 瀞霊廷通信の表紙を飾るオレンジ髪の男

「ああ、いたいた。みんな、食べながらで良いからちょっと聞いて」

「「「「……?」」」」

「あ、先生!」

「隊首会、お疲れ様でした」

 

 隊首会も総隊長への按摩も終わり、四番隊へと戻って来たときにはもう日没に近い頃でした。

 まだ季節が夏なのでお日様も長く顔を出していますが、時間を見ればそろそろお夕飯の頃です。

 なのでここにいるかなと思って顔を出したところ、予想通り食堂で夕食を取っていた一護たち――仲良くなった桃と吉良君も一緒に食事中――へ話しかけます。

 

「今までお待たせしちゃってごめんなさいね。ようやく、現世に帰る許可が出たの」

「ようやくかよ!」

 

 今日も一護のツッコミが冴え渡ります。

 隊首会後の総隊長との会話でもチラッと触れましたが、一護たちを現世へ帰す許可を取るのに時間が掛かっていました。

 何しろ一護は、伊達に「連絡も無しに死神を辞めた一心の子供」で「分家とはいえ志波家の血を引く者」じゃないですから。

 あの争乱で受けた傷なんてとっくに治っていますが、この事実が貴族連中に難色を示させたそうです。

 

 この事実が無ければ、きっともっと早く帰れたんでしょうね。

 ……あ、その事実を広めた原因は私だわ。

 

『なお、いわゆる"原作では"一護殿たちの怪我が完治するまでの間、およそ一週間程滞在していたでござるよ!! ですので八月の上旬にやってきて、下旬にはお家に帰れたという日程でござる!!』

 

 それだけ聞くと、お友達との楽しい旅行をしていたみたいね。

 

「よかったぁ……! このまま夏休みが終わっちゃったら、どうしようかと思ってたの」

「あーあ、織姫さん帰っちゃうのかぁ……寂しくなるなぁ……」

「……あ! ご、ごめんなさい桃さん! そういう意味じゃなくて……」

「ふふっ、嘘々。やっぱり、家に帰れるのって嬉しいものね。でも、現世に行っても私のこと、忘れないでね?」

 

 あらあら、こっちは本当に仲良くなってるわね。

 

『病んデレな雛森殿など、どこ吹く風といったように逞しく生きているでござるな……』

 

 ねー、本当にね。

 

『(藍俚(あいり)殿に似たのでは? と、言うのは自重しておくでござるよ!! 拙者、気遣いの出来るゴムボールでござるからな!! HAHAHAHA!!)』

 

「吉良、ありがとな。その、色々とよ」

「世話になった……」

「まあ……面倒を見て貰ったからな。礼は言っていくよ」

「黒崎君、石田君、茶渡君。君たちと過ごしたのは数日間だけど、とても良い経験になったよ。また遊びに来て……は、難しいな。なんとか機会を作って、今度は僕の方から顔を出せる様にするさ」

「あー、そうだな……なら来たときには、街の案内くらいはしてやるぜ」

 

 こっちも仲良くなってるわねぇ。

 男同士の友情って感じよね。

 

『吉良殿がこんな会話をするなど……うーむ、原作からすればありえんでござるな!!』

 

「ということで、早ければ明日。遅くても明後日には帰る手筈は整うの」

「ええーっ!!」

「明日……明日だぁ!?」

「それはまた、急な話だな」

「いえいえ、準備だけよ。勿論、みんなが望むなら明日にでも帰ることは出来るけれど、どうする? まだ夏休み、だっけ? その日にちは残ってるのよね?」

 

 唐突な帰還日程を聞かされれば、そりゃあ不満の一つも出るわよね。

 なので、ちょっとだけですが日程は柔軟に出来るように調整済みです。

 なにより帰るだけなら、四番隊の穿界門(せんかいもん)を使えばすぐなので、準備なんてあってないような物なんですけど。

 だって許可出すの私ですし。

 

「そりゃまあ、な。明後日くらいの方が嬉しいっつーか、ありがたいっつーか」

「ていうか湯川さん、夏休みとか知ってるんだ……」

「一応、こっちにも夏期休暇はあるんだよ織姫さん」

 

 霊術院の夏期休暇のことね。

 

「まあ、そういうわけだから。予定は明後日に帰るってことでいいわよね? それじゃあ明日は帰りの準備とか、お別れの挨拶とか、お土産の準備とかを――」

「ああっ! いたあああぁぁッ!!」

 

 引率の先生よろしく、そうやって話を締めようとしたところで、食堂に大声が響き渡りました。

 その大声に私も、そして一護たちも――なんなら食堂にいた全員が――一斉に振り向きます。

 

「――って、何? あら、檜佐木君じゃない」

 

 声の主は、九番隊の檜佐木君でした。

 

『69の人! 69の人でござるよ!!』

 

 彼が四番隊に来たということは……ああ、多分アレ(・・)関係ねきっと。

 

「ああ、どうも先生。夜分遅くすいません。ただ、ちょっと現世から来た黒崎一護たちに相談がありまして……」

「瀞霊廷通信の取材でもするの?」

「はい! その通りです!! 実は『現世から来て瀞霊廷に大きな爪痕を残した存在について取り上げて欲しい』って要望も来ていまして……なので、取材のお願いをしに来ました!!」

 

 まあ、檜佐木君って言ったら話題に上がるのは瀞霊廷通信(コレ)関係よね。

 私や桃なんかは「ああ、またか」って反応ですが、一護たちはぽかーんとしています。

 あら? ひょっとして知らないのかしら……?

 

「今を逃すと現世に帰ってしまうって聞いたので! なので、お願いします! この通り!!」

「私に頭を下げられても……ていうか、耳が早いわね。黒崎君たちが帰るって話は、どこから聞いたの?」

「いや、実は総隊長からでして……」

「え?」

「ほら、先生が総隊長と話をしていたじゃないですか? その時、俺は別室で待っていたんですよ。黒崎一護たちのことを取り上げて良いか、総隊長から許可を取ろうと思って」

 

 隊首会は、基本的に隊長副隊長がセットで一番隊へ行く。

 隊長は、会議に出席する。

 副隊長は、会議が終わるまでの間は別室で待っている。

 と言う形です。

 

 が、今日の場合は隊長のみが出席する形式でした。

 となれば檜佐木君は、副隊長の自分だけで一番隊まで行って、隊首会が終わって私の按摩も終わるまでずーっと待っていた。ということに……

 

「あらら、それはそれは……待たせちゃったわね。それで、ここにいるってことは、許可は取れたの?」

「いえまあ……待つのは別段いいんスよ。待つのも仕事の内、みたいなもんなんで……んで、許可の方は、はい! 取れました! なもんで、こうして次は本人たちに許可を取りに来ました!」

 

 しかし、よく許可が取れたわね。

 まあ尸魂界(ソウルソサエティ)的には、藍染のあの事件は無かったことにするには大きすぎました。無かったことにしてしまうと、あっちこっちに大規模な歪みが生じます。

 なので、公的に扱いつつも瀞霊廷通信で一護たちのことを取り上げて矛先をずらそうとか、そういう狙いがあるのかしらね。

 

「つーわけで、お願いします! 取材を!!」

「いや、お願いしますって言われてもよ……まず、瀞霊廷通信? ってのはなんなんだよ……」

「えっ!? 黒崎君、読んだことないの?」

「僕でも、一度は目を通したぞ?」

「面白かったぞ……」

「なっ……井上も石田もチャドも知ってんのか……!? 知らねえのは俺だけかよ!!」

 

 知らないのは一護だけでした。

 結構、振り回されていたからねぇ……他の三人と比べて、時間的な制約が大きかった弊害かしら?

 

「簡単に言うと、瀞霊廷で出回っている新聞――いえ、情報誌って言った方がきっと伝わり安いわね」

「情報誌? んなもんまで出てるのかよ……」

「官報のような予定やお知らせも載っていたが、着こなしとか雑学とか、あとは各隊長の連載などもあったぞ。気楽な読み物だよ」

「あたしのオススメはねぇ……やっぱり、双魚のお断りかな」

「ああ……アレは良いな。面白かった」

 

 浮竹隊長の連載小説よね。アレ、本当に人気があるのよね。

 痛快でわかりやすいのがウケてるのよ。

 石田君すら、織姫さんの言葉にうんうんって頷いてるもの。

 

「マジかよ……ちょっと読んでみてえ……」

「なら、後で休憩室に案内してあげるよ。あそこなら、直近の号から一年分くらい前まで保管してあるから――」

「おっと! その必要はねえぜ! そういうこともあるだろうと思って、こっちで用意してきたからな! ほら、最新号だ! どーんと見てくれ!!」

「――どうやら必要ないみたいだね……」

 

 吉良君が提案しかけたところで、横から割り込むようにして檜佐木君が懐から瀞霊廷通信(今月号)を取り出すと、手渡し……いえ、あれはもう押しつけてます。

 

『絶対に読ませて、許可をもぎ取ってやるという熱意を感じるでござるよ!! 記者魂でござるな!! あのくらい図々しくないとやってられねえでござるよきっと!!』

 

 熱意も行き過ぎると「これだからマスコミは……」なんて言われちゃうんだけどね。

 

「ふーん……本当に、軽いな……内容……」

 

 無理矢理渡された雑誌をパラパラとめくったかと思えば、ぽつりとそんなことを呟きました。

 そういえば、今月号の巻頭特集って確か――

 

『乱菊殿の"できる上司と上手に付き合う方法"でござるよ!! いやぁ、拙者も乱菊殿のお尻に敷かれたいでござる!! 転生したら座布団だった件!! とかなんとか、出来ないでござるか?』

 

 ああ、思い出したわ。それなら一護の反応も納得ね。

 

「まあこのくらいなら俺は別に、問題はねえ……かな?」

「あたしも、良いですよ」

「同じく」

「僕は遠慮させて貰うよ。死神の広報誌に滅却師(クインシー)が載るなど、あり得ないことだからね」

「なあっ!? い、いやその……出来れば参加してくれねえか!?」

 

 三人が許可を出す中で、あらら。石田君だけは難色を示してるわ。

 一人だけ参加しない宣言に檜佐木君がちょっと困ってる。

 それじゃあ、ちょっとだけ助け船を出してあげましょうか。

 

「でも一人だけ不参加ってなると、石田君のことが面白おかしく書かれるかもしれないけれどいいの? 火のないところに煙が立っても知らないわよ?」

「……ッ! し、仕方ないな!! 取材はNGだが、監修はさせて貰うよ! 滅却師(クインシー)の名誉の為にも!!」

「難儀な奴……」

 

 一護がボソッと呟きました。

 

「えー……とにかく、全員OKってことで良いんだよな!? ありがてぇ!! んじゃ、明日の朝に改めて取材に来るから、ちょっと待っててくれ!」

「ん? ここ(四番隊)で待ってりゃ良いのか?」

「へへ、まあな。こっちから取材をお願いしている立場なんだから当然だろ? なので先生、四番隊の応接室を……」

「それなら勿論許可するわ、使って頂戴。でも明日には全員がそれぞれの予定もあるんだから、あんまり長い時間質問攻めにはしないであげてね」

「分かってますって! そんじゃ、失礼します! お前ら、明日はよろしくな!! はぁ……忙しい忙しい……!」

 

 言いたいことを言い終えて約束を取り付けると、すぐさま帰って行きました。

 去りながら口にしていた内容から察するに、これから取材の準備とか整えるのかしらね? 急な出来事だったから、まだ準備が整ってないんでしょうねきっと。

 

「うわー! どうしよう桃さん! インタビューだって! 取材だって!! お、オシャレとかした方がいいのかな……!?」

「大丈夫ですよ。私も取材を受けたことありますけれど、そんなに肩肘張る物じゃないから」

「ええーっ、でもでも~……」

 

 一方、織姫さんは桃とそんな感じでウキウキしてます。

 

「それに瀞霊廷通信の取材だったら、先生に聞くのが一番手っ取り早いから」

「私が? でも過去に何度か特集を組んで貰ったくらいだから、そんなに大したことじゃないわよ? 人に心得を説明できるほどじゃ……」

「またまたぁ! ほら、先生が隊長になったときの記事とかあるじゃないですか!」

「他にも先生は、時々お菓子の作り方(レシピ)を紹介していたりもするんだよ」

 

 ここぞとばかりに桃と吉良君が私のことを持ち上げてきますね。

 

 お菓子のレシピは、一番隊のお茶会です。ほら、雀部副隊長主催のアレですよ。

 紅茶に合わせた洋菓子を中心に紹介しています。

 締め切りさえなければ、楽しい作業なんですよ……締め切りさえなければ……

 

「そういえばそうね。アレも檜佐木君に依頼されて原稿を……あっ! ……そういえば、檜佐木君って自己紹介してない……わよね……?」

「……あ!」

「ああっ!!」

 

 私に続いて、桃と吉良君も声を上げました。

 ようやく気付きましたが、一護たちは檜佐木君が"何番隊か?"とか"なんで取材を申し込んでいるんだ?"といった裏事情を知らないわけです。

 そりゃ、ぽかーんとした顔にもなるわよね。

 

「それじゃあ、僭越ながら私から説明するわね。彼は、檜佐木修平君。あれでも九番隊の副隊長なの」

「副隊長!? ってことは、恋次や海燕さんと同じかよ!!」

 

 更木剣八も副隊長だけどね。

 

「それと九番隊は、瀞霊廷通信の刊行も業務なの。現世風にいうと、あの子は出版社の編集長よ」

「編集長!? 途端に偉い人に見えてきたぜ……副隊長で編集長……うーん……??」

 

 なんだか一護の中で死神の位置づけが変な事になってないかしら?

 

「ちなみに彼は、顔に69って素敵な数字の墨を入れたことでも有名なのよ」

「……ぶふっ!!」

「「……」」

「……?」

 

 一護が吹き出しました。

 織姫さんはぽかんとしています。

 他の二人は無表情を装っていますが、無表情を装う(・・)ということで、なんとなく理解していますね。

 

「い、いやアンタ急に何を……」

「以前の九番隊に六車拳西って隊長がいてね、()()番隊ってことで隊首羽織の背中に69って数字を染め抜いていたの。それに憧れて、彼は死神になったし入れ墨も入れたのよ」

「あ、ああ……そういうことかよ。けど六車ねぇ……」

 

 多分、もうちょっとすると会うことになるはずだから覚えておいてね。

 それで、思いっきりツッコミを入れてあげなさいな。

 

「他にも九番隊は、写真集とかも出しているんですよ」

「勇音!?」

 

 いつの間にやら、勇音が会話の輪の中に入ってきました。

 

「各隊の隊長の写真集とか、人気なんですよ。見てみますか?」

 

 用意が良いわね。

 各隊長の写真集なんかも持って来ていて、もう配って……あら? 私のもあるわ。

 

『あのドスケベ写真集でござるな!』

 

 ドスケベ言わないの!!

 

『ですが、未成年に見せるのは問題で――おやおやおやぁ? 面白いことになってるでござるよ!!』

 

 え、え? 何が?

 

「え! ちょ、ちょっと待った……!! これアンタか!? うわ……」

「え……ええッ!! く、黒崎君は見ちゃダメーっ!!」

「ぐおっ!?」

 

 織姫さんが大慌てで一護の目を塞ぎました。

 あらら、自分だけを見て欲しいっていういじらしい乙女心かしら。

 

 そんなこんなで夜は更けて翌日、一護たちはきちんと取材を受けたそうです。

 私はその場にいなかったので詳細は分かりませんけどね。

 

 

 

 ――ですが、詳細を知る機会はきちんとあります。

 

「こうやって見ると男前よねぇ……」

 

 九月も少し回ったある日、瀞霊廷通信の特別増刊号――つまり、一護らの特集記事をまとめた号――が発行されました。

 表紙を飾る一護らの姿はなんとも凜々しい物ですね。

 流石は主人公たちです。

 

 結構人気も出て、増刷したみたいですよ。

 

 ただ……

 

「先生! 現世についてもう少し詳しく教えて下さい! 特にバイクについて!!」

 

 一護たちから知ったのでしょう。

 檜佐木君が現世の文化に触れて、興味津々です。

 どうやらバイクとかギターのような、パンクな感じ……って言うんですか? そういった雰囲気の物に、もの凄く食いついたご様子。

 

「また? 私、そこまで詳しくないんだけど……」

「良いじゃないですか!! ねっ、ねっ! この通りっスから!! 最新の情報を! どうか!!」

 

 勤務時間内なのに、押しかけられるのがちょっとだけ困りものです。

 




次話でようやく帰りますよ。

●作中時間
原作だと、現世に戻ったのは8月21日のようです。
拙作だと、現世に戻れるのは8月25日以降になりそうです。

夏休みの宿題……大丈夫なんでしょうかね……?
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