ここはサクサク行きますよ。
「悪ィな。明日になったら文句ぐらい聞いてやるからよ」
代行証を当てて自らの身体からコンを追い出すと、摘まみ上げた義魂丸を見ながら一護はそう口にした。
「やれやれ、やっと帰ってきたな……」
ようやく静かになった自室。
そのベッドに腰掛け、一護は誰に向けるでもなく呟いた。
思わず寝転びたくなったが、外はまだ明るい――というよりもまだ朝の時間帯だったため、なんとなくそれは止めておいた。
「長かったような……短かったような……」
見慣れた天井を眺めながら、彼は
自分の親戚――ほぼ間違いなさそうだがまだ確証は取れていない――に出会ったこと。
卍解を会得したこと。
藍染惣右介のこと。
やたらと世話を焼かれた、四番隊の隊長のこと。
そして――ルキアが
それらの出来事を一つ一つ思い返すと、思わず溜息がこぼれ落ちた。
(……てか、コレ全部コンに話さなきゃならねえのか? 俺の身代わり役でもあるから、知らせてもいい気はするんだが……)
「面倒くせェ……ん? 何の音……?」
思わず口から言葉を漏らしたときだ。
まるでそのセリフをかき消すように、部屋の外からドタドタと下品な音が喧しく響いてきた。
思わずドアの方向に目をやると――
「グッッモーーーニン! イッチゴーーーーッ!!」
――父親がドロップキックで突進しながら部屋へと乱入してきた。
ご丁寧に自室の扉を蹴破るオマケ付きである。
「……ああ、そうだったな。親父に聞かなきゃならねえ事が山ほどあったんだわ……危ねえ危ねえ、思い出させてくれてありがとよ……」
「お……おう、一護……どーしたぁ……? よくわからんが、父さんも役に立てたみたいでうれしいぞぉ……」
ドロップキックを自らの身体で受け止めつつ、鬼の様な形相で睨んでくる
息子の言動から嫌な予感がする……というよりも、嫌な予感しかしない。
それもとびっきりの悪寒なのだ。
「すまん、父さんは塾の時間だからこれで。あ、ドアは後で直しておく……」
「待てやコラァッ!」
大急ぎで誤魔化しながら逃げようとするが、当然そんなことが通じるはずもなく……
一護に肩を掴まれ、そのまま胸ぐらを締め上げられた。
無理矢理正面を向かされたかと思えば、そのまま一護は一人の名を叫ぶ。
「志波海燕!」
「……ッ!!」
「表情が変わったな? やっぱりかよ、親父……海燕さんたちから聞いたぜ、あんたの
「……なるほどな」
真剣な眼差しで見つめてくる息子の姿に、一心はこれ以上逃げられないと悟り、両手を軽く挙げて降参のポーズを取った。
それを見た一護も締め上げていた手を離す。
「やっぱりアンタは死神なのか!? ならなんで霊が見えねえんだ!? 俺は死神から産まれたのか!? 答えろ!!」
「ああ、一護。それはな……」
「それは……?」
普段は飄々としており、巫山戯た言動ばかりしている父親ではあるが、時折こうした真摯な様子を見せるときがあった。
だが今回見せたそれは、今まで一護が見たどの瞬間よりも真に迫る雰囲気を放っている。
ゴクリ、と思わず生唾を飲み込みながら、次の句を待つ。
「……お前にはまだ早い!」
が、サムズアップしつつ精一杯のお茶目な笑顔を見せて言い切った姿に、全部ぶち壊された。
落差で思わずギャグ漫画のように一護が転ぶ程にである。
「な、なななな……」
「夏休みの前にも言っただろうが。お前にはまだ早いの。そういうのは、俺が話をしても良いと思った時まで待つ! ってな」
「あーわかったよ! そういう態度を取るならアレだぞ、こっちも湯川さんに言いつけてやっからな!!」
「なにいいいいぃぃっ!?」
てっきり自分の正体について教えられると思っていただけに、その落差は大きかった。
売り言葉に買い言葉、ではないが。
頭に血が上った一護がヤケクソ気味に叫ぶと、一心が分かり易いくらい分かり易く動揺する。
「ななななななななあ一護? いいいいい今、誰に言いつけるって……?」
「あン? 湯川
「隊長……隊長だと!? 副隊長じゃなくてか!?」
副隊長? と一瞬疑問に思ったが、副隊長から隊長に出世するくらいは普通にあることだろうと、一護はその疑問を飲み込んだ。
……実際は、そんな簡単な物ではないのだが。
「あの人、まさか隊長になってたのかよ……いや、隊長にならないのがおかしいとは思っちゃいたがそれって他の部隊ならまだしも……マジかよ、おいおい……それじゃ前の卯ノ花隊長はどうしたんだ? まさか自力で隊長まで上り詰めたのか……? 副隊長時代でも散々やられたのに……いやアレは俺がサボっていたからだが……けど本家の都さんを助けたってこともあって頭上がらねえし……ぐぐぐぐぐ……」
「おいヒゲ。モノローグっぽくして誤魔化そうとしてっけど、全部聞こえてっからな?」
頭を抱えながらブツブツを呟く――しかも呟きながらゆっくり離れて逃げている――父親の姿に、一護も釣られたように頭を軽く抑える。
「……やっぱり、あの人に全部聞くべきだったな。そういや井上の奴が連絡を取れる道具を貰ってたからちょいと借りて――」
「ちょちょちょちょちょっと待った一護!? 織姫ちゃんがなんだって!?」
「あん? 伝令神機、だっけか? 携帯電話みてえなアレだよ。アレを井上が湯川さんから貰って――」
「何を渡してんだあの人おおぉッ!!」
「お、おう……」
さっきから
なので「次からは何かあったらこの手でいこう」とも思ったとか思わないとか。
「……ええい、わかった! 一護、特別大サービスだぞ!! ……俺は死神だったんだ」
「それはもう分かってんだよ!
「いいから聞け! 死神
「だった……?」
だった、という遠回しな表現に首を傾げれば、一心は力強く頷いた。
「ああ、そうだ。二十年前に、ちょいとした事件があってな。俺は死神を辞めることになった」
「……まさかそれって!」
「ああ、そのまさかだ。母さんと出会ったからだ。そこで色々あってな、俺は死神の力を失った……いや、今まで失っていたんだ」
「じゃあ、俺は……死神と人間との混血ってことか?
自分と、双子の妹たちの出生の秘密を知らされ、一護はへたりと座り込んだ。
当然、覚悟もできていたつもりだったが、だが実際に父親から話を聞くのは想像以上に心が動かされるものだった。
「でもそれじゃ、なんで死神の力を失ってんだよ? それが、お袋と何か関係があるのか!? いや、さっき失ってたって言ったよな!? 戻ったのか!? 戻るような特訓でもしたのか!?」
だが一護の疑問は尽きない。
というか、一つの答えを聞けばその何倍もの疑問が一気に湧き上がるのだ。
さながら餌を求める動物のように、もっともっとと問い詰めてしまう。
「おっと、今話せるのはこの辺までだな。続きは、お前が酒でも呑めるようになってからだな」
「はぁ!? なんだよそりゃあ……」
「なんと言われようと、駄目な物は駄目だ」
だが一心は「これ以上は話せない」とばかりに、意固地な態度を崩さなかった。
その様子に、もうこれ以上は食い下がっても無理そうだと一護は矛を引っ込め――ようとしたところで思い出した。
「じゃあ、もう一つだけ聞くぞ?
「あの人、本当になにやってんのおおおぉぉぉッ!?!?」
「……ッ!?」
気付けば、一心が床の上で悶えていた。
イモムシのような体勢でぐねぐねと不気味な動きをしつつ、頭を抱えている。
父親の情けない姿に、一護は何も言えなかった。
だがその気色悪い動きもピタリと止まり、一心は能面の様な無表情でスッと立ち上がる。
「一護……父さん、頭痛いから今日はもう休むわ……」
「お、おぅ……」
そのまま音もなく部屋を出て行く姿に、一護は頷くのが精一杯だった。
嵐の様な勢いが去り、ようやく静かになった部屋の中では――
「あ、やべぇ! 海燕さんからの手紙!! 渡すの忘れてた!!」
一心のノリとテンションに翻弄されすぎて、頼まれていた重要な要件を完全に忘れたことに気づくと、慌てて父の後を追う。
「おい! ちょっと待った親父! 手紙だ!! 海燕さんから手紙を預かってんだよ! あと都さんと
「……なんだ一護? 父さんもう休むって……ってなんだとぉ! 手紙だぁ!? てか、
「娘だよ! 海燕さんの!! そんなことも知らねえのか!?」
「娘!? ってことは子供が産まれてたのか!? い、いいいい一護どうしよう!? 挨拶くらいには行った方が良いかな!?」
「知らねえよ!! とにかく手紙は渡したからな!!」
その日、黒崎医院には「誠に勝手ながら、都合により今日・明日は休診とさせていただきます」という張り紙が貼られていたそうな。
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やがて日は過ぎ、夏休みが終わり二学期が始まった。
黒崎一護は、本来は高校生である。
学生生活と死神代行という二足の草鞋に生活を振り回されつつも、なんとか両立させていた九月二日に、事件は起こった。
「黒崎一護、死神代行だ! ほれ、代行証」
代行証からの「
ルキアの代わりに空座町の担当になったというアフロヘアの死神――名前は
「な……なんだそれは!! 代行証!? そんなの見たことも聞いたこともないわッ!!」
「はぁ? なんだコレ、全然役に立たねーじゃ……あ!」
だが、効果が無い――どころかむしろ相手の怒りすら買う羽目になった結果に、代行証という物の存在に疑問を感じ掛けた瞬間、一護は思い出した。
出立直前、代行証を渡された際に
「えーっとな、コレは一応、浮竹さんや湯川さんも認めていた正式な物らしくてよ。出来れば話を……――」
「ゆ、ゆゆゆ湯川さん、だとぉっ!? ま、まさか湯川隊長のことか!?」
「あー、そうそう。四番隊の」
「あ、ああああああああっ!!」
湯川
まるで先日の、自分の父親も似たような反応をしていたことを彷彿とさせる光景だ。
車谷善之助は、死神である。
死神ということは、霊術院を卒業していることになる。
つまり……
入学直後、まだ若かった彼は「十一番隊もいいな」と考えていた。意外と血気盛んであったのだ。
その後、当然シメられた。霊術院名物、初日の歓迎会である。
それでも根が真面目な彼は、時々
――余談ながら。
原作での彼は、始解が出来る程度には斬魄刀との対話も済ませている。
そういう意味ではエリートに属している。
斬魄刀の能力が「地面やコンクリートをボコッとさせる」くらいしか見せ場が無くても、始解が出来る時点でエリートと言えなくもない。
ルキアに代わって急遽現世の駐在任務に就くよう選ばれているので、もしかしたらエリートかもしれない。
――さらに余談だが。
原作でもその程度にはエリートである彼が、この世界では
サンドアートコンテストとか土器コンテストみたいな催し物があれば、きっと彼は活躍できるだろう。
なお披露する機会は多分無い。
「わ、わかった! 代行証! 多分きっと効果があると思います!! 保証します、私が!」
「明らかに代行証の力じゃねえよなコレ……湯川さん何やったんだよ……」
その適用範囲は、車谷だけに留まらず……
「……はァ!? ちょい待ちぃや!!
「うおおおっっ!! って、てめえは平子……!?」
後ろから聞こえてきた絶叫……というかツッコミというか。
驚いて振り向けば、そこには一護のクラスに転校してきた平子真子の姿があった。しかも何やら驚いた反応をしている。
だが驚かされたのは一護も同じだ。
一護と車谷のやり取りを聞いていたであろう言葉の内容も気になるし、片手に斬魄刀を握っているのも気になって仕方がない。
先日の、父親との会話の疑問ですらまだまだ混乱しているというのに。
気を取り直した平子真子が「コレ、何や?」と
●一護の母親の呼び方
気を抜くと「母さぁぁんっ!!」って書きたくなります。
……ブロックワードが発動しちゃう。
(
●アジトに帰った後の平子
平子「なんか、藍俚ちゃんも虚化できるんやて……黒崎一護が言うとったで……」
ひよ里「はぁ!! 嘘やろ!?」
次は、ヤミー戦かな。
この辺はチャドと織姫も出てくるので、一旦話を切ります。
●追記(2023/04/15)
166話で、一心宛の手紙を海燕から貰っているのを完全に忘れていたので。
その部分周辺の描写を追加。
(ラスト部分に、ねじ込みました)