お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第182話 熱烈歓迎! グリムジョー御一行様!!

「あ、ああっ……!」

「この、感覚は……」

「織姫さん落ち着いて!」

「茶渡君!!」

 

 海燕らに少し遅れて、織姫と茶渡が怯え混じりの渋面を作る。

 どうやら似たような霊圧を感じたことでヤミーに蹂躙された時の記憶がフラッシュバックしたらしい。

 

「テメエら狼狽えてんじゃねえ!!」

「ひっ!」

「ッ!!」

 

 心を落ち着かせる様に雛森らが声を掛けるが、その効果が出るより先に海燕が檄を飛ばした。

 

「安心しろ! こういう時のために俺たちが来たんだからよ!!」

「あ……」

「……すまない」

 

 伊達に"面倒見の良い兄貴分"と"頼れる副隊長"という二枚看板を背負ってはいない。四番隊の"癒やし"とは真逆の"上に立つ者"という才覚を十分すぎるほど持っている。

 その効果は絶大だったようで、二人の怯えは即座に消えて冷静さを取り戻していた。その反応に、海燕もまたニヤリと力強く笑う。

 

「よし、落ち着いたな」

「すみません、副隊長……」

「気にすんな! それよりも破面(アランカル)の方に集中しろ。この反応は……朽木!」

「はい。全部で六体です!」

「一体は特別強大な霊圧を持っています!」

「前回の動き通り、どうやら霊圧を探っているみたいです!」

 

 ルキアの言葉を吉良と雛森が補足する。

 その報告内容が、自身が感知した動きと相違ないことを確認すると海燕は窓の外をにらみつけた。

 

「つまり、今回も霊圧を持つ者を狙って来るってことか……ったく! 備えておいて良かったぜ」

「……あ」

 

 織姫が声を上げるが、それに反応する者は死神たちの中にはいない。

 

「敵の霊圧、動きました! 散っています! やはり霊圧の高い者を狙っているみたいです!!」

「阿散井と斑目と綾瀬川は外だ、なら霊圧も高いから即応できるだろ! こっちで上手く連携するぞ! それと茶渡と井上、お前らはここで待ってろ。吉良と雛森、護衛は任せた! 一護は――」

 

 矢継ぎ早に指示を出していたかと思えば、海燕は一瞬だけ言い淀んだ。

 

「この霊圧は……ッ! 仕方ねえな、俺が行ってくる!」

「わ、私も行きます!」

「分かった! 援護は任せるぞ!!」

 

 義魂丸を取り出しつつ、二人は全力で外へと駆け出していった。

 

「僕たちも動こう」

「うん!」

 

 残った二人、吉良と雛森もまた義魂丸を使い死神の姿へ戻ると迎撃に動こうとする。だがそれを織姫が引き留める。

 

「ま、待って!」

「織姫さん? どうしたの」

「あの、さっきの……備えておいてって、ひょっとして……」

「……あ……っ……」

 

 その疑問の言葉だけで、彼女が今日の夕食会の"意図"に気付いたのだと二人は悟る。

 

「……ああ、そうだよ――想像通り、高い霊圧を持つ者は一カ所に集めた方が護りやすくなるからね」

「吉良君!?」

「雛森さん、井上さんは気付いているよ。なら、下手に隠すのは逆効果だ」

 

 かぶりを振りつつ肯定する吉良であったが、その姿はどこか苦しそうでもあった。

 

「でも、覚えておいて欲しい。今日、君たちを呼んだのは決して任務だからじゃない。交流を深めたかったというのも、本当の気持ちなんだ」

「あ……う……うん……」

「……行こう、雛森さん」

 

 どこか迷うような返事であったが、今はそれで十分だ。そう自分に言い聞かせながら、二人の死神は外へと出て行く。

 

「なら……なら、せめて俺たちも!」

「う、うん! そうだよ! 一緒に協力すれば……!!」

「ありがとう。でも、その気持ちだけ頂いておくよ」

「私たちだって、強いんだから!」

 

 頼もしい応援を貰いながら、二人は戦場へと出て行った。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「おっ、死神じゃねーか。大当たりィッ! てかぁ!?」

「ッ!!」

 

 外に出た途端、まるでそれを待ち構えていたかのように手刀の一撃が飛んで来た。

 奇襲じみたその攻撃を、けれども吉良は身を捻って躱す。

 

「へえ、避けたか……けど、よく見りゃ陰気な男にチビの小娘。こりゃハズレだな」

「人をいきなりハズレ呼ばわりは、あまり感心しないね」

「ハッ! それがどうしたんだよ!」

 

 攻撃を放ったのは、金髪とギザギザの歯が目立つ破面(アランカル)の男だった。

 男は吉良の言葉を鼻で笑う。

 

「そんならテメエら二人を殺した後でもう一度言わせて貰うぜ! やっぱり大ハズレでしたってなあ!!」

「ふんっ!!」

 

 再び襲いかかる徒手の攻撃を、今度は斬魄刀にて打ち払う。

 だが相手は意にも介さず、さらに素手にて乱打を放ってきた。突風のような拳を防ぐ最中、二人の動きが一瞬止まる。

 

破面(アランカル)No.16(ディエシセイス)、ディ・ロイだ」

「四番隊、吉良――」

「あァ!? 四番隊、四番隊だァ!?」

 

 その瞬間、相手は自らの名を名乗った。ならばと吉良も名乗り返そうとしたところで、ディ・ロイはけたたましい哄笑を上げ始めた。

 

「ハハハハハハハハハッ!! コイツは傑作だ!!」

「何が……おかしいんだい?」

「知ってんだぜ! 四番隊(・・・)!! 治療しか出来ずに戦場から逃げ回ってる腰抜け共の集まりなんだろ!! そんな腰抜けがこの俺の相手とはな!! ハズレもハズレ、大ハズレだ!! ヒャハハハハハッ!!」

 

 ゲラゲラと腹を抱えながらディ・ロイは笑い転げる。

 その姿を、吉良イヅルは感情の抜け落ちた瞳で見ていた。

 

「……雛森さん。二十、いや十秒間だけ、そっちの相手(・・・・・・)をしてもらって良いかな?」

「うん、わかった……その十秒で、しっかり教えてあげて」

「勿論だよ。骨の髄――いや、魂魄の奥底にまで刻み込むつもりさ」

 

 雛森は、吉良とは背中合わせとなっていたため、聞こえてくるのは声だけだ。

 だがその声色だけでも、恐ろしいほど良く伝わってくる。

 

 吉良の瞳と同じように感情が抜け落ちているのが。

 巨大な感情を爆発させようとしているのが。

 

「ハッ! 馬鹿なことを!! この俺を十秒で倒すってのか? 出来るモンならやってみな! 腰抜けの死神ィ!!」

 

 吉良の言葉を"侮られた"と捕らえたのだろう。それまでの素手から一転、手にしていた刀を抜いて斬り掛かってきた。

 

 ――さて、どうするか……

 

 迫り来る刃を見ながら、吉良は冷静に考える。

 先ほどのやり取りだけを思い返しても、攻撃速度や体術は中々どうして侮れるレベルではないことは分かっている。

 特に皮膚の硬さなど、手刀を刃で受け止めたのに傷一つ無いのだ。

 となれば――

 

「やっぱり、こうするべきかな?」

「な……ッ!?」

 

 放たれた刃の攻撃を、吉良は己の斬魄刀をぶつけて軌道を逸らすと同時に相手へ向けて刺突を放ってみせた。

 一つの動作で回避と攻撃を同時にやってのけるという、高等な剣術である。

 洗練された技術に、ディ・ロイは思わず歯噛みしていた。それが己の寿命をさらに縮めることになるとも知らずに。

 

「さて、皮膚は硬かった様だけど……ここはどうだい?」

「が、がばああぁっ!?」

 

 そのまま斬魄刀は狙い通り相手の口内へと滑り込んでいく。切っ先が舌を切り裂き、喉を貫いたところでようやく止まる。

 

「外側は硬くても、内側はそこまで硬くない……か……」

 

 破面(アランカル)鋼皮(イエロ)と呼ばれる強固な外皮を持っている。素手で斬魄刀と渡り合えたのも、この鋼皮(イエロ)の恩恵によるものだ。

 だが硬い皮膚を持つ者であっても、比べれば内側は脆い。

 想定よりも強固でこそあったものの、どうやらその読みは正しかったようだ。

 

「が、ががががっ!!」

「驚いた。普通なら致命傷だよ」

 

 破面(アランカル)の圧倒的な生命力が為せる技なのか。血の泡を口から大量に零しながら、それでもディ・ロイは抵抗の意思を見せる。

 ならばと吉良は次の一手を放った。

 

「破道の五十四・廃炎(はいえん)

「がばっ!?」

 

 放たれた円形の炎が顔面へと迫り、そのまま焼き尽くしていく。

 喉を貫かれて動きを止められ、怪我で霊圧の下がっていたディロイにはどうすることも出来なかった。

 なんとかしようと藻掻くのが精一杯の抵抗だ。

 

「剣術も炎も、前に先生が――四番隊の隊長がやっていたことの真似だけどね。けれど、君にはふさわしいだろう?」

 

 やがて、破面(アランカル)は動かなくなる。

 

「四番隊を甘く見るから、こういうことになるのさ」

 

 刀身に絡みつく血と残り火を振り払って落としながら、吉良は呟いた。

 

 

 

 

 

 

「初めまして。破面(アランカル)No.11(ウンデシーモ)、シャウロンと申します」

破面(アランカル)No.14(カトルセ)、ナキームだ」

「四番隊三席、雛森桃」

 

 吉良に「そっちの相手をしてくれ」と言われた直後、それを見計らったかのように雛森の前に二人の破面(アランカル)が現れた。

 シャウロンと名乗ったのは、理知的な雰囲気を漂わせる頬のこけた男。ナキームと名乗った方は、おかっぱの髪型をした肥満体の男だ。

 

「あなたも四番隊ですか」

「不満?」

「先ほどまでは、そう考えていました。ですが、あなたは私たちの存在に気付いていた。強い霊圧が多く集まっていたので、先走ったディ・ロイが良い目くらましになればと考え身を潜めていたのですが――」

 

 その瞬間、二人の破面(アランカル)の姿がかき消えた。

 

「どうやら、当たりのようだ」

「だが!」

「ッ!? きゃあっ!!」

 

 正面からはシャウロンによる斬魄刀の攻撃が、背後からはナキームによる拳撃が、雛森へと襲いかかる。

 即席の連係攻撃であろうその動きを、彼女は翻弄されつつもなんとか防ぐ。

 

「それでもたった一人、それも三席程度で私たちの相手を出来るとは思わないことです!!」

 

 斬魄刀による鋭い一撃と拳による鈍い連撃。

 質の違う二種類の攻撃に、雛森は苦戦を強いられていた。

 

「はぁっ!」

「くっ……!」

 

 シャウロンの刃が翻り、それを見た雛森は半歩下がると、その場所を刃が通り過ぎていった。

 ギリギリの間合いで一撃を避けたものの、敵の攻撃はそれで終わらない。

 

「甘い」

「あぐうっ……!!」

 

 避けた先を見計らって放たれたナキームの拳に、彼女の身体は捉えられてしまう。

 防御こそ間に合ったものの、軽く小さな彼女はその衝撃に堪えきれなかった。

 打ち抜かれた勢いそのままに吹き飛ばされ、それでも受け身を取ってなんとか体勢を維持してみせたのは流石だ。

 

「軽いな。まるで木の葉のようだ」

「ええ。その小さな身体でここまで耐えたのは少々驚きました。ですが、それももう終わりです」

「く……!」

 

 二人の破面(アランカル)の言葉に、雛森は渋面を浮かべた。

 相手に言われるまでもなく、斬り合いをするならば小さな身体よりも大きな身体の方が利点は大いに決まっている。

 そんなことは彼女自身が一番よく知っている。

 

 だが、彼女は同時に知っている。

 それもまた、やり方次第なのだということを。

 

「はっ!」

 

 雛森の姿が突如、微かな残像を残して消える。

 だが破面(アランカル)たちは特異な反応を見せない。

 

「確か、瞬歩(しゅんぽ)と言うのでしょう? 我々も使えますよ。名前は違いますが」

「……響転(ソニード)

 

 相手への示威行為だろうか。

 わざわざ名前を口にしつつ、ナキームもまた雛森を追うように姿を消す。

 同じ高速移動の技術を用いて、消えた雛森を追いかけたのだ。

 シャウロンの瞳が、二人の動きを追うように動き回る。だが、それも数度のこと。

 

「……ッ! そんな……!!」

「終わりだ」

 

 駆ける雛森に追い付いたナキームは、そのまま彼女へ向けて攻撃を放つ。

 まさか追い付かれるとは思っていなかったのだろう。絶望にも似た表情を浮かべる雛森を押し潰さんばかり勢いで拳を振り下ろされ――

 

「……ッ!?」

「なっ……消え、た……!!」

 

 確実に捉えたはずの攻撃が、むなしく空を切った。

 その結果に、シャウロンすら目を見開き絶句する。

 

「一体何処に……!?」

 

 キョロキョロと周囲を見回し、雛森の行方を探すナキーム。だがその気持ちはシャウロンもまた同じだ。

 

 ――遠目から見ていたハズの自分までもが見落とした!? 馬鹿な!! あの死神の小娘は確かに先ほどまで、あの場所にいた! 霊圧とて感じ取っていたはず……

 

 そこまで考えたところで、彼は叫んだ。

 

「――ッ! ナキーム!! 上だ!!」

「弾け! 飛梅(とびうめ)!!」

 

 シャウロンの警告よりも、雛森の動きの方が早かった。

 彼女は斬魄刀を始解させると、そのまま垂直落下の要領でナキームの身体に斬魄刀を突き立てた。

 鋼皮(イエロ)を持つ破面(アランカル)とて、落下の勢いが加わった刺突には耐えきれなかったようだ。

 飛梅はナキームの肩口から突き刺さり、刀身の半分ほどが胴体へと埋まる。

 

「ぐあああっ!? こ、この……死神……!!」

 

 冷たく複雑な形状の刃に身体を刺し貫かれる激痛に苦しみつつも、ナキームの闘志は未だ折れることはなかった。

 動きを止めた死神を打倒せんと手を伸ばす。

 しかし雛森の動きはそれより速い。

 

「はあああああぁっっ!!」

「ぐっ! がっ! ぎゃなあああぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

 彼女は飛梅の能力を操り炎を生み出すと、相手を内側から(・・・・)焼き尽くす。

 

 吉良と雛森。

 二人の死神が選んだ鋼皮(イエロ)の攻略法は、奇しくも同じ「体内」という部位。そして「炎」という手段であった。

 

 ナキームに出来ることは、中から焼かれるという激痛に絶叫することだけだった。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿、な……」

 

 目の前で雛森が消えたこと。同胞が倒されたこと。

 二つの事象に、シャウロンは狼狽の声を上げる。

 彼は未だ、雛森がどうやって姿を消したのかすら理解出来ていなかった。ならば、同じ手を再び使われたならば……

 そこまで考えたところで、彼は思わず明後日の方を向いた。

 

「これは――!」

 

 死神が目の前だというのに視線を逸らす。それがどれだけ危険なことかは分かっている。それでも彼は向かずにはいられなかった。

 

 ――あの方角は……! まさか!!

 

「吉良君、遅いよ! もうとっくに十秒は過ぎてるんだからね! 先生に言いつけちゃうよ!」

「ごめんごめん。でも、十秒で倒したのは本当だよ。それにあの霊圧、どうやら僕の行動も無駄じゃなかったみたいだ」

「ッ!!」

 

 後ろから聞こえてきた声に驚き、シャウロンは再度振り向く。そこには傷一つ負っていない吉良の姿があった。

 

「仕方ない、か……それじゃ、ここからはこっちが二対一だよ。卑怯とは、言わないよね? だって私もさっきまで同じ条件だったんだから」

「傷が……!!」

 

 先ほどまでナキームと二人掛かりで負わせた怪我が瞬く間に治っていく光景に、彼は冷や汗を流す。

 

「お仲間が言ってただろう? 四番隊は治療する、ってさ」

「そうか……そうだったな……」

 

 得意げな表情を見せる吉良の姿に、シャウロンはギリリと奥歯を噛みしめた。

 (ホロウ)であった頃ならば超速再生という回復手段があった。だが破面(アランカル)へと変じる途中でその能力は失われている。

 目の前の死神とて無尽蔵の回復は不可能だろうが、根比べはどう考えても分が悪い。

 

 ――ならば長期戦はむしろ不利! こちらの最大戦力で即座に叩き潰す!

 

 斬魄刀を構え直し、シャウロンは叫んだ。

 

()て、五鋏蟲(ティヘレタ)!」

「なっ……!?」

「そんな……!!」

 

 目の前の破面(アランカル)の姿が、突如として異形の者へと変じた。

 人型の基本はそのままに、だが上半身は白い鎧を纏ったような姿へと。背中には背骨がそのまま伸びたような尾が生え、先端には鋏が備わっている。

 五指も同じように伸びており、その一本一本が刃のような鋭さを誇っていた。

 

「驚いたかな? これが私たち破面(アランカル)の斬魄刀解放だよ!」

「ぐううっ!!」

「きゃああぁっ!!」

 

 シャウロンが軽く手を振るう。

 それだけで吉良と雛森、二人の身体に複数の斬撃が刻み込まれた。身体が切り裂かれ、鮮血が吹き出していく。

 苦痛混じりのその表情に、彼はようやく一矢報いたと微笑を浮かべた。

 

「これで終わりなどと思わないことだ! 傷を癒やす暇など与えはしない!!」

 

 口元の薄笑いを少しずつ大きくしながら、シャウロンはさらに攻撃を続行する。

 瞬間、雛森を庇うように吉良は前に出ると、その斬撃を受け止めようとした。

 だがシャウロンの攻撃は一撃一撃が下手な斬魄刀顔負けの威力を持っており、それが指の数と同じだけ――つまり一度に五つの斬撃が繰り出されることになる。

 

「くっ! ぐううっ!!」

 

 如何に修練を積んだとはいえ、慣れぬ攻撃を前にしては二つ三つを受け止めるのが今の吉良には精一杯だったようだ。

 加えて相手は五つの斬撃を、両手からそれぞれ放てる。

 じりじりと押されていき、全身が傷ついていく。

 

「これで終わりだ!」

「なっ……!」

 

 斬撃を放つのではなく、シャウロンは両腕を振りかぶり吉良へと襲いかかった。

 直接斬りつけることで決着を付ける腹づもりだろう。

 

「吉良君!」

「甘い! 見逃しはしませんよ!」

「あううっ!!」

 

 ならばと雛森が動くが、シャウロンはそちらにも注意を払っている――いや、むしろ雛森の方にこそ、重点的な注意を払っていた。

 先ほどの姿を消す技を警戒しているのだろう。

 攻撃は彼女の機先を制すように斬撃を飛ばし、雛森の身体に一筋の傷を刻みつける。

 

「今だっ!」

「そちらも見えていますよ」

「うっ……!」

 

 注意の逸れた隙に動こうとした吉良だが、シャウロンの尾が眼前へと迫っていた。片腕を両断しようとする鋏の動きを、彼は身を退いて躱す。

 

「飛梅!」

「くっ……!」

 

 追撃を仕掛けようとしたところ、火球が飛んできた。

 片手で払い落としたものの、おかげで追撃は断念せざるをえなかった。

 

「小娘……!!」

 

 ギロリと鋭い視線が雛森へと向けられる。

 それを確認した瞬間、吉良と雛森。二人は互いに頷き合う。

 

「……雛森さん!」

「うん!」

「む……?」

 

 大きく動いたのは雛森だった。

 彼女は瞬歩(しゅんぽ)による高速移動を繰り返しつつ、飛梅から無数のつぶてを連続して放っていく。

 様々な角度から連射されるその攻撃は、さながら炎の雨のようだ。

 

「こざかしい真似を……」

 

 口では忌々しげに言いつつも、けれどシャウロンは雛森の動きから目を離さない。

 派手な攻撃を仕掛けているものの、その全てが決定打には至らない事は霊圧から容易に推し量れた。

 なにより飛梅による炎の攻撃は先ほど防いでいるのだ。どれだけ連射したところでその効果はたかが知れている。

 

 ――ならば、これは目くらまし。どこかで本命の一撃が来るはず。それを潰せば良いだけのこと。

 

 火球を打ち落としながらそう考えると、雛森の動きをつぶさに凝視し――ついでに奇襲に備えるべく、吉良の霊圧も探り位置だけは確認しておく。

 やがて、雛森の動きが遅くなった。

 

「そこだっ!」

「ああっ……!」 

 

 それこそが本命の攻撃へと転じる瞬間だと直感し、シャウロンは全力で斬り掛かる。

 両腕を大きく振りかぶると、五爪を目一杯に広げて隙間無い一撃を放った瞬間、過ちに気付いた。

 

「これは…………抜け殻!!」

 

 先ほどのナキームの時と同じように、雛森の姿が消える。だが同時にその正体も気付く。

 雛森は、霊圧を誤認させていた。

 瞬歩(しゅんぽ)による移動で残像を交えさせつつ、霊圧だけを自分と似たように形造って用意しておく――言うなれば、分身に匂いを付けたような代物だ。よく見れば即座に看破できるし、相手の霊圧を一瞬誤魔化す程度が限界でしかない。

 

 けれどもそれを、瞬歩(しゅんぽ)響転(ソニード)による追いかけっこの最中に使われたらどうだろう? 無数の火による雑音(ノイズ)に紛れ込んでいたらどうだろう?

 結果は、見ての通り。

 シャウロンが抜け殻と評したのも納得だ。

 

「ならば本命は……やはり上か!?」

 

 一度見ていたことが裏目に出たようだ。反射的に上へと視線を切ってしまい、一瞬とは言え彼は致命的な隙を自ら作り出してしまった。

 

 ――吉良イヅルを前にして。

 

「はああっ!!」

「くっ……!」

 

 無防備になったシャウロンに、吉良は斬魄刀を振り回し無数の斬撃を当てていく。

 その一撃一撃は彼の五爪へしっかりと叩き込まれ、ようやく誘われたと気付くとシャウロンは軽く距離を取る。

 

「フム、そこまでは見事! だが軽いんだよ、浅いんだよ!! その程度の攻撃、たとえ百回二百回当てた(・・・・・・・・)ところで私の鋼皮(イエロ)には傷一つ――うぐうっ!?」

 

 突然、信じられない重さを感じて、彼は両腕をだらんとぶら下げた。

 両肩が外れそうな程の重量に襲われ、混乱したように自らの手を見る。

 

「う、腕が……いや、指が!?」

「僕の斬魄刀――侘助の能力は、斬り付けたものの重さを倍にする。地味な能力だろう?」

「……お前の仕業か死神ィ!!」

 

 憎々しげに叫ぶものの、吉良の耳には届いているのかいないのか。

 彼は僅かに恍惚とした表情で、コの字に変形した己の斬魄刀を見つめている。

 

「けれど先生は、僕の能力をとても褒めてくれたんだ。複数回斬りつけなければ効果が薄いから、とにかく当てるために、随分と訓練を積んだよ」

「私が囮になったんだから、感謝してよね!」

「勿論。後で何か奢らせて貰うさ」

 

 その会話から、裏側が推し量れた。

 雛森という小柄な少女を派手に動かせて囮に使い、吉良という本命の姿を隠す。

 火球を操ることで目を引きつけ、抜け殻で緊急回避も可能な雛森は、なるほど囮役にはピタリだ。

 

 吉良の能力も、何度も斬りつけねば効果は得られない。

 だが斬りつければ重くなり、能力も相手にバレて追撃を警戒される。回避に徹されるか、はたまた遠距離攻撃に徹されるか。とにかく、動けなくなるまで能力を累積させるような真似は期待できなくなる。

 

 互いの持ち味を上手く組み合わされた結果だった。

 一対一ならばこうも上手くハマることはなかっただろうと、シャウロンはマトモに動かすことも出来ぬ腕の重みに苦戦しながら結論付ける。

 

「終わり、だね」

「覚悟!」

「馬鹿な……! この霊圧で三席だと……!?」

 

 ――グリムジョー……! すまない……

 

 瞬間、膨れ上がった二人の霊圧量。

 それが、シャウロンが最後に知覚した物だった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……手強かった……」

「本当……最初から全力だったら、危なかったね……」

 

 勝敗は決し、二人は大きく息を吐き出す。

 

「この距離、この数……危険なのは阿散井君だな。僕はそっちに向かう!」

「じゃあ私は、斑目さんの方に行くね!」

 

 だが勝ったのはあくまで、この戦場だけでしかない。

 即座に霊圧を感じ取り仲間の状態を確認すると、二人は示し合わせたように別れ、駆け出していく。

 

 そんな二人の姿を、織姫と茶渡は見送ることしか出来なかった。

 




●ナキーム(乱菊が倒した奴)とディ・ロイ(ルキアが倒した奴)
この二人は帰刃(レスレクシオン)も不明。よって「かませ」役決定。
(ナキームなんて原作では「響転(ソニード)だ」くらいしか台詞が無い。
 ペッシェやドンドチャッカくらい個性出してよ)

●義魂丸
雛森の義骸も「ピョーン♪」とか言ってるのでしょうか?
(女性死神で一番人気の義魂丸のチャッピー)

アニオリだと、やちるのイタズラで変な義魂丸ばっかりになってましたね。
(やる気無いシロちゃん。語尾が「べし」のスケベな乱菊。にゃんこそのものな恋次。弱気な一角。ブチギレ系弓親)

●アランカル側の四番隊の評判
??「教えてビビられると困るから黙っておこう」
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