お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第181話 働く先遣隊

 志波先遣隊の面々が現世へとやって来てから、丸一日ほどが過ぎていた。

 彼らは――実質的なリーダーである志波海燕の統率によって、極めて合理的かつ効率的に任務を送っていた。

 

「しかし、こうも大型の販売店があるとは未だに信じられないな」

「本当だよね。個人商店もあるんだけど、色々揃っていて便利だからつい来ちゃうんだよね」

 

 そんな会話を交わすのは、吉良と雛森である。

 二人は近所の大型スーパーにて、日用品や食料品の選定・購入に勤しんでいた。 

 

 繰り返しになるが、四番隊は救護や後方支援を担当する部隊である。

 そして此度の任務は、何時、何処で敵が現れるのか予測も出来ない中で、一護たちを守らなければならない。

 例えるならば、最前線での護衛任務を命じられたに等しい。

 十分な補給もバックアップも約束されていない上に、土地勘も無い場所であっても、先遣隊の面々へしっかりと支援を行う。

 それこそが、四番隊の役目なのだ。

 

「へえ、外国の調味料か……買ってみようっと」

「シャンプー、ボディソープ、化粧品……うわぁ、すっごいいっぱいある……どれが良いか、織姫さんに聞いてみようっと……あ、このパジャマかわいい!」

 

 だから決して、昼間から近所の大型スーパーで買い物を楽しんでいるわけではない。

 これは補給作業、後方支援のために必要な物資を揃えているだけなのだ。

 

 お金があるからついつい、ちょっと気になった物を買ってしまっているわけではない。

 現世の見たこともない商品の数々に目移りしてしまい、ショッピングを楽しんでいるわけでは、決してない。

 

 これはこれで四番隊の役目なのだ。いや、本当に。

 戦闘で怪我をした相手の救護は当然、後方支援なのだから同行者たちの日常生活のサポートもまた、お仕事なのである。

 栄養満点で美味しいご飯を用意したり、消耗品や日用雑貨を揃えて暮らしやすくするのもまた、お仕事なのである。

 いうなればこれは、買い物という名を借りた立派な補給業務なのだ。

 

 とはいえ――

 

「キャベツが安売りしてるね」

「さっき豚肉も安売りしてたから、お夕飯はお好み焼きとかどうかな?」

「いいね。でも鉄板がないから……」

「あっ、そっかぁ……じゃあ、何か別の献立にしなきゃ……」

「栄養バランスが崩れやすくなるから、野菜は多めに――って、先生から言われてもいるから……」

「うーん、そうなると……」

「となると、鉄板も買っておくべきかな……」

 

 口元に手を当てたまま、野菜売り場にて思案顔を浮かべる二人。

 やり取りの内容もあって、その光景は知らない人が見たら「ひょっとして若い恋人同士?」「新生活を始めたのか?」「微笑ましい……」などと勘違いされそうなほどだ。

 当人たちに恋愛(そういう)感情は一切ないのだが。

 

 

 

 

 

 雛森たちが熱心な補給業務へ勤しんでいるその一方では――

 

「あちらの方角が一護の家で、こちらの方角が一護たちが通っている学校です」

「ほーほー」

「それとあの河を挟んだ向こうは鳴木市と言って、空座町の外になります」

「ん……ああ、アレか」

 

 ビルの屋上から周囲を見渡しつつ、ルキアの説明に海燕が頷いていた。

 一通りの説明を聞き終えると、彼は大きく息を吐く。

 

「やっぱ、こうして俯瞰で見ても駄目だな。全然頭に入らねえわ」

「そんなことは……すぐに慣れますよ」

 

 海燕が行っているのは、街の地理の確認である。

 全く土地勘の無いこの空座町のことを少しでも知るために。一護や茶渡、織姫の家の場所を覚えておくことで有事の際には即座に駆けつけられるようにと、地形を頭に叩き込んでいた。

 

「そうは言うが……見慣れねえ建物ばっかりでなんとも……」

 

 だが、どうやらまだ物珍しさが勝っているらしく、難儀しているようだ。

 「降参だ」とばかりにしゃがみ込んでしまったのがその証拠である。

 

「そういや、朽木はどうやって覚えたんだ? 短い期間とは言え、この街にいたんだろ?」

「わ、私ですか? そうですね……やはり、実際に動いて景色を覚えるしか……」

「はぁ……やっぱ、それっきゃねーか……仕方ねえ!」

 

 再び一つ嘆息すると、海燕は勢いよく立ち上がる。

 

「俺はとりあえず、グルッと回って道を覚えてくる。朽木はどうする? ついてくるか?」

「はい、お供します!」

 

 二人の地形確認は、どうやらまだ続くようだ。

 

 

 

 

 ――そして。

 

「……暇だ」

「俺らの任務を考えたら、暇なのは良いことなんスけどね……」

「だからといって、こうも何も無いのは流石に退屈だよ」

 

 空座(からくら)第一高校の屋上では、恋次・一角・弓親の三人が暇を持て余してボヤいていた。

 とはいえ彼らも別にサボっているわけではない。

 言うなれば彼らは、護衛任務中である。

 

 前回の――ウルキオラとヤミーの二人の行動から察するに、敵は霊圧の高い相手を狙ってくるだろうと公算を立てていた。

 そのため最も狙われる可能性が高いのは一護・茶渡・織姫の三人である。

 敵がいつ現れても即応出来るようにと、彼らは屋上で待機を続けていた。

 

 ついでにこの学校にはとある人物(・・・・・)の影響からか"一般人よりも霊圧の高い者"が何名か在籍しているので、それらも可能なら護るための三名体制なのだ。

 尤も――

 

「ま、退屈なのも今日までの辛抱だよ」

「そりゃ弓親さんだけでしょうが! 俺は明日も明後日も当番ですよ!」

「明日まで当番か……長えな……」

 

 ――との会話からも察せる様に、護衛は当番制による一日交替の持ち回りである。なお海燕が決めたことのため、文句も言えない。

 

「暇なら仮眠でも取ったらどうだい? まだ先は長い――」

「――おっ! 一護たち動いたぞ」

「え……? ああ、ありゃ昼飯の時間だからっスね」

「お昼休憩ってわけだね。やれやれ、ようやくか……うー……んっ……!!」

 

 誰も襲ってこない退屈な護衛任務に辟易しながら、弓親が大きく伸びをする。

 

「……僕たちもお昼にでもしようか?」

「だな」

「そっスね。何もしなくても腹は減りますから」

 

 余談ながら、お弁当は吉良と雛森が作った物である。

 これもまた四番隊の仕事なのだ、多分。腹が減っては戦は出来ぬと言うし。

 

「ああっ! いたっ!!」

「「「……?」」」

 

 各々が弁当を広げ始めたところで、屋上に予期せぬ闖入者がやって来た。

 

「あんたたち、どこのクラス!? 朝からずーっと屋上でサボってたのは、ばっちりこの目で見てたんだからね!! ほら、さっさと白状……し……ろ……」

 

 現れたのは、茶色がかった髪を後ろで束ねた女性だ。制服を着ていることから、この学校の生徒なのは言うまでもないだろう。

 彼女はなにやら、やたらと威勢の良い、強く厳しめの口調で一角たちを問い詰めようとしていたが、途中で一瞬にしてその勢いが消える。

 獲物を睨むような鋭い目をしていたのも最初だけで、今では豹変したように柔らかくも熱い眼差しを一角へ(・・・)向けている。

 

「な、なんだ……?」

「あの……私、浅野みづ穂って言います。この学校の生徒会長をしていて、その……学年とクラスとお名前は……?」

 

 やたらと媚びたような、柔らかな物腰を向けられて戸惑う一角であったが、みづ穂は意に介さずに詰め寄っていく。

 なぜなら彼女は、坊主頭が大好きなのである。

 

「生徒会長……?」

「あー、たしか寮長みたいな役職だったはずですよ」

「というか一角、彼女に何かしたのかい?」

「一角って言うんですね……素敵な名前……素敵なボウズ頭……」

「……はぁ?」

「でも彼はウチの学校の生徒……生徒会長として、サボっている生徒を見逃すというのは……ああっ、でもでも……!!」

 

 何やら頭を抱えて悶えるみづ穂であったが、彼女がこうなるのもちゃんと理由はある。

 

 まず、原作では現世にてずーっと制服を着ていた恋次たちであったが、この世界ではそんなこともない。

 現世のしおりにも「日中や深夜に制服を着ていると怪しまれるから、学校に行くとき等の必要な時だけ着用するように」との注意書きがされているほどだ。

 なので、雛森たちや海燕たちはそれに従い私服で動いていた。

 

 だが彼らは違う。

 学校で護衛をするので目立たないように制服を着ていたのだが、屋上でずーっと待機していたことから「サボりの学生だ」と誤解された。

 サボりの学生を生徒会長がシメに来たところ、好みのボウズ頭を発見。悪印象を与えてでも注意すべきか、それとも見逃して好印象を与えるべきか。

 責任と恋心の狭間で、乙女心はまるで天秤の様に揺れ動き続ける。

 

「なんかわかんねぇが、今のうちに逃げるぞ」

「「賛成」」

 

 だが一角相手には全然届いていなかった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 ――その日の夜。

 

「うわぁ! お好み焼きだぁ!」

「えへへ、凄いでしょう? みんなで食べると良いかなって思ったんだ」

「……ホットプレート……買ったのか?」

「そうだよ。現世のしおりにも『無駄にならない』って書いてあったからね」

 

 先遣隊が拠点としているマンションの一室は、賑やかな喧騒に包まれていた。

 というか、部屋には吉良・雛森・海燕・ルキアに加えて、織姫と茶渡までいるのだから、賑やかなのも当然だろう。

 

「桃さん、誘ってくれてありがとう」

「そうだな。感謝する」

「ううん、こちらこそ。来てくれてありがとう」

 

 二人とも雛森に「夕食を一緒に食べないか?」と誘われ、こうして拠点までやって来ていた。

 とはいえこのご招待は純粋な善意ではなく、少々の裏もあったりする。

 学校内であれば一カ所に纏まっているが、放課後――帰宅後はそうもいかない。

 ならば"護衛対象をできるだけ一カ所に集めておこう"という狙いが、この夕食会にはあったりする。

 そのため、死神たちにはちょっとだけ申し訳ない気持ちもあったりするのだが――

 

「これは……どうやってひっくり返せば良いのだ……!?」

「なんだ朽木、やり方知らねえのか? ……ん? ほら、見てみろ。いい手本があるぞ」

「じょ、上手だね?」

「ああ……」

 

 織姫たちはそんな死神たちの裏事情など知らず、夕食を普通に楽しんでいた。

 それに彼らの招待も、決して好意がないわけではないのだ。

 

「そういえば……人数が少なくないか……?」

「あっ、そういわれると……!」

 

 食事の最中、茶渡がふと気付いて漏らす。

 

「ああ……お前らは気にすんな」

「え、で、でも……迷子とか……」

「いや、そうじゃねえよ。アイツらは見回り中だ」

「当番だからな。コレばかりは仕方ない」

 

 日中の護衛役は、そのまま夜の見回りまで継続して行う。

 見回りとして街の各地に散ることで、夜襲に際しての即応性を上げる狙いがある。

 これまた当番制として決定しており、死神たち全員は遅かれ早かれ担当するのが決定していたりする。

 ある意味地獄の三連勤である。

 

「な、なんだか申し訳ないような……」

「そうは言うがな、これも仕事だよ仕事。それよりも――ッ!!」

 

 内情を説明されて苦笑いを浮かべる織姫へ海燕は当然だとばかりに返すと、話題を変えようとしたときだ。

 

「――ッ! 副隊長! この霊圧は!」

「ああ……どうやら来やがったみたいだな」

 

 霊覚を強烈に刺激される感覚に、一筋の汗を浮かべつつ海燕は頷いた。

 

 

 

 ――同時刻。

 

「ああっ! 昼間の!」

「げえっ! なんでオマエここにいるんだよ!」

 

 一角が、破面(アランカル)たちに気付くと同時に、みづ穂に見つかっていた。

 




●浅野みづ穂
浅野啓吾の姉。空座第一高校の二十四代目生徒会長。
ボウズ頭が大好き。なので一角が好み。
(原作の出番は少ないが、アニメだとオリジナルで一角との絡みが増えている)

後に石田雨竜を(見た目が凄くそれっぽいという理由で)次の生徒会長に任命する。

●私服
海燕さんは甚平(じんべい)とかも似合いそう。
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