お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第186話 三番隊新隊長! ……天貝繍助って誰?

 昨日言ったとおり、今日は朝から隊首会が行われます。

 なのでこうして各隊の隊長が一番隊舎に集まっています。

 

 ……え? お前は現世にいったんじゃないのか……って、ええっ! わ、私現世に行ったの!?

 

 なになに? グリムジョーを撤退させた次の展開を描写するんじゃないのか? 一護の(ホロウ)化修行はどうなった? 織姫さんたちの修行はどうするんだ?

 

 ……? 何を言ってるの??

 昨日、志波先遣隊の出発を見送ったばっかりなのよ? 無事に現世に着いたって連絡は受けたけれど、まだグリムジョーら破面(アランカル)の動きは確認されてないわよ? 今頃ルキアさんたちは現世の生活基盤を整えてる頃じゃないかしら……??

 

『ということで、少し過去に時系列が遡るでござる!! 具体的に言うと、178話の続きから! 先遣隊に"現世のしおり"を渡して「お国のために死んでまいります」した後からの描写でござるよ!!』

 

 頑張って書いた現世のしおりが恤兵(じゅっぺい)扱いされてる!!

 

『なお恤兵とは、戦地に届けられた寄付金や日用品などの慰問品のことでござるよ! 軍歌"雪の進軍"の歌詞に出ているので多分有名でござる!! 某戦車のアニメで秋山殿とエルヴィン殿が歌ってたアレでござるよ!!』

 

 アレは著作権が切れてるから、色々と合法なのよね。

 

 

 

 ――ということで。

 

 

 

 隊首会が開催されるわけですが、なんと三番隊に新隊長が就任することになりました。

 今まで戸隠副隊長が纏めていましたが、やはり隊長がいないと大変ですからね。

 とはいえ実際に誰が就任するのか、正式発表はこの隊首会の場です。

 

 すでに大広間には十人の隊長――三人ほど虚圏(ウェコムンド)に行きましたからね――が集まっており、厳粛な雰囲気が周囲に広がっています。

 

『なお各隊長の並びは総隊長を真ん中にして、両脇が二・四・六・八・十・十二と、三・五・七・九・十一・十三でござるよ! 片列は全員いるのに、もう片方は三名しかいねえでござる!!』

 

 三人逃げちゃったからねぇ……ちょっと寂しい。

 

「おほん!」

 

 総隊長が咳払いを一つしました。どうやら始まるようです。

 

「昨日、長きに渡る遠征を終えた部隊が無事帰還した。一人の犠牲者もなき帰還である。この功績は大きい。現在、三番・五番・九番隊においては隊長不在であり、護廷十三隊としてはこれをいつまでも放置しておくわけにはいかぬ状況である」

 

 遠征部隊ですか……隊士の仕事としては時々あるんですよ。

 

 部隊単位で尸魂界(ソウルソサエティ)の僻地まで行って、(ホロウ)を退治して回るという過酷なお仕事です。

 仮に強い(ホロウ)が出て救援要請をしても援軍は間に合いませんし、食料やら医薬品といった物資も潤沢にあるわけではない――補給は届けられますけど、輸送担当が途中で(ホロウ)に襲われたりする――ので、全体的に死亡率はお高めです。

 遠征途中のストレスでやられちゃったりもするそうですよ……

 

「よって昨日同隊責任者を召喚し、この山本、並びに二名の隊長列席の下で隊長資格の有無を検分。申し分なしと決した」

 

 なのに一人の犠牲者も出さずに帰還したということは、部隊長はかなりの実力者です。

 単純な戦闘能力は当然として、部下を率いて過酷な任務を達成させた、その統率能力は目を見張ります。

 申し分なしと判断されるのも当然のことです。

 

「よってここに、市丸ギン前隊長に代わり諸君らに新隊長を引き合わせる所存である。護廷十三隊、三番隊新隊長――天貝(あまがい) 繍助(しゅうすけ)! 入れ!!」

 

 総隊長の言葉に私たち全員の視線が入り口へと向けられると、扉がゆっくりと開いて一人の男性死神が入ってきました。

 全員が――勿論私も興味津々で、上座へと歩いて行く新隊長を観察しています。

 

 瀞霊廷に戻って新調したらしく、死覇装も隊首羽織も真新しいです。縫製の仕方から察するに、貴族街の店に作らせたのかしら。

 懐から覗く懐紙(かいし)もなんとなくオシャレですね。

 

 そして腰には斬魄刀と……なにアレ……? 包帯か何かに巻かれてよく見えませんが、西洋剣……? みたいなのを斬魄刀とは逆側へ、ベルトのような革紐で吊しています。

 ……まさか、斬魄刀を二振り持ってるってこと!?

 

 容姿ですが、一言で評するなら「ちょっとくたびれた感じの男性」でしょうか。

 藍色の髪を一応整えてはいるものの、ぼさぼさなのが隠し切れていません。浅黒く焼けた肌には無精髭が生えています。

 遠征部隊に所属していた影響からか、身だしなみにそれほど頓着していないんでしょうか? 髭を剃ってる隙に襲われるとかありそうですし……

 

『総合的に見ると、ギリイケメンといったところでござるな!! 拙者も判断が難しいラインでござる!!』

 

 二枚目ではあるんですけどね。

 

「あー……天貝です。精一杯務めさせて貰います。若輩者ですが、よろしくお願いします」

 

 天貝隊長は少し不安げな口調で、そう自己紹介をしました。

 優しげな感じの声色は威厳が無いと取るべきか、それとも親しみやすいと感じるべきか――って、あら? まさかこの人って……!?

 

「……あっ!!」

「なにか異論かな? 湯川」

「い、いえ! 申し訳ありません。なんでもありません」

 

 驚きのあまりつい、口に出してしまいました。

 総隊長にジロリと睨まれ、慌てて頭を下げつつ謝罪します。これ以上は、隊首会が終わるまで我慢ですね。

 

 

 

 

 

「隊長職は格式張った所もあるけれど――」

 

 あの後、総隊長が締めの言葉を口にして隊首会は恙なく終了しました。

 それと最後に「教育などは浮竹に任せる」と付け足して命じたので、浮竹隊長は天貝隊長に口頭説明を行っている真っ最中です。

 

 他の隊長たちはといえば、とっとと帰る者もいれば、新隊長の実力について仲間内で話し合う者もいたりと、様々ですね。

 しかし、新隊長と三番隊の隊士たちはコミュニケーションが取れるんでしょうか? 実力はともかくとして、ちょっと不安です。

 

「あの、藍俚(あいり)様。先ほど声を出されていましたが、どうかなさいましたか?」

「え? ああ、あれのこと? ちょっと昔を思い出しちゃって……」

「昔、ですか……?」

「そう、だからちょっと行ってくるわね」

 

 砕蜂が話しかけてきたのにそう答えつつ、天貝隊長へと近づきます。

 

「お話中の所、申し訳ありません。天貝隊長」

「あ、これはどうも」

「突然ですけれど、私のことは覚えていますか?」

「え……?」

 

 初々しい態度で頭を下げてきた天貝隊長に、私はにっこり笑顔で質問します。すると相手は困ったような表情を浮かべながら、頭を掻きました。

 

「えーと……すみません、どこかでお会いしましたっけ……?」

「ふふっ。まあ、覚えていなくても仕方ありませんよね」

 

 その返事は想定内です。

 というか、普通は覚えてないです。

 

「ほら、天貝隊長が一番隊に入ったばかりの頃――訓練のやりすぎで倒れて、何度か四番隊に担ぎ込まれてましたよね? あの時に、治療を担当していた者です。覚えてますか?」

「あ……ああっ!!」

 

 そこまで口にすると、顔がパッと明るくなりました。

 

「こ、これはとんだご無礼を……当時はありがとうございました」

「いえいえ、百年は前のことですから忘れているのも仕方ないですよ。あの後、色々あって隊長になりました。湯川藍俚(あいり)と申します。何かありましたら、四番隊までお気軽にどうぞ」

「こちらこそ、改めてよろしくお願いします。湯川隊長」

「ええ、ではまた。浮竹隊長、お話を遮って申し訳ありませんでした」

 

 と、そうやって挨拶を済ませると彼らから離れます。

 

「あの……ひょっとして、先ほど声を上げたのは……」

「ええ、そうよ。昔の患者だったのを思い出したら、つい声に出しちゃって」

 

 説明すると砕蜂が目を丸くして驚いています。

 何か、変なことを言ったかしら……?

 

「まさか、患者を一人一人覚えているんですか……?」

「勿論。医者(こっち)から見れば大勢の患者の一人かもしれないけれど、患者(あっち)からすれば、医者は一人だけだもの。ちゃんと覚えてるわ」

 

『1対nでござるな!! 正規化するでござるよ!! 外部キーで繋げるでござる!!』

 

 データベースの設計でもするの?

 

「なんと……! さ、流石は藍俚(あいり)様……!!」

「――って、胸を張って言えたらカッコよかったんだけどね……流石に全員は無理、精々六割くらいかしら? さっきの天貝隊長だって、思い出すのに時間が掛かっちゃったから……」

「そ、そうなんですか……!? ですが六割でも相当な人数に……やはり、凄い……」

「あはは、ありがとう。でもね、それとは別にもう一つ気になってるの」

「……と言いますと?」

「天貝隊長を見たときから、別の誰かの顔がチラつくのよね……」

 

 顔を見た瞬間、連想して記憶が浮かんできたんです。

 死神なのは間違いないんですけど……ただ、肝心な相手の名前が全然思い出せなくて……何番隊だったかも全く……えーとえーと……

 

「……藍俚(あいり)様……?」

「これ、誰だったかしら……? うーん、思い出せない……」

 

 結局、思い出せませんでした。

 コメカミをトントンと叩いて記憶を引っ張り出そうと悪戦苦闘しつつ、天貝隊長の背中を眺めるのが精一杯でした。

 

 

 

 

 

 

 ……というか、三番隊の隊長っていつ決まったんだっけ……?

 

 

 

 

 

 

「隊長! 三番隊の新隊長が来たって本当ですか!?」

「ど、どんな人ですか!?」

「まさか戸隠副隊長がそのまま繰り上げに……!?」

 

 四番隊へと戻ったところ、待ち構えていたかのように隊士たちに囲まれて質問攻めを受けました。

 みんな、新隊長の情報に興味津々ですね。

 

天貝(あまがい)繍助(しゅうすけ)って名前の男性よ。なんでも(ホロウ)討伐の遠征部隊の隊長をしていたみたいで、瀞霊廷に戻って来るのも久しぶりみたい」

「へえ……」

「遠征部隊ってあの!?」

「うわ、すげえ……」

 

 遠征部隊のことは、そりゃみんな知ってるわよね。名前を聞いただけで、全員が思い思いの反応を見せます。

 

「新隊長が気になるなら見に行っても良いけれど、今日は三番隊で顔合わせとか色々手続きとかあるでしょうし、明日以降にしてあげてね。はい、それじゃあ業務に戻っ――」

「……隊長?」

 

 そこまで口にしたところで、とある考えが浮かびました。

 これ、頼んじゃっても良いのかしら……? 業務に全く関係が無いから、ちょっと職権乱用になるのかしら……??

 うー、でも……ああっ! もういいわ! 頼んじゃおう!!

 

「――ねえ、手の空いてる子っているかしら? もし余裕があるなら、ちょっと別の仕事を頼まれてくれない? お手当(バイト代)も出すから」

 

 試しに提案してみたところ、お手当(バイト代)が効いたのか半分くらいの子たちが挙手してくれました。

 ……みんな結構仕事に余裕があるのかしら……?

 い、いえこれは、みんなが慕ってくれているから! 無理してでも手伝おうとしてくれてるだけ! きっとそうよね!!

 

「あらら、結構いるわね。それじゃお願いしちゃうけど、やって貰いたいのは診療記録を探して欲しいの。大体百五十年前から三百年前くらいで、私が担当した記録を全部ね。それを隊首室まで運んでくれる?」

「え……?」

 

 湧き上がっていた隊士たちの動きが一瞬にして固まりました。

 

 そりゃまあ、そうよね。

 百五十年分の診療記録(カルテ)を持ってこいってだけでも、大仕事だもの。

 しかもこれだけ古い記録となると、隊舎内には置いていません。四番地区の図書館に纏めて保管してあります。

 なので、図書館に行って、診療記録(カルテ)を探して、年代を調べて、担当医師を調べて、四番隊まで運ぶ。というすっごい面倒な仕事になります。

 

「面倒なことを頼んでいるってことは自分でも分かっているから、お手当は人数制限なしで一人辺り二万出すわ。時間給じゃなくて成果給だから、三十分で終わらせても一日掛かっても同じ額になる――」

「台車持ってきます!」

「私、寮に行ってきます! 今日が非番の子たちに声を掛けてくる!!」

「たしか年代別で管理してたよな!? なら先に行って運びやすい所に並べとく!」

 

 ――早く終わらせるとお得よ、って言おうと思ったんだけど。

 

 あらら、すっごい団結力。

 こうして四番隊の皆の結束の力(おかねのちから)によって、およそ二時間後には一通りの診療記録が運び込まれました。

 うず高くそびえる診療記録の山は、見る者を圧倒しますね。

 

『結果的に時給一万のバイトでござるか……拙者もやりたいでござる!!』

 

「す、凄く集まりましたねぇ……あの、隊長? これ、どうするつもりなんですか……?」

「もちろん、探すのよ」

「えーと……何を、でしょうか……?」

「名前、かしら……?」

「え……?」

 

 勇音が困惑するのも無理はありません。

 ですが、ここからは私にしかできないので。

 一つ一つ診療記録を調べて、あの時の――天貝隊長を見た瞬間に出掛かった人物の名前を探します。

 

 雲を掴む様なことをしている自覚はあるわよ? でもそれ以外にやり方が思いつかなくって……

 年代は間違ってないはずだから、後は根気の勝負! だってヒントとなるワードが自分の記憶の中にしかないんだもん! 具体的なことが全然思い出せないんだもん!!

 

『終わりのない総当たり戦でござるなぁ……』

 

 記憶に引っ掛かってるってことは、私が担当した患者の誰かのハズだからいいの! 名前を調べていればそのうち見つかるわよ!

 

『そして見つかったときには「やったぞ! やったぞ! やっ……!!」と叫ぶでござるな?』

 

 なんで!?

 

「なので勇音、悪いんだけどここからの業務を仕切って貰って良いかしら……?」

「は、はい! がんばります!」

 

 ……ごめんね。本当にごめんね。

 

 

 

 ということで、探すこと数時間……

 

 

 

「無いわねぇ……」

 

 もう空が赤くなっています。

 昼頃から数時間、診察記録の山と睨めっこをしていたので、さすがに目が痛くなってきました。ずっと座っていたから、腰もちょっと……

 

『マッサージでござるか!? 拙者、大得意でござるよ!!!!』

 

 ありがとね……後でお願いするわ……

 

『ええーっ!』

 

 気持ちは嬉しいけれど、今日中に片付けちゃいたいのよ。

 根拠は一切ないし、徒労に終わる可能性の方が高い。

 タダの勘でしかないってことは、十分に自覚しているんだけど。

 なんとなく、思い出せなくって気持ち悪いのよ。

 

 なにより、新隊長がこんな時期に決まっていた記憶がないんだもん! てか新隊長っていつ決まったんだっけ!? 何かのフラグだったら怖くて仕方ないのよ!!

 だからこうやって一生懸命――

 

「隊長! 大変です!! 断界(だんがい)内に大虚(メノス)が十三体も現れて、三番隊に出撃命令が下りました!」

「――何ですって!!」

 

 勇音が緊急事態の報を持って部屋に飛び込んできました。

 その内容を聞いて、思わず反射的に立ち上がってしまいました。衝撃で机の上から診療記録の山が崩れ落ちましたが、気にしてはいられません。

 

「四番隊もすぐに出られるように準備して! 怪我人が出るだろうから救護班と……あああぁぁっ!!」

「た、隊長……?」

 

 床に落ちて散乱する診療記録紙たち。

 その一枚が視界に入った途端、指示も忘れて叫んでしまいました。即座に拾い上げ、思わず書類を抱きしめて小躍りしてしまうくらい。

 

「これよ! やった! やったわ! やっ……はっ!!」

 

『どうやら拙者の予言が当たってしまったようでござるな!!』

 

「……こほん。四番隊はすぐに準備を!」

「はい!!」

 

 見なかったことにしてくれました。

 勇音は本当に優しいわね。

 

 

 

 三番隊ですが、結果だけ言うと怪我人は出ませんでした。

 

 そもそも断界(だんがい)内で大虚(メノス)がこれだけ発生したっていうのが、妙と言えば妙なんですけどね。

 それと、申請に不備があったようで。

 三番隊が断界(だんがい)にいたときに拘流(こうりゅう)が発生して、拘突(こうとつ)がやってきたそうです。

 

 ……あ! 拘突(こうとつ)って覚えてますか?

 

 断界(だんがい)内部を掃除するために、七日に一度走ってくる列車みたいなアレです。アレが拘突(こうとつ)です。

 その拘突(こうとつ)大虚(メノス)退治の最中にやってきたそうで、危うく全員が犠牲になるところだったとのこと。

 気がついたら線路の上にいて、危うく列車と衝突しかけた――って凄く怖いですね。

 

 でも……そういう事故を防ぐために、断界(だんがい)へ向かうときには事前に申請しておくんですけど、不思議ですね……

 申請がちゃんと通っていなかったんでしょうか……?

 

 最終的には天貝隊長が拘突(こうとつ)を破壊して全員助かったそうですけど……けどアレってそう簡単に破壊出来るような物じゃないはずなんですよね……

 隊長の実力が群を抜いて高いからだ、って言われたらそれまでなんですけど。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「総隊長、遅くに申し訳ありません」

「構わぬ。まだ業務時間中じゃからな」

 

 外を見れば、そろそろお日様が沈みそうです。

 三番隊が全員無事だったという報告を受けた後、その脚で一番隊へと向うと総隊長への面会を申し込みました。

 ――手に、一枚の診療記録を持って。

 

「それで湯川、一体なんの用じゃ?」

「はい、天貝新隊長のことです」

「ふむ……なにか、問題でもあったか? 就任早々、断界(だんがい)にて大虚(メノス)の群れを撃退したとの報告ならば儂も受けておるが」

 

 確かに、そこだけ見れば優秀なんですけどね。

 気付いていない? それとも、考えすぎていただけだったのかしら?

 内心不安に思いつつも、私は総隊長の前へ診療記録の用紙を差し出します。

 

「総隊長は、如月(きさらぎ) 秦戉(しんえつ)という隊士のことを覚えていますでしょうか?」

「…………はて? 誰かなそれは?」

「お忘れですか? 随分昔のこととはいえ、一番隊の隊士だった死神ですよ。私も、四番隊の隊士として彼の治療をしたことがあります」

 

 この反応は、おそらく演技ですね。

 名前を出した途端、総隊長の眉がピクリと動きましたから。

 

「そうじゃったか? して、その如月がどうかしたのか?」

「顔立ちがよく似ているんですよ、天貝隊長と。丁度彼のお子さんが成長すれば、あんな感じになるんじゃないかと思う程度には」

「…………他人の空似ではないか?」

 

 それだけたっぷり溜めていたら、惚ける意味がないと思うんですけど……

 

「ええ、それならそれで問題はありません。ですが私は、四番隊の隊士として多くの死神たちと接してきました。二代、三代と死神を続けている方とも、会ったことがあります。皆さん、どこかに親の面影があるんです」

 

 極々(まれ)に、例外もいますけどね……

 大前田副隊長――あれ、三席でしたっけ?――の妹さんとか。

 

「もしも、もしもですよ。天貝隊長が本当に如月さんのお子さんだったとしたら、どうして素性を隠しているのでしょうか? 何か後ろ暗い狙いがあって偽名を名乗っていて、護廷十三隊や瀞霊廷を危機に陥るような事になったとしたら……それが不安なんです」

 

 考えすぎだと言われたら、それまでなんですけどね。でもですよ。

 

 遠征から呼び戻されて、隊長に抜擢されました。

 就任初日に事件が起こったかと思えば、颯爽と解決して実力を見せつけました。

 名前は違いますが、昔よく似た隊士がいました。

 

 ――なんて、出来過ぎな気がするんですよ。怪しいんです。

 

『いわゆる「メタ読み」というやつでござるよ!!』

 

 ……こちとら隊長就任の初日は、一角にアイアンクローをカマしてたってのに!!

 

『霊術院の新入りの前でカマしていましたなぁ……』

 

 それに総隊長の反応もです。

 こんなの「確かによく似てるよな! でも考えすぎだよ、あははは!! 儂なんてお前よりも前から死神やってるんだぞ? たまにこういうことってあるから! よくあることよくあること!」で終わる話なんですよ?

 

 あれだけ勿体ぶるのは「何かあるぞ」「気付いているぞ」って言ってるのと同じです。

 現在の対応が「引っかかっているだけ」なのか「確証を持って泳がせているだけ」なのかは、分かりませんけれど。

 

「ですが、総隊長に何もお心当たりがないのでしたら、それで構いません。出過ぎたことを口にしてしまい、申し訳ございません。失礼いたします」

 

 とはいえ、こちらも明確な確証はありません。なんとなく気になっただけです。

 なので、とりあえず報告をしておくくらいが関の山です。

 必要な事を告げ終え、退出しようとしたときでした。

 

「待て、湯川……お主は、獏爻刀(ばっこうとう)という物を覚えておるか?」

獏爻刀(ばっこうとう)、ですか……?」

 

 呼び止められたかと思えば、妙なコトを訪ねられました。

 獏爻刀(ばっこうとう)……獏爻刀(ばっこうとう)……どこかで聞いたことが……あっ! 思い出しました!! ありましたねそんなの!!

 

「詳しくは覚えていませんが、確か……どこぞの家が秘密裏に鋳造していた刀……でしたよね? ただ、危険な技術で四十六室から禁止の厳命が出たはずですが……」

「覚えておったか……ふむ。ならばこれは良い機会……いや、定めやもしれんな……」

 

 えっと……その反応はどう受け止めれば良いんでしょうか?

 総隊長は何やら満足げに髭を撫でています。

 

「湯川、すまぬが――いや、今日はもうよい。明日の朝一番で構わぬ。天貝を呼んできては貰えぬか? あやつに話があるのでな」

「……? わかりました。では、本日はこれで失礼します」

 

 この反応、ひょっとして私何かやっちゃいましたか?

 ひょっとして大当たりですか!?

 

「それと明日じゃが、これも何かの縁じゃ。天貝を呼んだ後はお主も同席せい」

 

 ど、同席!?

 私も関わるの確定なんですか!?!? すっごい嫌な予感しかしないわ……!!

 




●天貝繍助編(天貝編)ってなに?
こちらは大人の事情で生まれた「アニメオリジナルエピソード」です。
概要を記載しますと――

・時間軸は藍染らが護廷十三隊を離反後の設定。
・虚退治の長期遠征に出ていた部隊を呼び戻し、その隊長(天貝)を三番隊長へ。
・新隊長の誕生で三番隊は無論、護廷十三隊全体にも色々と波紋が広がる。
・同じ頃、一護たち現世組は尸魂界から来たとある貴族の争いに巻き込まれる。
・現世と尸魂界、それぞれで起きる事件はやがて絡み合っていく。

――みたいな感じの展開です。

ですがこのエピソードの一番凄いところは
「一護たちが虚圏へ行って、グリムジョーを倒した次話に放映した」
だと思います。
激戦終了後、前話の繋がり等を一切無視して新ネタが始まる(苦笑)
(無論、このエピソード終了後はグリムジョー戦後の続きから再開というシュールさ)

状況的には「藍染らが離反して一護らが現世に戻った後」の時系列なのですが
・ルキアだけ現世にいる(日番谷たちは尸魂界にいる)
・一護が虚化できる(でも仮面の軍勢は出てこない)
・雨竜が滅却師の力を取り戻してる(なので普通に戦える)
・チャドが両腕で暴れる(両腕を使うのは虚圏で習得した)
といった感じ。

つまり「時間は藍染らの離反後すぐ。強さはグリムジョー戦。面子はいつもの」
といった、いいとこ取りの状況(いわゆる映画版時空)です。

●天貝 繍助(あまがい しゅうすけ)
見た目は無精髭を生やした優男。
長期間の虚討伐遠征に出ていて、現場たたき上げの実戦的な強さを持つ。
隊長に就けるので当然、卍解も出来る。

朗らかな雰囲気(頼りなさそうとも言える)や、今まで外に出ていたので人柄をよく知られていないこともあって、三番隊の隊長になった当初は隊士から信用されなかった。
だが、やるときはやる面や、協調性を重んじる(死神たちの連携を重視)面などで、次第に皆に認められていく。
お酒に物凄く弱いところがチャームポイント。
(劇中ではお酒の匂いだけで酔って潰れていた)
堀内賢雄さんの声が似合う。

だが、悲しいかなアニオリキャラ。
三番隊隊長という要職に就いたのと相まって、登場した瞬間にフェードアウトが確定していたのは誰の目にも明らかでした。
(アニオリで隊長就任させて、そのまま継続して原作から剥離とか出来ない)

多分だけど、藍染の鏡花水月を見ていないはず。
(長期遠征に出てて、催眠を掛ける機会が無かったのでは? と思われる)

●なんでネタにしたの? 出てきた女の子なんて瑠璃千代くらいでしょ?
天貝隊長が好きだから。

●バウント編は?
知らない子ですね。
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